ソードアート・オンライン~漆黒の剣聖~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
アインクラッド編~頂に立つ存在~
第七話 剣聖vs流星
決闘日当日の朝、四十四層にある小さな辺境の圏内村。普段誰も寄り付かないこの場所にソレイユは足を運んでいた。
「・・・・・・・・・・」
険しい表情をして歩いていくソレイユだが、ある一軒の家の前に着くと、家のドアを開け中に入っていく。その中には、鍛冶に使う道具が並んでいた。
しかし、ソレイユはそれに目もくれず、家の奥にある暖簾に向かって歩いていく。
「また、よろしく頼むぜ、相棒・・・」
そうつぶやいた後、暖簾をくぐっていくと、そこにあったのは一本の長刀と二つの指輪だった。ソレイユはそれらを一度アイテムウインドウに収納し、装備した。
その後、身を翻し、家を後にする。その時のソレイユは微かに笑っていた。
◆
先日新たに開通になった七十五層の主街区≪コルニア≫はローマ風の造りの街だった。
すでに剣士や商人プレイヤーが乗り込み、見物人も押しかけ活気を呈している。そんな中、転移門の前にそびえたつ巨大なコロシアムであるイベントが行われていた。
四人のユニークスキルホルダーによる決闘である。
本来はここまで大事になるつもりはなかったのだがKoBの経理を担当しているプレイヤーの仕業で露店まで出るほどになってしまった。
そして今、第一試合目である≪黒の剣士≫キリトvs≪聖騎士≫ヒースクリフの試合が終わりを告げた。ヒースクリフの勝利という形で。
◆
「お疲れ様。おしかったね、キリト君」
二試合目が行われるので、心配で駆けつけたアスナとともに観客席に戻ってきたキリトにルナは労いの言葉をかけた。キリトは肩をすくめながら言った
「結局、負けたけどな」
「それでも、良い線いってたって。まあ、とりあえず入団おめでとう。これからよろしくね」
「ああ、よろしく」
そういってキリトはルナの隣に座り、アスナはキリトの隣に座りルナに尋ねた。
「そういえば、ソレイユ君は?」
今まさに二試合目が行われようとしているのだが、肝心のソレイユがまだ来ていない。
それを当たり前のように疑問に思ったアスナが何かしら知っているであろうルナに尋ねたのだが、ルナは首を横に振り口を開いた。
「わかんない。一緒に来ようと思ったんだけど・・・、用事があるから先に言っててくれって言われて」
「用事?」
「うん。そうとしか聞いてないからどんな用事かはわからないんだよ~」
「そうか・・・」
それから、少しの間雑談をしていると観客席から再び歓声が鳴り響いた。闘技場のほうには黒いローブに身を包んだオシリスが目を瞑り、腕を組んで中央に立っていた。もう間もなく二試合目が始まってしまう。
しかし、いっこうにソレイユが現れる気配がない。
「ねえ、ルナ・・・、メールとか送ったほうがいいんじゃ・・・」
「一応送ったんだけど・・・・・」
そういって、連絡がないか確認してみるルナだったが連絡は来ていないようであった。周りに耳を傾けてみると、いくらか罵声が聞こえる。
曰く、剣聖は逃げたのではないか
曰く、怖気づいた臆病者
曰く、噂ばかりの雑魚プレイヤー
など本人がいないので言いたい放題の観客たち。
ルナやアスナ、キリトだけでなくソレイユを知っているプレイヤーたちは根も葉もないその罵声をやめさえようとした。げんにルナたちの近くにいたクラインは我慢の限界を超えたらしく罵声をついていた観客たちに何かを言おうとしたとき、闘技場のほうに圧倒的な威圧感を放ちながら一つの人影が現れた。
それを見た観客たちは黙り込むしかなかった。闘技場にいた全員が当てられたのだ、そのプレイヤーが放つ威圧感に。
いつものように黒いインナーのうえに深みのある黒いコートを着込んでいたが、腰に差している刀が昨日までのものとは違っていた。黒色の鞘に納めれ、柄頭からのびる腕貫緒が歩くたびに波うっているそれは、一般的な長さの刀ではなく、長刀と呼べるほど刀身が長い刀であった。
昨日までの武器とはまるで違う武器を携えてきたソレイユ。見たこともない武器にルナたちは首をかしげている。見慣れている武器を持たないで来たのだからそれも当然だろう。
そして、中央に到達したとき、ソレイユは口を開いた。
「遅くなってすまないな」
「いや、かまわないよ・・・。それでは、さっさと始めるとしますか」
そういってオシリスはメニューウインドウを操作する。瞬時にソレイユの前にデュエルメッセージが出現した。オプションは当然初撃決着モードである。
ソレイユがそれを受託するとカウントダウンが始まった。
しかし、ソレイユもオシリスも構えず、悠然と立っているだけである。
そうしていくうちにカウントは減っていき、ゼロになったところで、
【DUEL】
という文字が浮かび上がる。その文字が浮かび上がると同時に甲高い金属音同士がぶつかる音が鳴り響いた。
いつの間にか鍔迫り合っていた刀と大剣だったが、大剣の力に押され刀が弾かれる。
そこへ大剣の追撃が繰り出されるがすぐさま体勢を立て直してその追撃をかわし、お返しにと言わんばかりの袈裟斬りを叩きこもうとするが大剣に防がれる。絶え間なく響く金属音。目で追うことが難しいほどの速度で荒れ狂う剣戟の数々。
ルナやアスナ、キリトをはじめとした観客たちは唖然としていた。
それもそうだろう。戦いのレベルが桁違いに違うのだ。
「な・・・なんだよ、あれ・・・・」
観客のだれかがそうつぶやいたが答えられるものはいなかった。そうしている間に剣戟はやみ、再び鍔迫り合っていた。
そんな中、オシリスの大剣が淡い光を纏い始めた。
「おら、よ」
その声と同時に鍔迫り合いをしていた大剣を強引に振るうとソレイユが十メートル以上吹き飛ばされた。
ソードスキルを使ってもそれほど吹き飛ぶことはなく、あの状態から放てるソードスキルなどあるのだろうか。
いったい何をしたのか、そう観客たちが思っていると
「ちっ」
というソレイユの舌打ちが聞こえた。それと同時に再びオシリスの大剣が光を纏い始める。そのまま光を纏った大剣が振るわれると、ソレイユに向かって衝撃波のような光の斬撃が飛ばされた。
それを見たソレイユは即座に刀を鞘に納め、オシリスを中心に円を描くように走り始めた。再び振るわれる大剣、放たれる光の斬撃波。
しかし、幾度となく放たれるそれがソレイユにあたることはなかった。
「・・・・・・」
今まで円を描くように避けていたソレイユが一直線にオシリスに向かって突っ込んでいく。それを見逃すオシリスではなかった。
光が纏った大剣が振るわれる。
直撃した、誰もがそう思えるほどのタイミングだった。
しかし、砂煙の中から人影が飛び出してきた。追撃を加えようとするオシリスだったが、一瞬だけソレイユのほうが早かった。
オシリスに向かって走りながら鯉口をきり抜刀するソレイユ。しかし、オシリスはそれを大剣で防ぐ。すぐさま体勢を立て直した次の瞬間、血のような赤いライトエフェクトを刀に纏わせ、次の瞬間ジェットエンジンめいた金属質のサウンドとともに赤い光芒を纏った突きが放たれた。ギリギリのところで再び大剣で防御するオシリスだが、勢いに負け後退せざるを得なかった。
防御されたことを悟ったソレイユは地面を蹴り距離を取る。充分距離が離れたところでソレイユが口を開いた。
「相変わらず怖いな、あんたのそのユニークスキル、≪月光剣≫は・・・」
「その割には、微塵も恐怖とか感じてないでしょ、君」
「もちろん」
「・・・相変わらずで安心したよ」
刀を肩に担ぎながら答えるソレイユの言葉にオシリスは呆れ気味に言う。そんなやり取りをしている二人だが、臨戦態勢を解いたわけでもないので、二人から放たれる威圧感は健在である。
「さて、と。準備運動はこのくらいでいいだろ?」
そういって大剣を構えるオシリス。
「ああ、もう十分すぎるほどにな」
ソレイユも刀を構える。今までは準備運動。そう言われて観客たちは何も言えなかった。圧倒的実力者。噂にたがわぬプレイヤーがそこにいた。
≪流星≫オシリス vs ≪剣聖≫ソレイユ
常軌を逸脱したプレイヤーたちの勝負はここからであった。
◆
「な、なんだよ、今の・・・」
そうつぶやいたのはキリト。観客席でソレイユとオシリスの戦いを見ていたが、先ほどのソレイユとオシリスの戦闘を見て驚いた表情でつぶやいていた。キリトだけではなく、アスナやルナまでも驚き絶句していた。しかし、驚いた理由はそれだけではなかった。
「・・・・・それになんで、ヴォーパル・ストライクが・・・・」
ヴォ―パル・ストライクとは、先ほどソレイユが使ったソードスキルである。
しかし、それは本来片手剣のソードスキルであり、曲刀に分類される刀では決して使えるはずがないスキルであった。
それだけではく、本来ソードスキルを使うとスキルディレイというものが起こるが、先ほどのソレイユにそれはなかったように感じた。
「・・・・・もしかしたら、それが≪剣聖≫スキルなんじゃないの?」
「「・・・・え?」」
わけがわからず混乱していたキリト。それを見ていたルナが口を開いた。しかし、ルナの言葉に理解が追い付かないのか、キリトもアスナもポカンとした表情でルナのほうを見ていたが、理解が追い付くとアスナがルナに食ってかかった。
「・・・・・どういうこと・・・?」
「わからないことが多いから、あくまで仮説だよ。でも、それ以外に考えられない・・・」
それ以上口を開くことなくルナは闘技場へ視線を戻す。それに倣いキリトたちも闘技場に視線を戻すと第二ラウンドが開始されようとしていた。
◆
「「・・・・・・・」」
初撃と違いふたりとも構えて動こうとしない。にらみ合いが続く中、会場もその雰囲気にのまれ喋ろうとする者はいない。
そんな時間が数秒続いた時、誰かが息をのんだその瞬間にそれは起こった。
「・・・・・」
「・・・・ちっ」
五メートルという距離を一瞬で詰め斬りかかるソレイユ。
しかし、その攻撃を難なく防ぐオシリスにソレイユは舌打ちをする。
間をおかずオシリスが反撃してくるが、大剣の斬撃を刀で受け流し、カウンターを繰り出す。それでもオシリスがうまくかわし決定打にならず、鍔迫り合いになってしまう。
だが、オシリスのほうが筋力値が上なのか、すぐさまソレイユは弾き飛ばされてしまうが、ソレイユは弾き飛ばされるのと同時に地面を蹴り後ろに飛んでいたので体勢が崩れることなく着地する。
そこへ≪月光剣≫の衝撃波が次々と襲い掛かるが、後方に跳び跳ねるようにしながら回避していく。
そして、二十メートルほど離れてから半円を描くようにステップを踏み、衝撃波を回避するとそのままオシリスに向かって突進攻撃を敢行した。
彗星のように全身から光の尾を引きながら繰り出されるその技はただの突進攻撃ではなく、最上位細剣技の一つ≪フラッシング・ペネトレイター≫であった。ソニックブームに似た衝撃音と共にオシリスに向かって突撃していくソレイユ。対するオシリスは≪フラッシング・ペネトレイター≫を紙一重で受け流し、追撃をかけようとするが、長い滑走を経て停止したソレイユが迎撃の体制をとっていたためその追撃を受け止め鍔迫り合いになってしまう。そして、
「・・・・・しょうがねえな」
と、誰にも聞こえない声でソレイユはつぶやくと鍔迫り合いをしていたオシリスを蹴り飛ばしその勢いを利用して距離をとる。
いきなりの不意打ちでオシリスにわずかな隙ができるが何とか体勢を立て直しながら、ソレイユのほうを見ると、刀を鞘におさめ黄金色のライトエフェクトを纏い、居合の構えをとっている。
オシリスとソレイユの距離は十メートルもなく、二人にとってはないに等しい距離である。
「「・・・・・・」」
場を包む静寂。迸る緊張。
オシリスが迎撃するため大剣を上段に構えた瞬間、ソレイユは鯉口を切った。それと同時に十メートルもなかった距離を一瞬で詰めよったが、オシリスはそれを読んでいた。ソレイユのソードスキルの軌道からはずれ、カウンターを当てようとする。
ソードスキルが発動したらもう止められない。誰しもがオシリスの勝ちだと思った。
そして、ソレイユのソードスキルが発動する。
最上位剣聖剣技 ≪ワールド・エンド≫
そのソードスキルが発動した。いや、発動するはずだった。しかし、振るわれたのは刀を握っていない右手だけであった。
「・・・・な・・・に・・・・っ!?」
何が起こったのかわからず混乱するオシリス。そして、それが致命的な一瞬となってしまう。
オシリスの驚いた顔をソレイユは鼻で笑うと振るった右腕の慣性運動に逆らわず、その勢いを利用してその場で一回転しながらオシリスの懐に深く踏み込む。そして、刀の柄に手をかけ、ありえないほど早い速度で抜刀しながらオシリスに斬りかかる。対するオシリスも驚きながらも構えていた大剣を振り下ろす。
二人の攻撃が両者の体にヒットし、デュエルが決着する。デュエル終了を告げるシステムメッセージが表示される。
そこにはこう記されてあった。
【DRAW】
常軌を逸脱したプレイヤーたちの勝負は引き分けで終了した。
類を見ないほどの戦いに歓声が湧く。ソレイユは笑っていたが、オシリスの表情はすぐれず、険しい表情でソレイユをみていた。
そして、ソレイユを一瞥すると黒衣に身を包んだ≪流星≫は何も言わず身をひるがえし、嵐のような歓声の中をゆっくりと控室に消えて行こうとしたが、そこにソレイユが真剣な表情でつぶやいた。
「強さに対する飽くなき欲求、それが剣士だ。それがないあんたが俺に勝つことは不可能なんだよ」
その言葉を聞きオシリスは目を見開き勢いよく振り返るが、今度はソレイユが身をひるがえし、嵐のような歓声の中をゆっくりと控室に消えて行った。残ったのは険しい表情をさらに険しくしたオシリスだけだった。
◆
「スキル・キャンセラーだな」
「そうね、まさかあそこで出すなんてね・・・」
闘技場の観客スペースである二人のプレイヤーが話していた。
「ソレイユのあれ、どう思う?」
「全然本気じゃないだろ。あいつが本気なら引き分けになんかならないさ」
言いきるライダースジャケットのようなものを着込んだ男性プレイヤーに浴衣姿の女性プレイヤーは意地悪く聞いた。
「ずいぶん、信頼を置いてるんだね。ソレイユの強さに」
「当たり前だろ、死合った仲なんだし・・・」
それだけ言うと男性プレイヤーは観客スペースを立ち、闘技場を出て行く。女性プレイヤーもそれに続くように出て行った。
後書き
か、完全とはいいがたいですが・・・オリジナル回だ~
苦労した。苦労したよ
でも、これで喜んでいられないのが現状orz
はぁ、次の話し考えよ・・・
ページ上へ戻る