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美しき異形達

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第三十七話 川の中での戦いその一

                    美しき異形達 
                 第三十七話  川の中での戦い
 薊と菫は川の中でその中間点を境として怪人達と対峙した、既に二人共その手にそれぞれの武器を持っている。
 そのうえでだ、薊は怪人達に問うた。
「で、あたしの相手はどっちだよ」
「私の相手は」
 菫も言うのだった。
「どちらかしら」
「どっちでもいいけれどな」
「ではわしはだ」
 熊の怪人は薊の言葉を受けて彼女を見て言った。
「御前がいい」
「あたしかよ」
「相棒、それでいいか」
 熊の怪人は狼の怪人にも顔を向けて問うた。
「わしは赤いのをやる」
「そうか、ではわしはだ」
 狼の怪人も熊の怪人にこう返した。
「紫の方をやる」
「そうか、ではな」
「そうしような」
 こう話してお互いの相手を決めた、そのうえでだった。
 熊の怪人はあらためてだ、薊に対して言った。
「御前の相手はわしだ」
「熊がかよ」
「そうだ、それでいいな」
「どっちでもいいぜ、あたしは」
 またこう言った薊だった。
「熊が相手でも狼が相手でもな」
「そうか、それではな」
「今からはじめるか」
「安心しろ、一撃だ」
 怪人の口が開いた、笑ってはいなかったが。
 その口の中には無数の鋭い牙があった、そしてその逞しい手から爪も出しそのうえでだった。
「熊の力の前にはな」
「一撃だってんだな」
「そうだ、苦しむことはない」
 それも一切、という言葉だった。
「楽に死ねる」
「だから知ってるって言っただろ」 
 薊は今もその顔に余裕を見せていない。
「あたしはな」
「わしのことをか」
「熊をな、それにな」
「それにか」
「狼のことも知ってるよ」
 菫の相手であるその怪人のこともというのだ。
「有名なだけにか」
「それでか」
「ああ、だからな」
「先程の言葉か」
「敵を知り己を知る」
「またそう言うのか」
「実際にそうだからな」
 戦うにあたってはまず相手を知ることだ、そのうえで自分のことも知る。それでこそ勝てるのは戦争でも個々の闘いでも同じだ。
「そしてそれと一緒にな」
「共にか」
「侮らない」
 このことも言うのだった。
「それも大事なんだよ」
「わしを侮っていないのか」
「侮ったら負けさ」
 その時点で、というのだ。
「それでな」
「頭はいいようだな」
「馬鹿ならとっくの昔に負けてるさ」
 そして死んでいるというのだ。
「その時点でな」
「だからか」
「あたしはあんたを知ってるしだから侮らない」
 そうしているからだというのだ。
「その二つを忘れていないからな」
「わしに勝てるか」
「間違いなくな」
 そうだとだ、怪人に言うのだった。 
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