戦国異伝
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第百九十六話 二匹の虎その六
「しかし真田幸村は」
「鬼神の如きじゃな」
「しかも十勇士もおります」
その配下にだ。
「ですから恐ろしいまでの強さです」
「しかもな」
信長は武田の軍勢を見ながらさらに言った。
「あの者が見えるな」
「!?まさか」
「あの兜は」
「見間違えようがない、あの男」
「武田信玄」
「敵の総大将自ら後詰を務めるのか」
「この戦、今に至ってもな」
追う段階になったこの時もというのだ。
「尋常ではないな」
「武田信玄が自ら後詰とは」
「しかも真田幸村と十勇士もいるとは」
「これは容易ではありませぬな」
「簡単には攻められませぬ」
「皆の者心してかかれ」
その退く武田の軍勢にというのだ。
「手柄を立てる時であろうともな」
「はい、それでは」
「我等油断せず攻めまする」
「相手が相手であるだけに」
「ここは」
彼等も意を決して答えてだ、そうしてだった。
織田はここに至って柵を開き追撃にかかった、武田の軍勢はもう既に退きにかかり後詰の信玄と幸村が精兵を率いて残っていた。
そしてだ、その精兵達にだ。織田の大軍が襲い掛かる。だが。
弓矢と鉄砲の豪雨の様な攻め、そして槍に阻まれだ、彼等も容易には攻められない。信玄と幸村の後詰の布陣は完璧だった。
しかもだ、彼等はそれに加えてだ。
「攻めよ!」
「はっ!」
「それでは!」
後詰でありながら攻める、そうしてだった。
織田の攻めを寄せ付けない。それは徳川に対しても同じだった。
火の壁となって守る彼等を見てだ、家康はここでも唸った。
「何と見事な後詰じゃ」
「はい、完璧です」
「完璧な守りです」
「まさに城です」
「人の城であります」
「人は城じゃな」
信玄の言葉をだ、家康は呟く様に言った。
「信玄殿のお言葉じゃな」
「普段からそう言っておる様ですな」
「人は城だと」
「人が堀であり石垣だと」
「その様に」
「まさにその通りじゃ」
唸って言った言葉だ。
「それがよくわかるわ」
「ですな、しかも徐々に退いておりまする」
「後詰らしく」
「そうしてです」
「退く軍を支えておりまする」
「あの者もな」
家康はここで幸村を指差した。
「見事じゃ」
「攻めても守ってもですな」
「どちらでも鬼ですな」
「鬼の様に戦いますな」
「そうじゃな、しかも知略もある」
それも備えているからだというのだ。
「まことに見事じゃ」
「ではそれがしが」
ここで名乗り出たのは本多忠勝だった。
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