剣の世界で拳を振るう
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やって来た依頼主
「へ?続編?マジで?」
どうも。片桐 拳士です。
あれから数時間後、同じ転生者である天海 優一にその後の話をしてもらっていた。
まぁ、俺は知らなかったのだが、優一が「GGOの準備してるか?」と言ったのが始まりだ。
続編があることなど全くもって知らなかった俺は絶望する事必死であった。
「もう結構な程に原作から隔離してるけど、多分起きるイベントだと思うよ?」
「いや、そんなこと言われてもな…」
「まぁほら、本来ならキリトが活躍するストーリーだしさ。
本来なら僕らが手を出すのはおかしいことなんだよ」
確かにそうかもしれない。
だが、ここまで原作をこじらせてしまったのは俺達の存在と俺が起こした行動のせいでもあるはずだ。
「そのGGOってのは知らないが、関わらないって言うのは何か違う気がするんだよ。
今までにもイレギュラーな展開が多々あった。
だからその件についてもなにかしら起きてもおかしくはないんだ」
「イレギュラー…マジで起こってるんだな………」
もしもそのせいでもキリトが死んだ手遅れになることは間違いないだろう。
「取り合えず一度家に帰って考えてくる。
また明日連絡するから番号教えてくれ」
「そうだね。了解だよ」
そう言って俺たちは携帯の番号を交換しあい、その場で別れた。
「ただいまっと…ん?」
帰宅してみると何時もより靴の数が多いことに気付く。
まぁ、簡単に考えて客なんだろうが珍しいことに変わりはない。
――――で、――――なら――――
――――私――――だ――――した――――
「親父?」
ふと、リビングから親父と母さんではない誰かが話しているのが聞こえた。
俺はそっとリビングに近づいて話を聞くことに。
「それでは彼次第と言うことで?」
「そうなることは必然と言えるだろう。
ましてや、拳士に無理を通したら何かしらの反発が来そうだ」
何だと失礼な。
余程理不尽なことじゃなければ引き受けたりしてやるさ。
「そうですか。
しかし、彼とキリト君ならば必ずや成功してくれると考えているのですが…」
「勿論だ。彼らは私が認めた数少ないプレイヤーだからね」
何の話?つーか親父の話相手、菊岡さんじゃん。
菊岡 誠二郎(きくおか せいじろう)
総務省総合通信基盤局高度通信網振興課第二分室(通信ネットワーク内仮想空間管理課:通称「仮想課」)職員だ。
俺と和人がSAOから帰還した際、真っ先に駆けつけたのがこの人で、SAOで起こった事柄を粗方話す事になった人物でもある。
「是非、彼が帰ってきたら話でも…」
「ふむ、大丈夫だろう」
…そろそろ入った方が良いのか?
余り長引かせると入りずらくなるし。
「ただいま」
「おや、お邪魔しているよ拳士君」
「お帰り拳士。
円くんならまだ帰ってきていない。
良かったら彼の話を聞いて待っていると良い」
白々しくも明るく出迎える二人。
この野郎…俺が居ることに気づいてやがったな。
「取り合えず、話を聞きます」
「助かるよ」
俺は菊岡さんに向かい合うように椅子に座る。
「さて、実はだね…」
そう言って菊岡さんは話し出す。
事の始まりは今年の11月14日に一人の男がアパートの一室で死んでいるのが見つかったらしい。
横たわる仏の頭部にはナーヴギアの後継機であるアミュスフィアが装着されていたそうだ。
「ん、別に珍しくはないと思うが…大方断食状態で潜りっぱなしだったとか?」
「確かにそう言ったケースも少なくはない。
しかし、この被害者は二日間だけログインしていたことが解っている」
……被害者?
「誰かに殺されたって事か?」
「話が早いね。だけど厳密には被害者かもしれないと言うことだよ。
彼の身体には外傷が見当たらなかった」
「……ならやっぱり栄養失調?」
「……彼のアミュスフィアにインストールされていたのは『ガンゲイル・オンライン』と呼ばれる物だが、知ってるかい?」
「いや、知らな………ああ、ついさっき知ったな」
正確には教えられたんだが。
優一。お前はエスパーか。原作知識ですね、はい。
「ガンゲイル・オンライン。通称GGOで、彼は10月に行われた最強王者決定戦に参加して優勝したらしい。PNはゼクシード」
「……最強、ね。
もしもそのゼクシードが殺されたのだとしたら加害者は恨みを持っていた線が高いな。
恐らくそれは現実ではなく仮想で」
「…ふむ。
死亡推定時刻から統計して、彼はその日にMMOストリームという番組に出演していたことが判明していてね…ここからが本題なんだが。
同時刻、GGO内で妙なことがあったとブログに書いていたユーザーがいてね…。
とある酒場にて問題があった時刻におかしな行動をしたプレイヤーがいたらしい」
「プレイヤー?
その行動って言うのは?」
「なんでも、テレビのゼクシード氏に向かって拳銃を向けて「裁きを受けろ」等と叫んで銃を発射したとの事だ」
「それで…当の本人は死んでいた、と」
「その通り。
その時偶々録音していたプレイヤーがいて、ネットにアップロードされていた。
銃を発射したプレイヤーは自らを死銃と名乗ったそうだ」
「死銃……デス・ガンねぇ…」
大層な名前だとは思う。だが、確かに人が死んでいる事には偶然とは思えない何かがある。
まさかとは思うが、転生者だったりするのだろうか…。
「実はもう一件あってね…こっちは11月28日。
やはりアパートの一室で男が倒れているのを配達屋が見つけた。
その男もやはりアミュスフィアを装着し、死亡推定時刻にはGGOにダイブしていたことが判明している」
「それもう偶然とかじゃないだろ。
うわぁ…面倒な案件だ。御愁傷様」
「あはは…確かに困った事態なんだが、上の方でもお手上げの状況でね。
解剖検査でも異常は見つからない始末なんだ。
そこで、後でキリト君にも聞くつもりだが…仮想世界で殺されたプレイヤーが現実でも死に至る。
そんなことがあり得ると思うかい?」
「思わないな」
即答で答えた。
当たり前だ。劣化とはいえ神様頭脳を持った俺の考えが『それはあり得ない』と告げている。
俺自身の考えも否定を示している。
「…理由を聞いても?」
菊岡さんは手を組んで俺を見据えている。
「SAOのデスゲームじゃあるまいし、アミュスフィアにはそんな機能も電磁能力も搭載されてない。
さらに言えばその最強の座に君臨したゼクシードが仮想で撃たれて死亡なんてのはプレイヤーの身体的感覚神経をもってしても起こり得ない事。
最強になるのであればその過程で確実に何回かはゲームオーバーを繰り返した筈だし、死にはしなくても撃たれた事は何度もあるはずだ。
それなのに今更撃たれただけで死ぬ何て事はまず無いことだと俺は思う」
「……なるほど。茅場……片桐氏と同意見だね。
となると現実での殺害となるわけだが…外傷の無いことは事実。
こればかりは調べようがなくてね…仮想世界で殺されたと考えるのが妥当であると上の方も満場一致なんだよ」
頭固すぎだろ総務省…。
少しは反対意見だせよ…。
「あー、大体分かった。要はそのGGOにダイブしてその死銃とやらに撃たれてこいって事でしょうに」
「いやぁー…あははは…」
この野郎…全然悪びれてやがらねぇ…。
何だその『あ、わかっちゃった?』見たいな顔は…。
「具体的にはどうすれば?」
「え!?受けるの!?」
「逆に受けてほしくないのか?」
「いやいやいや!まさか二つ返事とは思わなくて…んんっ!
厳密には死銃には拘りがあるようなんだ」
「…拘り?ウホッな感じか?」
「それだったらまだ良いんだけどね…。
件の被害者、ゼクシードとうすしおたらこはどちらも名の通ったプレイヤーだったんだ。
恐らくだが、死銃は相手が強くないと撃ってくれないんだよ」
何その拘り?
「兎に角、その強者であると言う点を挙げてログインをお願いしたい。
かの茅場氏が認めた君とキリト君ならば、必ずや成功してくれると信じている」
「まぁ、和人が受けるかどうかは置いといて。
お願いされたのならやり遂げるさ。何時でも何処でもそう言う生き方をしてきたんだからな」
「話は終わったかね?」
不意に扉が開く。
入ってきたのは親父と母さんだった。
「いや、そうじゃん。
親父はこの依頼受けないのかよ」
「残念ながら明日から私と円君は長期に渡る予定が入ってしまってね。
その依頼をこなすのは難しいと判断したのだよ」
ただめんどかっただけじゃないだろな?
「ふーん。
まぁ、余り根詰めすぎて倒れないようにな」
「あらあら拳ちゃん!心配してくれるの?かわいいー!」
「のわ!?やめろ恥ずかしい!」
抱きついてくる母さんを引き離しながらも俺は考える。
GGO。
優一が言っていた続編の中心となるゲーム名称。
記憶が曖昧でどんな内容かはあやふやらしいが、それでも情報を共有しない手はない。
俺は翌日真っ先に連絡しようと心に決めて、母さんを引き剥がすのに悪戦苦闘するのだった。
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