僕の周りには変わり種が多い
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横浜騒乱編
第21話 特殊鑑別所
千代田先輩が、特殊鑑別所へ達也が行くのを嫌がっていた理由は結局不明だが、結局は達也もいけることになった。渡辺先輩が会って、七草先輩とともに立会いとして行くという条件付だが、レオ、幹比古はあっさり引き下がった。エリカは渡辺先輩と行くというところで、渋ってはいたから引き下がった。
翌日の行く直前になってしった深雪は行きたかったらしいが、副会長の仕事が残っている。計算づくで、この時期まできていたらしいが、こういう予想外のイベントは、計算にいれていなかったらしい。ちょくちょく生徒会室から抜けて、達也を見にいったりするからだろう。まあ、千代田先輩は4人分しか手配してくれなかったから、特殊鑑別所へ入るのは無理なんだけど。
中条会長は、僕の外出が2,3時間ということで「生徒会室以外での仕事を集中的に行ないます」だそうだ。
残るは、ほのかだが書記の仕事は、僕と2人なら余裕でこなしていたので、残りも少ないし、生徒会室に深雪と一緒に残るかどうかは不明だ。
そんなところで、特殊鑑別所は入管こそ手続きは面倒だったが、そこをすぎればすんなりと関本先輩の部屋のそばまでこれた。
渡辺先輩は関本先輩の部屋へ直接入るので、七草先輩、達也に僕は、隣の隠し部屋で様子を見聞きすることになった。そこで見聞きしたのは、魔法をつかって、複数の香水から自白剤を作るのは、渡辺先輩の特技らしい。
魔法を使えば、検知されてそれなりの対応がされることになっているが、七草先輩……つまりある一定以上の権力を持つ相手では、そのような建て前は、無いに等しいということだ。
どっちにしろ、僕がひとりできても、このような権力は無かったわけで、尋問する技はあっても、ほとんどは、あとで傷がつくようなものしかもっていないから、色々と問題がでてくるだろう。結果として七草先輩たちと行動するのは良かったわけだ。
僕としては、関本先輩がどうして、そのようなことをしようとした動機を知りたかったが、それは優先順位が低く、尋問していた内容の流れで、
「司波の私物を調べる」
というところが不思議だったが、関本先輩が具体的に答えた内容は
「宝玉のレリック『聖遺物』だ」
「……達也くん、そんなの持ってたの?」
「いえ、持っていません」
「でも……」
「少し前から『賢者の石』がらみでレリックのことを調べていましたから、それを勘違いしたんじゃないでしょうか」
七草先輩と達也の会話はここで、停止させられた。非常警報が鳴ったせいでだ。
警報がなったので、仕方がなく廊下にでるが、天井から下がってついているメッセージボードには『侵入者あり……各自注意……』と流れている。
LPS端末の操作は、こういうのが一番早い達也にまかせて、僕は屋内のプシオンをサーチした。
プシオンの強さに対して気配を紛らわせている。このプシオンと気配はリユウカンフウ。
リユウカンフウを相手に、普通の円明流合気術……あくまで関節を決めるまでのアプローチとしての投げや当身では対抗できないのは、師匠からの忠告もある。まあ、これだけなら達也にさえ負けるから必然なんだけど。土曜日の朝の達也との練習は、硬気功と『纏衣の逃げ水』を使ってなんとか引き分けに持ち込んでいるのがせいいっぱい。
しかし、このメンバーで対抗できるとすれば、達也がブランシュの時に使った魔法だろうが、人目がある中では使わないだろう。達也自身とそれが使えると知っている僕が残るまでは。
なので、七草先輩と渡辺先輩に気絶してもらうのがてっとりばやいのだけど、僕がおこなったのは別なこと。中央階段を昇ってくる感じのプシオンにたいして、僕は気配を周囲にとけこまして縮地をおこない、中央階段で火弾を連発したが、ここですでに鋼気功が発動していた。気配を周囲にとけこませた瞬間に、鋼気功を発動させたみたいなので、奇襲はきかなかった。火弾は現代魔法の特徴である、相手の防御力を突破できなければ、効果が発揮できないという欠点がもろにでたものだ。
すばやく、10mほどもどり、火圏の結界を発動して通路を封鎖し、さらに炎衣の術で、僕の身体に炎を衣服のようにまとわせる。鋼気功の魔法に対抗できる接近戦用の霊能力だ。
「何をやっている。もどってくるんだー」
その渡辺先輩の声は結界があるから聞こえないふりをして、左半身を前にして正中線を隠す古流の構え。静の状態の軽気功のままでいたところ、リユウカンフウが階段を上りきって、正面に立つ。まだ、あなどっている証拠だろう。格下だと思ってはいても、油断しているわけではなかろうが、火圏の結界の範囲を広げて、リユウカンフウまでつつみこんだ。
火圏の結界は気圏の技術を、魔法に発展させたバリエーションのひとつ。気圏の普通の使い方は、薄い気を周囲に広げて、その範囲に入ってきたのを感知する技術のひとつだ。だが、今回は逆に気を薄くはるのではなく、気を最大限に内部へ充満させて、本体の気が相手にわからなくなるという方法を使っている。つまり気配を察知して戦うのに、気配を消すというのとは逆の方法だ。火圏は、それにサイオンを充満させて、さらにプシオンを炎として見せる、熱を発さない火の霊能力との混合技。
この火圏の特徴として、プシオンを有しながら、肉体を持つ相手はこの結界から普通は通過できない。通過できるのは、僕か、僕が許可したものに、力ずくで抜け出せる妖魔のたぐいだ。しかし、力ずくで脱出できる相手となると、この場にとどまっているよりは、とっとと逃げ出さないといけない相手だ。
リユウカンフウをこの結界に取り込んだ後に、もうひとつのエリア魔法がその外部に構築させる。その後は術式解体『グラム・デモリッション』を相手へ使えるところを見せて、相手の鋼気功を情報強化タイプのままにしておくこと。このときの術式解体は、周囲のサイオンを巻き込みながら相手に印象付けしておくことが重用だ。それでも、鋼気功のタイプを変化させたならば、改めて術式解体を連打すればよいだけだ。
そして『纏衣の逃げ水』を使って僕は、2歩下がる。
術式解体が使えることに驚いたようだが、相手は超一流。サイオン保有量を生かして、どのような技をしかけるか不明だと判断したのだろう。僕が残しておいた『纏衣の逃げ水』に対して、攻撃をしかけてくるので、さわらせずに身体をかわさせるが、速度はこの前の時よりもあがっている。あの時は捕まえにきていたからだろうが、今回は殺しても構わないといったところなのだろう。闘志をうかがわせる顔つきだが、気配はあっても闘気や殺気を表さないところは、特殊工作員といったところか。
鋼気功からの纏絲勁による拳をあてられ、『纏衣の逃げ水』でみせていた幻術は消えて、本体である僕が現れたように見えるのは、相手の背後。
相手にとって、周りは僕の気配と、サイオンのかたまりだから、必要なのは目視。見つけた瞬間にすかさず僕にむかってきたのはさすがだが、僕は秘伝『纏衣の人形』の奥にある奥義『纏衣の迷宮』の準備をしていたので、『纏衣の逃げ水』をやぶられた瞬間に、発動していた。もしかしたら、九重先生は使えるかもしれないけれど、普通の忍術使い、いや一般的なら『分身の術』と言うが、幻術としてとらえられている。
『纏衣の迷宮』で相手に見えるのは4人。
その4人へと分裂しおわっているところで、『リユウカンフウ』は視認したはず。一斉に相手を取り囲む行動へと移っている。相手は結界から出られかを確認の意味でも、結界を出ようとした感触はあるが、こちらを攻撃する意思を優先したのだろう。結界を背面にして、待ち受ける体制をとろうとしたが、僕の『纏衣の迷宮』の1人は、結界の外にでて彼の背後にまわった。
どれが本体で、どれが幻術なのか、やはりリユウカンフウでも不明なようで、攻撃をしかけたのは、僕が先だ。
動いたのは相手の正面になる1人で、静から動の状態へ一機に変化し、右手の拳に炎をまとって放つ直前で、軽気功から硬気功にきりかえる。これで軽い握りから相手を打つ直前で拳を握りこむという、一般的な拳の使い方を、気功として応用した最大威力として出す技法。しかし、相手の右腕の纏絲勁の魔法で外側へはじかれた。相手もそうなるはずだと思っていたろうが、ひとつの狙いは纏絲勁の魔法を魔法の相克によって消す。
そのままの流れで、情報強化タイプの鋼気功でまもられているはずの皮膚にたいして、身体にまとったプシオンの炎で、サイオンを制御しているプシオンを剥離する。だから右ひじにまとっている炎で、鋼気功でまもられているはずの、右手の小指を狙い、鋼気功の魔法を肘の炎で消して、硬気功同士のぶつかりあいになるが、こちらはもともと硬い肘で相手は右手の小指。その小指を折りつつ手首まで傷が残る。
鋼気功を使えるといっても、これで纏絲勁の魔法は手首より先にとどかないから、纏絲勁は実質封じることができたのと、右手の拳の威力を低下させることができた。しかし、ここでおしまいではない。これを拍子にして、右足を軸にしながら、左足での後ろ廻し蹴り。
これを避けようとして、相手はこちらからみて左へ移動しようとしたのはけりの衝撃をやわらげるためだろう。しかし、炎をまとった人差し指で右脇腹を貫いたのは別な1人。
魔法師の常識として、幻術で痛みとか実際に身体が切れてしまうのは、魔法師以外の一般人で、魔法師には効かない。それなのに左手で、正面からの後ろ回し蹴りを傷ついた右手で受けたのはある意味当然として、人差し指で右脇腹を貫いた『纏衣の迷宮』のもう1人へ、大陸系のこの手の術者なら腕をつかうのが普通のはずなのに、怪我をしている右手よりも、けりを放ったのは超一流と言われるあかしだろう。
しかしながら、ここまでが相手の限界で、背後からの頭への炎をまとったかかと落としに、右側からの延髄げりを受けたところで、鋼気功を維持するのは、一時的ながらも不可能となった。
最後は、4人とは別の本体である僕が2つの空気槌を出す。
頭の両側に空気塊を作って、片方の空気塊をぶつけて、そこでとめる。頭の反対側にも空気塊があるので、そこにぶつかって、はねかえってくる。それのくりかえしで、脳が揺れて、脳を破壊する殺し業……のはずだが、内部の脳内のゆれの検知数で、空気塊は自動的に解除される現代魔法だ。
そして立ったまま、鼻や眼、耳から血が流れてきたので、相手を軽く前方から押して、後ろに倒れてもらい、『纏衣の迷宮』は終わらせる。
最後の現代魔法が、円明流合気術道場でのシャンパン……は高いから、あけたスパークリングワインのボトルに炭酸水を入れて、いかにコルクを長距離飛ばせるのかっていう年末パーティの余興の技だと知ったら、どう思うだろうか。ボトルを破損させたらダメということで、人に使うのは初めてだから、死んではいないだろうけど、ボクシングでいうパンチドランカーになっていても、不思議ではない。
ちなみに『纏衣の迷宮』の4人から出す技は五獣。相手からみて正面が朱雀、右手が白虎、背後が玄武、左手が青竜で、たいていはここで終わる。しかしこの4方の攻撃の最後は見えない本体からだす麒麟。今回の麒麟は、現代魔法だから本式じゃないけれどなぁ。
奥義である『纏衣の迷宮』は、イデア……サイオン次元の世界にある僕自身の情報を、現実世界と複数結びつける術だが、サイオン次元の世界にある情報というのは、時間の概念があいまいだ。達也はサイオン次元の情報を過去へさかのぼって視る能力があるように、僕には、プシオン次元を経由してサイオン次元の情報の中でも未来の情報と結び付けている。
つまりこの術は、先の未来を知っている自分が来るので、問題なければ、それぞれいる位置から、所定の場所に移動する。問題があれば、所定の位置につかないので、『纏衣の迷宮』を解き、普通の幻術に変更して、とっとと逃げ出すのが、この術の運用方法だ。
そして、勝ったからといっても、油断はできない。もしかしたら、僕自身が過去となった僕に呼び出されるかもしれない。その時に異なる行動をとれば、その呼ばれた過去で、僕自身の死が待ち受けているかもしれない。なので『纏衣の迷宮』で呼び出した未来の自分の動きを把握して、どこに呼ばれても、その通りに動けるようにしないといけない。また、他に呼ばれた3人が異なる動きをした場合に、全体の動きが変わってしまうということまで考えておく必要がある。なので、型の練習を重視し、実践では型からずれた動きの部分を把握する必要がある。
つまりこの術は、今の自分の未来は不定であり、過去の自分から呼び出されたからといって、同じになるとは限らないというタイム・パラドックスを含んだものであり、過去の経験上、呼び出した相手と話し合ったところ、『纏衣の迷宮』が終わらせてから1分が経過したころまで、油断はできない。『纏衣の迷宮』で勝った場合は、この術を終わらせた1分間は、周りから邪魔が入らないように、結界をはり続けて、呼び出されないか待つことにしている。ちなみに、僕はいまだに過去の自分に呼び出されたことはないが、緊張感はたもっておく。
そうして、1分が過ぎたと感じたところで、結界を解いた。
結界から離れて視ていた真由美、摩利、達也からは、結界をはったあとの陸名翔の姿しか見えない。それが2歩下がったあとで、1分少々たったころに結界を外れたあとは、そのままの本人と、倒れているリユウカンフウが見受けられただけだった。
七草先輩はほっとした視線だが、渡辺先輩からは冷たい視線、達也はあきれている中、結界を解いたほぼ直後にきたのは、警備員。倒れているリユウカンフウを運んでいく準備をしていたので、4人で出ましょうとアイコンタクトを取り合って、その場を去った。そのまま、その場を去れたのは、やはり十師族の一員である七草先輩がいたからだろう。
鑑別所のゲートを出てから、冷たい視線の渡辺先輩が
「陸名くん。いくら接近戦が得意だからだといって、相手は鋼気功のリユウカンフウだったんだぞ。まったく無事だったからよかったものだが」
「あー、そのー、途中で無理だと思ったら、足止め用の結界をはりつつ、先輩方のところに戻るつもりでした」
リユウカンフウの顔を知っているというのに、受験生だからなのか、幸いにも渡辺先輩や、七草先輩は知らなかったらしく、達也はそこでひっかきまわすほど、鬼畜ではなかったというところで、元風紀委員長として渡辺先輩から少々の説教を食らうことですんだ。
自宅へ帰る途中の道場で師匠に顛末を話したら、「君は甘いなぁ」のひとことでなんとかすんだ。リユウカンフウは大亜連合との戦争が終わってもしばらくは刑務所に入っているだろうし、戦争が終わるのはいつになるやら。さらに五獣には攻撃のバリエーションが残っているから、その程度なんだけど、円明流合気術では「奥義は視られるな。もし視られたら、その相手を殺すつもりでおこなえ」が本来だからなぁ。
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