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美しき異形達

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第三十七話 川の中での戦いその十五

「美味いものはか」
「大学の学生食堂はあると思うし」
「普通のお店でもだよな」
「美味しいお店があると思うけれど」
 それでもだというのだ、京都は。
「基本的にここはね」
「高いものじゃないとか」
「美味しいものないのよ」
「そういうところか。それじゃあな」
 薊はここまで聞いて言った、あらためて。
「お金ないしな」
「だからよね」
「ああ、南禅寺もいいし」 
 それに、だった。今の薊は。
「お金が出来てからにするよ」
「京都で美味しいものを食べるのは」
「ああ、いいよ」
 それは、というのだ。
「別にな」
「薊ちゃんは安くて美味しいよね」
「それが一番じゃね?孤児院の御飯だってさ」
 薊が生まれ育っただ、そこの食事の話もするのだった。
「美味かったよ」
「横須賀の」
「そう、美味かったよ」
「お金かけていなかったわよね」
「そんな。鱧とか南禅寺のお豆腐みたいな高いものはないよ」
 その孤児院には、というのだ。言葉は現在形だった。
「カレーとかおうどんとか野菜炒めとかさ。そんなのばかりだったさ」
「学校の給食みたいな」
「そう、そんな感じだったけれどな」
「美味しかったのね」
「安くてもいいと思うよ、あたしは」
 湯葉も食べつつの言葉だった、湯葉は刺身の様に山葵醤油で食べている。大豆の料理だがそうしているのだ。
「美味いのならさ」
「うん、学校の寮の御飯も美味しいし」
「だろ?高くなくても」
「いいわよね」
「量も多いしさ」
 薊は料理にとって大事なこのことについても言及した。
「それでいいよな」
「カレーとかね」
「そうそう、カレーね」
 菊もここで言った。
「そういえば私達カレー食べてないわよね、最近」
「ああ、旅行に出てからな」
 薊も菊のその指摘に応えた。
「カレーは食ってないな」
「色々食べてるけれど」
「カレーはな」
「カレーの名物のところはあったかしら」
 旅先においてだ、菊は首を傾げさせつつ言った。
「何処か」
「大阪にあるわよ」
 向日葵がその菊ににこりと笑って言った。
「カレーならね」
「大阪ね」
「大阪の難波の自由軒はどう?」
 こう菊に言うのだった。
「あそこはね」
「難波の?」
「そう、私難波に行ったらよくあのお店に行くの」
 その自由軒という店にというのだ。
「美味しいわよ、独特のカレーでね」
「どんなカレーなの?」
 菫がそのカレーについてだ、向日葵に尋ねた。
「それで」
「最初から御飯とルーが混ぜてあるの」
「そうしたカレーなの」
「そこに卵を乗せておソースをかけて食べるの」
 それが自由軒のカレーだというのだ。
「そうしたカレーなの」
「自由軒のカレーなのね」
「織田作之助ね」
 ここで菖蒲がある人物の名前を出した。
「夫婦善哉の」
「あっ、そういえばお店に写真飾ってるわ」
「その人の写真ね」
「あと言葉も書いてあるわ」
「あのお店は文学作品にも出て来るから」
 その織田作之助の代表作である夫婦善哉にだ。他には鰻のいづも屋や作品の題名になっているその店も出て来る。 
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