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僕の周りには変わり種が多い

作者:黒昼白夜
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九校戦編
  第18話 一寸先は?

大会最終日。
競技としてあるのはモノリス・コードだけだ。観戦は今日も雫の横だが、

「質問するなら達也の方が、適切だよ。なんせ1位になれたのは、達也が作戦のベースを考えたんだから」

とおしつけた。
そのつもりだったが、達也は来ないし、一高の試合に間に合ったと思ったら

「俺たちとは安心感というか……格が違うよな」

その言葉で、達也への雫の視線はしらけたものになっている。そんなこともあったが、達也がきたからには気にせずに、メガネをつけての観戦だ。プシオンを観る制御ができるからといって、決して楽なわけではない。それにつけても、昨晩の達也のプシオンとちがって、普段の様子に戻っている。気にしたら負けかなぁ。

決勝戦で、十文字会頭のファランクスを見た瞬間は、思わず魅入ってしまった。現代魔法で分けられている全系統全種類の魔法の膜に近い壁があり、その中に重力魔法の元となる加重系魔法もまざっている。あれだけきれいに多層の魔法がかかった状態ならば、四精結界では力負けするのが見える。それならば、自分が扱える中で最強の結界とぶつけてみたらと、一瞬考えたがそれは無いことだろうと、ただ観るだけに集中して、十文字会頭が対戦相手を倒していって1位をものにした瞬間を見ていた。



午後3時半からは表彰式と閉会式。
僕は新人戦の表彰台に立った。男子スピード・シューティングの1位と、モノリス・コードの1位でだ。ただしモノリス・コードは3人のはずが1人で、達也も幹比古も、森崎たちが戻ってきたからというのと、正規の競技スタッフではないからと出てこなかった。まあ、しかし両親は喜んでいるだろうと思うが、また同時に目立つだろうなと思いながら、表彰台にのった。

夜の後夜祭合同パーティ会場では、操弾射撃大会準優勝後の簡単な取材やCADメーカーの会社員の挨拶とは異なり、大会を主催している大手企業のお偉いさんらしき人たちと、簡単ながら挨拶をしなければならなかった。だいたいは、「来年も期待しているよ」に対して「はい。がんばらせてもらいます」だったけれど。

お偉方が退出して、各学校の生徒だけになると、僕は壁際で立つことにした。パーティでダンスって、踊ったことないからな。そんなところへ滝川がきた。

「陸名。誰かと踊らないの?」

「ダンスの踊り方を知らないからね」

「あんたねぇ。多分、来年も出ることになるんでしょう。そうしたら、きっと、今年より話かけられるよ」

「出れるかどうかは自信は無いけれど、そういえば1人、三高の女子生徒と話したなぁ」

「自信ってねぇ。まあ、そういう女子で、気に入った女子がでてくるかもしれないでしょう。踊り方を知らなかったら、私が、今教えてあげるから」

そういえば、滝川って、おせっかいだという噂があったな、と思い出した。まわりでおこなっていたマナーらしきマネで、右手をさしだし

「1曲、お相手願えませんか」

「こちらこそ、お願いします」

一応あっていたみたいだ。その後は、滝川との踊りでは、足を踏まないようにだけ気をつけて、適当に合わせてみた。滝川とのダンスが終わったところで、

「もう少し、まわりも気にしながら練習したら、きっとうまくなるわよ」

「どうもでした」

こっちが微妙な返答をかえしたら、それで満足したのか、別な1科生の生徒のところへ行って何かを話している。確か入賞していた奴だから、似たようなことを話しているのだろう。

そんなことを思っていたら、お偉いさんと話した時の合間に、話をした三高の女子生徒に話かけられた。

「もしかしたら。手持ち無沙汰なのかしら」

「あっ、先ほどは途中でお偉いさんがきたから、話せなくてごめん」

「いいの、いいの。ところで、本当に誰も相手がいなかったら、どう?」

「……あわせる程度しかできませんが、1曲、お相手願えませんか」

「こちらこそ、お願いします」

1曲踊って、皆が踊っている中央から離れたところで、手を離したので、お別れの挨拶かなと思ったら、

「折角だから、もう少しお話しましょう」

「うーん。いいけれど、僕は2科生だよ」

良感情で聞いてくるのはわかっているが、遠距離恋愛はわかれやすいとも聞いているから、一高の1科生が最初みたいに見下していた時と同じようなら、とっとと1人になる方がいいと思っていたが、返ってきた反応は、

「一高で2科生というと、三高の普通科と同じってことよね。それで九校戦にでて1位をとったり、操弾射撃大会で準優勝したりって、すごいじゃない」

「そうかもしれないけれど」

こういう反応は、想定外だった。

「私も操弾射撃部だから、多分、秋の新人戦には出られると思うの。そこで会えるかしら」

「多分ね」

アルバイトの方で怪我とかしなければという条件付だけど、そこまで危険なのは無いだろう。春の風邪ひきの原因になった妖狐以外では、そういうことも実質は無かったし。また、そのことを告げることも無いだろう。

「ところで、質問していい?」

「答えられる範囲ならね」

「一条くんの砲撃魔法にたいして、古式のエリア魔法をわざと揺らしていた?」

へー、録画画像を見て、とんちんかんな解説があったけれど、美月でもこれはわかっていなかった。それなのに、気が付いている。どこまで気が付いたか興味をもって、

「実はそうだけど、他には何かある?」

「あー、やっぱり。私の感覚の錯覚かと思ったけれど、そうなんだ。他にはっていうと、最初のスピード・シューティングで古式のエリア魔法をつかっていたのって、あれってプシオン情報体からプシオンのやりとりしていたんじゃないの?」

「あたりだよ。そこまでプシオンがわかるって、すごい眼をしているんだね」

「私の場合、プシオンを直接みているわけじゃないのよ。春先の八匹の狐って言ったら、貴方ならわかるかしら?」

これは八尾の狐のことを言っているのだろう。あらためて霊気を確認してみたが、巧妙に(霊能力者に対して)一般人のようにみせているが、この霊気のごまかしかたは高鴨神社の裏……裏賀茂だろう。そして、魂を直接視る眼を持つ者って、この女子か。師匠も同じ年齢で、三高に通っていると教えてくれればいいのに、いつものごとく一部しか教えてくれない。けれど、この女子は、こっちのことを知っていて近づいてきたのに反応をみていたのか。食えない女子だなとも思いながら、

「翌日は視たそうだね」

八尾の妖狐の再封印につきあったと聞いていたので、その話をしたのだが、

「ええ。ところで、プシオンのことを詳細に話せるのは、三高では少ないのよ」

「確かに、一高でも話せる相手は少ないかな。一般的には精神干渉系魔法と勘違いされやすいからね」

「そうでしょう。だから、もっと本当はお話したいのだけど時間の都合もあるから……メールアドレスの交換をしてくれないかしら?」

妖狐のことは、さらっと、ながされたが、時間ということは他にも、話したい相手……霊能力者がいるということだろうか。他の霊能力者はよいとして、この女子の細かいことは、師匠にでも聞くか。そう思いつつ

「いいよ。情報端末は持っている?」

「ええ」

複数もっているメールアドレスのうち、外部の霊能力者用メールアドレスで交換をして、メールが互いに着信するか確認した。彼女から届いた内容をみて苦笑するしかなかったが、

「きちんと『名倉あかり』で届いているよ」

「こっちも大丈夫よ」

これでわかれてメールを見直すが、

『全国中継されているのに、堂々と秘伝を視られるとは、思いませんでした』

まあ、これなら漏れたとしても、あの四精結界が古式魔法の秘伝と、まわりに思われるぐらいだろう。実際は、あれは中伝なんだけど。それよりも、魂を視られるのなら、本体である僕自身が大きく遠回りをして、三高側のモノリスに近づいていたのが、魂の位置でわかったのだろう。そして中伝である『纏衣の逃げ水』ではなくて、秘伝である『纏衣の人形』どころか、その奥にある奥義を使っても、本体の位置が知られるだろうな。僕はプシオンから紐をたどって魂を視るが、彼女は魂につながっている紐からプシオンを視るはずだから、『纏衣』系の幻術はきかない。霊能力者としては、魂が見えない封印がかかっていても、彼女の眼では視れるらしいから、妖魔の再封印に立ち会うのはもってこいの眼の持ち主なんだろうけど。

モノリス・コードでの作戦自体、達也がだしたものだが、モノリスへ専用起動式であけたら、式を通して幹比古がコードを打ち込むのが最後の方法だった。幹比古には、結界の中に僕がいるように見えるのは、幻術としか知らせていないが、術式の秘匿は古式魔法師にとって一般的なので、特に聞いてくることもなかった。レオたちへの暴露といっても、お互いに公開されている魔法のことを、言い合っていただけだし。

そんなところで、雫がきて黙って目の前にいる。あいかわらずわかりづらい表情でこちらをみているが

「あわせる程度しかできませんが、1曲、お相手願えませんか」

それで答えてくれて、踊ることになったが、踊った後の別れ際に言われたのは

「下手だけど、人間っぽくていい」

『下手』と落とした後の、『人間っぽくていい』って褒め言葉なのか、悩むところだ。

実はその前に踊った達也の踊り方が、ダンスマシーンと踊っているみたいとの感触を雫が持っていたからこその素直な感想なのだが、その真意は雫の中で閉ざされていたが、もし達也が聞いていれば苦笑していたものだ。

あとは、明智英美はニパっと表現した方が良いような笑顔で前にたち、あとはなぜか中条先輩が目の前にたってきて、何かを聞きたいオーラを発していたがここで切り出さないということは、後で何かを聞くのだろうぐらいの感じで踊った。他の女子生徒も声をかければ、踊るとか話すこともできるだろうぐらいの視線は感じていたが、とりあえず待ちの姿勢でいたところ、そのまま合同パーティが終了し、今度は一高の祝賀会となる会場へ移動した。

会場へ行って、祝賀会の簡単な挨拶が始まったら、中条先輩につかまった。
『プシオン誘導型サイオン起動理論』について知りたいというか、トーラス・シルバーが使っているという方に力点があった。まわりの上級生からは、デバイス・オタクに捕まったなという、なまぬるい視線がきたが、それも1分とかからずなくなった。

結局は翌日の帰りのバスで、情報端末に入れてある、FLT製の『プシオン誘導型サイオン起動理論』による起動式と、国際基準の書き方による起動式の比較用ツールを使って説明するということで、起動式の話は、明日の帰りのバスの中へとひきのばしただけになった。
それで中条先輩からもうひとつ

「トーラス・シルバーって、どんな人だと思いますか?」

「うーん、師匠からの受け売りなんですが、2人、もしくは3人以上のチームの名前なんじゃないかというのが、なんとなくしっくりくるんですよね」

「えっ?」

中条先輩が驚いたようだ。その声が大きかったので、一高の視線があつまってきたが、大部分はすぐにさっていった。

「どうして、そう考えたか理由は知っているの?」

「システムの効率向上に関する基本ソフトの部分や起動式は確かに公開しているけれど、製品に組み込まれるシステムのソフトと起動式は異なっていて、その部分は主にハードウェアに依存する部分なんだそうです。だから1人ですべてを担当したと考えるよりも、ソフトウェアをつくってから、ハードウェアをそれに合わせてつくるという手順。普通は全体を作る上でハードウェアをつくって、そこにソフトウェアを合わせるという方が主流だから、2人もしくは3人以上の分担制が自然じゃないかっていうことですよ」

「へー、そういう考え方もあるのね」

中条先輩はそういう考え方もあるんだと感心しだしたが、動揺している気配もある。その方向のプシオンは特徴的で深雪のものだ。達也のスキルは『小通連』の説明を聞いた時に、どうもハードウェアよりもシステムと起動式よりだから、システムか起動式の担当か補助をしているエンジニアという可能性が高そうだ。

「けれど、もっとおもしろい考え方もありますよ」

「何かしら?」

「FLTってフォア・リーブス・テクノロジーの略称ですよね?」

「普通じゃないの?」

「FLTの英語表記は知っていますか?」

「ええ」

「FとLを単独で日本語に訳すと何になりますか?」

「四つと葉、まさかあの四葉」

深雪の動揺がますます大きくなっている。まさか地雷を踏んだか。このあと、四葉の関係者が混ざっているかもしれませんね、と言おうかと思っていたのだが、

「まあ、FLTって会社は、そんなふうなこともしているから、トーラス・シルバーが1人じゃないって可能性が高いってことなんですよね」

深雪の動揺は収まりつつあった。これで思ったのは、達也と深雪は四葉家に関連する魔法師かなというところだった。

しかし、達也にとって、陸名翔を協力者にするか、そうでないかの判断を迫られてきている期日は、そう遠くないかもしれないと考えていた。
 
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