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戦国異伝

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第百九十六話 二匹の虎その五

 それでだ、信玄も言うのだ。
「わかった、ではな」
「はい、それでは」
「御主と十勇士も供せよ」
「有り難きお言葉、それでは」
「それに源助ではな」
 ここで信玄は高坂にこうも言った。
「御主はわしの前に立ち死ぬまで戦うな」
「それでは、ですな」
「御主は天下に必要な才じゃ、失う訳にはいかぬ」
 そのこともあってというのだ。
「だからじゃ、今の後詰は止めよ」
「しかし幸村はですな」
「こ奴と十勇士は死なぬ、決してな」
 そうした戦なのだ、幸村は攻める時も守る時も阿修羅の如く戦う。十勇士と共にそうするのだ。
 それ故にだとだ、信玄も言うのだ。
「ならば。今も供をさせる」
「さすれば」
「御主は太郎、そして他の二十四将と共に軍勢を退かせよ」
「では」
「わしは幸村達と共に御主達を無事に退かせるわ」
 こう言ってだ、信玄は今度は幸村に告げた、その告げた言葉は。
「二十万以上の軍勢が相手じゃ、武勲を挙げられるか」
「思うだけ」
 これが幸村の返事だった。
「挙げてみせます」
「それではな」
「これより戦いましょうぞ」
「そして皆を逃がすぞ」
「では今より」
 幸村は馬に乗りつつだ、そのうえで。
 両手にそれぞれ槍を持ってだ、信玄の隣で言った。
「それがし、修羅となり申す」
「ではわしもな」
 信玄もだった、その幸村に応えてだ。
 二人は自ら敵を前にして戦う決意をした、その時にだ。
 信長は朝になり武田の軍勢が退くのを見てだ、家臣達に言った。
「鉄砲を撃つことは終わりじゃ」
「では、ですか」
「これより」
「追うぞ」
 退く武田のその軍勢をというのだ。
「そして勝ちを確かにするぞ」
「はい、さすれば」
「これより」
「しかしじゃ」
 追うことは命じる、しかしだった。
 ここでだ、信長は彼等にこうも言った。その言った言葉とは。
「敵の後詰には注意せよ」
「高坂昌信ですか」
 滝川が彼の名を挙げた。
「逃げ弾正ですな」
「そう思うか、御主は」
「はい、武田の退きといえば」
「そう思うな、わしもおそらくそうだと思っていた」
 これまではというのだ。
「しかしな」
「しかしですか」
「あの旗を見よ」
 信長は退く武田の軍勢を指差した、そこにはだった。
 六文銭の旗がある、赤地のその旗こそだった。
「わかるな」
「真田、それでは」
「そうじゃ、あの者が後詰じゃ」
「まさかあの者が後詰とは」 
 さしもの滝川もだ、信長にそのことを言われてだ、唸ったのだった。
「これは手強いですな」
「高坂弾正以上にな」
「高坂弾正も只者ではありませぬ」
 三河口で彼とも戦っている、それで彼の強さも知っているのだ。 
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