少年は魔人になるようです
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第99話 少年は英雄《馬鹿》に近づくようです
Side ネギ
ザッ!
「行くで、ナギ。こっからが本番や。」
「うん、分かってるよ。僕らも限界が近いけど、あっちだって同じ筈だ。」
ノワールさん達が居なくなってから直ぐ。僕達は改めてそれぞれのチームで分かれ距離を取り、
最後の作戦会議を始める。・・・と言っても、既に用意して来た魔法は粗方撃ち終わっている
から、魔力も無ければ取れる作戦もごくごく限られている。
残った魔力でまず『千の雷』を固定して前を睨むと、ラカンさんもこちらを見ていた。
「良くやったぜ。もうあの二人を撃退出来ただけで一人前…なんてレベルじゃぁねぇ。
お前は既に本物だ。」
「……ありがとうございます。でも、三人の力が無ければ勝負にならなかった。」
『そんなん俺だって同じだ』とラカンさんは大仰な仕草で肩を竦める。
その様子はリラックスしていて、普段の彼らしいけど・・・最後の"気"が最高の練度で
纏われて行くのが分かる。それが全身を覆うのと同時、僕も『千の雷』を掌握する。
ガギュンッ!
「行きます、ラカンさん!!」
キィッ!
「ああ……行くぜ、ネギ!!」
ドウッ!
「決着つけるでぇ、カゲ!!」
ギュアッ!
「いざ参るぞ、コジロー!!」
ドンッ!!
全く同時に四人が飛び出す。僕とラカンさんの拳がぶつかり合い、小太郎君とカゲタロウさんの
影が浸食し合い、そのまま示し合わせていたように二組に分かれる。
ラカンさんが構えたのと同時、先行放電を起こしてしまう雷速瞬動は使わず、電気信号だけを
加速させて身体と思考を無理矢理加速させる。
「シッ!」
ズバババババババババババババババ!!
「ぐ、ぬ、おっ……!やっぱスピードじゃ敵わねぇな!?」
ゴウッ!
「っとぉ!ぱ、パワーは僕に勝ち目無いですね!」
『これはぁーー!先程の大魔法戦とは打って変わり、ただの殴り合いにーー!』
『いえ、しかしこれも見物です!高速機動と魔法のナギ選手が削り切るか、力と経験の
ラカン選手が捕まえるか・・・!』
解説の、いつか見た賞金稼ぎの人の実況の通り、ラカンさんの死角に入りフェイントをかけ、
僕は動き続ける。たまに繰り出されるカウンターの拳を紙一重で避け、途切れる事無く攻撃を
与える・・・と言っても、龍種にただの『魔法の矢』を撃っている程度のダメージだ。
「はっ、痒い痒い!んな攻撃じゃ何千発当てたって俺様にゃぁ効かねえ、ぜッ!!」
「そんな事分かってます――よぉぉりゃっ!!」
ブンッ!
「おぉおおお!?」
変わらない軌道で来た右ストレートを掴み勢いを殺さず、そのまま巨体を投げる。
地面に叩き付けるつもりで投げたけれど、身体に似合わない身軽さでクルリと回り着地され、
距離が開いたその僅かな時間で更に気が練られ、先程より気配が鋭くなるけれど、予見していた
僕も『雷の暴風』を遅延、足元に魔法陣を仕込む。
「誰に似て足癖悪くなりやがったぁ!『ラカン・インパクト』ォォ!!」
ギュゴッ!
「バレましたか!『大雷崩拳』!!」
バリィィッ!
魔法陣の追加を防ぐ為か、そこそこ本気の気弾が飛んで来る。
そこそこと言っても僕とは桁違いのパワーの気弾。遅延させたばかりの『雷の暴風』を拳に
纏わせて迎撃すると炸裂し、煙が立ち込める。
ラカンさんが突っ込んで来ると踏みその中を突っ切らず、大きく後方に跳ぶ。闘技場に張られた
障壁を地面代わりにし、『千の雷』を装填して雷速瞬動で斜めに突撃する。
ボッ!
「ぬっ!?」
ボボボボボボボボボボボボボボボボッ!!!
『おおっとナギ選手!これは目にも止まらぬ高速移動!あまりの速さに雷がはしるぅー!』
ラカンさんの攻撃を上手く躱せたのを確認し、今度は『千の雷』を身に纏いながら
半円状に高速で移動し続ける。只の放電現象に使っているから攻撃力は皆無に等しいけれど、
先行放電を隠せる上に、他の現象をも生み出せる!
バチィッ!
「っとぉ!?おいおいおい、なんだこりゃ?」
『ナギ選手の出した雷が集まって、黒い雲がラカン選手を取り囲んでいるぅー!?
魔法なのか!?なんなんだこれはぁー!?』
放電した雷を全て『固定』して行く。急速に空気中の水分を蒸発させ雲を発生させて、
それを更に『固定』、僅か十秒で闇の様に真っ黒な雷雲を作り出す。
いつか愁磨さんが使った技の一つを、局地的にだけど再現した―――!
ズズッ――
「『小・雷迎』!!」
バリッ! バリバリッ!!
「ぐぅぉおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!?」
『こ、これは強烈ぅー!雷雲がば、爆発したぁ!って、何なんですかこれーー!?』
炸裂した雷雲は強力な雷撃を周囲に奔らせながら、6億ボルトを超えるエネルギーと相当の熱が
僅か直径三メートルで弾ける。後に残ったのは、蒸発して半円に削られた闘技場の地面と・・・
所々から煙こそ出ているものの、五体満足のラカンさん。
普通なら細胞の一片の跡形も無く蒸発するんだけどなぁ・・・今更か。
「っつぅ~~……なかなか効くぜぇ。」
「本当に効いてるんならそれらしくして欲しいですよ!」
「いや本当にギリギリなんだけどな!!」
毎度の事の限界のフリ・・・かと思ったけれど、流石のラカンさんもさっきの戦闘で本当に、
かなり疲労していたようだ。呼吸も荒く膝も笑っているし、気の強化も緩んでいる。
とは言えども僕も人の事は言えない。術式兵装は『雷の暴風』しかなく、残りの魔力では
『雷の投擲』が精々。更に体力を魔力に変換していたからヘロヘロ。・・・行くしかないかな。
「「どぉぉおおおおおおおおおおおおりゃあああああああああああああああああああ!!」」
ボグッ!
『コジロー・カゲタロウ選手、強烈なクロスカウンターぁああああ!!もとい右ストレートが
同時にヒットォ!!カウント始めます!』
「おう、あっちはカタ付いたみたいだな。」
凄い怒声と共にあっち二人の拳が互いの頬にめり込み、同時にダウンした。
ラカンさんの早計な判断・・・いや、ピクリとも動かない所を見ると本当にダブルノックアウト
したようだ。覚悟を決め、残った魔力の半分で光と雷の魔法の矢をそれぞれ『装填』して、
『天掴む雷神の双手』で近接戦闘用に強化を済ませる。
「……ラカンさん、これで決着です。」
「へっ、生意気な!んじゃ、本当に最後だ!!」
ゴウッ!
「―――行きます!!」
勢気一声、まずは正面から切り込む。先行放電こそないものの、『雷天大壮』"とは
比べ物にならない速度のせいで、ラカンさんには完全に見切られカウンターが飛んで来る。
化勁で受け流しつつ強化魔法の効果で、僅かに帯電させる。流した力で加速した硬開門を
鳩尾に打った瞬間後ろに回り両脇腹に掌底を叩き込む!
「フッ!」
ドドドッ!
「やっべ――気合ぼガハッ!」
貫通性の攻撃を相手の体の中で交差させ破壊力を高める"兇叉"で気合防御を封じて、
今だけ出来るラカンさんの隙――防御の薄くなる箇所に攻撃を叩きこんで行く。
さっきとは全然違う。少しずつだけど攻撃が効いている。ここで―――!!
「(防御の一番硬い所!!)……"孤塁貫き『桜花崩脚』"!!」
ズドンッ!!
「グァあああッ!!」
『こ、これはぁーー!?ナギ選手、ラカン選手を魔法を一切使わず!?いや使っていますが!
徒手空拳で!あの"最強の傭兵剣士"ジャック・ラカンを圧倒ーーーー!!』
裏をかいた防御抜き攻撃に更に光の貫通を加え、初めてこっちの攻撃が直撃した。
動きの鈍ったラカンさんに、今まで習って来た技を全て使い肉薄する。
そう、経験値の塊であるラカンさんに勝てないとばかり思っていたけど、違う。
技の多彩さ、魔力量、そして何より・・・多くの師匠達との修業経験は実戦経験と違い
少しだけ綺麗だけれど、負けてはいない!
「ぁぁぁあああああああああああああああ!!」
ドドドドッドガガガガガガガガガガガガガガガ!!
『ラッシュ!ラッシュラァぁ――ッシュ!!ラカン選手、まさかのタコ殴りーー!
流石の伝説も、あの戦闘の後では厳しかったのか!?』
何故か棒立ちになっているラカンさんにラッシュを続ける。
おかしい。体力はまだ残っている筈だ。ダメージだって入ってはいるけれど、
このくらいでダウンするような人じゃない。攻撃が大振りになるのを待っている・・・?
まさか。僕の大技が魔法ありきなのをこの人は知っているんだから、そんな方法は取らない。
「(じゃあ、なん)
ガクッ!
――――!?」
「(ギュピィーーン!)」
攻撃していると、急に膝が落ちた。体力の限界・・・いや、違う!
『戦闘の為の協奏曲』が切れて、『疾風迅雷』の強化に回復が追い付かなくなったんだ。
そしてそれをラカンさんは知って、狙っていたんだ。目が怪しく光り―――!!
「やっ…「ぶぅぅぅぅるぁぁぁあああああああああああああああああああああ!!」
ドッゴォーーーーーーーーーーーーン!!
「ガッ!ばっ、ぶっ!」
ドォン!
渾身の右ストレート一閃。僕は吹き飛ばされ地面を何度もバウンドし、障壁に叩き付けられた。
・・・・・・い、一発がこんなにも僕と違うのか。全然動けない。あれだけ強化して、あんなに
攻撃を当てたのに。ふ、ふ・・・いっそ笑えてくる。
「ふ、ふふ、ふふ…………。」
「あ゛ーーー!スッキリしたぁ!って、何が可笑しいんだよ。」
「これ、が、笑わずに、いられますか……?」
『疾風迅雷』を解いて遅延させ、障壁に手をつき何とか立ち上がる。
形勢逆転・・・いや、最初から戦況は変わっていない。初めから僕は挑戦者なんだ。
相手が圧倒的に強いくらいなんだ。底が知れないくらいなんだ。自分達が限界なんて―――!
「関・係・ない!!!"ラステル・マスキル・マギステル"!!」
「ばっ、魔力なんざもう無いだろ!?」
「ワイが、残っとるわ……!」
ブゥン!
さっき書いた魔法陣を通して、小太郎君の狗神が送られて来る。気を媒介にしたそれを魔力に
変換しながら詠唱する。『闇の魔法』とは違う、別の"闇"の様なものも一緒に流れ込んで来る。
ああ、キツイね。お互いに、こんな事までして、戦わなきゃいけないなんて!
「あはははははは!"貫け雷光!覆え暗雲!吹け疾火! 咲き誇るは汝らが王の息吹!
失意の希望 栄光の敗戦 闇の中に光持て 陽の下に影よあれ! 叶え、彼方に!
『祈れ真理の連奏』!『固定』!!"」
ギュオッ!
「…………。」
・・・僕が『固定』までしているのに、何故か一緒にポカーンと固定されたラカンさん。
余裕なのか、はたまた別の何かなのか。だけど僕にも、小太郎君にも余裕はない。
そんなものは初めからない。だから、全力で行かせて貰うだけです!
「『掌握』!!」
ガキュンッ!
そう、これが最後だ。残りの魔力どころか、他の人から借りてまで使って、更に肉体の限界を
無視して魔法を取り込む。強い中級魔法程度なのに、浸食が『千の雷』と同じかそれ以上だ。
時間が経てば安定はするものの、今の戦いで浸食が進み過ぎた。
「ぁぁぁああああああああああああああああああ!!!」
ドウッ!!
「く、く、く………くっはははははははははははははははははははははははは!!!」
ドンッ!!
『な、殴り合い!先程のヒットアンドアウェイと一撃狙いと打って変わって!
拳と拳をぶつけあうぅうううううう!衝撃波で地面がどんどん陥没して行くぅ!!』
嗤ったラカンさんと拳を打ち合わせる。先程の一撃で力を使い果たしたのか、攻撃が凄く軽い。
いや、強化した僕よりも少し強いんだけれど、そのくらいだ。
10回、20回・・・数えられない程、何度も何度も打ち据えて行く。その度、少しずつだけど
身体の端々から黒い煙が立ち昇る。
「………が、あぁ…ッ!」
ガヅッ!
「ぐ、ぬぅ、ぁああ!!」
ゴリッ!
まだだ!まだ無駄がある!エヴァンジェリンさんが言っていたじゃないか、『闇』が漏れるのは
制御し切れていないからだって。限界だからって・・・だからこそ、この力を制御しなきゃ
いけない。『闇』は魔力と違い、抑えるんじゃない。取り込み、纏わせるモノだ。
少しずつ集まるにつれ、ラカンさんの力と同等になった。
「ふ、ふふふ……。」
ガッ! ゴッ!
「く、くくく……。」
『お、おぉっと?こ、これは両者……?』
「「ふっはははははは!アハハハハハハハハ!」」
ドッガッ! ボグッベキッドカッ!
『笑っている!?笑いながら殴り合っているーー!これは怖い!良く分からないが怖い!!』
『いやいや、これはこれで熱い!観客も大喜びだ!』
何故か楽しくて仕方なく・・・おかしくなったかのように笑いながら殴り合う。
互いに攻撃に威力なんてなく、まるで子供の喧嘩みたいだ。
聞こえていたボコッ、ボコッ、と情けない音と、観客の声が徐々に遠ざかり―――
Side out
―――数時間後
Side ―――
「あぁあぁ………私に似た賢い子だと思ったのに。」
何処から手に入れたのか、試合結果の載った号外を見ながらエルザは悲しみに暮れる。
新聞には大きく『W優勝!?』の文字と、ネギとラカン、小太郎とカゲタロウがそれぞれ
並び一様にボコボコの顔で、笑顔で倒れている写真が掲載されている。
確かに、それはどう見ても大馬鹿の集まりだ。
「おいおいそんな言い方ねぇだろ。意地があんだよ、男の子にはなぁ!
って言うかサラッと自分を賢いとか言うんじゃねぇよ。」
「あら、言葉尻を捉えられるなんて。この十年で賢くなったわね、傍迷惑な話。」
『目を離しすぎたんじゃ・・・』と頭を抱えていると、いつもの軽い調子で・・・しかし、
少し大人びたナギが現れた。鳥頭な元気さはずっと以前に為りを潜めた為に欠片も見られない。
号外を除いたその瞳には悲しみと憂いと、僅かな希望だけが覗く。
「ノワールさん・アリアちゃんと戦った後、ジャックと引き分けか。試合見たか?
あんだけ消耗して動けるたぁ、ネギも立派に化け物だなぁ!あっははははは!」
「自分のした事を棚に上げて……。まぁそれを見ても、だけれどね。」
自分達の息子の成長を喜んでいる様な、愚か者を貶している様な。
顔を見合わせ苦笑し、手を取り・・・また、闇に溶けて行った。
Side out
後書き
俺ガイル二期始まりましたね。この世の春が来た!(時事的にも
でも風邪ひきました。一週間寝込んだのは初めて。まだ頭痛い。
更新速度に影響無いのですが。
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