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我が剣は愛する者の為に

作者:wawa
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いざ、世界へ といってもまずは里帰り

俺は愛刀を両手で持って早朝、いつもの構えをとってイメージトレーニングをしていた。
対峙するのは自分自身。
あくまでイメージだ。
目の前に自分自身がいると思って剣を振るう。
俺は相手の首を切断しようと最速の剣を振るうが、簡単に防がれてしまう。
そのまま刀を弾かれ、胴に一閃が走る。
咄嗟に右手で鞘を持ちその一撃を受け止める。
すぐさま持ち直し、刀の打ち合いが始まる。
何度も言うがこれはイメージだ。
実際に戦っている訳ではない。
だが、こうして自分自身とはいえイメージとはいえ一瞬の油断が死に繋がるギリギリの戦い。
徐々に身体は暖まり、剣の速度も上がって行く。
それと同時に曖昧だったイメージ像が鮮明になっていき、本当に自分が目の前にいるのだという錯覚に陥る。
相手の俺が踏み込んだ一閃を放つ。
それを半歩後ろに下がってギリギリの所で避けて、カウンターの一撃を繰り出す。
鞘に俺の刀を受け止めるが、それは予想通りの動きだった。
鞘で受け止めた瞬間、刀を手放して左の掌を相手の俺の顔に向ける。
バン、と呟くと相手の俺のイメージは後ろに倒れてそのまま消えた。
本来なら氣を撃って相手を倒して終了なのだが、これはイメージトレーニング。
さすがに氣までは撃たない。
気がつけば全身に汗をかいていた。
すると後ろから頭から手ぬぐいをかけられる。

「調子はどうだ。」

俺のイメージトレーニングを終わるのを見計らって師匠は声をかける。
手ぬぐいを手で取って汗を拭きながら答える。

「問題ないです。」

「そうか。
 朝食の準備ができた。」

そう言って少し離れた所に山で取れたきのこなどがたき火で焼いてあるのが見える。
朝の修行を見て師匠が用意してくれたのだろう。
俺は感謝しつつ、朝食をとる。
水鏡塾を出て、またいつも通りの修行を再開した。
違う所があるとすれば、街に寄った時に新しく出た経済書などを買って勉強するくらいだ。
それ以外はほとんど変わらない生活を過ごした。
それから数年後。
身長は一八〇まで伸びて、愛刀も完全に扱えるようになった。
俺の身長にもピッタリで麻奈はそこら辺も調整してくれたのかもしれない。
氣の扱いも熟知して、構えの方も完全に慣れた。
朝食を食べ終わると師匠は唐突に言った。

「縁よ。
 今から一人で旅をしなさい。」

「ちょっ!?
 いきなりどうしたのですか!?」

突然の発言に俺は腰を上げて大声で聞き返してしまう。
師匠は落ち着け、と言って宥めてくる。
俺はとりあえず座って、師匠の話を聞く。

「今の修行を見て思ったよ。
 もうお前に教える事はない。
 お前は強くなった。
 この私を遥かに凌駕するほどにな。」

「それは・・・・」

「隠さなくてもいい。
 前々からずっと思っていた。
 私は嬉しいんだ。
 ここまでお前がここまで強くなってくれた事が。」

確かにその通りだ。
師匠といつもの通り打ち合っても、その速度を完全に見切れるくらいになった。
最初と比べれば格段に成長した事が自分でも分かる。
あまりこんな事を言いたくないが、今の俺なら師匠に勝てる。

「そろそろ一人で旅を出て、身の振り方を考えなければならない。
 私はどこかに仕えるつもりはない。
 このまま身体の限界まで旅をするつもりだ。
 だが、縁は違う。
 お前は王になるのだろう?
 なら、ここでお別れだ。」

「でも、あまりに急すぎますよ。」

「思い至ったら吉日。
 そうだろう。」

師匠の言葉に俺は何も答えなかった。
でも、いつかはこうなる日が来る。
俺は王になるって誓った。
その為に色んな人を殺してきた。
ここが俺の出発地点なのなら。
俯く顔を上げて師匠の眼を見る。
そして、土下座するように頭を下げて言う。

「今までご指導ありがとうございました。」

「お前が天下に轟く王になる事を私は期待している。」

旅の準備に取り掛かる俺に師匠は何かを渡してくる。
布で包まれた何かを渡され、首を傾げる。
開けてみると結構な額のお金が包まれていた。

「師匠。」

「卒業祝いだ。
 持っていけ。」

俺はもう一度深く頭を下げる。
すると、師匠はついて来なさいと言って街に向かって歩いて行く。
その後について行くと、入り口付近に一頭の馬がいた。
その傍には商人らしき人が手綱を持っている。
師匠が声をかけると商人は軽く会釈をして、馬の手綱を師匠に渡す。
そして、その手綱を俺に渡してきた。

「これも卒業祝いだ。
 馬がないとこれからの旅がしんどいだろう。」

思い至ったら吉日と師匠は言っていたが、おそらく嘘だろう。
この馬の準備といいお金をいい、前々から決めていたのだろう。
俺は手綱を握って頭を下げようとするが、師匠に止められる。

「お前の感謝の気持ちは分かったからもうよせ。
 これから王になる男だろう。
 簡単に頭を下げてどうする。」

少し冗談まじりで言う。
それを聞いて少し驚くが、俺も笑顔で言う。

「そうですね。
 俺は王になるのですから。」

師匠と俺はそれぞれの馬に乗り込む。

「これからどうする?」

「一旦、村に帰ります。
 それからもう一度旅をしてみるつもりです。」

師匠は俺に拳を向けてくる。
自分の左手で拳を作って師匠の拳と突き合せる。
俺達は言葉をかわす事なく、背中を向ける。
今日を持って俺は師匠の元を離れ、一人で旅をする。
自分の目指す王になる為に。





馬は乗った経験は少ないが、この馬は比較的に大人しい馬なのでそれほど苦労しなかった。
今は俺が育った村に向かっている。
父さんと母さんにこれからの事を話すためだ。
馬を上手く操る為にも一日くらいで着く筈だったが、二日くらいかかってしまった。
村の入り口まで行くと、入り口付近にいた村人が俺に声をかけてくる。

「この村に何の用ですかね?」

その人に見覚えがあった。
住んでいた家の隣に住んでいた男の人だ。
俺は馬から降りて、軽く頭を下げる。

「あの、俺の事を覚えています?」

「?」

その人は首を傾げながら俺の顔をまじまじと見る。
あっ、と何かに気がついたのか恐る恐る聞いてくる。

「もしかして関流さんの息子さんかい?」

「はい。
 お久しぶりです。」

「いや~、大きなって。
 最初は全く分からなかったよ。
 そうだ、皆に知らせないとな。」

走って村に戻っていく。
苦笑いを浮かべながら手綱を持って村に入って行く。
小さい村だから俺の事はすぐに広まった。
母さんと父さんはすぐに駆け付けてくれた。
母さんは俺の姿を見て涙を浮かべながら俺に抱き着いてきた。
父さんも近づいて、俺の頭を撫でる。
他の村の人からお久しぶりや大きくなったな、と声をかけられつつ我が家に戻る。
何年も帰ってきてないけど何も変わっていなかった。
刀を置いて俺は座る。
それに対面するように母さんと父さんも座る。

「その剣。」

「旅をしている時にね。
 今では俺の愛刀だよ。」

「しかし、大きくなったな。
 それにかっこよくなったな。」

「うんうん。
 私も同い年なら惚れていたかもね。」

「何馬鹿な事を言っているんだよ。」

俺達は笑いながら久しぶりの家族との会話する。
そして気がついた。
ここにもう一人の家族がいない事を。

「あれ、愛紗は?」

「愛紗なら居ないわよ。」

「えっ?
 どこに行ったんだ?」

「縁を追い駆けに行ったのよ。」

「俺を?」

母さんから俺が村を出て行ったからの事を聞いた。
何でも愛紗も強くなりたいと言い出したらしい。
理由は俺みたいに強くなりたいと言ったらしい。
それを聞いてとても嬉しくなった。
最愛の妹が俺のために強くなってくれるんだぞ。
こんなに嬉しい事はない。
でも、それだとおかしくないか?

「本当に入れ違いよ。
 縁が戻ってくる少し前に自分から兄様を見つけるんだ、と息巻いて村を出て行ったのよ。」

完璧な入れ違いだ。
という事は俺も旅をしていると出会う可能性があるという事だろう。
まぁ、確率はもの凄く低いけど。

「あの子はねもの凄く強くなったわよ。
 最後の方は私でも勝てないくらいに強くなったし。」

「それで母さんの愛刀がないのか。」

「そうよ。
 愛紗が村を出る時に渡したの。
 今ではこの棒が私の愛刀。」

壁かけられてある木の棒を差して言う。
それを見て何か閃いたのか、母さんは言ってくる。

「縁、一つ手合わせ願うかしら。
 どれほど強くなったか見て見たいしね。」

俺の了解を得ずに立ち上がり棒を手に取って家の外に出る。
その時、父さんと視線がぶつかる。
二人して苦笑いをして、家の外に出る。
適当に木の棒を拾って母さんと向かい合う。
母さんは両手でその棒を持ち、対する俺はいつもの構えをとる。
子供の頃とは違った構えに母さんは若干眉をひそめる。
それを父さんは離れた位置で見守る。

(全然隙が見えないわね。
 ここまで強くなっているとは。)

「はっっ!!」

その掛け声と共に鋭い突きが俺に襲い掛かる。
それに合わせて俺も前に出る。
それは一瞬で片がついた。
母さんの突きを俺はすれ違うように避けて、そのまま懐に入り棒の先を母さんの首元に当てる。
勝敗はついた。
母さんは息を呑むと、はぁ~とため息を吐いた。

「完敗よ。
 縁、強くなり過ぎ。」

「褒め言葉として受け取っておくよ。」

負けたのに母さんは笑顔を浮かべていた。
それを見て父さんは近づいてくる。

「今日は家に泊まるのだろう?」

「そのつもり。」

「なら、久しぶりに唯の手料理を食べられるな。」

「腕によりをかけるから楽しみしなさい。」

そう息込んで母さんは家に戻る。
父さんもその後について行くが俺はついて行かない。
不思議に思った父さんがこちらに振り向く。

「どうした、縁。」

「ちょっと父と母の墓に行ってくるよ。」

「・・・・・分かった。
 もうすぐ暗くなるから、冷えてくる前に戻ってくるんだぞ。」

夕暮れ時、俺は父と母の墓の前でしゃがみ手を合わせる。

「俺、王になる。
 父と母のような悲劇を防ぐために。」

俺はそれだけ言って立ち上がる。
振り返った瞬間、柔らかい風が俺を通り抜ける。
冬の終わりだが、風は冷たいはずなのにその風は暖かい気がした。
父と母の墓に振り向いて言う。

「行ってきます。」

その後は母さんの久しぶりの手料理を食べて、俺の修行時代の話をした。
雪蓮や桃香や華琳の話や他に様々な話をして、最後に俺は自分の目指している道を告白する。

「俺は王になるよ。
 この世界を平和にするために。」

それを聞いても父さんと母さんは驚きはしたが、すぐに笑みを浮かべる。

「頑張りなさい。
 私は応援しているわ。」

「もちろん、父さんもな。」

その言葉だけで充分だった。
その後も夜遅くまで話をして、いつの間にか朝日が昇っていた。

「行ってらっしゃい。」

「お前の家はここだ。
 いつでも好きな時に帰ってくればいい。」

「はい、行ってきます。」

俺は馬に乗り込み、村を出て行く。
その途中、村の人からいろんな言葉をかけて貰いながら村を出て行った。
旅が始まる。
王になるための旅が。 
 

 
後書き
言い忘れていましたがオリ武将出します。

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