ソードアート・オンライン~漆黒の剣聖~
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アインクラッド編~頂に立つ存在~
第六話 決闘の挑戦状
「引っ越してやる・・・・どっかすげぇ田舎フロアの、絶対見つからないような村に・・・」
「さっきからブツブツうるせぇよ」
ここはエギルの雑貨屋の二階。そこで揺り椅子にふんぞり返って不機嫌にお茶を飲みながらブツブツとキリトはつぶやいている。それに耐えかねたソレイユが、これまた不機嫌にドスの利いた声で文句を言っているが効果がない。
そこへ店のオーナーであるエギルがキリトに向かって笑顔で言った。
「まあ、そういうな。一度くらいは有名人になってみるのもいいさ。どうだ、いっそ講演会でもやってみちゃ」
「おもしろそうだな、それ。やってみればキリト?」
「するか!」
そういってキリトは右手に持っていたコップをソレイユにめがけて投げる。そこで、染みついた動作によって投剣スキルが発動してしまい、輝きながら猛烈な勢いで飛んでいく。しかし、ソレイユはそれを見事に片手でキャッチして、再びドスのきいた声で言った。
「・・・・・・・いい度胸だな、お前」
「い、いや、すまん」
そういって、キリトは椅子に沈み込んだ。エギルのほうは昨日の戦闘で手に入れたお宝を鑑定している。ときどき、奇声を上げているためなかなかレアなものがあるらしい。そして、エギルの鑑定があらかた終了したころ、約束をしていた時間から二時間遅れてアスナとルナが現れた。が、アスナは顔を蒼白にして、両手を胸の前で固く握っていて、ルナは神妙な顔つきでアスナの後ろに立っていた。そして、アスナが二度三度唇をかみしめた後キリトとソレイユの二人に泣き出しそうな声で言った。
「どうしよう・・・キリト君、ソレイユ君・・・。大変なことに・・・・なっちゃった・・・」
◆
「要約すると、お前ら二人の一時脱退を認めるには、立ち会わければならないと。そういうことだな?」
「うん、そうなんだって・・・」
ソレイユの言葉に頷きながら、顔を俯かせるルナ。次いでアスナが同じく首を俯かせていった。
「そんなことしても意味ないって一生懸命ルナと説得したんだけど・・・どうしても聞いてくれなくって・・・」
「でも・・・・珍しいな。あの男が、そんな条件だしてくるなんて・・・」
そうキリトがつぶやくとアスナが首を縦に振りながら同意する。
「そうなのよ。普段ギルドの活動どころか、フロア攻略の作戦とかもわたしたちに一任して全然命令とかしないの。でもなんでか今回に限って・・・」
「・・・・私は前に一そういうことあったけどね」
「「え?」」
ルナの言っている意味が理解できないキリトとアスナ。ソレイユは理解しているのか、黙ったままである。
「私が行方不明になった時、助けてくれたのがソレイユだったの。その時のことを団長に報告したら、ソレイユに合わせろってしつこく言われた」
「そ、それで・・・どうしたんだ?」
「結局、おれが合うことになった。それだけだ」
そういうソレイユにキリトがどんなことを話したのか聞くと、秘密、と一言で断られてしまった。ルナはその時同席していないので知らないという。
「・・・・・ともかく、一度グランザムまで行くよ。俺が直接談判してみる」
「ん・・・・・ごめんね。迷惑ばかりかけちゃうね・・・・」
「何でもするさ。その、大事な・・・・攻略パートナーの為だからな」
キリトがそういうと、アスナは少し不満そうに唇を尖らせていたが、ようやくほのかな笑顔を見せた。それを見ていたソレイユとルナは
「もう少し、気のきいたセリフは言えんのかねー」
「しょうがないんじゃない。キリト君だもん」
「・・・・そうだな」
など話していた。しかし、ルナがソレイユの顔を覗き込むと、そこには神妙な表情があった。
「・・・・何か、考え事?」
「・・・・・・いや、ただ・・・・はてしなくめんどくさい予感がするだけ」
肩をすくめながらため息交じりにソレイユはそう言った。それに対してルナはその意味が分からず首をかしげるだけだった。
◆
五十五層 主街区 グランザム
別名≪鉄の都≫。ほかの街がたいてい石造りなのに対して、街を形作る無数の巨大な尖塔は、すべて黒光りする鋼鉄で作られているためそのような名称ができた。しかし、鍛冶や彫金が盛んということもあってプレイヤーの人口は多いが、寒々しい印象を受ける街である。そんな街の一角にあるひときわ高い塔の前に四人はいた。巨大な扉の上部から何本も突き出す銀の槍には、白地に赤の十字を染め抜いた旗が垂れ下がっており寒風にはためいている。ギルド≪血盟騎士団≫の本部である。
「昔は三十九層の田舎町にあったちっちゃい家が本部だったんだよ」
「みんな狭い狭いっていつも文句言ってたわ。ギルドの発展が悪いとは言わないけど・・・・この街は寒くて嫌い・・・・」
「さっさと用を済ませて、なんか暖かいものでも食いに行こうぜ」
「お前の頭の中は食べることしかないのか・・・」
キリトの言葉にソレイユは呆れて溜息をつく。それにキリトは異議を唱えようとしたがそれより先にアスナがキリトの右手の指先を軽く握った。そして充電完了、と言って手を離すと塔に向かって歩いていく。ソレイユとルナは普通にそのあとをついていくがキリトは少し遅れて後を追った。
アスナとルナがブーツの鋲を鳴らしながら近づいていくと、門に控えていた衛兵は持っていた槍をささげえて敬礼した。
「任務ご苦労」
「ご苦労様」
返礼をして颯爽と等の中に入っていく一同。塔の中は街並みと同じく黒い鋼鉄で作られていた。金属音を響かせ階段を登っていく。そして、一つの無表情な鋼鉄の前でアスナとルナが足を止めた。一呼吸おいて意を決したようにアスナが扉をノックし、答えを待たず開け放つ。そこには中央に巨大な机が置かれ、その向こうに並んだ五脚の椅子にはそれぞれの男が腰かけていた。その中央に座る男が聖騎士の名を持つプレイヤー、ヒースクリフである。だが、それだけではなかった。もう一人、壁に腕を組んで寄りかかっていた。その人物を見たアスナとルナは驚いていた。滅多に姿を見せない人物がそこにいたからである。なぜ、ここにいるのか疑問に思った二人だが、今はそんなこときにしている暇がないのかアスナとルナが机の前まで歩みより一礼してから言った。
「「お別れのあいさつに来ました」」
「そう結論を急がなくてもいいだろう。彼らと話をさせてくれないか」
アスナとルナの言葉に苦笑し、キリトとソレイユを見据えた。
「久しぶりだね、ソレイユ君。そして、キリト君とはボス攻略以外の場で会うのは初めてだったかな」
「お元気そうで何よりですよ、団長殿」
「いえ・・・前に、六十七層の対策会議で少し話しました」
敬語で話すソレイユとキリト。しかし、ソレイユの言葉には少しばかり皮肉めいたように聞こえる。
そんなことは意に介さず、ヒースクリフは軽く頷くと、机の上で両手を組み合わせた。
「あれはつらい戦いだったな。我々も危うく死者を出すところだった。トップギルドなどと言われても戦力は常にぎりぎりだよ。なのに君たちは、我がギルドの貴重な主力プレイヤーを引き抜こうとしているわけだ」
「貴重なら護衛の人選に気を付けたほうがいいですよ」
ぶっきらぼうに言うキリトに机の右端に座っていたいかつい男が血相を変えて立ち上がろうとしたが、ヒースクリフが手で制してキリトに言った。
「クラディールは自宅で謹慎させている。迷惑をかけてしまったことは謝罪しよう。だが、我々としてもサブリーダーを引き抜かれて、はいそうですかという訳にはいかない」
「それならあっちのほうが務まるんじゃありません?」
そういってソレイユは壁に寄りかかっている男を指す。それを見たヒースクリフは表情を変えずに言った。
「彼には新人の教育を任せている。まだ不慣れな新人が多いものでね」
「あっそ」
ヒースクリフの言葉にそっけなく返すソレイユ。そして、ヒースクリフは二人を見据えて言った。
「キリト君、ソレイユ君。彼女らを欲しければ剣で―――≪二刀流≫と≪剣聖≫で奪いたまえ。私と戦い、勝つことができれば二人を連れて行くがいい。だが、負けたら君たちが血盟騎士団に入るのだ」
「「・・・・・・」」
ヒースクリフの言葉を聞いて、黙り込むキリトとソレイユ。しかし、今まで黙っていたアスナが我慢しきれないというように口を開いた。
「団長、私たちは別にギルドをやめたいといっているわけじゃありません。ただ、少し離れて、いろいろ考えたいんです」
「なあ、ヒースクリフ」
なおも言い募ろうとするアスナを無視してソレイユが口を開いた。
「なんだね、ソレイユ君」
「お前はさっき言ったな、アスナとルナは貴重なプレイヤーだと」
ソレイユのことばにヒースクリフは首肯する。それを見たソレイユは淡々と続けた。
「確かに、ルナやアスナみたいな実力のあるプレイヤーは貴重だ。戦力としても、そのカリスマ性をとってもな。正直な話、俺はこのゲームが始まってから二年でここまで来れるとは思ってもみなかった。でも、それができたのは聖騎士や閃光、流水や黒の剣士、他の有力ギルドがいたからだと思ってる。そして、これからも、それは変わらないだろう」
ソレイユの言いたいことがわからず、部屋にいたプレイヤーたちは首をかしげている。
しかし、ヒースクリフは射抜くようなソレイユの視線を正面から受け、壁に寄りかかっているプレイヤーは黙って聞いていた。意味が分からないソレイユの言葉にキリトは疑問を投げつけるがソレイユはそれを無視して続ける。
「・・・何が、言いたいんだ?」
「今、最前線にいる者はこのデスゲームを攻略する最後の希望といってもいい。このままいけば、あと一年しないうちにクリアすること可能だろう」
「そうだな、私もそう思っている」
ソレイユの言葉に同意するヒースクリフ。しかし、まだソレイユの言葉は続いた。
「だが、わかっているのか。そいつらを失うことがあれば、それから先どうなるのかを」
ソレイユの言葉に息をのむプレイヤーたち。そんな中、キリトがソレイユに声を震わせながら尋ねた。
「・・・・それは、アスナたちが死ぬって言いたいのか」
「そうだ」
キリトの質問にソレイユは一言で肯定した。それを聞いたキリトはソレイユにつかみかかろうとするが、それより早くソレイユが口を開いた。
「レベルの高いプレイヤーのみで攻略してきた弊害がここにきて一気に現れたってことだよ。これから先、今の人数だけで攻略していくのは難しいものがあると思うよ、俺は・・・」
「なるほど、ね。つまり、これを機に体制を整えたらどうか、といことかい?」
「そういこと」
壁に寄りかかっていたプレイヤー、オシリスがソレイユの言いたいことをまとめた。
「KoBにも新人がいることだし、主力陣にいったん休息を取らせ戦力を整えてみたらどうだ、ということだよ、ヒースクリフ」
それを聞いたキリトはつかみかかるのをやめ、ヒースクリフに向きなおる。ヒースクリフは眼を閉じて考えていたが、首を横に振った。
「たしかにソレイユ君の意見も一理ある。しかし、次は七十五層、クォーターポイントなのだ。新人たちの教育には少々危なすぎる」
「少しぐらい危険を冒さなければ、得られるものはないと考えるが?」
「それで死んでしまっては元も子もないと思うがね」
ヒースクリフとソレイユの意見は平行線をたどり始めた。だが、その意見の出し合いは長く続かなかった。キリトがソレイユの肩をつかみ一歩前に進み出て口を開いたからだ。
「ならば、先ほどあなたが言ったデュエルで決着をつけましょう。剣で語れというなら望むところです」
その言葉を聞いたヒースクリフは薄く笑って頷いて、ソレイユは額に手を当て大きく呆れの溜息をついていた。
◆
「おおぼけなすがっ」
再びアルゲートにあるエギルの店の二階へと戻ってきた四人。最初に口を開いたのが、キリトに向けて悪態をついたソレイユであった。
「なんでそんなめんどくさいことを簡単に引き受けるんだよ」
「ほんとだよ、私とルナも頑張って説得しようとしたのに、なんであんなこと言うのよ!!」
「・・・面目ありません。つい売り言葉に買い言葉で・・・・」
アスナも加わったためキリトにできることは謝るほかに選択肢はなかった。ルナは苦笑してみているが、キリトに救いの手をのばすことはしないらしい。しかし、苦笑していたルナが唐突に呟いた。
「でも意外だったね。オシリスさんがあんなこと言うなんて・・・」
そういって四人は本部での最後のやり取りを思い出していた。
◆
「なら、キリト君の相手は私がつとめよう。ソレイユ君の相手は・・・・」
「俺だな」
ヒースクリフの言葉を遮りゼロが口を開いた。ヒースクリフはそれを聞いた後、かまわないね、といったような視線を二人に向けた。
「俺は問題ないです」
「・・・・・・」
キリトは了承の返事をしたがソレイユは黙ったまんまであったが、少しして思いっきり溜息を吐き、口を開いた。
「・・・一つ聞きたいんだけど・・・?」
「なんだね?」
「引き分けだった場合、手付かずってことでいいんだよな?」
ソレイユの言葉に考えていたヒースクリフだったが、オシリスが口を開いた。
「いいんじゃないか、それで」
その言葉でその場は締めくくられることとなり決闘が行われる場所と時間を聞いた後、ソレイユたち四人は部屋から退出していった。
◆
それを思い出し、不安な表情をしたアスナがキリトとソレイユに言った。
「でも、大丈夫なの、二人とも」
「大丈夫だよ。一撃終了ルールでやるから危険はないさ。それに、まだ負けると決まったわけじゃないし・・・」
「それもあるけど・・・こないだキリト君の≪二刀流≫とソレイユ君の≪剣聖≫を見た時は、別次元の強さだって思った。でもそれは団長の≪神聖剣≫も一緒なのよね・・・」
「団長の無敵っぷりはもうゲームバランスを超えちゃってるよ。そして、団長と同等の実力があると噂されるオシリスさんの≪月光剣≫。正直、どっちが勝つかわからないよ・・・」
「そういえば、オシリスって誰だ?」
首をかしげながらアスナとルナに聞くキリト。その疑問にアスナとルナが簡潔に答えた。
「オシリスさんっていうのは、KoBのサポートをしてくれる人のことで特別顧問みたい人よ。新人の教育や並みのプレイヤーには入れないようなダンジョンについていろいろ取り計らってくれるの」
「私とアスナがコンビを組んで闘ったけどぼろ負けだったよ。巷では、≪流星≫なんて呼ばれて畏敬の対象になってるらしいよ。
基本的に攻略には参加してこないから、攻略組の人たちはあんまり知らないんだけどね」
「そ、そうなのか・・・」
アスナとルナの言葉に唖然とするキリト。しかし、そんなキリトを無視して口を開いた。
「・・・・・まあ、成るように成るさ。それじゃ、俺はこれで失礼するよ」
そういって、部屋を出て行くソレイユ。ルナが慌ててソレイユを追って出た。二人はエギルに一言声をかけ転移門に向かって歩いていく。歩きながらルナはソレイユに尋ねた。
「なにか秘策とかあるの?」
「まあ・・・それはお楽しみってことで」
「?」
ソレイユの真意をルナは理解できなかった。
どういう意味なのか聞こうとしたが、転移門にたどり着いたため話はそこまでにしてそれぞれのホームへと帰っていった。
後書き
ま、また、オリジナル要素が・・・orz
なぜだ・・・。なぜなんだ・・・。
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