FAIRY TAIL 天使の軌道
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第3話――天は地よりやってくる
パシンッ!パシンッ!と身が竦みそうになる音が、ジュウッと身の毛立つ音が聞こえる。
ここは特別懲罰房。
エルザがいる懲罰房が見せしめのために目立つ所に傷を負わせる所ならば、特別懲罰房は虫の息まで拷問を繰り返し、牢屋に戻し衰弱死をさせる目的の場所だ。
目の前で明確な死を見させれば奴隷たちも恐怖で働き逃げ出そうとも反抗しようとも思わないだろうと考え作られた。
今まで使われることはなかったが――
今はコハクに使われていた。
「もうウンともスンとも言わなくなったな」
「ああ、もう死んでんじゃね?」
「いい声で泣いてたのになぁ」
会話をしつつも、コハクを拷問するのを止めない。
コハクに押しつけ熱が冷めてきた鉄の棒を再び竈の中に入れ熱し、暇潰しとばかりに鞭を打つ。
コハクの体にはもうすでに隙間がないほどの怪我でおおわれていた。
鞭で打たれた後が変色し、鉄の棒を押しつけられた場所が焼きただれていた。
殴られたであろう顔は腫れ上がり、元々の端整な顔つきは見る影もない。
手足は在らぬ方向に折れていた。
逃げ出さないようにするためにやられたのだろう。
もう生きているのが不思議な状態である。
痛覚が麻痺したおかげなのか、それとも死が近づきすぎているのか、まるで他人事のような感覚でただ考えていた。
僕がやったことは間違っていたのか、と。
皆が笑うためにはここに居てはいけなかった。
だから脱走した。
コハクはただ皆に大切な仲間達に笑っていて欲しかったのだ。
笑顔が大好きだから。
でも、大人達に捕まったときに皆は笑っていたか?
否。
怯えていた。
捕まえにきた大人達が恐かったからだ。
奴隷として働いていた時皆笑っていたか?
否。
辛そうにしていた。
無理矢理働かさせられて、ろくな食べ物も貰えなかったからだ。
だから、逃げ出し、そして捕まった。
何がいけなかったのか、当然コハクに力がなかったからだ。
大人達から仲間を逃がす程の力がなかったからだ。
ならば、何が必要か。
当然力だ。
皆の笑顔をつくる力。
皆の笑顔を守る力。
欲しい。
心の底から欲しい。
皆を照らし守る暖かい力が。
だから、コハクは紡ぎだす。
己に秘められている力を。
その力があることをコハクは知らない。
けれど無意識に紡ぐ。
――――強大にして絶大な『天使の力』を。
「………カ……ル……」
「おっ、まだ生きていたみたいだぜ」
「丁度鏝も暖まったからな。
またいい声で泣いて貰おうか」
下種びたことを言いながら一人は鞭を打つ手を止め、もう一人は竈に入ってる鉄の棒を押しつける準備をする。
「……カマ……ル」
「ん?何か言ってるぞ」
「どうせ助けてくれーとかそんな感じだろ」
おちょくりながらも鉄の棒を準備するのを止めない。
とうとう準備が終わり、コハクへと押しつけようとしたその時。
「《灼爛孅鬼》(カマエル)」
重々しくはっきりと天使の名が告げられた。
ボゥッと炎がコハクの体から溢れだし、まるでコハクを守るかのように纏わりついた。
「な、なんだ!?」
「お、おい!?」
いきなりのことに大人二人は驚き慌てた声をあげる。
「おい!どうした!?」
牢の外から見張りをしていた大人二人も中にいる拷問をしていた二人の慌てた声を聞き、特別懲罰房の中を覗き、炎に包まれているコハクを見つけ驚きの声をあげる。
「やりすぎだ!みせしめにするのに炎をつけて燃やしてどうする!」
「ち、違う!こ、こいつが!いきなり燃えたんだ!」
「お、オレ達はなんもしてねぇ!」
「んなわけあるか!
とりあえず火消せ!
お前水もってこい!」
「おう!!」
牢の外にいる内の一人が慌てて走っていった。
「僕は、ただ笑っていたいだけなんだ。
みんなと一緒に。
だから、それをじゃまするなら――――こわすよ」
聞こえてきたのはまだ声変わりもしていない子供の声。
けれどその場にいる3人の大人たちはその声に恐怖した。
何故なら、炎の中から聞こえるのだから。
本来なら既に生きているのを諦めるほど荒々しく猛る炎。
その中から声が聞こえるという異常さに。
その声に3人の大人達の本能が脳内に警鐘を鳴らした。
危険だと。
ボゥッと再び炎が荒れ狂い、一瞬にして消えた。
そして姿を現したのは鞭で打たれた傷や顔の傷しかなく、鎖は熔けて外れ自らの足で立つコハクだった。
「《灼爛孅鬼》(カマエル)はこわいね」
無性にモノを壊したくなる、と小さく呟く。
そして、まぁ、それが天使の力を使う代償なのだから仕方がないか、と心の中で嘆息し、巨大な戦斧を肩に担ぐ。
大人でも持てそうにないほどの巨大な戦斧を軽々と担ぐ姿は、異様すぎて大人達を圧倒した。
「だから、ごめんね。
ここでこわれて。
僕たちのためにも」
戦斧を一振りする。
すると戦斧から炎がうねり大人達を襲った。
一瞬にして燃え広がる炎は大人達に悲鳴をあげさせないまま灰塵と化した。
牢の外にいる大人すらも。
「ごめんね。
うらみはなかったんだ」
言い訳でもするかのようにポツリと呟いた。
そのコハクの顔は悲しみと自責に彩られていた。
後書き
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