Sword Art Online 月に閃く魔剣士の刃
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13 セカンドチャンス
前書き
お久しぶりです。リアル事情でかなり悲しい事になっていました、ネズミです。
色々あったので呟き参照、とさせていただきます。
目が覚めた。
体は動かない。
何処かに漂っている? そんなふわふわとした浮遊感だけが感覚から伝わってくる。
目を開けたはずなのに視界に黒以外のなにかが映ることはなく、耳を澄ましてみても何も聞こえはしない。
声を出そうと足掻いても無駄だった。
呼吸をしても何か匂いを感じることもなく、どこまでも無機質な感じ。
ここはどこだろう?
仕方が無いから頭の中だけで考える。
本当なら口に出した方が状況の整理はしやすいのだけれど。
確か俺はボス戦の後に、……なんだったっけか
ヒドラを倒した。
それは覚えている。
LAボーナスを取って、リザルトはなんだったっすけか。
もしかして死んだか?
ああ、なら納得だ。
多分バッドステータスでも引きずって死んだんだろう。
そうか、死んだ奴らってみんなこんな感じに漂ってんだな。
何故か妙な説得力を感じて、一先ず俺は死んだと思うことにした。
結構あっさりと死んじまうものなんだな。
それにしてもまだまだやりたいことあったんだけどな……。
これ結構楽しかったし、攻略していくのはゲームやる奴としては燃えたんだがなぁ。
また駅前のたい焼きを食べに行きたいし、読みかけの本もある。
趣味で書いてた小説もあと少しだったな。
取り敢えず、これからどうするべきか?
いや、どうにも出来ないか。
それでも暇は嫌いだし。
どこまでも退屈そうなここに沈んでいくのは少しごめんだ。
そんな事を考えていた。
しかし次の瞬間、無機質な空間は光と音で満たされた。
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エラーチェック開始
症状:熱暴走
「全く、カーディナルも完璧には届いていないのか。それにナーヴギアが熱暴走するほどの情報量を叩き出すとは……。人間の可能性はまだまだ未知数だったということか」
機械音声にしては妙に人間味のあるぼやきが聞こえてきた。
その裏では何かを操作しているかのような電子音が間断無く聞こえてきて、先ほど弾けたコンソール画面と相まって彼がこのデスゲーム、即ちSAOのマスターなのだということに奇妙とも呼べる現実味を持たせていた。
「すまなかった。ID 00706、シュン君。私はGM。この世界の根幹を司っている者だ。今回、君のナーヴギアが熱暴走を起こしてしまった。……設計段階での想定が些か甘かったようだ。申し訳なかった」
GMらしき男が語りかけてきた。
所々音が遠く聞こえて聞き取れなかったが恐らく合っているだろう。
反応を返そうと四苦八苦してみるが漂っている体はうんともすんとも動いてくれない。
そんな俺に構わずに音声は話を続けた。笑ってしまうほどに
「今、現実世界に在る君は大変危険な状態にある。ナーヴギアが熱暴走によってエラーを引き起こし、緊急的措置として君の脳との電気信号のやり取りを一時的に制限した。現在、君の脳との接続率は約11%程度だ。それに伴い、君には二つの選択肢がある」
勿体つけるように声が話を区切った。
なんだろう?
わざわざ選ばせるほど、俺にとって重要な事なのか?
それとも戯れなのか?
結論の出ないまま、声は俺にとっての究極の二択を突きつけた。
「もし君が望むならば、君をこのデスゲームから解放しよう。私の持つ管理者権限を行使すれば、君のナーヴギアとSAOとの接続を安全かつ完全に切断する事が可能だ。ゲーム内での処理はSignal Lostとなり、君は現実世界へと戻る事が出来る」
現実世界へ……戻れる……?
いきなり投下された爆弾。
甘い甘い誘惑じみた選択肢。
しかし、二つの選択肢が与えられるとなれば、当然対となる選択肢も存在しているわけで。
「しかし、もし君がそれを望まないとあればこちらにも少し考えが在る。君のナーヴギアのソフトウェアを暫定的にアップデートする事にしたのだが、データが足りない。もう一つ言えばこの一瞬にも他のプレイヤーと君とのハンデキャップは広がり続けている。そこで私にとってはデータ収集、君にとってはそのハンディキャップを取り戻す、という形で余興を用意した」
同じ声のはずなのに、どこか声が不敵に聞こえた。
どうする……?
ここには今までに過ごした事の無い、非日常がある。
互いに命を削り合うスリルと緊張感。攻略組というアイデンティティ。
そして背中を預けていた仲間。
「前者か後者か、強く思い浮かべた方を君の意思と取る。5分待とう。君の命に関わる話だ。よく考えて決めて欲しい」
言い渡された選択肢。
日常か。それとも非日常か。
解放されて日常に戻るか、命を賭けてクリアを目指すか。
ぐるぐる回る思考が体感時間を加速させる。
与えられた5分の猶予はあっという間に過ぎ去っていた。
「時間だ。君の意思を聞こう」
日常を取るか、非日常を取るか。
そんなもの、選択の余地など無いだろう?
「君はどちらを選んだ?」
「俺は剣を手放すつもりは無い。余興とやらを聞かせて欲しいな」
いつの間にか声が出せるようになっていた。
身体も自分の意思で動くようになっていた。
「いいだろう、GMとして改めて君を歓迎しよう。さて、その前に君にやってもらわねばならない事がある。今一度、君が最初に行ったであろうゲーム開始の宣言をしてもらいたい」
「了解した。……接続開始」
視界が白に塗り潰され、そこへシアンやマゼンタ、イエローが駆け巡る。
体が、思考が冴えてくる。
さっきまでの自分の感覚が戻ってくるのを感じる。
リスポーンしたのはコロッセオのような所だった。
装備はあの時のまま。
一つ違う事は背中に背負っているはずの剣が少し重すぎるように感じる事だ。
そして目の前にはモンスターの一塊。
「成程、余興ってそういう事か。……面白いな」
背中に感じていた違和感を持った重みを抜き放つ。
手に収まっていたのは、結晶から削り出したような透き通った蒼色の刀身を持つ、シンプルな長剣だった。柄が長めに取られていて、重心もちょうどよく振りやすい。
形態としては細身の片手半剣だろうか。
「軽い、いい剣だな。さて、試し斬りといこうか」
高揚感とゾクリと背中を走る危険な心地よさ。
そうだ、俺はずっとこれを求めていたんだ。
「さて、斬り捨てるっ!」
瞬時に距離を詰めて剣を薙ぐと手前の一団が切り飛ばされた。
どこまでも続きそうな命の削り合いが幕を開けた。
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