【腐】島国だから仕方がない。
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ハープニーングッ!
夕食が終ると、洗い物当番の菊はフェリシアーノとシンクの前に並んでいた。
「あとはお皿だけですね」
菊が洗剤を流してかごに入れた食器を、フェリシアーノが布巾
で拭いていく。そして思い出したように口を開いた。
「ねぇ、い・つ・の・ま・に、アーサーと仲良くなったの?」
そう言ってニッと笑われた。
(え……)
「そう見えますか?」
「うん!」
(『うん』って、全然そんなことないのですが…)
「アーサーさんとは、別に、時々ヴァイオリンの演奏を聞かせてもらうくらいで……」
「へぇ? 菊ってクラッシック好きなんだ」
「別に、特別に仲良いいわけではないですって」
まともに見上げた瞬間だったので、動揺が顔に出たのが全部、丸わかりになってしまう。
「まったまた~この俺にごまかしてもダメだよ。そんな赤い顔しちゃって」
「こ、これは…フェリシアーノ君が、変なこと言うからです」
顔をそれしてお皿の泡を流すと、楽しそうに笑われる。
「まぁ、そういうことにしといてあげる」
そう言ってウィンクまでしてみせた。
「だからですね…」
(やっぱり、何か誤解されてますね……)
全部の洗い物が終わると、菊はお湯を止めて手を拭いた。
「とにかく、きっとフェリシアーノ君が思っているような事ではないですからね?」
菊が念を押すと、『わかったわかった』と言って、フェリシアーノは布巾をフックにかけた。
「…アーサーってさ、ここに来るまで、ぜーんぜん楽しそうに笑ってなかったんだよ?」
「そうなんですか?」
「うん。俺たち小さかった頃は家が近くだったしさ。泊まりに行った時も、必要じゃなければリビングにいることもあまりなかったし。ご飯も家ではあまり食べてなかったしね」
フェリシアーノは乾いた食器を棚に戻しながら呟く。
菊もそれを手伝いながら首を傾げていた。
(そんな風には思えませんでしたが…)
アーサーがこの家にやってきて、歓迎会を開いた日。
縁側に隣同士で座りながら見せてくれたアーサーの笑顔を菊は思い出していた。
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そのあと、風呂に入ろうと渡り廊下を歩いていたときのこと。
(…あ、シャンプーのいい香り)
甘くて爽やかな香りが鼻をくすぐる。
(誰か、お風呂でも入ったのでしょうか…?)
そう思っていると、前からアーサーが歩いて来るのが見えた。
「あ……」
「あぁ……」
こちらに気づいたのか、今まで下に向いていた視線を上げる。
「お風呂ですか?」
濡れた髪を見れば一目瞭然なのに、当たり前のことを聞いてしまった。
「…そうだけど。今からか?」
「はい。洗い物当番だったので」
「それは、ご苦労様…」
アーサーはそう言うと、すれ違って自分の部屋の方へと向かう。
(…別に普通の会話ですし…特別仲がいいというわけではないと思うのですが)
あんなことを言われたからか、そんなことをつい意識してしまう。
アーサーが通った廊下には、甘い香りが残っていた。
(……もう、フェリシアーノ君があのような事を言うから)
シャツを脱ごうと手をかけながら、さっきの会話のことを考えていた。
と、その時――。
ノックの音と同時に声がかかる。
『…ちょっといいか?』
(この声、アーサーさん!?)
「は、はい。どうなさいました?」
まさかアーサーが戻ってくるとは思わなくて、少し戸惑いながら答える。
『まだ着替えてなかったらでいいんだが……』
「はい」
『ちょっと開けてもらってもいいかな…』
(え?)
あまりにも驚いたからか、言葉を返すのが1テンポ遅れてしまった。
「あ…はい。ええと……どうかされたんですか?」
菊は急いで脱ぎかけていたシャツの裾を下す。
『いや…忘れ物をしたみたいなんだ…』
(…忘れ物?)
辺りを見回してみるけれど、どれがそれなのかわからない。
「もし、教えてくださるならお渡しいたしますよ?」
『……』
急にドアの向こうが静かになる。
「あの、アーサーさん?」
『…ローションなんだ。棚にある』
「わかりました」
呟いて棚へ向き直る。けれど棚にはいくつものローションが置いてあり、どれだか見当もつかない。
「すみません、たくさんあるので…今開けますね」
そう言うと菊は脱衣所のドアを開けた。カチャリという音とともに、アーサーの顔が覗く。
その瞬間、ついさっきすれ違ったばかりの、甘い香りがふわっと立ち上がる。
(あ…)
「どうかしたか?」
ついジッと彼を見ていたからか、アーサーが不思議そうに尋ねる。
「先ほども廊下で思ったのですが…その香りはシャンプーですか?」
「…?」
アーサーは首を傾げる。
「すごくいい香りがするなと思ったので……シャンプーの香りなのか、香水なのか…」
すると彼はフッと微笑んだ。
「さぁ……どうかな」
曖昧な顔をして、棚の方へと移動した。そして菊の横に来て棚を見上げる。
まだ濡れている髪に、湯船から上がったばかりの上気した頬。
目当てのものを探しているために、上目遣い送る視線。
(すごい、色っぽい…)
菊は洗面台からどくのも忘れて、アーサーの顔に見惚れてしまっていた。
と、気がついたらアーサーがジッとこちらを見る。
目を離せずにいると、スッと長い指が下りてくる。
「…悪いけど…菊の後ろ」
言われてどこうとすると、アーサーがそのまま手を伸ばす。
「どかなくていい……そのままで」
彼のシャツが菊の頬に触れる。
顔を上げると、白い首筋と唇が目の高さの位置にある。
(わ……)
香りと彼の身体から発する体温がすぐ間近に感じられる。心臓がドキドキと大きな音をたてた。
そしてローションをつかむと、鼻のすぐ先という距離でささやく。
「ありがとう……これでもう、大丈夫」
「あ、はい…」
「邪魔したな」
まだ笑みが残る表情で脱衣所から出ると、アーサーはパタンっとドアを閉めた。
菊はへなへなと脱衣カゴに寄りかかる。
「心臓に悪いですって……」
そう呟くと、大きく息を吐いた。
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ポチャンッ……と、湯船のお湯が跳ねる。
菊はほとんど顔まで浸かり、先ほどのことを思い返していた。
(……アーサーさんって…無防備なのか、時々、ああいうことをしてきますよね)
「あんなに綺麗な顔して、あんなに近づかれたら……誰だって緊張するに決まってます…」
独り言が浴室に響く。
“…アーサーってさ、ここに来るまで、ぜーんぜん楽しそうに笑ってなかったんだよ?”
「……」
こちらを見て、フッと笑うアーサーの顔。
「たまたまですよ……」
菊はそう呟くと、ザバッと湯船から上がった。
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