剣の世界で拳を振るう
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お礼なんていりません
「助けてくれて、ありがとうございました」
喫茶店にて、先ほど助けた少女とその友人と言う少年と向かい合わせに座っていた。
少女の名前は朝田詩乃、少年の名前は新川恭二と言うらしい。
お互いに自己紹介を済ませたあと、其々にメニューを注文してから少々の雑談に入る。
「さっきは本当にありがとうございました。新川君も」
「お礼されるような事じゃない。
あの時はたまたま見かけただけだからな」
「…ごめんね朝田さん。
もう少し早く助けられてれば良かったのに」
「ううん。そんなことない。すごく助かったから…」
んー、どうやら俺はお邪魔の様だな…。
早いとこ退散したい空気になってきた。
「あの、拳士さんは…『ガンゲイル・オンライン』って知ってますか?」
「…ああ、知ってるな。それがどうかしたか?」
ビビった…。何でいきなりそのゲームの名前が浮上してくるんだよ…。
「朝田さんはGGOで凄腕のスナイパーなんです。
この前もスコードロンで活躍したばかりで……」
「ちょっと、新川君…」
スコードロンって何?
つーかスナイパー?つー事はこの二人もGGOをプレイしている人物なのか?
しかし、単純な話でこの二人が死銃に関わっていると考えるのは早計だろう。
菊岡さんは強いプレイヤーしか襲われないと言っていたし…。
「朝田ちゃんはGGOを始めてどれくらいなんだ?」
「え?えっと…2年くらいです」
2年…。正直努力すれば強者足り得る時間だな。
考えたくはないが、この少女も狙われている内の一人と考えた方がいいのかもしれないが……。
「あの…それが何かあるんですか?
さっきから難しい顔してますけど」
「あ、あぁ。確かそのゲームにはBOBとか言う大会があるんだよな?
それが近日って聞いていたから出るのかなってな。
2年と言えばゲームの感覚が染み着いて様々な動きが出来るようになっているはずだし、
二人は大会には出るのかな?」
「はい。今年こそは大会で全員k……上位入賞を狙うわ」
……全員殺す。
そう言いかけたのは気のせいじゃないだろうな。
「僕は辞退するつもりです」
「へぇ?それまた何で?」
「僕のステフリはAGI極振りなんですよ。
レア武器でもない限り入賞なんてあり得ない…限界を感じてるんです」
その割りにはさほど残念そうな顔はしてないが…。
「それに、朝田さんが出るんですから、今回は応援に回ろうって考えてます」
なんだろうこの少年の目付き…。
つい最近見たことあるような目何だが……。
「ありがとう、新川君」
「いや、朝田さんを誘ったのは僕なのに一人置いてかれるのは辛いしね。
責めて応援に回って次の大会の参考にさせてもらうくらいはしなきゃ」
「……」
あぁ、思い出した。
これ須郷さんに似てるんだ。
何て言うのかな……狂愛?狂信?そんな感じの目だ…。
「あ、そろそろ帰らなくちゃ…」
「そっか。朝田さん、自炊してるんだよね。
も、もしよかったらまた今度食べてみたいな…なんて」
「あ、うん……また今度、もう少し腕が上がったらね…」
あざとい…あざといぞ少年!
よく見ろ、朝田ちゃん引いてるじゃねえか!
「拳士…さんも、今日はありがとうございました」
「いやいや、こうしてお礼も頂いたし。
お腹の事情は既に満腹で満たされてるさ」
「…ふふっ……それでは失礼します」
「あ、僕も帰りますね。さよなら」
「ああ。縁があったらまた会おう」
正直少年との縁は繋がってないことを祈りたい。
二人は其々に店から出ていき、後に取り残された俺は一息ついた。
GGO…優一が言っていたフェアリィダンスの続編。
おまけに剣じゃなくて銃ですか…。撃たれると痛いんだよなぁ…。
つーかもうソード関係なくなってね?ゲームで人が殺せます何て布教するような言い回ししやがって。
「…ん?メール……和人からか」
思考の海に潜っていたとき、徐に携帯が振動し、取り出してみれば和人からのメール。
内容は…
「今日の午後5時にログイン…か。
へぇ、アイツ病院からログインするのか」
どうやら和人はSAOから生還した際の病院で厳重なセキュリティを駆使してログインするらしい。
用意したのは言うまでもなく菊岡さんだろうが、まぁそこは良いだろう。
問題なのは俺には用意されていないとの事。
この差は一体何なのだろうか?
「………4時半か……帰ろ」
俺はゆっくりと立ち上がり、喫茶店をでる。
外は未だに人が多く、商店街な雰囲気がライトアップされてきらびやかになっていた。
「……寒ぃ」
吐息は白く、気温が低いことを示しているソレは、俺に早く帰れと急かしているように聞こえた。
俺は揺ったりとしたペースで走りだし、家路をたどるのだった。
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