少年は魔人になるようです
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第97話 少年達は壁に立ち向かうようです
―――翌日
Side 千雨
「う~~むむむむ……ぐぐむぬぬ。…………うぬぬぬぬぬぬ……!」
昼ちょい過ぎ、私は先生達が修行していた岩礁地帯でウロウロしながら
イライラしつつチラチラ先生が最終調整として入ってった巻物と、コタが入ってる
ダイオラマ球を見ていた。しかし・・・そろそろ限界だ。
「まだかよッ!?」
「両方ともまだだな。焦ったってしかたねぇぜ千雨っち。」
そろそろ試合開始だってのに二人がまだ戻って来ないもんで、私はカモに当たるしかなくなって来た。
ったく、なんでこうあーゆー男は目一杯まで時間かけやがるのかなぁ!?
とイライラを更につのらせてたら、飛行船に乗って闘技場に様子を見に行ってた連中が戻って来た。
「千雨ちゃーん!迎えに着たわよー!」
「ちょっとやばいわよ、会場もう開いちゃってるわよ!」
「なにっ、もうそんな時間か!?」
「まさかあの二人まだ修行してんの!?」
「そうだよ!」
私の言葉を聞いて、元々我慢出来ない神楽坂とアーニャがダイオラマ球を叩いて
叫ぶ。いや、そっちコタしか入ってねぇんだけど・・・。
「や、兄貴はあの中だ。」
「巻物!?」
「そっちだけでは足りんと言い出してな。朝から私のを貸している。」
「エヴァちゃん!?」
そうこうしている内に、出場者以外の関係者がほぼ全員揃っちまった。
ったくよぉぉぉ!朝っぱらから何やってるか知らねぇけど時間に余裕あると
思うなよ!?いくら開始が三時からだからって引っ張りすぎなんだよ!
「でもこのタイプの空間幽閉型巻物って、精神的な鍛錬しか出来ねぇんだよな?」
「ああ。だが、魔法使いならやれる事は幾らでもあるからな。運用効率の向上とか、
ぼーやならそれこそ『闇の魔法』の技能向上も出来る。」
いずれにしても外からは止められん、とエヴァはどっかからティーセットを
持ち出して優雅にお茶会を始めやがった。ったく、こいつもこいつで、頼まれた
からって良くやるわ。・・・ま、人の事は言えねぇ。っつーか私の方が馬鹿なのか。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「っだぁぁーーー!もう一時間経つわよ!?流石にもう待てないわ!」
「ちょっとネギ、何時までやってんのよぉ---!?」
更に一時間、とうとう試合開始まで三十分まで時間が押し迫ったにも拘らず姿を
見せない二人に、短気嫁二人がキレて、またしてもダイオラマ球を叩き始めた。
だからそっちコタしか入ってねぇんだって。
「試合開始までに誰もいなかったら棄権扱いになってしまうアルよ!」
「まさか今更怖気づいたんじゃ……。」
「ネギに限ってそれは無いわよ!ってかどうすんのよ、棄権だけは避けないと!」
「せめてどっちか来るか、でなけりゃ誰かが変装して……。」
「ノワール先生とアリアちゃんとラカンさんとなんか怖い人が相手なのよ!?
どっちにしろ瞬殺されちゃうわよ!」
切羽詰りすぎた連中がギャーギャー騒いであれやこれやと意見を出し合うが、私は
エヴァと一緒に飲んでた紅茶を飲み干し、悠然と腰からハリセンを出しつつ、二人が
転移して来る所へ向かう。そんな空気を読んだのか、ほぼ同時にそちらの方から声がかかった。
「その必要はありません。」
「「「え……!」」」
巻物の紐が解かれ、ダイオラマ球の傍に転移魔方陣が浮かび上がり、"術式兵装"
状態の先生と、ボロボロになったコタとリカードのおっさんがドヤ顔で降り立った。
「お待たせしましへぶらっっし!!」
ドパズッパァン!
「首尾はどうやネ…って何すんねぱぷるぁぁ!!」
ズッパァン!
「うっせぇ馬鹿共!毎回毎回時間一杯使いやがって!お前ら二人会場まで自力で
飛んで来い!!そら、行くぞ行くぞー。か弱い女子諸君は飛行船で急ぐぞー。」
「っちょ、千雨さん!?戦いの前なんだから少しで「ハーイ、行くぞ行くぞー。」
ちょっとぉおおおおおおおお!?」
「ええや無いかネギ、ウォーミングアップがてら競争や!」
ドゥッ!
「え、ちょ!?ホントに飛んで行くの小太郎君!?」
フォウッ!
私の怒りをマジに受け取ったコタに続き、先生もその後を着いてった。
・・・ったく、これだから馬鹿と男は・・・って、あれ?
先生、段々馬鹿化して来てるのか?・・・祝うべき、なんだろうか。
「千雨ちゃーん!エヴァちゃーん!早く早くーー!」
「全く、騒がしい事だ。私達はその気になれば時間など関係ないのだがな。」
「おい、さらっと私を巻き込むな。」
「ほう?」
呆れ顔で言った私に、エヴァは妙に真面目な顔を向けた後、ニヤリと嗤って―――
「出来るだろう、お前も?」
「…………さて、何の事だか。私はただのか弱い女子中学生だよ。」
「くっくっく、お前を見ていると誰かさんを思い出すよ。まぁいい。」
ヒラリと手を振って、蝙蝠に化けて飛び去ったエヴァ。
・・・全く、だからあんた等は苦手なんだよ。
Side out
Side ---
『テレビを前の皆様、ご覧ください!決勝戦を前に、急遽改造された大闘技場が特別
模擬合戦開催形態に変形していきます。収容人数30万人、中央アリーナ部分の直径は
500メートル!まさにナギの名を冠する大会決勝に相応しい世界最大規模です!』
闘技場の外、アリアドネー正規騎士団200名を超える警備兵と連合軽巡洋艦隊が空に
浮かび、その間を埋めるように報道陣が詰め掛け、街中のいたる所にある映像装置は
闘技場を映し出し、祭りはついに最高潮に達そうとしていた。そして、闘技場内は
既に満員、試合開始を今か今かと待つ熱気に溢れていた。
『さあぁいよいよ決勝戦です!今回の決勝はなんと特別仕様!三チームによる
デスマッチ!!ナギか!?ラカンか!?それとも大本命"黒姫"&"幼狼姫"か!?
凄まじい激闘が予想されますが、最強の戦いを前に観客席は大丈夫なのか!?』
その熱気を更に煽るように、今大会の実況を勤めた悪魔っ娘がマイク
パフォーマンスを続ける。・・・それで盛り上がってはいるが、裏ではナギと
コジローはまだかと走り回っているのだが。
と、更に良く似た悪魔っ娘が登場し、いきなり魔法を観客席へぶっ放す。
『ご安心を!!』
ドゥンッ!!?
ウォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!?
『この通り!連合艦艦載砲どころか精霊砲すら防ぐ魔法障壁によって、お客様の
安全は完璧に保障されています!』
思い切った演出で観客を沸かせる双子悪魔っ娘だったが、10分、15分と開始時間が
過ぎるにつれ、観客がざわめき出す。続き、黄色い声大目のナギ、野太い声ばかりの
ラカンコール、色々混じったノワール・アリアコールが出始め、流石の二人も
困り出した。そこへ。
ズドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!
「フフフ……お待たせ♪」
『『『『ノワール様ァァァァあああああああああああああああああああ!!』』』』
闘技場の一角、入場口のひとつに、轟音を立てノワールが登場した。
いつもは簡素な服を好むのだが、見世物の闘技の為か、豪奢な、しかし防御力は
低そうな鎧姿。珍しく白を基調とした鎧で、しかし肩から先にあるのは黒の長手袋と
指先が真っ赤に染まった黒のガントレットのみ。胸元から臍下まではザックリと
切り取られ、腰から伸びるのは青みがかった黒のフレアミニスカートと腰布、更に
伸びるのは彫刻の如く白い太もも。その先を包むのは流麗な足鎧。
髪をアップにまとめ、その姿は壁画に描かれる戦女神のようだ。
「・・・うるさい。」
『『『『アリアちゃぁぁあああーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!』』』』
『『『『アリアたァ嗚呼ぁあああああああああああああああああああん!!』』』』
「・・・・・・・うるさい。」
続き、静かに現れたアリアも珍しく鎧姿だが、その姿は戦場とは掛け離れた深窓の
令嬢を思わせる。空色より更に淡いロングドレスに、青いプレートと薄く長い五枚の
腰鎧。腕部分にはフリルがあしらわれ、肘意外に鎧は見受けられない。僅かに除く
足先は、『神虎』を模したであろう獣の足のような黒いサバトン。そして背に流れる
銀の髪は儚さを更に際立たせる。
『おぉーっと!ここで待ち切れなくなった女王様チームの登場だぁーー!!
さぁそして!隣の入場口から登場するのはーーー!!』
ちゅっどぉおおっぉぉおおおおおおおおおーーーーーーん!!
「い゛ェァアああああああああああああああああああああああああああ!!」
「……なんだその叫びは。」
『"千の刃"!"生きた伝説"!"最強の傭兵剣士"!!ジャック・ラカンと!!
"呪影槍"のカゲタロウーーーーー!!』
ノワールの登場に負けるかとばかりに、特撮ヒーローの登場宜しく後ろで
色とりどりの爆発をさせ、魔王のような笑みのラカンと、仮面に隠れているが
呆れた風のカゲタロウが登場した。そして悪魔っ娘二人は残った出場者の是非を
確認し、高らかに叫ぶ。
『そ・し・てぇぇーー!お待たせしましたぁ!!かつての盟友の生まれ変わり!?
"千の雷"、"連合の赤き悪魔"と同姓同名の最強魔法闘士!ナギ・スプリングフィール
ドとぉ!!"黒狗族長"のオオガミ・コジロぉおおおおーーーーーーーーーーー!!』
ザザンッ!
ウォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!
大人化しそれぞれ戦闘着に着替えたネギと小太郎が、今度こそとキメ顔で登場した。
雰囲気だけで二人の成長を看破したのか、ノワールとラカンは笑みを更に深くし、
アリアは眠たげだった目を不機嫌気に吊り上げた。
「ノワールさん、ラカンさん。この試合……もし僕達が勝てたら、一人前と認めて
くれますか?」
「フン、そらまぁ……勝てたら、な。」
「フフッ。ええ、勝てたら、ね。」
二人の答えを聞いたネギは、決心と共に目を閉じる。そして息を吸い込み―――
クワッ!と目を見開き、アリアを見た。
「アリアさん!」
「・・・・なに。」
「すみません、勝たせてもらいます!!」
「・・・・・・・・・生意気。」
ゴゥッ―――!!
何を思ってか、ネギはアリアを煽る。当然、少々キレていた程度だったアリアは
完全に臨戦態勢となり、『神虎』を4頭全て顕現させた。それに倣い、ノワールは
槍を、ラカンは戦斧を、カゲタロウと小太郎はそれぞれ影を自身に纏わせる。
そしてネギは仮契約カードを取り出し――
『それでは決勝戦―――!!開始!!』
「『解放固定 "雷嵐神槍"!!』」
ギュギュォッ!!
「あら、もう二つ取り込めるようになってたのn「うぅぉおおおおらぁぁ!!」」
ドッガァァァアアン!!
始まるや否や遅延していた『雷の暴風』と『雷の投擲』を解放し取り込もうとする。
それをノワールが許す筈も無く距離を詰めようとしたが、更にそこへラカンが全力の
打ち下ろしパンチで牽制をする。これこそ、ネギが賭けた計算の一つ。
「あらぁジャック、随分不躾ね!!」
ガィン!ガギンギィンキンギンキンキンキンキンキン!!
「へっ!上手い事使われた気がしねぇでもねぇが、あいつらと組まなきゃあんた等に
勝てねぇんでね!」
『千の顔を持つ英雄』で次々と武器を変え、ノワールの神速の槍を防ぐラカン。
ネギの考えたのは戦術でもなくただの打算だったが、ラカンは自分との戦いよりも、
ノワールとアリアを排除する方を優先すると見込み、防御を捨て、自分をまず戦える
状態に持って行く。アリアの方は小太郎と、あわよくばカゲタロウが相手してくれる
だろうと見立てたが、そちらも上手く填まり『槍御雷神』を発動させた。
ドゥッ!
「ハァァァッ!!」
ガッ!ゴッ!ボッ!!
「フフフ……二人がかりなら勝てると思った訳ねぇ。ふふ、フフフフフフ……!!」
「やべっ…!!」
「っ!?」
ノワールが高く嗤った瞬間、ラカンさえ全力で後方に飛んで退避する。
ネギも僅かに遅れて避けた瞬間、閃光弾が炸裂したように大気が一気に歪む。
バサッ
「あら残念。それじゃあ―――」
ズ ズ ズ ズ ズ ズ ―――― ! !
「マジかよ……!」
ギュゥゥッ!
「本気ですか……!『来たれ』ッ!」
致死レベルの気の塊を至近距離で炸裂させようとしたが、素早く回避された
ノワールはしかし、嬉しそうに槍を構え気の塊を膨れ上がらせ、広範囲攻撃へ
切り替えた。ラカンはそれを相殺させるべく"ラカンインパクト"の構えを取ったが、
ネギはアーティファクトを出す。六角形の水晶の中には雷が渦巻いており―――
「『破砕掌握』!!」
パキャァァーーン!
「行くわよぉ~~!!」
ゴッ!
「ラカンッッ!インッッ……パクトォォ!!」
ドゥッ!!
高々とジャンプしたノワールは、気の巡った槍を地へと叩きつけるように投げ、
それをラカンは渾身の気拳で迎え撃つ。
いきなりの超本気の一撃がぶつかり合い―――
――――――――――――――――――――――――――――――――カッッッ!!
ドッゴォォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!
「きゃぁああああああああ!?」
「ひぇぇええええ!?な、なななな何!?テロ攻撃!?」
『と、闘技場より伝達!テロではありません!ノワール氏とラカン氏の技のぶつかり
合いです!』
「な、なんてデタラメです…!?」
闘技場周辺どころかオスティア王島全域に響く大爆発が断続的に轟き、闘技場の
魔法障壁を揺るがせ続ける。しかし、投げられただけの槍と絶えず射出される
気拳では持続力が違い、5秒ほどで槍が飛ばされた。
キギン!
「あら、やるわねぇ。」
「んな余裕かましてられんのかぁあああっ!らぁあ!!」
ゴウッ!!
「あるに決まってるじゃない。」
槍を迎撃した気拳は更に気を注がれ、衛星砲じみた光線はノワールを飲み込もうと
迫る。それを先程とは打って変わりつまらなそうな顔で右手をのろっと出し――
ガスッ!
「これで十分なんだから。」
「ハハッ、マジかよ……!」
精霊砲さえも超える威力の気拳を握り潰した。
流石のラカンもそれには苦笑いするしかなく、接近戦を仕掛けようとした所で
ネギがいない事に気付く。そしてその意図にも。
「ったく、とんだ弟子だな!いくぜぇぇえええ!!必・殺!」
カッ!
ビシ!ビシ!ビシィ!とポージングを決め、全身に気を巡らせる。
大の字から放たれる技は、まさかネタ技。
「『エターナル・ネギフィーバー』!!」
P o w ! !
「うぇええ~、こう言うのホント勘弁して欲しいわぁ。」
ガガガガガガガガガガガガガ!
嫌そうな顔で魔法陣を展開し、人型ビームを自分になるべく近づかないように
防御する。最初の気拳より明らかに弱く、防御されるのは当たり前だった。
ノワールが気持ち悪がりながら違和感を覚え――迫る気配にその答えを悟った。
「ぬぅぅりゃぁああ!やれ、ネギ!!」
ドウッ!!
「ふぅん、私を強制的に盾代わりにするなんて……。」
「ハイ!」
ノワールの背後、防御している事で開いた光線の隙間からネギが『雷天大壮』のみの
状態で突撃してくる。だがそれを一瞥する事も無く、左手を伸ばし―――
「『来たれ』!!!」
Voruluolooooooooooooooooooooooooooo!!
「っ……!」
ザシュ!!
ネギの右手に充填された『雷の暴風』と『雷の投擲』の合わせ技が放たれると
踏んだ油断は、いきなり使われた一撃必殺の"太陽神猪"により崩される。
5割の威力で召喚されたヴリスラグナは『エターナル・ネギフィーバー』を防御する
物と同レベルの障壁を容易く破砕し、ノワールの素手に僅かとは言え食い込ませた。
『おぉーーっと!なんとナギ選手、ノワール選手の障壁をいとも簡単に破ったぁぁ!
流石の"黒姫"の表情も幾分かってわぁーー!?』
ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドオ!!
「・・・まだ、まだ。」
GAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!
瞬間、闘技場が炎に包まれる程の炎弾が『神虎』から乱打される。
命令を下すアリアが小太郎とカゲタロウの影を相手にしている為か正確ではないが、
下手な鉄砲を体現しすぎなそれは、ネギとラカンと猪を飲み込んで行く。
「よ、とっ、は!ハハッ!相変わらずすげぇ弾幕だなオイ!」
「こっちは必死なんですけど!?」
「むぅ・・・コタ、邪魔。中らない。」
「中てさせへん様にしとんやから当たったら困るわ!」
ド派手な弾幕戦を繰り広げる空中だが、その実ギリギリなネギを助けているのは
小太郎とカゲタロウ。アリアを釘付けにする事で『神虎』の狙いを定めさせない。
しかしアリア相手に強化兵装をしていない為、責めあぐねている。
「チィ!かと言って手ぇ離したら一瞬やろ、アンタも!」
「うむ、悔しいがその通りだ。事態が動きそうなあちらに期待しよう。」
「むぅ・・・・・・うざい。」
スゥ、とアリアの目が更に細くなり、『神虎』が全頭カゲタロウへ殺到する。
「ぬぐっ……!」
ドドドドドドドドッ!!
グルァアァ!!
「あ、ちょ、言った傍からカゲ!!」
影槍を伸ばし三頭までを貫いたが、遅くなった物を噛まれ投げられる。
一瞬で分断されてしまった小太郎は、硬直状態のネギ達をチラリと見て、
自覚しつつ珍しく策謀を巡らせる。
「(ちぃぃ、『獣化連装』出来りゃなんとかなりそうなもんやけど、暇があれへん
もんなぁ。かと言って小細工出来る頭でもないし・・・!)」
「ふん・・・!」
ゴッ!
「おぉおおわぁぁあああ!!」
しかし先程まで二人に向いていた攻撃が自分に集中し、必死に避ける意外に作戦が出ない。
解体用重機の様な蹴りを何とか避け、体勢を整える。
対するアリアは苛立たしげに爪先をトントンし、どうしたら一撃で済むかを考える。
その癖を小太郎も理解しており、その隙に自分も考えを巡らせる。
「(アリアはんは格闘は単純な"剛速"タイプや。つまりは"柔技"が一番やねんけど、
それやるには『獣化連装』するしかない。結局は隙が欲しくなるんよなぁ!)
ゴッ!!
っとぉぉ!!?」
「むぅ・・・逃げるのだけ、上達。」
「ハッ、そらどーも!」
嫌みの様なただの本音に舌打ちしつつ、狗神を伴いラッシュをかける。
アリアは溜息と共にそこで漸く主武装の鉄扇を広げ、更に速度を上げる。
徐々に数を増やし圧倒しようとする小太郎だが、500・600を超えても一切攻撃の
速度が遅くならない事に焦る。自分の相方はどうかと盗み見るが、こちらと役が
逆になっただけで膠着している。ネギ達は―――
ズドガドガガガガガガガガッガアガッガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!
「ラカンは相変わらず遅いわねぇ。坊やは速いけど軽すぎよ!」
「そんなのは重々承知ですよ!40秒持ちますか!?」
「この状況でそれ言えるとは大した奴だよ…!!」
『千の雷』を掌握し雷化したネギと、"千の顔を持つ英雄"と気弾で攻めるラカンを
薄く笑いながら制圧しているノワール。どうやらあちらも一手足りないようだ。
やはり、こちらが動かなければ、魔力・体力的に大きく不利だ。
「(せやけどムチャして負けたらそれで終わりやし!)」
「ぬぅぅぅあああああ!!」
ドドドドドドドドドド!!
ギャゥアァアアア!
「・・・!」
そこで、戦況が動いた。カゲタロウが攻撃を受けつつも影槍を伸ばし、『神虎』の
一頭を串刺しにした。それを見たアリアは一振り、狗神を薙ぎ払いそちらへ跳ぶ。
"アリア"であるが為の一瞬の隙。残った狗神と、ギリギリまで生成し続けつつ、
狗神を集める。
「ありがと、下がって・・・。」
グルゥ・・・
「ふ、一矢報いた、か。少々休むぞ、コジロ-。」
「おお、任せとけ!」
ボロボロになったカゲタロウは戦場の端に下がり、影で自身を覆い防御に入る。
アリアは『神虎』の一頭を下がらせ、残った三頭を炎に変え、更に"神気"を纏う。
『天合獣纏』が完成する刹那、先に『獣化連装』した小太郎が仕掛けた。
「『天合獣纏 《翼獣霊「おぉおおおおおおおおおおおおらっぁああああ!」
ズガァン!
―――ズズゥゥン!!
『おぉっととと!ぱ、パンチ一発で会場が大きく揺れたぁ!
真っ黒もふもふ人間になったコジロー選手、強化途中のアリア選手に一撃!
これはーーー!?』
「・・・き・か・な・い。」
ゴォォォァアアアアアアアアアアアアアアア!!
「どぅおぁあああああ!!チッ、流石にそこまで甘かないわな!」
蒼い炎の中から現れたアリアは当然、と言わん顔で無傷。
その上で『神虎』の手甲を装備し小太郎と同じ軌道の正拳を放つが避けられる。
青筋が一つ追加。蹴り。避けられる。青筋追加。進化した『神虎』召喚、炎弾。
相殺。筋追加・・・・結果。
ZUGOGOGOGOGOGOGOGOGOGOGOGOGOGOGO―――
「あ・・た・・れ・・・・!!」
ゴバガゴドゴバゴベキガキガキュドキュウンダリバラドバドドドドドド!!
「ネギィィィぃ!おっさぁあああん!はよ、はよ助けぇ!!」
「そんな事言われても!?」
最早炎なのか神気なのか分からない程の何かを立ち昇らせ、両手足に各一頭を、
更に4頭を召喚し小太郎に猛攻を仕掛ける。狙われた小太郎はあわよくばアリアを
打倒する考えを即座に放棄、走りながら狗神を召喚し逃げる。
叫ばれたネギとラカンも打開策を見出そうとはしているのだが、隙が無い。
「(あ゛ー相変わらずデタラメだぜ!俺様の研鑽なんざミジンコレベルだ、)っと!」
ゴッ!
「余計な事考えてると刺さるわよ?」
「ハハッ、困った困った…!」
ラカンはデタラメだなんだと言われているが、その実はカモの情報通り、研鑽と
努力で"本物"の強さを手に入れた人間だ。故に、ノワールの研鑽が"視える"。
その差をネギの速さと無茶がなんとか埋めていたのだが、遂に崩れる。
ズグンッ
「しまっ「ハイ、遅い。」
ドンッ!!
「やべぇ、ネガァッ!!」
「・・・あたった。」
『槍御雷神』と、持続用に装填していた『千の雷』も魔力が切れてしまい、
瞬間、払われた槍に全く反応出来ず地面に叩き落された。
それに気を取られた小太郎も、狙ったように同じ位置に殴り飛ばされた。
「ガホッ…!ネギ、生きとるか?」
「僕より小太郎君の方がきつそうだよ……。でも、これで狙い通りだ。
小太郎君、カゲタロウさんと一緒に頑張れる?」
「ハッ!誰にモノ言うとんねん!おらカゲ、さっさと立てぇ!!」
「……全く、礼儀のなっていない若造だ!」
アリアがむふん、と満足している隙。
気合を入れた小太郎と若干回復したカゲタロウがネギの前に立つ。
ノワールはラカンが抑えている。後はアリアさえ抑えられれば、とネギは意を決し、
策の全てを出す。
「"ラス・テル・マ・スキル・マギステル! 『二重詠唱』!
契約に従い我に従え高殿の王 来たれ巨神を滅ぼす燃ゆる立つ雷霆!
百重千重と重なりて 走れよ稲妻!!"『千の雷・固定』……!」
「・・・あい、かわらず。みんな、撃って・・!」
「させへんっちゅーねん!」「ぬぅぅぅぅん!!」
ズガァァァン!!
詠唱と同時、流石に見逃す気はないアリアが装備していた『神虎』を解除し
八頭で弾幕を張るが、それを小太郎とカゲタロウが守る。
ネギはまず、二重に『千の雷』を詠唱・固定させ――この時点で脳と魔力の回路が
切れるのが普通である――更に続ける。
「"『双腕掌握』!『遅延解放・戦闘の為の協奏曲』!
"風よ 雷よ 光よ!無限に連なり其を包め 彼を焼け 我を照らせ!切り裂け
刺し穿て 叩き潰せ!!"『全きこの身を剣と化し』"!『固定』!」
「・・・なに、を・・・?」
「ハッ、知るかいな!」
二重の『雷天大壮』、更に何故か肉体強化と戦術魔法を固定する。
しかしまだ20秒。ネギの言った40秒まで、残り半分―――
「"ラス・テル…ガッ、ゴホッ!……ま…マ・スキル・マギステル!!
"久遠の空よ来たれり 敵を撃て戦神の矛 集え星の欠片 地より出でよ砂の鉄
空に伴え御使いの剣"『熾使よりの天剣』"!!『固定解放・術式融合』!!」
ゴォッ――――!!
固定していた戦術魔法に、更に戦術魔法を融合させる。
ネギの用意した"結合・統合・融合"呪文の一つ。広域を殲滅する多数の剣と巨剣の
魔法。"融合"はその二つを完全に掛け合わせる。即ち――
「"神器『剣よ熾天覆い雷雲と化せ』"!!」
ズァァァァッ!!
「・・・!?」
「うぉおおおおおお!?」
闘技場の全てを、巨大な剣が覆った。
Side out
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