僕の周りには変わり種が多い
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横浜騒乱編
第20話 ダメー!
円明流合気術道場の工藤師匠の前で、鋼気功のリユウカンフウの一件を話したところ、
「君はそれでどう感じたんだ?」
「最初は、成犬を殺すのが目的だと思うのですが、気配は紛らわせるレベルですからね。そもそも、気がついたのは変なプシオンを感じたからですから」
「それで」
「僕の方に対しては、最初は捕まえようとしてたんでしょうね。ただし最後に放ってきた遠当は殺しか、怪我をさせにきたのでしょうか。けっこうな威力でしたから」
「だから、久々に、部屋へ入る前にあいさつをしてきたのか」
「そこは、おいといて、鋼気功用の武具の貸し出しをさせてもらえませんか?」
僕が言ったことに対する師匠の反応は
「多分、もう遅いよ」
「えっと、何がですか?」
「君に監視がつくかは不明だけど、その成犬を追っていたのは、リユウカンフウ以外になる可能性が大きいだろうね」
「えーと、そういうことは?」
「君の失敗のせいだよ。君の言う成犬は変わるのは当然として、それを追っていたリユウカンフウも変わるか、君の相手用に1人つくかもしれないよ」
「どのあたりが失敗ですか?」
「最初から最後まで」
「えー」
「っというのはさすがにかわいそうだから、ポイントだけは教えてあげよう」
最初から最後までだったらへこむが、ポイントがあるのなら、改善はできそうだ。
「1つ目は、その成犬をおいかけてしまうのは良いにしても、助けてしまったことだね」
「人助けが問題なんですか?」
「すくなくとも成犬が工作員ってのは、遅くても君のお友達が聞いていたときには、わかったことだよね?」
「はい」
「君が実践魔法師になるのならまだしも、魔工技師を目指していたのだよね?」
「はい」
「なら、そこは通報だけして、それでおしまいにしておくところだろう」
「……はい」
「2つ目は、リユウカンフウの遠当を打ち落としてしまったことだね。避けるのがベストだったよ。それなら避けるのが、普通よりうまい魔法科の高校生という認識で、済んだろうね。たとえ九校戦のモノリス・コードをみていたとしても」
「……はい」
「3つ目は、脱出際に相手へ魔法を放ったこと。魔法を放つなら、数発は放つべきだったね。対処が冷静すぎて手を抜いたのが、多分ばれているよ」
「げっ!」
「最後だけど、まっすぐここにきたこと。普通、警察に行くものだよ」
「あっ!」
警察を信用していなかったので、ここでもやっちゃったか。
「警察と軍には連絡を入れておくけど、念のために、しばらくは道場を通じて、学校と往復することにしなさい」
「ネットから僕の自宅の住所がもれませんか?」
「たぶん、大丈夫だよ」
「なんでですか?」
「『魔法能力保有未成年者特別保護法』って知っている?」
「聞いたことはありますが……詳しくは覚えていません」
「魔法が使用できる能力を保有している未成年に、何らかの害が発生しうる時に保護をする法律なんだけど、君はそれの対象者なんだよ」
「えーと、それってそういえばたしか、魔法が使えるからと、親からとか不遇を受けるときに保護とかされるというんじゃ、ありませんでしたっけ? 自宅からかよっていますし、自宅内でも僕にはそんな覚えはありませんけど」
「そういうのが一般的だけど、君の場合は発火念力で、君自身を燃やしてしまう恐れがあるということで、保護司となる僕までしか、具体的な家族名や住所は、民間では探せないことになっている」
「へぇ。ちなみに民間では……ですか」
「国のシステムでも、直接的な親子関係とか住所とかの個人情報は、ある一定の権限を持った者にしか、閲覧できないことになっているから、それなりに安心したまえ」
「わかりました。ところで、こちらからしかけなくても、向こうからきた場合はどうしましょうか?」
「もうすでに、君でも対処できる術は会得しているのだろう?」
「あれって、人を殺せてしまう技ですよ」
「そうだが、それが嫌なら、アルバイト用の汎用型CADを持って歩いているじゃないか。それでいいだろう」
「いえ、そのー」
「攻撃は最大の防御なりが、君の信条じゃなかったかい?」
「たしかにそうですけど、このアルバイト用のCADって、人間相手の物じゃないですよ?」
「リユウカンフウが、万が一再度くるのなら、人食い虎の異名をもっているんだ。人間と思わない方がいいよ。僕でも防御主体の体術では勝てるかどうか、自信は無いからね」
師匠がこう言うってことは、僕では確かに無理だろう。って、師匠は防御主体でなければ、勝てる自信があるってことじゃないか。僕では相手に合わせて、身を護る技だけでは、やっぱり無理なのかぁ。そう思いながらもアルバイト用のCADをもち、半分迷宮となっている地下通路を通って、自宅のそばの出入り口へと向かった。
翌日木曜日の朝、教室に入るとエリカが難しい顔をしている。こういう場合は、気がつかれないようにそっと、自分の席につこうとしたら、幹比古が
「昨日の『そいつはまかせた』ってどういうことだい?」
「あー、別口の2人組がいたから、そっちと鬼ごっこ」
「別口って、シキを打っている方かい?」
「組織っていう意味では、同じか、違うかは判断しかねるよ。なんせ1人は顔を見たから、今日の感じでは変わったみたいだし、1人は人払いの結界をはるのが専門みたいだから、幹比古でも入れるかな?」
「どうしてつかまえないのよ」
気がついて会話に入ってきたエリカの一声だ。
「警察と軍にまかせることにした」
「えっ?」
「それでいいだろう?」
「警察はともかく軍って?」
「師匠に画像をみせてもらったんだけど、相手は、大亜連合特殊工作部隊の魔法師だってさ」
これで、さすがにエリカも、校外では引き下がるだろうと思っていた。
しかし、翌日の金曜日も土曜日もエリカが休んだだけなら、体調をくずしたのかもと思うが、レオも学校にこなかいとなると何かをしている感がする。
僕は学校へ行くのはともかく、帰りは道場に入って、迷宮まがいの地下道を通り自宅近くの出入り口にむかいたいのだが、智之さんか、高橋さんに「練習場へ来なさい」と、とめられる。自分がまいた種で、道場を通路としているから、仕方がないけれど、今日おこなう内容を智之さんから聞くと、例によって彼女だ。
年齢は20台後半。魔法師なら完全な行き遅れだが、純粋な一般人。性格もよくて、年上だけど、愛嬌もある。身長も高すぎず低すぎずなのだが、問題は体重だ。たぶん3桁はあるだろうが、聞いちゃダメと高橋さんに言われているので聞いてはいない。
投げる方はうまいだろう。痴漢に対処するための金的蹴りも、すばらしいほどだ。問題は、投げられる方となると、安定度が高すぎる体型のために、体勢を崩せる同程度の力量の相手がいないときている。そんな彼女の練習相手ができるのは、ここの道場で、彼女がくるこの時間帯には人数が少なくて、中学生時代は、たまにその役回りがまわってきてた。
2人1組の練習のメニューにつきあってから、練習場に練習をしているからには、稽古着に着替えているわけで、合気術の型だけでも自分の練習をしておく。大概は毎朝おこなっているものと半分は同じなのだが、夜もやって悪いものではない。
翌週の月曜日の朝。
エリカがへそを曲げているところを、美月がなだめていて、幹比古がおろおろしていて、レオは後ろ向き座りながらも苦虫をかみつぶしているところだ。
これは、レオとエリカがいなかったことにたいして、美月が「つきあっていたの?」とか、幹比古がさらにそれをあおったとかかな?
どうしようかと思って、Uターンしようとしたら、幹比古がすがりつくような声で
「あっ、翔」
「何かあったのかい?」
しかたがないから説明を聞こうとしたのだが、普段ならレオかエリカが勝手に言ってくのだが、この二人は現在話しそうにない。そして、幹比古は「あー」とか「うー」とかうなっているので、
「もしかしてレオとエリカの2人が金、土と休んでいたことかい?」
「そうそう」
レオのプシオンに力が足りなさそうに見えて、サイオンが活性化しているようなのにたいして、エリカは変化がない。
「レオの気力が落ちているのに対して、サイオンが活性化しているのと、エリカの方は変わっていないから、エリカにしごかれていたという、達也が金曜日のランチの時に冗談で言っていたのが、真相にちかいんじゃないのか?」
「もしかして、達也くんって、千里眼なのかな?」
「そんなスキルもってないぞ」
後ろから達也の声が聞こえてきた。これで、結局はエリカの機嫌もなおったのだが、幹比古が学内でスパイ活動をしていた1年の平河千秋と、3年で風紀委員でもある関本勲のことをちらっと話すと、
「実行犯は捕まったけど、その背後の組織はつかまっていないのよ」
「まあ、個人的には、どうやって関本先輩がスパイになったのか、聞いてみたいところだね」
「だったら本人にきいてみちゃどうだ?」
レオの言った、その手があったか。
エリカの特殊鑑別所に忍び込む発言はあったが、達也のもっとごく普通な手段の提示があったので、それにのっかることにした。
放課後、生徒会室へとよる前に、風紀委員会本部に達也と一緒に入った。その場にいたのは、風紀委員長こと千代田先輩と前風紀委員長の渡辺先輩だった。だけども僕の方をみて、予想外の人物が来たとみなされている。ここに入る時って、最近は生徒会室からつながっている階段で来るからな。
達也がおこなった関本先輩への面会申請に対する返答は
「ダメ」
ばっさりと、きってくるなぁと思うが、達也は
「……理由を教えてください」
「ダメなものはダメ」
あまりにも、シンプルすぎる拒絶の言葉に僕はもう一つの選択肢を提示してみることにした。
「うーん、そうすると中条会長へ、会長の代わりに見に行くとの理由で申請しますかね? その時に達也も行くとわかったら、絶対に深雪さんにわかりますから、関本先輩って凍らないで済みますかねぇ」
僕以外の3人の顔色が変わった。千代田先輩と渡辺先輩は、あの氷雪の女王がって感じだが、達也は人の妹にたいしてなんてことを言うんだという、冷徹な視線だが、まだこのレベルだったら大丈夫だろう、っていうより
「それ、もっとダメー!」
千代田先輩が、白旗を掲げた瞬間だった。
後書き
『魔法能力保有未成年者特別保護法』はオリ設定です。
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