僕の周りには変わり種が多い
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横浜騒乱編
第19話 顔合わせ
9月の最終日の昼休み。
生徒会室では、十文字、摩利そして本来ここにいるのが最もな、真由美がいた。そこで摩利から話題に出したのは、
「十文字。陸名だが、最初どうなることかと思ったが、11戦全勝。そのうち魔法をつかったのは2回だけだったぞ」
「ふむ。2回か」
「そう。碧と、桐原だけだな。桐原には何か思い入れがあるのか、剣術での模擬戦だったが」
陸名が桐原と剣術で模擬戦を行なったのは、九校戦で期末試験で名前を書かなかったことで理論の点数が反映されていなかった話が、その話がでてきた場にいなかったエリカに伝わった件で、この模擬戦のせいで、剣道を使ったうっぷん晴らしをできなくなってしまうからだ。どちらにしろ、夏休み明けには、広まっていた噂であったから、まわりにもれるのは時間の問題だっただけだが。
「碧というと、沢木か?」
「ああ。最初の遠気当に耐えて、そのまま攻撃魔法を発動しようとしたところで、術式解体『グラム・デモリッション』を身体に当てられて、幻痛で苦しんでいたぞ」
「……」
「各格闘系や射撃系の魔法クラブのエース級とは、かなり対戦したな」
そこで、真由美が
「十文字くんが、何を考えて陸名くんが各クラブの引き抜きに、模擬戦を使ったのかわからなかったけれど、九校戦の画像を観ると、どの魔法も初動が遅いように見えるものね」
「桐原との対戦では、自己加速術式の発動は桐原より早かったけどな。ところで、陸名は面白いことを言ってたぞ」
「あら、何?」
「彼の家系は陰陽師を排出したそうで、先祖返りじゃないかという話らしい」
「らしい?」
「江戸時代以前の家系図が残っていないので、伝承だけとのことだ」
「そうなの」
「あともう1つ」
「もう1つ?」
「この模擬戦の形式で負けるのは、一高の知っている範囲でなら、達也に多分、十文字会頭かなって言ってたぞ」
にやりと笑って言う摩利に、真由美が
「そこで、だまっている摩利かしら?」
「まあな。ただな……私の距離で戦うのは嫌だってさ。しかも左足の側面をたたいてな」
「摩利のそれに、気がついていたのね」
「陸名は良いとして、司波か。下からだと良くわからなかったが、あれはやはり、司波が妹を抑え込んだのか?」
十文字からの唐突な話題転換だが、興味のあった真由美と摩利はのった。内容はというと、生徒会会長選挙での一幕。深雪が校内で『氷雪の女王』としてこれから認知されるだろうということと、それを抑え込めるのは達也との話題だった。その達也の件で
「妹の力を見ても、やはり、遺伝的な素質を無視することはできんと思うが……」
「だがアイツは『自分は二十八家ではない』と否定したんだろう?」
「ああ。嘘を言っている様子はなかった」
この話題は九校戦の後夜祭合同パーティで十文字が達也にたいして確認していたことだった。ひるがえって、陸名の場合は古式魔法が多様されているので、百家の可能性はあったが、まずは達也ということで、声をかけるタイミングがなかったというところである。
そしてその話で真由美が「血統を探るのは、良くないわ」と突然の打ち切りをはかった。達也が護衛としてきた時に、ボディガードである名倉に対する反応から『数字落ち』ではないかと考えていたからなのだが。
10月15日の水曜日。
校門から出たのは達也が論文コンペのサブ担当となってから、初のフルメンバー……1-Eは達也、レオ、エリカ、美月に夏休み明けから一緒に下校するようになった幹比古。1-Aは深雪、ほのかにそして雫。
雫といえば、夏休みのプライベートビーチへのお誘い。まあ達也を経由してだけど。
あーん。雫の実家である北山家って資産家じゃないか。そんなところのプライベートビーチって行ってみたかったぞ。アルバイトが先にきまっていなければ、行けてたかもしれないのに。こんな機会はもう2度とこなかったかもしれない。
アルバイトの方は、例によって除霊と名のついた、妖魔の再封印だ。なぜか、原因はいまだにわからないが、日本ではお盆の前後で封印が解けやすくなっている。この封印が解けやすくなるのは、各国で時期が異なるそうだ。
そういうことでお盆の前後は、ある意味、円明流合気術道場の売上が一番あがる時期だが、今年は夏休みの前半が九校戦に出場していたから、アルバイトはできなかったので、九校戦が終わった夏休みはアルバイト三昧とともに、母親の実家にも顔を出すのが恒例にもなっていたから、それなりに忙しい夏休みだったけれど。
そんな風に連想して思い出したところで達也が
「そういえば、ほのか。書記の仕事は慣れたか?」
「はい。深雪さんが教えてくれましたし、今年は翔さんと2人ですから」
「ほのかは、達也と一緒だった方が良かったんじゃないのか?」
「翔さん! そんなうれし……」
「翔、待て! 誤解を招くようなことを言うな」
「きちんと、中条会長から達也へ、生徒会役員就任の打診をしたって聞いているぞ!」
正確には副会長なんだが、そこは触れぬが吉であろう。ちなみに、なぜ中条会長から聞き出せたかというと、
「生徒会役員をやってくれない。ねぇ『半年』でもいいから」
という、『半年』という話からだった。通常は1年の任期で、途中の交代というのは、何かあったと勘ぐられて進路に響くと、中学の生徒会役員が途中で役員を降りてしまった奴がいて、それを覚えていたからだ。そこでつっこんで話をきいているうちに、中条会長の無意識のプシオンがおびえている感じを伝えてきたので、中条会長に人気があるのは、このプシオンへの耐性がない者が、影響をうけているのだろう。感情が高まったときにだけでるみたいなので、普通の確認じゃ気がつかないのだろうが。
結局、生徒会に入っての本当の僕の役割は、中条会長の心配元である深雪を怒らせるまねを、達也がいないところで、他人にさせないことにつきる。なんせ、生徒会長選の演説時の深雪は、『これが雪女?』と思わせるものだったし、書記として投票結果の中をみたら、『スノークイーン』とか他にも『女王様』とかの票が思ったよりも多かったからなぁ。
「わたし聞いてませんよ。お兄様」
「いや、それはだな」
「まあ、だけど、模擬戦はしなくなって助かっている」
ほとんどが『遠気当』で気絶するのに、模擬戦をする日は結局部活にでられない。これなら生徒会に入って、休部はするが、生徒会で深雪がいない時には、操弾射撃部で練習ができるということで、生徒会へ書記として入ることになった。
生徒会の書記として入って、なんとなく自分の情報が前期の生徒会でどういうふうになっているかと思ったら、九校戦参加までは、まあいとして、夏休み明けから、模擬戦が多かったのは、何割かは九校戦での雫と一緒にモノリス・コードを観ていた時に漏らした言葉が、本当かどうかを見分けるためだったとか。なんか、色々とみたくない情報もあるので、中身はあまり見ないでおこうときめました。
「おお、そういえば、わずか1カ月としないうちに、服部会頭の連勝記録にせまったよな。もう少し続けていれば、記録を塗り替えたんだろ」
「そんな、面倒なことを好むのは、達也ぐらいだって。模擬戦でなければ、達也がいまだに、風紀委員として更新中だろう。あれも公式記録だぞ」
どちらにしても、
「だって、お兄様だもの」
その深雪のひとことで、甘ったるい空間ができあがるかなと思ったら、エリカが
「そういえば、三高の名倉あかりとか言う娘とつきあっているの?」
「いやいや、単純にプシオンのことで、メールのやりとりをしているだけだよ」
「本当かなー」
「こんなことで嘘をついて、どうするんだよ」
実際には『プシオン誘導型サイオン起動理論』にもとづく起動式の並べかえの相談は受けている。まあ、だからプシオンの話というのは嘘とはいいきれない。
やっていることは起動式の順番を変更するだけだから、結果としてなぜ早くなるかは彼女にとって理論はわかっているのだが、自分のプシオンが見えないので調整できないという難点があった。さらに起動式から魔法式でひきだされる間に、プシオンのひずみをノイズとして感じないタイプなのだろう。一高よりも、他校の生徒に起動式の助言をしてるのは利敵行為とかいわれそうだが、三高の魔工技師希望者にしてみれば、他校に聞くという方が問題じゃないか、とか何種類かの言い訳は用意をしてある。
三高の名倉あかりと、七草真由美のボディガードである名倉の関係があるのか、ないのかは、達也にとって初耳だったので、不明であった。
そこはおいといて、話題転換のように聞こえるのを承知で達也は
「チョッと寄って行かないか?」
「賛成!」
「達也は明日からまた忙しくなりそうだしな」
「そだね、少しお茶でも飲んで行こうか」
達也の返答に元気よく答えていたのはエリカとレオと幹比古。昼休みに、美月がなんか学校全体が観られているみたいといって、その話を聞いていたメンバーだ。
後ろの下手な尾行者には、気がついているのだろうけど、もう1人と2匹の方には気がついているのだろうか?
入った喫茶店はよく利用している『アイネブリーゼ』で、達也は女子4人の中央でカウンターに座りエリカはレオ、幹比古、僕と一緒にカウンター席に近い4人がけのテーブルに陣取った。
僕は情報端末に文字を打ち込んで、同じテーブルに座っている皆に見せる。内容は「すぐ後ろの男を相手するのか?」と。
皆の目は、YESと言っている。もう1人と2匹の存在に気がついていないなぁ。下手な尾行者こと成犬は他の3人にまかせるとして、もう1人もいつでもあえるから良いだろう。そうなると、2匹の子猫でも相手してくるか。少なくとも成犬よりはおもしろいだろう。
僕は情報端末に『そいつはまかせた』と書いてみせて、まわりの3人がきょとんとしているうちに、「用事があるのを思い出した」と言って、先に勘定をすませてから店をでた。ちょっと、遠回りをして、成犬側に近い子猫ちゃんのそばで、レオとエリカの様子を見ている。
エリカも甘いな。武器をもっているかもしれないから気をつけろと、レオに言っていたのに、銃をつきつけられている。念のために、銃の中の薬莢を壊しておく。振動停止の魔法を使って、魔法式のサイオンも隠しておいたから、気がつかれないと思うが、銃は使用されることなく逃げていった。方向は、子猫ちゃん達と反対側の方。レオとエリカの2人とも無事だし、「学校の中も気をつけろ」との忠告ももらったことだから、成犬を追いかけて行く子猫ちゃん達の先を行きいますか。
それで、成犬に襲い掛かった1匹の子猫ちゃん。むさくるしいおっさんなのは、成犬も子猫もそうだけど、子猫じゃなくて、成獣だった。成犬の方は「リユウカンフウ」と相手のことを呟いて、拳銃に手をかけるのは確かに早いが、成獣の速度はさらに早い。周りに気配を紛れさせていたのだが、対応するためにそれを解き、硬気功にして拳銃を持った手に掴みかかろうとする、成獣の手を払った。
「その銃、壊れているよ!」
「まさか、追いかけていたのか」
「せめて、このリユウさんとか言う人並に、気配を消せる人を連れてきてくれない。僕の友達が気がついちゃうから」
リユウさんことリユウカンフウは、気功の中でも硬気功の使い手か。もう1匹は人払いの結界だが、幹比古の結界とは異なる。そんな認識でいたところ、壊れた銃をもっていた成犬はすばやく逃げてくれた。その際の置き土産として
「注意しろ、最悪の相手だ」
そんなことを言ってくれたが、あのレベルの人の言った言葉って、どのレベルが最悪なのかは不明だ。かかわった以上は、成獣が追って行こうとした間に入って、けん制する。幸い周りのカメラやセンサーは、この成獣が壊してくれていたのは、確認している。同じレベルの硬気功にまであげて、
「僕としては顔見せとして、今日は引き下がってくれるとうれしいんだけど」
反応はサイオンとして現れた。まさか鋼気功か。硬気功を魔法のレベルに昇華させた術だが、これでリユウカンフウというと、近接戦では関わっちゃいけない世界トップクラスの相手だろう。鋼気功に硬気功では力負けする。力に頼らない、軽気功に切り替える。軽身功とも言われ、相手にとっては、身体の重さや当たった感触を感じさせない、硬気功にたいして対極にある術。
これだけの相手だから、軽気功の弱点も知られていて当然で、こっちが軽気功を解くまで、相手に効く攻撃はできない。それを逆手にとられて、包み込むように攻撃をしかけられるので、結局逃げ回るというか、無言の鬼ごっこの様相になってきた。成犬のおじさんは知覚外に逃げきったので、こっちも逃走することにした。
軽気功で、相手が包み込むように手を動かしてきた片方の手をつかって、ジャンプする。そこで、手印を使ってあらかじめプシオンで呼び寄せておいた、風精を使っての古式の飛行魔法。さすがに逃げ出す時は、遠当を放ってきたが、そこはシルバー・ホーンの振動系魔法で撃ち落とした。念のためにサイオンの出力をあげて、リユウカンフウに放ってみたが、びくともしない。もう1匹の子猫は動く気はないらしい。とりあえず、あとは気配を紛らわせるのと、サイオンを他に飛ばす『纏衣の逃げ水』の応用は忘れずにだ。
そしてこの鋼気功のリユウカンフウの一件で、円明流合気術道場の工藤師匠の前に行った。
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