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美しき異形達

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第三十七話 川の中での戦いその十四

「この味は違うよ」
「このお豆腐なら」 
 それこそ、とだ。菊も湯豆腐の豆腐を食べつつ言う。そしてその豆腐にぽん酢をかけていた。
「名物になるのも道理ね」
「南禅寺のお豆腐ってさっき菖蒲ちゃんが言ったけれど」
「私も聞いてるよ」
「南禅寺の湯豆腐か」
「そう、その湯豆腐はね」
「本当に美味いんだな」
「そうらしいわ」
 菊も聞いているのだった、このことは。
「だからね」
「食ってみたいな、それだけ美味いと」
 しみじみとして言う薊だった、その話を聞いて。
「じゃあ南禅寺にも行くか、けれどな」
「けれど?」
「豆腐は今食ってるからな」
 薊は今のことから言った。
「だからな」
「それじゃあよね」
 裕香もその薊に応える。
「南禅寺でもね」
「今日これだけ豆腐食って明日もってな」
 そうなると、というのだ。
「ちょっとな」
「そうよね、これだけ食べたら」
「もう充分ね」
 菊と菫も言うのだった。
「流石にね」
「もういいわ」
「だよな、これだけ食ったらな」 
 それこそというのだ。
「暫くお豆腐はいいよ」
「そうですね、これだけ食べると」
「今日これだけ食べたらね」
 桜と向日葵も言うのだった。
「少なくとも数日は」
「お豆腐はいいわね」
「満足しているわ」
 菖蒲も言うのだった。
「このまま食べて食べ終われば」
「それこそな」
「充分よ」
 今日食べる、その分だけでというのだ。
「これだけ食べれば」
「明日はな」
「ええ、幾らいいお豆腐でも」
「二日続けてお豆腐三昧もな」
「少し口飽きするわ」
「だよな、じゃあ南禅寺のお豆腐は」
 それを食べることは、というと。
「また今度だな」
「そうなるわね」
「まあお豆腐は逃げないさ」
 薊は笑ってこうも言った、そしてぽん酢をかけた湯豆腐を食べてから酒を一口飲んでだ。そのうえで言うのだった。
「だからな」
「また今度なのね」
「ああ、また京都に来た時にな」
 その時にとだ、薊は裕香に言葉を返した。
「南禅寺に行ってな」
「湯豆腐食べるのね」
「そうするよ。それに南禅寺のお豆腐って高いよな」
「そうみたいよ」
 裕香は薊の値段についての問いにすぐに答えた。
「京都はそうだけれど」
「美味いもの食おうって思ったら、だよな」
「高いものしかないの」
「安いと、だよな」
「あまりね」
「京都ってお金持ちの街なんだな」
 薊はこの結論に至った。
「やっぱり」
「そうかも、ここは」
「美味いものはお金出さないとか」
「それもかなりね」
「あれだよな、料亭とか」
「そう、南禅寺はまだ安い位で」
「学生の街っていうけれどな」
 大学が多い為にこう言われる、明治時代に政府が京都に大学を集中させる政策を採った為にこうなったのである。 
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