とある星の力を使いし者
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第153話
三人は後ろを確認せずに警備員の第七支部に向かっていた。
愛穂が務める事務所でもあるので、周りの建物に見覚えがある。
「もうすぐしたら支部に着くじゃん!
だから、頑張って!」
「は、はい!」
「運動してないからきついわね。」
愛穂は職業柄、日頃から訓練しているのでまだ走れる。
制理も伊達に健康器具などを買っているからか、少し息は切れているが問題なさそうだ。
桔梗はその二人と比べると息は荒いが、後ろにはあの化け物がいると思うと自然と足が前に出る。
その時だった。
三人に凄まじい閃光が襲い掛かる。
思わず足を止めて顔を腕などで覆う。
状況が掴めない彼女達に、落雷のように一歩遅れて音と衝撃が襲い掛かる。
突然の衝撃に耐えれる事ができずに三人は濡れた路面に転がった。
身体中の関節が悲鳴をあげる。
その衝撃は凄まじく街灯や街路樹や風力発電のプロペラが軋みをあげて大きく揺れている。
倒れてこなかったのは幸運と言えるだろう。
しかし、もう一度あの衝撃が来れば折れてしまいそうな勢いではあった。
愛穂は全身に力を入れて痛む身体を起き上がらせる。
「大丈夫じゃん?」
近くにいる制理に近づいて容体を確かめる。
幸い大きな怪我しているように見えなかった。
「は、はい。
何とか。」
愛穂の手を取ってゆっくりと立ち上がる。
「何なのよ、あれ。」
すぐ側で桔梗が独り言のように呟いた。
二人は桔梗が見ている視線を追う。
それは光の翼だった。
無数の翼は吹き荒れ、刃のように鋭い。
一つ二つではない、数十もの羽。
一本一本は一〇メートルから一〇〇にも及び、天へ逆らうように高く高く広げられていく。
周囲にはビルがあるが、そんなものを気にしている様子はない。
濡れた紙を引き裂くように、次々とビルが倒壊していった。
人間の作り上げた貧弱な構造物を食い破りながら、翼は悠々と羽ばたく。
三人はあまりの常識はずれの現象を見てただ唖然としている。
ティンダロスの猟犬に追跡されていたが、そんな事を忘れるくらいインパクトが大きかった。
そこではっ、と桔梗は何かを思い出したかのように言う。
「こうしている暇はないわよ!
さっきの化け物が追いかけてくるかもしれない!」
桔梗の言葉を聞いてここで立ち止まっている暇はない、と愛穂も意識も戻す。
「あれも気になるけどまずは安全じゃん!」
あれは一体何なのか。
それは非常に気になるが今はあの化け物をどうにかするのが最優先だ。
未だに唖然としている制理の手を引っ張ろうとした時だった。
目に見える鋭角からあの存在感を感じ、黒い霧が発生する。
それを見た三人は足を止めて、愛穂はハンドガンを構える。
しかし、これは意味がないと先程のやり取りで分かっている。
合計一〇の猟犬に囲まれてしまう。
猟犬は遊ぶつもりはないのか、一斉に三人に襲い掛かる。
銃一丁ではこの数を相手にできない。
その時、再び愛穂の持っているお守りが光り出す。
すぐに光の輪が三人を包み込む。
ティンダロスの猟犬たちはその輪に弾かれる。
さらに輪の光に怯えているのかその後も襲いにかかってこない。
「逃げるよ!」
囲まれている状況は変わらない。
あのティンダロスの猟犬の横を通り抜けようとは考えなかった。
この輪があるとはいえ、いつまで持つかは分からない。
一番近い路地の中に逃げ込む。
正直、この道は支部とは逆の方向になる。
だが、この道からでも回り道になるが行けない事はない。
後ろに走っている桔梗に軽く視線を向ける。
さっきよりも息が荒い。
桔梗が動けなくなるのも時間の問題だろう。
このまま逃げ続ける事はできない。
どこかで勝負をかけないと、と愛穂が路地を出た時だった。
不意打ちのように一体のティンダロスの猟犬が先頭を走っている愛穂に襲い掛かる。
愛穂が対処する前にあのお守りが光の輪が愛穂を守る。
間髪入れずに最後尾にいる桔梗にティンダロスの猟犬が襲い掛かる。
愛穂を守っていた輪はまさに一瞬で桔梗の所まで広がり守る。
桔梗は息を呑んだが、この輪に守られたという事を確認して少し安堵の息を吐く。
この狙ったかのような襲撃のタイミング。
何故か自分達だけを執拗に追いかけてくる。
この事からティンダロスの猟犬たちは何かに操られている可能性が高い。
そう考えた桔梗は愛穂に言う。
「愛穂!
この化け物は誰かに操られている可能性がある!」
「そいつ趣味悪いすぎじゃん!
何にしてもそいつを見つけないと!」
それにしても制理をこのままにしておく訳にはいかない。
だが、支部以外に安全な所が思いつかない。
ただでさえ警備員や風紀委員の八割は麻痺している。
どの道、支部に向かう事を目的として行動した方が良い。
とにかくまた挟み撃ちされるのも面倒なので路地から脱出する。
ティンダロスの猟犬は既に姿を消していた。
少し回り道をして支部に向かおうとして前を見た時だった。
その人物は立っていた。
足首まで覆った赤いフードつきのコート。
フードは深く被っているので表情が見えない。
女性なのか男性なのかもわからない。
愛穂達には本能が悟っていた。
その人物からはあのティンダロスの猟犬を遥かに凌駕する存在感を。
三人からは嫌な汗が止まらなかった。
一歩も動く事はできなかった。
首元には見えない刃物を突きつけられているような。
そんな錯覚に陥ってしまうほど何かがあった。
故に視線を外す事ができない。
その人物は未だに莫大な光を放つ何かに視線を向ける。
「アレイスターめ、人工的ながらに天使を召喚したか。
さすがは教皇様が守護者以外で警戒する人物だ。」
ただ独り言のようにそう呟く。
その言葉は三人の耳に届く。
三人はアレイスターという言葉に聞き覚えがあった。
この学園都市に通っているのなら誰にでも分かる。
学園都市統括理事長の名前だ。
「虚数学区。
これを展開されれば法則を書き換えられ魔術は反動を受ける。
ヴェントはさぞきつかろうな。」
桔梗はその虚数学区という言葉に聞き覚えがあった。
学園都市で出回っている都市伝説に出てくる一つだ。
言葉の真意は分からない。
彼は言葉を区切って言う。
「まぁ、私は関係ないがね。」
そうしてようやく、愛穂達に視線を向けた。
フードを被っているので視線などは分からない。
なのに三人は自分達の眼を見ているというのが分かった。
それだけで息が詰まる。
その人はフードに手をかける。
整った顔立ちだった。
黒い髪に黒い瞳。
短い髪にワックスが塗られているのか髪が整っていた。
顔を見た限り男性の様だ。
彼は虚空に手を伸ばすと一メートルの穴ができる。
穴に手を入れ、一冊の本を取り出す。
「これはカーナックの書と呼ばれる本でね。
ティンダロスの猟犬、君達を執拗に追いかけていたあの犬だね。
あれを操ったりできる方法が書かれている。
異次元の知的生命体の実在に関する記述もされている。」
誰に説明を求めていないのに持っている本の話をする。
話の後半は何を言っているのか分からなかったが、これだけは分かった。
あの化け物を操っていたのはこの男なのだと。
固まった身体を必死に動かしハンドガンを取り出して、銃口を向ける。
「何を言っているのかは分からないけど、あんたがあの化け物を操っているのなら話は別じゃん。
その本を捨てて地面に伏せるじゃん。」
「おや、私が妄想しているという可能性が考えられないかい?
あの天使を見て自分の信じている神様が実在したんだ、とそう妄信に憑りつかれていると思わないかい?」
確かにこの男のいう事も一理ある。
だが、実際にあの化け物に追われているのだ。
この状況で操っているなどという発言を聞けば怪しいと思ってしまう。
もし間違いなら全力で謝罪すればいい。
銃口を下げずに告げる。
「その可能性も判断する為にその本を捨てて。
捨てれば危害を加えない。」
「まぁ嘘だがね。」
周りの鋭角から愛穂達を囲むようにティンダロスの猟犬が出現する。
そのまま愛穂達を襲うが、お守りが光の輪を作り守る。
その輪を見た男はほう、と感心の声をあげる。
「ティンダロスの猟犬の視界を通してみていたが興味深い。
猟犬を弾き、怯えさせる光。
自分の目で見ると星の力を微弱に感じるな。
これでは猟犬では荷が重いな。」
本を開けて何かを呟く。
その言葉は愛穂達には何を言っているのか聞き取る事ができなかった。
その呪文は唱えれば人の正気を蝕む呪文なのだが、それを苦もなく唱える。
先程と同じ様に一メートルの次元の穴が開く。
そこから男は何かを掴み、引き抜く。
愛穂達には何を持っているのかは分からない。
だが、何かを掴んでいるのは間違いなかった。
「今は剣の気分だな。」
そう呟くと見えない何かが形作られる。
典型的な西洋剣だ。
両刃で刃渡り二〇センチで長さは一メートルくらいの剣だ。
調子を確かめるように剣を振る。
すると、光の輪が突然バチチィ!!と音を立てる。
愛穂達は見えた。
光の輪を斬りつける斬撃が。
男は約一〇メートルは離れている。
一歩も動いてない。
なのにすぐ目の前で斬り付けられたような不可思議な現象が目の前で起こった。
「次元干渉まで保護してあるのか。
過保護だな。
だが、そのおかげで彼女達は生きているのだが。」
男は剣を振り続ける。
あらゆる角度から斬撃が光の輪を襲う。
やがて、その光の輪が徐々に欠けてきた。
三人は直感する。
これが破られれば自分達は死ぬと。
だが、自分達に何かできる事はない。
ただ迫り来る死をを見届けるしかなかった。
「ど、どうなるんですか・・・」
震える声で制理は言う。
愛穂は涙を溜めて震えている制理を抱きしめる。
「あの輪が壊れたら振り返らずに後ろに逃げて。
あの化け物一体くらい絶対に押えてみせる。」
優しい声で話しかける。
本当は自分も震えている。
だが、自分は警備員で教師だ。
目の前の生徒を守らないといけない。
例え、自分の命を引き換えにしても。
「逃げれたらすぐに恭介に連絡するじゃん。
あいつならきっと守ってくれる。」
「でも、番号分からないです。」
「ウチの携帯を渡しとくじゃん。」
ポケットから携帯を出して制理に渡す。
「貴女を一人にはさせないわよ。」
これから愛穂が何をするか分かっているのか桔梗は真剣な表情で言う。
親友のその表情を見て、愛穂は軽く笑みを浮かべる。
「この子が逃げた後、一人は心細いでしょ。
桔梗、あなたが側にいてあげて。」
「でも、一人にして置いていくなんて私には!!」
桔梗はそういうが愛穂は何も答えない。
ただ笑顔を浮かべている。
桔梗は泣きそうになるが、寸での所で堪えて愛穂を抱きしめる。
「恭介を頼むじゃん。」
「分かったわ。」
二人が離れ、桔梗は制理の手を握る。
愛穂は拳銃を構え、男ではなく二人が逃げる方向に邪魔になりそうなティンダロスの猟犬に銃口を向ける。
「これで終わりだ。」
最後の一撃が繰り出される。
光の輪は砕け散り、囲んでいた猟犬は一気に襲いかかる。
制理と桔梗は振り返り走り出そうとする。
愛穂は引き金を引いて、ティンダロスの猟犬を少しでも動きを止めようとした時だった。
空から蒼い槍が無数に降り注ぐ。
それらは的確にティンダロスの猟犬たちを貫き、爆発する。
爆炎が辺りを覆う。
その煙はすぐに晴れる。
三人を守るように麻生恭介が男と対峙するように立っていた。
後書き
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