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Sword Art Online 月に閃く魔剣士の刃

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12 激闘 竜討伐

「これ以上死ぬなよ、奴に引導をくれてやれ...!行くぞっ!」

 少年は叫ぶと、裾がボロボロになった蒼いマントをはためかせながら背に釣った剣を抜き放つ。
 鞘と刀身が擦れ合い心地いい金属音を鳴らした。
 少年に対面している剣士は実に48人、全員が自分の獲物を構えると叫びに応えた。

 そして最初に叫んだ少年はくるりと後ろを向くと、重厚な石扉を左手で押し開ける。ミシミシと軋むような音とともに扉が開いた。

 君臨するはつい先日、仲間を8人も散らしたヒドラ、その名も「怒れるヒドラ」。
 双頭の口元に炎を燻らせながら2対の眼で俺たちを見下ろしている。

「行くぞ、全員散開!!」

 言い放つと剣士たちは部屋の中へと駆けていった。

「タンクA展開!予定通りに!!」

「「おう!!」」

 部屋中に響き渡るような轟音とともにヒドラの牙を大盾が遮る。
 側面や背後からは様々な刃がヒドラの体を駆け回る。その怒濤の猛攻にさすがのヒドラもたまらず怯み、その瞬間を逃さず攻勢はより激しさを増した。

「ッ!ブレス来るぞ!!避けろ!!」

 向かって右の頭が炎を吐いた。
 繰り出された範囲攻撃によって僅かに攻勢が揺らぐ。その瞬間を狙ってか、その巨体に似合わない俊敏さで尻尾を薙いだ。
 背面から左側面の殆どを打ち払う。
 殆どの面々が素早く飛び退くが、ディレイによって動きを封じられた一人が攻撃範囲に取り残された。

「おいっ!!」
「早く避けろぉ!!」

 周りが叫ぶ。しかし既に攻撃は始まりかけている。本人もディレイから解放された瞬間走り出すが...間に合わないだろう。
 次の瞬間、その長大な尻尾が鞭のごとく殺到した。

 誰もが覚悟したポリゴンの破砕音。
 が、驚いた事に尻尾は取り残された者の眼前で止まっていた。身が隠れきる程大きな盾と長大なガードランスを携えた男がその一撃を受けきっている。

「〜ッ!こんのぉォォ...!!」

 怒号とともに盾を跳ね上げる。
 それを見ていた周りの者たちも巻き込み、その一瞬で時が止まりかけていた。

 一方、同じ一瞬。
 盾が一撃を受け止めた重低音を置き去りにして、何人かがヒドラに躍りかかった。

 まず飛び込んだ一人は円月刃を投げつつ長剣を叩きつけた。
 一瞬遅れて2人が両手に構えた短刀を振るう。
 間髪入れずに二振りのレイピアが向かって右の頭に、片手剣による痛烈な斬撃が左の頭に炸裂する。
さらに続けて両の頭を同時に大剣が薙ぎ払い、ヒドラは完全に姿勢を崩された。

 そこまで一瞬、攻撃の波が戻る。

「陣形立て直せ!!」
「タンク隊Bローテ繰り上げ!!タンク隊A下がれ!!!」
「DD班ヘイトまだか!?」
「遊撃が入る!援護頼んだ!!」

 矢継ぎ早に指示が飛び交い、確実にヒドラを追い詰める。残るHPバーは5本の内2本半、戦局も押してきているし犠牲者も出ていない。

「行くでござるよ!」
「「合点!!」」

 忍び口調の叫び声で何人かが飛び込み、投剣を浴びせかけ短刀や曲刀で斬りかかる。

「ブロック行くぞ!3人!!」

 重装備の屈強な男たちが迫る牙の前に立ち塞がり、弾き返した。その脇をすり抜けて敵の眼前に飛び出すと、何人もが剣を振る。

 スイッチを繰り返しHPを削り続けていく。そろそろ15分を回り、綻びも出始めていたが残りのHPバーを1本まで追い詰めた。

「発狂入るぞ!全員警戒ッ!!」
「タンク全員前いくぞ、俺に続けェ!」

 尻尾をブロックした男を戦闘に盾持ちが前に出る。それと同時にヒドラが吠えた。
 地鳴りが起こる程の轟咆で前で構えてた壁戦士達が吹き飛ばされかける。
 さらに...、

「え!?バフ消えた!?」

 誰かの声でステータスバーを見ると、確かに防御力増加のバフとバトルヒーリングのHPリジェネが無効化されてた。
 しかしさらに状況は悪くなる。

「ッ!?散開だ!早く!!」

 両方の頭の口から炎が漏れ出ている。
 一瞥でもこれまでのブレスの比ではない量の炎だと見て取れた。

―――間に合わない―――

 誰かが呟いた。確かに、このまま撃たせれば全域を巻き込むだろう。
 “このまま“なら。

「全員右に走れっ!!」

 思いっ切り吠えると全速力で走り出した。周りは訳も分からず、でも右に走り始めていた。
 一瞬で誰にも干渉しないコースを出し、駆け抜ける。目指すは一番ヒドラに近い大盾持ちの男。

「そこのタンク!動くなよ!!」

 いきなり指名されて固まるタンク。そこに向かって跳躍、盾を足場にさらに飛び上がった。

「ふ...っざけんなぁ!!」

 炎を生み出しているヒドラの右の頭、それすら超えて高く舞い上がった。相手はこちらを気にすら留めてない、がら空きの頭頂部に狙いを定めてレイジスパイクを構える。
 起動モーションが認識されアシストが体にかかり始める。その瞬間、ついにヒドラの双頭が溜めに溜めた爆炎を吐き出そうと口を限界まで開けた。

 タンクがせめてもの抵抗か盾を構え、他のプレイヤーのカバーに入る。
 そして炎が放たれる瞬間、爆音とともになにかがヒドラの頭に降り注いだ。

 そして爆煙の中から吹っ飛ばされてきたのはさっき跳んだシュン、とっさにキリトとクラインが受け止めた。愛用していたはずの長剣は砕け散っており、焼け焦げ他マントとともにポリゴンとなって消えている。

 ヒドラの方は苦しむような呻きをあげながら後ずさり、その右頭はほぼ吹き飛んでいる。爆発の衝撃か分からないが、もう一方の火炎も明後日の方向へ飛んでいったようだ。

「いっ...てぇ...。」
「痛覚ねぇだろ、GJだったぜ。」

 キリトが軽口を叩く。

「うっせえ行くぞ。」

 無事だった円月刃を抜き放つとキリトを引っ掴んで走り出した。
 そして...。

「ラストアタック貰ったァ!!」

 助走を乗せたシングル・シュートがヒドラに突き刺さり、結局ラストアタックは俺が取った。が、同時に円月刃も逝った。

 周りから、主にアインクラッド解放隊から嫉妬と殺意を浴びせられるが気にしない。
 ボーナスは...

「アスカロン...?」

 竜剣 アスカロン、片手剣らしい。丁度得物が全滅したしありがたい。

「お疲れ様っ!」
「暴れたなぁ、お前。」
「シュン君、お疲れ様〜。」
「またお前がラストアタックかよ、いい加減譲れっての!」

 次々と労いの声がかけられる。そこで初めて勝ったという実感が生まれた。

「ああ、まあな。みんなお疲れさ……ま………あ……れ……?」

 体が重い。
 視界が霞む。
 音が遠くなっていく。
 平衡感覚が麻痺を起こしてる……?

 ぐらりと視野が揺れ始め、次の瞬間には黒に塗り潰されていく。

「―――!」

 キリトが駆け寄ってきながら何かを言っているようだが何を言っているか分からない。
 そんな感覚を最後に俺の意識は掻き消えていった。 
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