| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

剣の世界で拳を振るう

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

運命を信じますか?

「フッフッフッフッ…」

やぁやぁ、片桐拳士ですよ。
只今夕方のランニング中であります。

昨日、俺と話終えた菊岡さんは和人に会いに行き、見事協力を結びつけたらしい。
聞いた限りではそこそこに渋ったらしいが、俺の名前が出たとたんに柔らかくなったそうな。
俺、そんな趣味はないんだがな…。

「ふぅ………ん?」

一先ず休憩――――しようとしたとき、視界の端に一人の女子が2人の女子に囲まれて連行されていくのが目に入った。
見た感じでは穏便な感じではなく、長年の間では苛めな雰囲気を感じ取れる。

「…様子見。そう、これは様子見だ」

俺は誰にでもなく自分にそう言い聞かせて、件の女子達の方へと歩いていった。












「朝田~。朝田詩乃~」

夕食の買い物中。私は聞き覚えのある声に振り向いた。
そこには私と同じ学校でクラスメイトの女子2人が嫌な笑みを浮かべて私を取り囲んでいた。

「…何?」

――――またか。
私はそう思わずにはいられなかった。
彼女達は事あるごとに私に絡み、カツアゲや私のトラウマをほじくり返すようなことばかりしてくる。
もう慣れたとは言わないが、それでも初めての時よりはましな心持ちだと思う。
どうせ今回もまた、そう言った類いの事をされるに違いないのだから…。

「朝田~。
悪ぃ、
私等カラオケで歌い潰しちゃってさ、帰りの電車代無いんだわ。
明日返すからさぁ、こんなけ貸してくんない?」

裏路地。
私を逃がさまいと後方を塞ぐ2人の親玉と呼べるような人物であるその女子生徒は指を立てて数字を示してくる。
立っている指は1。
それはつまり……。

「一万円?そんなに持ってない…」

そもそも電車代にそんな大金は必要ないはず。
それに今までだってそう言って返された試しがないんだから、貸すだけ無駄だと分かっている。

「じゃあ下ろしてきて」

女子生徒、遠藤さんは口に棒付のアメをくわえながらそう言った。
申し訳なさも微塵にも見せず、貸されることが当たり前であると言うかのように言うのだ。
けど私だって前までの弱いままじゃない。
『あの』出来事が私に勇気をくれるんだから。あの人を信じてるから。
だから――――

「――――いや」

「あ?」

「いや。遠藤さん、貴女にお金を貸す気はない」

「てめぇ…舐めてんじゃねぇぞ…」

「もういいでしょ。帰るからそこ退いて」

私は後ろへと向き直り歩き出す。
そこへ後ろから立ち上がるような音が聞こえたので振り替えると、遠藤さんが私の顔に拳を突きつけていた。

遠藤さんはその拳をゆっくりと変えていき、ピストルの形を作り出す。

「――――っ!?」

ドクンッと、心臓が跳ねるような感覚が襲いかかり、私は身体が硬直するのを感じ取った。
ピストル、拳銃…次々に私のトラウマが頭のなかでフラッシュバックしていく。

「バァン」

「っあ……」

私は立っている感覚すら分からなくなり、その場に座り込んでしまった。

「なあ朝田ぁ。
兄貴がさぁ、モデルガン何個か持ってんだよなぁ。
今度ガッコで見せてやろっかぁ……」

「う………あ………ひっ」

「お前好きだろぉ?ピ・ス・ト・ル」

「おいおいゲロるなよ朝田ぁ」

「あははははは!」

吐き気、頭痛、目眩に襲われる。
周りの事など一切解らなくなるほどに目の前が暗く、霞んでくる。
私は、まだ強くなんてなかったのかな…?
小さくても抵抗しようなんて、思い上がりだったのかな…。

「取り合えず今持ってるだけで許してやるよ。
朝田、具合悪いみたいだしさ」

遠藤さんはそう言って私の鞄に手を掛けて――――

『俺が行くまで絶対に負けるな!諦めるな!』

そんなあの人の言葉が頭を過り、私の視界は急激にクリアになる。

「っ!」

「っあぁ?」

私は遠藤さんの手を払い、距離を数歩取った。

「朝田ぁ。お前マジで調子のってんじゃねぇの?
兄貴に回すぞお前…」

負けない。負けられない。
あの人が来るって言ったんだから!絶対に諦めない!

「はい邪魔ー」

「うあ!」「わっ!」

突如、私の後ろから二人の悲鳴が聞こえた。
拍子に振り替えるとそこには――――

「カツアゲ何てのは今でも流行ってんの?風習?」

彼がいたのだから。












「カツアゲ何てのは今でも流行ってんの?風習?」

一部始終見終えた俺は流石に不味いだろうと思い乱入することにした。
壁際に寄せてやった女子二人は立ち上がって残りの一人の傍らに避難する。

「誰だよアンタ」

「へ?んー…知り合い、友人…親戚?あー、何だろね?」

「私が聞いてんだよ!」

「まぁ助けに来た通りすがりだとでも思っとけよ女子高生」

つーか最近の若いやつらは礼儀ってのを知らんのか?
和人だって目上の人には敬語使うのになぁ。

「助け?あぁあぁ分かった。アンタ用心棒か。
ふーん…朝田ぁ。やってくれるじゃん」

「………」

あれ?シカト?もう眼中にありませんよな感じ?
て言うか何で俺に熱視線向けてんのこの娘。どっかで会ったかな?

「さて、どうする?正直お帰り願いたいところだけど」

「私の兄貴さぁ、空手初段何だよなぁ。
アンタがどれだけ強いのか知んないけど、絶対敵わないよ?」

……何これ?
自分には恐ろしいバックがいるんだぞとかの言い回し?

「おいおい、可哀想になってくるだろ。
兄貴の力でしか動けないような地見っ娘に謝り倒すとでも思ったのか?」

「…………ちっ!行くよ」

女子高生3人は俺の横を通り、大通りへと姿を消した。
俺は後に残った座り込んでいる少女に歩みより、手を差し出そうとして――――

「誰だ」

路地の奥の方へと顔を向けた。
奥の方は薄暗く、姿を隠すにはもってこいだろうが、気配を消していなければ意味はないのだ。

「ぼ、僕は彼女のクラスメイトで…」

そう言って出てきたのはひょろっとした少年。
帽子をかぶり、私服である。

「新川くん…」

「本当見たいだな」

少女が呟いたのを確認し、俺は警戒を解いた。

「後は君に任せよう。
俺はランニングの途中何でね」

俺は新川と呼ばれた少年にそう言って路地裏を出ようとした。

「ま、待って!…ください」

しかし少女に呼び止められ、と言うか裾を捕まれて止まらずにはいられなかった。

「何かな?」

「あの、お礼と言うか…あの、私を…知っていますか?」

やっぱりどっかで会ったのか?
でも記憶に無いしなぁ…。

「済まないが思い出せない。何処かで会ったか?」

「……そうですか………いえ、その、お礼をさせてください…」

そう言った少女の表情は悲しそうな顔になっていた。
これは不味いことをしたかなと、俺はその言葉に従うことにしたのだった。


 
 

 
後書き
詩乃は拳士を知っている。
拳士は詩乃を知らない。
この真相が明らかになるのはまだ先の事になります。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧