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少年は魔人になるようです

作者:Hate・R
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第98話 壁の先は嵐が待っているようです

Side ネギ

「"ラス・テル…ガッ、ゴホッ!」


既に『雷天大壮(ヘー・アストラペー・ヒューペル・ウーラヌー・メガ・デュナメネー)Ⅱ』の発動で体が焼けている。

戦闘の為の協奏曲(バルトフェルド・コンチェルティア)』で回復力を上げても、全然間に合わない。

痛い、痛い、苦しい、熱い。でも―――


「……ま…マ・スキル・マギステル!! 久遠の空よ来たれり 敵を撃て戦神の矛

集え星の欠片 地より出でよ砂の鉄 空に伴え御使いの剣"!!」


それでも、やめる訳にはいかない。

そんな事で立ち止まったら、この人たちには追いつけない!!


「『熾使よりの天剣(シュワルト・ヴァンヒンメル・ファーレン)』"!!『固定解放・術式融合』!

"神器『剣よ熾天覆い雷雲と化せ(ラ・エスパーディア・エル・シエロ・テイパ・ニューブ・デ・トーメンタ)』"!!」
ゴォッ――――!!

瞬間、10mを超える刀剣槍斧、総数にして528本が闘技場を埋め尽くす。

試合開始ギリギリまで理論を練った融合魔法の一つ。

使った魔法の1/3の大きさ、1/6程の数になってしまったけれど、これが限界だ。

でも、まだこれでは終わらない。


「『術式誘導・操作方陣展開』!―――行きます!!」
ズラァッ!
「ふ、ふふふ。なぁんだ、思ったより出来るじゃない!」


そのままでは射出されてしまう剣を僕の周りに押し留め、突撃する。

戦いを始めてから一番愉しそうなノワールさんに、雷化した体にも寒気が走る。

だからこそ、嬉しい。漸く、敵と見做して貰ったのだから!


「ハァァッッ!」
ボボボボボボボボボボボボッ!
「あら、最初から大盤振る舞いね。」
ギギギギギギギギギギギギン!

一番近かった十二本を投げつける。雷撃・光の貫通・風の加速が付与され、

オリジナルと同等の威力を持ったそれは簡単に弾かれるけれど、分かっていた事だ。

二本を除き操作を開始、同時に新たに鎌と日本刀を掴み切りかかる。


「丁度良い、借りんぜ!!」
ゴッ!!
「くっ!う~ん、流石にこれだけ揃うとウザイわねぇ。」

「それならそれらしい顔してくださいよ!」


ラカンさんは後ろに回って二本の大剣を嵐のように振り回し、正面の僕は

剣を振り、槍を射出し、鎌を回転させ、戦槌を叩きつける。

単純な重量だけでも十倍の加重。思考まで雷化させて肉体の強化をして、言葉通り

雷速で迫る武器群を前に、それでもノワールさんは眉を顰めるだけだ。


「(まだ足りない・・・なら!)"ラス・テル・マ・スキル・マギステル!

同時解放・固定!!『融合・術式兵装(アルマティオーネ)"暴暁落暉(ヴィーリンス・スィオングアング・スィペレ・ギオンス)"』!"」

「炎の術式兵装?今度はどうするつもりなのかしら。」

「こうするんですよ!『兵装充填』!!」
バチバチバチィッ!!

更に『奈落の業火』と『終焉の咆哮』を追加し、『剣よ熾天覆い雷雲と化せ』に

装填する。数は用意した。大きさと重量も。速さは限界。

となれば残るは―――火力!!

ゴォオオオオオオオオオオオアァアアアアアアアアアア!!!
「ぅぅぅぅぁああああああああああああああああ!!」
ガドドドドドドドズガガガガガガガガギギガゴボドズバゴガガ!!
「こ、れは……流石に……!!」

『ナギ選手の巨大な刀剣が更に炎を纏い、ノワール選手を襲うーー!!

そして後ろからはラカン選手の猛攻!凄まじい戦いだが絵的にはどうなんだー!?』

「「うるさい!!」」


複数の竜を倒す併炎の攻撃力が一撃一撃に加算され、ノワールさんを圧倒して行く。

がむしゃらに攻撃を繰り出し、遂に防御を貫く!


「ぁあああああっ!!」
ガゴォ!
「く、ぁあっ!」
バガァン!
「こ・れ・も・だっっ!!」
ビュビュンッ!!!
『ヒィィィィィィィイイイイットぉ!!と更にナギ選手更に追撃ーー!
ズドォオオオオオオオン!!
爆発ーー!これは激しいーー!ノワール選手、動かない!』


撃ち出した戦鎚を腕で受けたノワールさんは地面に叩きつけられ、

持っていた二本を投擲し、爆発させる。煙が晴れ・・・ぐったりと動かない。

でも、油断は出来ない。目を離さない様にしつつ、小太郎君達の方を見ると。


「ぬぅおりゃぁぁあ!!」
ドガァッ!
「ぁ・・・!」
ドドォン!
『ぉぉおおっと、アリア選手もこれはダウゥーーーン!?カウント!1!2!3!』


小太郎君達もアリアさんをダウンさせ、カウントが始まる。

・・・まさか、いや、こんな簡単に倒せるとは思っていないけれど、

もしかして、僕達の成長を見る為に来ただけで、満足してくれたって可能性もある。


「どうするネギ、トドメ行っとくか?客受けは悪いけど反則やないで。」

「いや、不用意に近づくのは危険だ。」

「何?」


だけどそれは楽観視でしかない。ラカンさんもまだ武器を構えているし、何よりも。

僕の僅かな経験則が全力で警告を鳴らしている。

この人達がコケにされて黙ったままな訳がない!!


『15!16!17、ぉおっとぉ!?』

「……………………………。」
ュラァ・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

『立った!立ち上がった!二人とも何事もなかったかのように立ったァー!!』

「ハッ、やっぱりか……。」


予想通り、二人はゆらりと立ち上がった。

―――背筋が凍る。さっきとは、完全に纏っている空気が違う。そして。


『立ち上がったが、そのまま動かない!?やはり――』

「――――――――――――――――――――ふ」

「・・・・・・ふ、ふ、ふ・・・・。」

「うふふ……フククフフ………!!」

「・・・ふ、ふふふ・・・・あはははははははは・・・!」

「「アーッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」」


嗤った。二人揃って、お腹を抱え、顔を隠して、嗤った。

その異常さに・・・いや、恐怖に闘技場が凍り付く。


  ギ  シ  ッ  ― ― ― ― ―
「う、お……!」

「く……ぅぁあああああああ!!」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!

二人から発せられた気――いつか"神気"と呼んでいた――の威圧に、思わず残った魔法武器を

全て射出してしまう。意識がそちらに行っていた為か、偶然にもほぼ全て直撃コース・・・!

バサッ!!
「うふふふ……。」
バササッ!
「・・・・・・ふん。」
ガギギギギギギィン! バガァン!
「なっ……!?」


先程まで僅か10本に圧倒されていた、その40倍以上の火力を翼を広げただけで破壊し、

吹き飛ばした。そんな馬鹿な・・・!幾ら焦っていたとは言え、僕の最高火力を!?


「良いわアリア。下がってなさい。」

「・・・むぅ。ま、いっか・・・。」

『おぉっとアリア選手後ろに下がったぞ!?まさかノワール選手一人で戦うのか!』


翼をたたみ、後ろに下がると『神虎』を一頭召喚し、もすっと座った。

チャンスと見るべきかどうか・・・いや、まずは魔力の充填だ。


「"解放・固定『千の雷』!「そこよ……!!」ッ!?か、ハ…!」
ガゴッ!
「ネッ「隙だらけ!!」グ!?」
ドッ
「ハイハイ!!」
ボッ ガッ!!
「ぐ、ぁ!」 「がふっ…!」


一瞬。雷化した思考でさえ認識出来ない速度でノワールさんが現れ、

僕ら四人を吹き飛ばした。馬鹿な、有り得ない・・・!

まずは雷速瞬動で距離を取らないと!

ザッ!
「く……!「それで安心?」ッッ!?」
ズンッ!!
「(そんな、何時の間に・・・!!)」
ギュン

移動先にまた現れた打ち下ろしを勘で避け、再度距離を取る。

有り得ない、有り得ない、有り得ない!?

『千の雷』一発強化の『雷天大壮』の弱点の"先行放電(ストリーマー)"現象を無くす為に

二重強化の思考加速で、カウンターを合わせられても反応出来るようにした。

当然思考加速は常時発動しているんだから、不意打ちだろうと反応出来た。

なのに、なのに・・・!!

―――ザッ
私の方が速い(・・・・・・)、かしらぁ?」

「なっ、ガァッ!!」
ボスッ
「っと、ってて……お前ら速過ぎやろが。」


槍の薙ぎ払いをで弾き飛ばされた所を小太郎君にキャッチされ、なんとか

ダメージを軽減する。見ると、三人もさっきよりダメージを受けている。

僕らが戦っている内に皆集まったようだけれど、何故かさっきよりボロボロだ。


「流石にこれだけ別れると力が出ないわね。」

「と言ってもたまに使わないと鈍っちゃうのよねぇ。」

「良いじゃないの、面白いし。ああ、でも本体が早くもショート気味よ。」

「分かってるなら戻ってくれないかしら……。」

『こ、これはぁぁーー!?ノワール選手がよ、四人に!?影分身か!?』


・・・・・・・・・・・・・・・・・地獄のような絵が広がっている。

片翼のノワールさんが三人、頭から煙を出してる九枚翼が一人。恐らくは本体。

状況から見ると翼一枚を犠牲に分身体を創り出せる、と・・・?

で、僕が相手していたのは分身の方、と・・・?


「あ、悪夢や。」

「トラウマが…!トラウマがぁぁぁぁーー!!」

「まぁそう言わないの。今でも出せて10秒が限界だもの。」
シュンッ

小太郎君とラカンさんが頭を抱えてのた打ち回っていると、分身三体は翼に代わって

ノワールさんの背に戻った。


「一先ずは褒めてあげるわ。本気の私相手に、良く全員生きてたわね。

一番可能性あるのは坊やだけれど、まぁ、それでも遅いわよねぇ(・・・・・・・・・・)。」

「僕が、遅い……?僕がスロゥリィ!?」

「……意外と余裕あるわね。言い方が悪かったかしら?」


いけない、あまりの事に聞き慣れたネタをやってしまった。

そしてノワールさんは適当な言葉を捜してうなる。落ち着け、冷静になるんだ。

何が遅い?攻撃・移動・思考速度は雷化しているから限界に近い、ハズ。

一番に思いつくのは準備だけど、それも二回目は遅延で解決させた。


「そうねぇ、動き出しが遅いって言えばいいかしら。

移動にしろ攻撃にしろ、一瞬"溜め"るから方向も読めるし対処も簡単なのよ。」

「そん、な、あの手数を……!」

「勿論、クセを知ってるから出来るのだけれどねぇ~。流石の私でもこのままじゃ

アレは…っと、準備出来たみたいね。それじゃ………行くわよ!」

「くっ!!」
ゴゴゥッ!!

『千の雷』を陰で詠唱しているのさえ看破され、取り込むと同時に槍を振るわれる。

一撃目はラカンさんが止めてくれたけれど、一息の内に放たれる10を超える打突

全ては止められず、更に間に入った小太郎君とカゲタロウさんまで弾かれる。

でもそのお陰で取り込んだ時の、"溜め"の隙は無くなった。

今この瞬間。ただの一瞬の一対一。これを待っていた―――!


「(これが、本当に最後だ・・・!)ハァッァァアアッ!!」
ドドドトガガガトボガドドドトッ!
「……重くも無い速さだけのラッシュで私の防御を突破出来るとで、も……?」

「へへっ、掛かりましたね!」
ドトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトッ
「ピッタリ、計画通りや……!」


僅か10合でノワールさんの動きは止まった。

修行中、一度だけ通った・・・いや、ノワールさんが防御せずに足元に攻撃が

刺さった事があった。多分、この人達は無意識なんだ。

強すぎる・見えすぎている・上手すぎる・勘が良すぎる・経験がありすぎる。

だから見えていて自分に当たらない、取るに足りない攻撃を無視してしまう。

だからこその―――


「"影縫い"?刀子のでさえ私を10秒と止められないのよ。」

「だからこその!!」
ブゥン――
「魔法陣?……何時の間に。」

「ただのラッシュ比べじゃなかったって事ですよ!!」
ギュンッ

動けないノワールさんの足元、3m程の複雑な模様と文字と円の塊が光る。

そして、僕は距離を取る。


「"右腕解放『飛翔する火鳥(ブレイブ・ハード)』『救世主の聖天(アートロポス・ヴェチェクニクタ)』"!

『術式融合』"光鳳『羽ばたけ輝ける彼の翼(エノー・リアス・ディズラブネ・ハーノス)』"!!
ゴォァッ!
続いて"左腕解放『奈落の業火(インケンディウム・ゲヘナエ)』『終焉の咆哮(ラグナード・アルドノア)』"!

『術式結合』"落日の暴君『暁に染まる天の浄鬼(マ・リトー・エコネトラノエ・アスラーブラ)』"!!」
キィィィィィ―――!
「ふ、ふふ……!戦術魔法の混合だけでも驚きだったのに、二重オリジナル魔法?

案外器用なのねぇ。そ・れ・でぇ……?」

「当然!!」


右手に光の鳳凰を、左手に天を焦がす炎を持ち、ノワールさんを睨む。

広げられた翼が光り輝き、徐々に突き出した手に集まる。開始早々に投げられた

モノを一としたら、今は五十を軽く超えている。だから、力勝負に持ち込む。


「行きますよ!!」
ォゴォオオオオ!
「あっは♪それじゃそれなりに遠慮なくぅ!!『封神八十七式裂光流星乱舞(ガンマ・レイ)』!!」
キュキュキュキュパパパパッパパパパパパパパパパパパ!!

魔力を上げ誘うと、嬉しそうに詠唱も無しに強大な魔法を撃って来る。

見た目は『魔法の射手(サギタ・マギカ)』だけれど、一つ一つの威力は次元違いな上、

それが全方位から襲ってくる。予想通り、二回目の撃ち合いには魔法を撃って来た。


「(ここだっ!!)"術式解凍"!!」
ゴゥン!ブゥンブゥンブンブンブンブブブブブブブゥゥン!!
「っそれは……!?」

「よく知っているでしょう!!」
ズガガガガッガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!
『なっ、ナギ選手、とめたぁーー!?ノワール選手の魔法を止めました!』


今度は僕の真下と前方の広範囲に、ノワールさんの物と逆に描かれた魔法陣が

解凍展開される。司会のお姉さんは止めたと言ったが、正確には『闇の魔法』の

骨子であり究極闘法、『敵弾吸収陣』。

愁磨さん達が修正を加え完成はさせたものの、絶対的な性能故の技術的問題と

実戦登用の非合理性によりエヴァンジェリンさんさえも断念した技法。

だからこそ、習得するに値すると思った。だから―――!!


「『掌………握(コンプレクシオー)』!!!」
ガキュンッ!!!
「あらあらあら、そんなに私が欲しかったの?ふふふ、うふふふふ……!」


ノワールさんの魔法を取り込み、準備した結合術式を装填しラッシュをかける。

今の力だけでは到底、この人達に勝てない。だから用意した、正真正銘最後の手。

僕の力で届かないなら・・・あなたの力ならどうですか!?

ドッ!
「くっ!」
ギィン!
「ぐ……!ぁあああああああああああああああああああああああああああ!!!」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!
『ラッシュ!ラッシュラッシュラァァァァァーーーッシュ!

ナギ選手、怒涛のラッシュだぁぁああーーーー!!』


最初の一撃は、打ち合った拳と槍の両方が弾かれる。

構わず繰り出す強化された攻撃は全て相打ちに合う。力は負けていない。足りない技術は

雷化した速度で均衡が保てている。あとは・・・!


「気合でどうにでもなる!!」
ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!
「暑苦しいわねぇ、もう!」

「更に暑苦しくしてやるぜぇッッ!『ゼロ・インパクト』連打ぁぁ!!」
ズドドドドドドドドンッ!!!

僕のラッシュに加え、ラカンさんが更に一撃必殺のストレートをラッシュで叩き込む。

最初こそ捌き切られたものの、柔速と剛重の拳はノワールさんを捉える。


「「ぜりゃぁああああああああああ!!」」
ドドンッ!!
「くっ、あ!痛たいわねぇ……!」


クリーンヒットこそしなかったものの、吹っ飛ばされたノワールさんは憎々しげに眉を顰める。

そこへアリアさんが駆け寄り、僕達の所へも"影"で支援してくれていた二人が合流する。

くそっ、さっきので決め切れなかったのは痛い・・・!なら次は―――

―――ゴゥッ!!
「・・・・・・もう、許さない、から。『神虎(シェンフー)』、全員構え。」
ドドドドドドドドザンッ!
「いきなりパワー比べか……!」

「ハッ!望む所やで!!」


作戦を立てようとした瞬間、ついにキレたアリアさんが『神虎(シェンフー)』を八頭召喚し、

全員が火炎弾をチャージし始める。拙い、全部合わせたらさっきのノワールさんの魔法より

威力も威圧感も段違いに高い・・・!

それを感じ取った皆が、自分の最強の技で迎撃に入る。


「・・・・・・ファイヤー!」
BOBOBOOOOOOOOOOOOOOOOAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!
「いっくでぇ!"黒化狗神・神髄顕現"!!喰いちぎれぇ『黒狗神(モーザ・ドゥーグ)』!!」
wloloOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!
「神をも貫く我が影よ……!『万影呪槍・"泉撚出之依代(ガングニール)"』!!」
ギュルァッ!!

巨大な虎の形となった炎が襲い掛かり、迎え撃つ黒い狗と影の攻城槍が激突する。

喰いつかれ、右足に槍が刺さった状態なのに殆ど勢いが落ちずにこちらへ迫る。


「ハッ、魔獣相手ならお手のモンだぜ!?ひっさぁぁぁつ!!『サウザンド・バスター』!!」
ギュドババババッババババッバババババババババババババババババババババ!!

そこへ『千の顔を持つ英雄(ホ・ヘーロース・メタ・キーリオーン・ブロソーボーン)』を完全解放した武器群と特大の気拳が放たれ、

炎の虎の顔と体の半分を削り取る。あとは僕の仕事だ!


「"術式解放・統合『光弾』『暴君』"!これで……!!"終焉『炎槍光雨(ニブルヘイム)』"!!」
シュォオオオオオオオオオオオァアアアアアアアアッ!
「水魔法……!?」


光と炎を反応・変化させ、大量の圧縮させた水を叩き付ける。

これで発生した水はマイナス100度以下でありかつ凍っていないから、アリアさんの炎で

簡単に蒸発する。そう、これで狙ったのは炎を消す事でも無く押し潰す事でもない!


「伏せてください!!」
――――ヒュッ
「これは……アリア!!」


結果を知っている僕は皆を伏せさせ防御魔法を張る。ノワールさんも気付き、アリアさんと

虎達を背に隠して槍を高速で回転させた。瞬間――!

ギキィィイイイイイイイイイイイイイイインッッ!!
「ぬぉおおおお!?さっみぃぃぃ!!」

『こ、これはぁーー!?灼熱地獄かと思っていたら、今度は氷漬けにぃーー!?』


膨大な気化熱により虎の炎すらも凍り付き、闘技場は一瞬で氷の世界となった。

Side out


Side ―――

ネギの魔法により氷の世界――奇しくもその風景は狭い『うんめいのうつくしきせかい』に

そっくりだった――となった闘技場だが、その真の危険性に気付く者はまだいない。

かなりの力を消耗した『神虎(シェンフー)』はぐったりと折り重なり、制御に力を使い過ぎたのか、

アリアもその傍に座り込んでいる。相対するネギ達も、ラカン以外は膝をつき息も荒く、

強化技こそそのままだが、既に限界と言った様子の中。


「お疲れ様アリア、ありがとう。皆と一緒に休んでなさい。」

「は・・・ぁい。」

「くっそ、マジか……俺様だって結構限界だぜ?」


娘の頭を愛おしげに撫で、優しい表情のまま悠々と槍を構え前に出て来る。

悪態をつきつつもラカンは構えを取るが先程とは比べるまでも無く色彩を欠き、ドレスを翻し

舞う様に、魅せる様に振るうノワールの槍の対処さえもギリギリだ。

ギィン! ヒュンヒュン!
「あっはははは!もう終わりかしら!?」

「ぐ、お、くぁ……!」

「ラカンさん!」
ドウッ!
「そうそう、もっと頑張りなさい!!」


続きネギ達三人も戦線に加わるが、戦闘開始時の膠着状態の再現に小太郎・カゲタロウが

増えただけになってしまう。


「ほらほらほらぁ!こ・れ・でぇ……振り出しよ!」
ガガガガンッ!
「うぐぁっ……!」

『ナギ・ラカン・コジロー・カゲタロウ!成す術無く弾かれるぅ!強い、強すぎる!』


しかし、奮戦するも四人はまたしても槍の薙ぎ払いで地面に叩き付けられ、遂にラカンと

小太郎・カゲタロウの強化は全て尽き、ネギも右手の装填魔法こそ残っているものの、

術式兵装は解け、残す手は無く歯を食いしばる。


「はぁ~、久々に楽しかったわ♪坊や達もラカンも強くなったわねぇ。

もう半世紀……いや、20年も修業すれば私達とも良い勝負出来たでしょうに。」
ズァッ―――!!
「そんな時間は……無いんです!!"ラス・テル・マス・キル・マギステル! 留まれ 眠れ 

安らかに 永久の栄光を! 鎮まれ静まれ沈まれ妙なる風よ!『始源より継ぐ者(シルフルナ・・ムスペラード・デノ・マキル)』"!!」
ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!

ノワールの掲げた手に光と神気と魔力が集まり、ネギの周囲10か所に風の玉が渦を巻き、

周りの氷を撒き上げながら大きさを増して行く。残っていた右手の魔法を開放し、光の魔を

滅する巨鳥と混ざり合い、臨界に達する。


「「はぁああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」」
ボッ!

同時に放たれた紫と白の光線。

氷を巻き上げ、地を抉り、闘技場の中心でぶつかり合って空間を捻じり喰う。


「く、ぁあ………!」
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!
「ふふふ、限界かしら?もうちょっと強く行くわよ!?」
ゴゥッ―――!!
「ぁあああああぁぁあああああああああ!?」


全てを出し尽くしたネギに対し、ノワールの攻撃は更に力を増す。

ネギの放った白い光線は徐々に押され、闘技場の破壊が進み、氷も砂も大量に舞う。


「は、ぁ……!」

「なぁに?本当に限界なの?仕方ないわn「ふ……!」うん?」


誰もが勝負が決まったと思ったその瞬間。

誰もが忘れていた・・・いや、ネギさえも一切選択肢に入らなかったネギ最強の技が放たれる。


「ぶぇぇぇっっっくしょぉおん!!」
キュゴッ―――!!
「「「「なっ……!?」」」」


くしゃみ一発。ノワールの撃った魔法を飲み込み、その魔力全てを変換させる。

即ち―――


「っ、アリア!!!」


その魔法を看破したノワールは、初めて見せる焦った顔でアリアの下へ向かい、槍を構えた

瞬間、魔力波が二人を飲み込んだ。

ドウッ!
『ぉぉおおおっとぉ!?ナギ選手、まさかまさかの大・逆・転ーー!?

魔法がノワール選手とアリア選手に直撃ーー!!』

「や、やったか!?」

「おいバカ犬っコロ、そりゃフラグだ!」


見事なフラグを立てた小太郎にラカンが突っ込むと同時、濛々と立ち込めていた煙が

一気に払われる。その先に居たのは―――

バウッ!
「ふ、ふふ、ふふふふ………やぁぁぁぁぁってくれたわねぇ坊や……。」

「・・・・・・ぶち、ころす。」


特大の青筋を立てたノワールとアリア。しかしノワールは一糸纏わぬ体を翼で全身を包み、

アリアも服の所々が破けている。

史上最恐のネギの"脱げくしゃみ"はノワールの防御結界すらも破壊し、煌びやかな騎士服を

吹き飛ばした。最早死んだな・・・とその場の四人は覚悟した、が。


「これ以上はしたない所を晒してはシュウに怒られるわ。帰るわよ、アリア。」
バサッ
「・・・ん、分かった。」
ドッ
「「「「へ……?」」」」

『おぉおおっとぉ!?ノワール・アリア選手、まさかのギブアップぅーー!!

これは波乱の展開だぁああ!!』


身体を隠したまま、翼を広げ二人は飛び立つ。

まさかの展開に思考が追い付かなかったネギ達だったが、次の瞬間勝利に湧き――


「やっ……やっt「ネギ、次会ったら必ず殺してあげるから。」ですよねぇえーーーー!!」

「・・・ふん。」


今までで一番の死ね光線を浴びせ、闘技場の防御結界に簡単に穴を開け二人は飛び立った。

色々な意味の興奮でどよめく会場、そしてその様子を見ていた者達。


「だぁーっはっはっはっははは!!ほら見ろ!やっぱアレだったろ!?」

「………まさか、本当にノワールさんを倒し…いや、脱がせるなんて。」

「散々話には聞いておったが、目の当たりにすると信じるしかないのう。

こうまで"奇跡"と言えよう出来事が、ただ一人に連続起こるとは。」


楽しげな愁磨とは対称的に、信じられない物を見る様な目でネギを見る刀子とアリカ。

空港で襲われ誰も欠けず逃げ、転移した危険な魔法世界で誰も欠けず、自分達の都合に

間に合うようここまで集まった。そして仲間を助ける為の戦いで、自分を侮っていたとは言え、

それでも100%負ける筈の戦いで相手を退けた。

バサッ!
「まったく、酷い目に合ったわ……。」

「ね、姉様!服を着ろ服を!ホラこれ!」

「ありがとうエヴァ。ふん、だって気に食わないじゃないの。何をやっても無駄だなんて。」

「だから言っただろうが。俺だって気に食わないから行動してるんだよ。」


"主人公は奇跡を起こす"。殆どの世界でそんな事は当たり前で、物語の根幹で、誰も

逆らえない。当の主人公ですら。だから壊すんだ――と心の中でつぶやくが、実際には

『無駄なんですよ、無駄無駄…』と言いつつ宙に浮かぶ数十のコンソールを操作し、

闘技場の中継を見る。見合っていたネギとラカンが激突し、小太郎とカゲタロウも強化も

新たに、影をぶつからせている。それを寂しげに一瞥すると同時、コンソールは次々と

エンターを押され消えて行く。

タンッ!
「さぁ、表の仕事は終わりだ。全員揃っているな。」

『『『Ja. meister.』』』

「はいっはーーい!」

「・・・ん。」

「だからあなた達は少しは揃えなさいと……。これで終わりよね?」

「ああ、これで準備完了だ。」


移動した先、愁磨の影の中の家の更に奥。

氷の世界に、黒い棺と金の月と銀の泉と朱い炎と二色のオーロラと紫の影と白い風と

翠の雲と青い空が同居する世界。そこへ、新たに今――赤と褐色の剣が創造された。


「やれやれじゃ、待たせる男は嫌われるんじゃぞ?私の様に懐の大きな女でなければ

とうに捨てられておる所じゃ!」

「はっは、じゃあお前で良かったよ。では改めて………おかえり、だ。テオ。」

「うむ、ただいま!えへへ~、これからは妾もお前の伴侶じゃ!」


新たにテオを加え、集まった十二人。神へ反逆する円卓が、今結成された。

Side out 
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