遊戯王GX-音速の機械戦士-
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仲間となったアマゾネスの小隊を引き連れて、三沢大地は覇王の軍勢の一勢力である、《闇魔界》の軍勢が支配している一角へと突入していた。仲間たちから情報収集を理由に別れた三沢が、どうしてこの地域に来たかというと、もちろん……親友を救うためだった。
黒崎遊矢。天上院明日香。二人の親友はこの異世界に送られた、という情報をキャッチした三沢は、情報収集と守りを一時タニヤに任せ、この岩の世界に来たのである。もはやレジスタンスしかいない状況ということで、すぐにでも闇魔界の軍勢と戦う心構えできたのだが、予想に反しそこには……何もいなかった。
闇魔界の軍勢にレジスタンスや囚われている人々、もちろん平和に暮らしている人々も、その世界には何もいなかったのである。三沢たちがアマゾネスの本隊からここに駆けつけるまで、それほど時間は経っていないにもかかわらず、である。つまり、闇魔界の軍勢は「撤退、ないし全滅した」という情報が伝達されるより早く、この異世界から姿を消したことになる……
それでも三沢は遊矢と明日香のことを探したが、見つけることが出来たのは怯える精霊のみだった。闇魔界の軍勢に対抗することが出来ず、岩に作った隠れ家に息を潜めていた生存者を見つけることが出来たが、その精霊たちの中には遊矢と明日香のことを知っている者はいなかった。
そして、彼ら生き残った精霊たちは一様に、『闇魔界の軍勢を焼き尽くす魔神とそれを従える男』を見た、と怯えていた。精霊たちが怯えているのは、今まで自分たちを苦しめていた闇魔界の軍勢の方ではなく……その、闇魔界の軍勢を焼き尽くした魔神の方だった。
その魔神は、闇魔界の軍勢を全滅させるとともに消えていき、それを従えていた男もまた、忽然と姿を消していたとのことだった……その男が遊矢なのかは、情報が少なく判断出来ない。人相が分かるほどに近づいた者は、みな魔神に焼き尽くされているからだ。
結局、三沢がその異世界で見つけられたものは1つだけで、アマゾネスの本隊へと戻ることに決定した。魔神を従えていた男が、どこに行ったかも分からない以上追跡も出来ず、本隊から離れすぎていては元も子もない。
「遊矢……明日香くん……」
唯一の手がかりとして手に入れた、この異世界に残っていた【機械戦士】たちを手に、三沢はアマゾネスたちと生存者を引き連れて、岩の異世界から脱出していった。
――そして、また別の場所で。覇王軍は更に勢力を拡大させていき、とある世界に本拠地を造り上げ、司令官である《覇王》本人が最前線で指揮を取っていた。自分たちの指導者が最前線で戦っている、という事実から覇王軍の士気は高まり、もはや誰にも止めることは出来なくなっていた。
各地で抵抗する決闘者たちは敗北し捕らえられてしまい、仲間を救い出そうと助けに行く者もまた、決闘者狩りの被害者へと変わるだけだった。捕まった決闘者はどこかに幽閉され、自分たちがどうなるか予想もつかずに、ただ怯えるのみ……
……そして、覇王軍が決闘者を捕らえていた目的だった《邪神教典》が遂に完成し、それによって得られた《超融合》と《邪神教典》そのものは覇王の手に献上された。よって、もはや決闘者を捕らえる必要も、捕らえた決闘者を放置しておく意味もない。
そして覇王軍の幹部である《熟練の黒魔術師》と《熟練の白魔導師》は、覇王から決闘者の処分を言い渡され、決闘者を捕らえた牢獄へと訪れていた。いかに決闘者と言えども、デッキが全て没収されている以上、二人の敵ではなく、せいぜい『狩り』を楽しませる獲物でしかない。
そしてせいぜい狩りを楽しむべく、見張りをしている下級モンスターに決闘者の牢獄に案内された二人の魔法使いが見たのは、悠々自適にデッキを弄る1人の人間の姿だけだった。
「なっ……!?」
「ん? ああ、ようやく来たのか。随分遅い到着じゃないか」
そう言いながら、白いスーツに全身を包んだ男はデッキを弄るのを止め、牢獄の扉を自分の家のように簡単に開けると、二人の魔法使いの前に立つ。そもそも、しっかりと鍵を掛けていた筈の牢獄の扉には、何ら拘束もされていなかったが。
「おい、どういうこと……だ……!?」
熟練の白魔導師は慌てながら、後ろにいる見張りの下級モンスターにこの事態を聞く。しかし振り向いたそこには、先程までいた筈の下級モンスターはおらず、代わりに青色の服を着た仏頂面の男が立っていた。
「覇王軍の幹部だな……話を聞かせてもらおうか」
混乱している幹部の魔法使いたちを尻目に、二人の人間はそれぞれデュエルディスクをセットしていた。魔法使いを逃がさないように、二人は挟み撃ちのような陣形を取った。
エド・フェニックスにカイザー亮。彼らもまた、友人を救うために異世界に訪れていた。
「どうした? 覇王軍の幹部とやらは、挑まれたデュエルも受けられないのか?」
「人間風情が……! 後悔するなよ!」
エドの挑発に、魔法使いたちも混乱を抑え、覇王軍のデュエルディスクを展開する。勝負は二対二のタッグデュエルの設定とし、魔法使いたちはそれぞれエドと亮の方を向き、デュエルの準備が完了する。
「タッグデュエルか。大丈夫か? カイザー」
「問題はない」
覇王軍の幹部である《熟練の黒魔術師》と《熟練の白魔導師》は、タッグデュエルを得意とする決闘者であり、二体で数多くの決闘者を捕らえてきた。そんな彼らの領分であるにもかかわらず、人間が余裕の表情を崩さないことにほくそ笑みつつ、四人は一斉にデュエルの開始を宣言する。
『デュエル!』
エド&亮LP8000
黒魔術師&白魔導師LP8000
「僕の先攻」
まず最初に行動するのはエド。デッキから引いた五枚の手札を眺めて、飄々とモンスターをデュエルディスクにセットする。
「僕は《D-HERO ダイヤモンドガイ》を召喚」
まず召喚されたのは、D-HEROの主力モンスターであるダイヤモンドガイ。そのステータスは少し頼りない数値であるものの、その効果はそれを補って余りある特徴的な効果。
「ダイヤモンドガイのエフェクト発動。デッキの一番上のカードをめくり、それが魔法カードだった場合、そのカードをセメタリーに送る。ハードネス・アイ!」
エドが引いたカードは魔法カード《D-バースト》。よって、D-バーストはダイヤモンドガイにより未来に飛ばされ、その発動を墓地にて待つ。
「更に永続魔法《D-フォーメーション》を発動し、カードを一枚伏せてターンエンド」
「私のターン、ドロー!」
エドの前に何やらランプが付いたカプセルが置かれるが、そのランプに電気が通っていないのか、ランプの光は灯らず消灯したままだ。黒魔術師はカードをドローしながら、その永続魔法を訝しんだものの、彼の手札に魔法カードを破壊出来るカードはない。
「私は《グリズリーマザー》を召喚!」
いつまで考えていてもしょうがない、と召喚したのは、魔法使いのイメージとは似ても似つかない青色のグリズリー。
「バトル! グリズリーマザーでダイヤモンドガイに攻撃!」
グリズリーマザーの攻撃力はダイヤモンドガイと同じで、黒魔術師に攻撃力を増減させるクイックエフェクトはないが、グリズリーマザーは破壊されることが仕事だ。狙い通り、グリズリーマザーとダイヤモンドガイは相討ちになると、グリズリーマザーはその効果を発動する。
「《グリズリーマザー》の効果を発動し、デッキから新たなグリズリーマザーを特殊召喚!」
水属性のリクルーターである《グリズリーマザー》が破壊されたことにより、デッキから新たなグリズリーマザーが特殊召喚される。再びフィールドに現れたグリズリーマザーは、その鋭利な爪をダイヤモンドガイが破壊されて無防備なエドに向ける。
「グリズリーマザーでダイレクトアタック!」
「リバースカード、《ガード・ブロック》を発動! 戦闘ダメージを0にし、カードを一枚ドローする」
しかしその攻撃は、エドの前に現れた大量のカードによって防がれた。さらに《グリズリーマザー》の攻撃を防いだ、カードの中の一枚がエドの手札に加わり、《D-フォーメーション》のランプが1つ点灯する。
「D-HEROが破壊された時、《D-フォーメーション》にDカウンターが点灯する」
「ふん……ターンエンドだ」
「俺のターン、ドロー」
エドの《D-フォーメーション》の効果発動宣言、黒魔術師のエンド宣言を経て、カイザーのターンへと移行する。黒魔術師が見せたカードは、未だ《グリズリーマザー》のみと、水属性ということしかデッキの情報はない。
「俺は《サイバー・ドラゴン・ツヴァイ》を召喚」
リクルーターである《グリズリーマザー》を破壊すれば、黒魔術師のデッキが少しは明らかになるか。亮はそう考えながら、まずは墓地の魔法カードを発動する。
「ダイヤモンドガイによって墓地に送られた、《D-バースト》の効果発動。カードを一枚ドローする」
かつて手痛い敗北を経験した亮が、そのキーカードであるダイヤモンドガイの効果を忘れるわけもなく、墓地の《D-バースト》の効果を適応して一枚ドローする。
「《サイバー・ドラゴン・ツヴァイ》は手札の魔法カードを公開することで、名を《サイバー・ドラゴン》とする。魔法カード《融合》を見せ、そのまま発動する!」
《サイバー・ドラゴン・ツヴァイ》の形状が、元となった《サイバー・ドラゴン》の姿に近づいていくとともに、出現した時空の穴に吸い込まれていく。フィールドの《サイバー・ドラゴン・ツヴァイ》に、手札の《サイバー・ドラゴン》が消えていき、再びフィールドに現れた個体は、二対の首を持っていた。
「融合召喚! 《サイバー・ツイン・ドラゴン》!」
二対の首を持った機械竜が手始めに融合召喚され、グリズリーマザーへと狙いをつける。
「《サイバー・ツイン・ドラゴン》で《グリズリーマザー》に攻撃。エヴォリューション・ツイン・バースト!」
「うぐっ……だが、グリズリーマザーの効果で再び《グリズリーマザー》を特殊召喚!」
黒魔術師&白魔導師LP8000→6600
《サイバー・ツイン・ドラゴン》のそれぞれの頭から放たれた光線に、伏せカードもない黒魔術師に防ぐことは出来ず、あっさりとグリズリーマザーは破壊されてしまう。再び《グリズリーマザー》を特殊召喚するものの、まだ《サイバー・ツイン・ドラゴン》の攻撃は終わっていない。
「サイバー・ツイン・ドラゴンは二回の攻撃が可能! エヴォリューション・ツイン・バースト!」
攻撃をリクルーターで凌ぎきったと、しっかり油断しきっていた黒魔術師に再び光線が襲う。もちろんまたもや《グリズリーマザー》は消し飛び、二人の魔法使いはその余波をくらう。
黒魔術師&白魔導師LP6600→5200
「チィ……《グリズリーマザー》の効果で、デッキから《メタル化寄生生物―ルナタイト》を特殊召喚する!」
デッキから《グリズリーマザー》が尽きると、新たに召喚されたのはスライム状の奇妙な生物。《グリズリーマザー》が尽きれば、自ずとデッキタイプは判断出来ると亮は踏んでいたが、未だにその全貌は掴めないらしい。
「これでターンエンド」
「私のターン! ドロー!」
《サイバー・ツイン・ドラゴン》の二回攻撃のみで亮はターンを終え、ターンは最後のプレイヤーである白魔導師へと移行する。白魔導師は勢いよくカードを引くと、即座に行動を開始した。
「私は《メタル化寄生生物―ルナタイト》をリリースし、《ホルスの黒炎竜 LV6》をアドバンス召喚!」
デッキタイプがはっきりしない黒魔術師とは対照的に、早くもそのデッキのキーカードとなり得るドラゴン《ホルスの黒炎竜》がアドバンス召喚される。ハヤブサの姿を模した銀色の竜が、炎とともにサイバー・ツイン・ドラゴンと対峙する。
「更に速攻魔法《月の書》を発動し、《サイバー・ツイン・ドラゴン》を裏側守備表示にする! バトルだ!」
攻撃力は《サイバー・ツイン・ドラゴン》の方が上だが、守備表示ならばそうはいかない。《月の書》によって強制的に裏側守備表示とされ、ホルスの黒炎竜の前から姿を消した。
「ホルスの黒炎竜 LV6、裏側守備表示のモンスターを破壊せよ! ブラック・フレイム!」
ホルスの黒炎竜 LV6が亮のフィールドを燃やし尽くし、セット状態の《サイバー・ツイン・ドラゴン》がそのまま破壊される。もちろん守備表示のため亮とエドにダメージはないが、ホルスの黒炎竜の効果が発動する。
「《ホルスの黒炎竜 LV6》が相手モンスターを戦闘破壊したため、ホルスがレベルアップ! 現れろ《ホルスの黒炎竜 LV8》!」
破壊した《サイバー・ツイン・ドラゴン》の力を奪い取り、ホルスの黒炎竜の力が増大しレベルアップを果たす。相手の魔法カードを封殺する、強力な効果を持つホルスの黒炎竜最終形態。
「カードを一枚伏せ、私はターンを終了する!」
「僕のターン、ドロー!」
白魔導師の布陣からして、そのデッキは典型的な【お触れホルス】。相手の魔法と罠を双方ともに封殺する、という強力なデッキであり、伏せカードも十中八九《王宮のお触れ》か。この布陣を1ターンで揃えるとは大した腕前だ、とエドは感心したが、同時にもうデッキの底が見えたと判断する。
「僕は《D-HERO デビルガイ》を召喚!」
赤黒いマントを纏った悪魔の名を冠したヒーローが、その名前を呼ばれたとともにホルスの黒炎竜の近くに出現する。
「デビルガイのエフェクト発動! 攻撃表示の時、相手モンスターを未来に飛ばして除外する! デステニー・ロード!」
「ホルス!?」
白魔導師の驚愕の声とともに、デビルガイの効果によって《ホルスの黒炎竜 LV8》は時空の穴に吸い込まれ、あっさりと除外されてしまう。数ターン未来に帰還する運命だが、エドはもちろんそれを許すことはない。
「ホルスが消えたことにより、僕は魔法カードを発動出来る。二枚の魔法カードを発動!」
《デステニー・ドロー》と《異次元からの埋葬》の二枚を発動し、手札交換と《ホルスの黒炎竜 LV8》の墓地送りを果たす。デビルガイの効果は、除外ゾーンにあるモンスターをフィールドに戻す効果であり、《異次元からの埋葬》で墓地に送られた時点で帰還は不可能になる。
「カードを一枚伏せ、ターンエンド」
がら空きになったフィールドにダイレクトアタック、といきたいところだが、デビルガイのデメリット効果でバトルフェイズを行うことは出来ない。敵のキーカードであるホルスを処理出来たと思えば、それぐらいは安いものだ。
「私のターン、ドロー!」
そしてホルスを失った黒魔術師のターンに移ったが、黒魔術師はそのドローに表情を歪ませた。
「私は永続魔法《前線基地》を発動! 手札の《メタル化寄生生物―ソルタイト》を特殊召喚!」
発動された永続魔法《前線基地》の効果は、1ターンに一度だけユニオンモンスターを特殊召喚すること。その効果により、先程《グリズリーマザー》の効果で特殊召喚されたルナタイトとは対をなす、《メタル化寄生生物―ソルタイト》が特殊召喚される。
「さらに墓地の水属性《グリズリーマザー》を除外し、手札の《フェンリル》を特殊召喚し、ソルタイトをユニオン!」
水属性の《グリズリーマザー》を墓地に除外することで、時空の穴から狼のような獣が飛び出す。すると、《メタル化寄生生物―ソルタイト》がその獣を覆うと、鎧のように変化していく。ただ鎧のような姿になっただけでなく、質感や硬さまでもが本当の鎧のようだった。
「そして現れろ、我が決闘を支配するウィザード! 《ミラクル・フリッパー》!」
何とも大げさなセリフを口にしながら、かの《ブラック・マジシャン》に似た魔法使いの少年が召喚される。現時点では何の効果も発動せず、そのまま黒魔術師は二体のモンスターで攻撃を開始する。
「バトル! いけ、ミラクル・フリッパー! デビルガイに攻撃せよ!」
「……迎撃しろ、デビルガイ! デステニー・ロード!」
黒魔術師は雄々しく攻撃宣言を行うが、《ミラクル・フリッパー》の攻撃力は僅か300。デビルガイの攻撃力も高いとは言えない数値だが、それでもミラクル・フリッパーを易々と処理出来る程度の攻撃力はある。ミラクル・フリッパーが放った魔術を、デビルガイがあっさりとマントで跳ね返すと、ミラクル・フリッパーは自身の魔術に当たって破壊される。
黒魔術師&白魔導師LP5200→4900
「ふふふ……さらに、フェンリルでデビルガイに攻撃!」
「くっ……」
エド&亮LP8000→6900
《ミラクル・フリッパー》が返り討ちになっても、黒魔術師は変わらず不敵に笑いながら、続いてフェンリルに攻撃を命じる。《メタル化寄生生物―ソルタイト》が装着され、さらに鋭さを増したフェンリルの爪が、デビルガイの身体を抉って破壊する。
「……だが、《D-フォーメーション》に新たなカウンターが乗り、さらにリバースカード《デステニー・シグナル》! デッキから新たなD-HEROを特殊召喚する!」
だが、攻撃力が低いデビルガイを放置しておいたのは、もちろんエドが誘いの罠を張っていたからだ。しかし、2つのランプが点灯しきった《D-フォーメーション》はともかく、《デステニー・シグナル》の発動を期待してはいなかったが。
「ふん、白魔導師が伏せた《王宮のお触れ》を発動! 罠カードを封殺する!」
やはり《王宮のお触れ》か――と考えながら、エドは効果を無効にされた《デステニー・シグナル》を墓地に送ると、エドのフィールドに新たなモンスターが特殊召喚された。特殊召喚された、といってもそれはエドの意志ではなく、勝手に特殊召喚されたのだが。
「ふふふ……《ミラクル・フリッパー》は戦闘破壊された時、相手のフィールドに特殊召喚される。カードを一枚伏せ、ターンエンド」
《グリズリーマザー》しか召喚しなかった1ターン目とは違い、黒魔術師は《フェンリル》に《メタル化寄生生物―ソルタイト》、永続魔法《前線基地》に白魔導師の《王宮のお触れ》と大きく動いた。そしてエドと亮のフィールドには、黒魔術師の召喚した《ミラクル・フリッパー》に、カウンターが最大まで貯まった《D-フォーメーション》がある。
「俺のターン、ドロー……!?」
黒魔術師から亮へとターンが移り、フィールドを俯瞰した後、まずはドローフェイズが始まるが、デッキに電流が走りドローが封じられる。
「《フェンリル》が相手モンスターを戦闘で破壊した時、次の相手のドローフェイズはスキップされる!」
「なるほどな……」
亮はその言葉を聞いてあっさりとドローを諦めると、自分たちのフィールドにいる《ミラクル・フリッパー》のことを見つめる。戦闘破壊することで相手のドローを封じる《フェンリル》に、戦闘で破壊されることで相手フィールドに特殊召喚される《ミラクル・フリッパー》のコンボにより、恒久的に相手のドローを封じることが出来る。どなれば、自分のフィールドにいる《ミラクル・フリッパー》の排除が最優先だが、相手のモンスターを破壊することならともかく、自らのモンスターを破壊するという手段は限られる。
ならば全体破壊の魔法や罠カードを使いたいところだが、そこを【お触れホルス】使いのタッグパートナーがサポートする。魔法・罠・ドローという3つを封殺し、相手フィールドにいる《フェンリル》を破壊しようにも、身代わり効果を持つ《メタル化寄生生物―ソルタイト》が装備されている。
つまり、黒魔術師と白魔導師のデッキは【フェンリルハンデス】と【お触れホルス】の合わせ技。《ミラクル・フリッパー》に《フェンリル》と《王宮のお触れ》がある以上、あとは《ホルスの黒炎竜 LV8》がフィールドに現れれば、魔法までもが封殺され、魔法使いたちのコンボは完成する。
「俺は《サイバー・ヴァリー》を召喚する」
小型のサイバー・ドラゴンタイプのモンスターが召喚され、《ミラクル・フリッパー》へと絡みつく。それを2人の魔法使いは怪訝な表情で眺めていたが、亮は即座に《サイバー・ヴァリー》の効果の発動を宣言する。
「《サイバー・ヴァリー》の効果を発動。このモンスターともう一体を除外することで、二枚のカードをドローする」
発動するのは《サイバー・ヴァリー》第二の効果。《サイバー・ヴァリー》の他に除外するのは、もちろん小さな魔法使いこと《ミラクル・フリッパー》。サイバー・ヴァリーとミラクル・フリッパーが揃って消えていき――
「甘い! 速攻魔法《禁じられた聖杯》を発動! その効果を無効にする!」
「……くっ」
――そのまま二体はフィールドに残る。《サイバー・ヴァリー》は《ミラクル・フリッパー》に巻きつくのを止めると、攻撃表示のまま小さな魔法使いとともに並び立った。第二の効果のリリースが発動コストであれば、《ミラクル・フリッパー》だけでも処理することが出来たものの、《サイバー・ヴァリー》のリリースは効果のため元のままだ。
「《ミラクル・フリッパー》を守備表示にし、ターンエンド」
「私のターン! ドロー!」
結局、亮にそのターンで出来ることは、《ミラクル・フリッパー》を守備表示にすることのみだった。手札コストがかさむ《融合》を主軸にするサイバー流にとって、ドローロックは非常に痛手となってしまう。
「《ホルスの黒炎竜 LV4》を召喚し、魔法カード《レベルアップ!》を発動! デッキから《ホルスの黒炎竜 LV6》を特殊召喚する!」
そして《フェンリル》と《ミラクル・フリッパー》のコンボが決まったことにより、強気になった黒魔術師はやはりホルスの黒炎竜を展開する。一瞬だけ現れた幼生体はすぐさまレベルアップを果たし、フィールドには再び《ホルスの黒炎竜 LV6》が特殊召喚される。
「さらに! もう一枚の《レベルアップ!》を発動! LV6を進化させ、現れろ《ホルスの黒炎竜 LV8》!」
もう一枚の《レベルアップ!》を高々と掲げながら発動し、あっさりとホルスの最終形態である《ホルスの黒炎竜 LV8》へと進化を果たす。その登場によって2人の魔法使いのコンボは完成し、狙い通り亮とエドは魔法・罠・ドローを封じられることとなった。
「バトル! まずは《フェンリル》で《ミラクル・フリッパー》に攻撃!」
《フェンリル》はあっさりと《ミラクル・フリッパー》を破壊し、《ミラクル・フリッパー》は霧のように姿を消していく。このバトルフェイズ終了と同時に、再びその姿を再構築させるだろう。
「続いて、ホルスでその攻撃力0のモンスターに攻撃! ブラック・メガフレイム!」
「《サイバー・ヴァリー》が攻撃される時、このモンスターを除外することで、バトルフェイズを終了させ一枚ドローする」
攻撃力0といえども、《サイバー・ヴァリー》にはまだ効果が残っている。先程が第二の効果ならば、この効果は第一の効果。自らを犠牲にし、バトルフェイズの終了と一枚のドローに変換する。
そして《サイバー・ヴァリー》が消えた代わりのように、バトルフェイズが終了したことにより、エドたちのフィールドに《ミラクル・フリッパー》が特殊召喚される。霧のようになっていた身体が再構成され、小さな魔法使いがホルスとフェンリルの前に立ちはだかった。
「チィ……私はこれでターンエンド!」
黒魔術師は、その《サイバー・ヴァリー》の抵抗に対し、見るからに苛立たしいように顔をしかめる。だが、自分たちのコンボが完成したフィールドを再確認すると、薄ら笑いを浮かべながら次にターンが移行するエドを眺める。
「次は君のターンだが……ふふふ。《フェンリル》の効果によりドローフェイズはスキップされる」
「確かにドローは出来ないが……新しい運命を引き寄せるまでもなく、既に運命は決定している!」
エドの言葉とともに、そのデュエルディスクの墓地が光り輝いた。運命を司る英雄の名は伊達ではなく、たとえドローが出来なかろうと、戦うための戦術は未来に用意されていた。
「セメタリーの《D-HERO ディアボリックガイ》のエフェクトを発動! このカードを除外することで、デッキから同名モンスターを特殊召喚する!」
先のターンに《デステニー・ドロー》の効果で墓地に送られていた、ディアボリックガイが幻影のように姿を消すと、デッキから突如として同じ姿をしたモンスターが姿を現す。現れたディアボリックガイは、まさしく悪魔のような形相を呈していた。
「さらに《D-HERO ダイハードガイ》を召喚!」
新たなD-HEROがフィールドに召喚されたことにより、《ミラクル・フリッパー》に《D-HERO ディアボリックガイも併せ、エドのフィールドに三体のモンスターが揃う。
「三体のモンスターをリリースすることで、このモンスターは特殊召喚出来る! カモン、《D-HERO Bloo-D》!」
「ミラクル・フリッパーが!」
白魔導師の驚愕の声を背景に、三体のモンスターがフィールドに現れた血の池に沈んでいき、その池がマントのように変化していく。そして、そのマントを羽織るように究極の『D』――Bloo-Dがフィールドに現れた。
「そこまで封じるのなら、リリースも封じるんだったな」
「ぬぅ……」
――最も、リリース封じとしてポピュラーな《生け贄封じの仮面》は罠カードのため、自身の《王宮のお触れ》で無効にされてしまうのだが。
「Bloo-Dのエフェクト発動! 相手モンスターを一体装備し、そのモンスターの攻撃力の半分を奪う! クラプティー・ブラッド!」
「また……ホルスが!」
血のマントから放たれた触手によって拘束され、《ホルスの黒炎竜 LV8》はBloo-Dに吸収されていく。レベル8まで進化したホルスの攻撃力は3000のため、Bloo-Dの攻撃力はその半分の数値である1500ポイントアップし、3400ポイント。
「バトル。Bloo-Dでフェンリルに攻撃、ブラッディ・フィアーズ!」
黒魔術師&白魔導師LP4900→2900
「ううっ……だが、フェンリルに装備された《メタル化寄生生物―ソルタイト》のユニオン効果を発動! このカードを墓地に送り、フェンリルの破壊の身代わりとなる!」
ユニオンモンスター共通の身代わり効果。Bloo-Dから発せられた血の針を、鎧のようになっていた《メタル化寄生生物―ソルタイト》が防ぎきり、何とか本体の《フェンリル》は無事で済んだ。
「フェンリルさえ残っていれば、まだどうとでもなる……!」
「ハッ、それはどうかな? セメタリーの《D-バースト》のエフェクトを発動!」
最初のターンにダイヤモンドガイの効果で墓地に送っていた、通常魔法カード《D-バースト》。その効果は、装備カードをコストに一枚ドローする効果と――もっとも、ダイヤモンドガイの効果でコストは無視されているが――カードを装備したモンスターが相手モンスターを破壊した時、墓地のこのカードを除外することで、攻撃力1000ポイントを下げ、もう一度攻撃を可能にする効果。ホルスがBloo-Dの装備カードと成り下がった今、2人の魔法使いにその魔法カードを無効にする手段はない。
……ホルスがいたところで、Bloo-Dによって効果は無効にされているが。
「セメタリーの《D-バースト》を除外し、Bloo-Dによる二回目のアタック! ブラッディ・フィアーズ!」
「うぉぉっ……フェ、フェンリルまでも……!」
黒魔術師&白魔導師LP2900→1900
ドローロックという強力な効果を持っていようが、ステータスは下級モンスターの平均にも満たない。予想だにしていなかった二回攻撃に、一度の攻撃で限界を迎えていた《フェンリル》に耐えきれる訳もなく、あっさりと血の針に串刺しにされ大地に力なく横たわる。
「バトルフェイズ終了後、Bloo-Dの攻撃力は元に戻る。ターンエンドだ」
バトルフェイズは終了したものの、戦闘破壊された訳ではないので、もちろん《ミラクル・フリッパー》は蘇生しない。フィールドにいるモンスターは、エドのBloo-Dのみとなった。
「わ、私のターン……」
コンボが完成し、先のターンまで盤石だった魔法使いたちのフィールドには、もはや《前線基地》と《王宮のお触れ》にしか残っていなかった。そして《フェンリル》によるロックに特化した黒魔術師のデッキに、Bloo-Dに対する対抗策など用意出来るはずもなく。戦闘補助のカードならば投入しているが、肝心のモンスターであるフェンリルが破壊されてしまっている。
「……私は《前線基地》の効果を発動! 手札から《メタル化寄生生物―ルナタイト》を守備表示で特殊召喚!」
Bloo-Dによってフィールドの効果は無効にされているが、手札を対象とする《前線基地》や『ユニオン』というルール自体を無効にすることは出来ない。特殊召喚された、銀色の蛇のようなモンスターが守備の態勢をとる。
「さらに装備魔法《ミスト・ボディ》を装備し、ターンエンド……」
装備モンスターに戦闘破壊耐性を付与する装備魔法、《ミスト・ボディ》が《メタル化寄生生物―ルナタイト》に装備される。その場しのぎの手にすぎないが、それでもBloo-Dに対応して守備を固められるのは、流石は覇王軍の幹部といったところか。
「装備魔法、か……」
「……俺のターン、ドロー!」
エドが小さく呟いた後、亮が今度こそ《フェンリル》に妨害されずにカードをドローする。
「俺は《プロト・サイバー・ドラゴン》を召喚」
どこか2人の魔法使いのフィールドにいる、《メタル化寄生生物―ルナタイト》に似た、旧型のサイバー・ドラゴンタイプのモンスターが召喚される。そして、その召喚に反応するかのように、今まで沈黙していた《D-フォーメーション》が大きく点灯した。
「《D-フォーメーション》の効果を発動。Dカウンターが二つ乗ったこのカードを墓地に送ることで、召喚したモンスターと同名モンスターを、デッキか墓地から手札に加える」
破壊された、ダイヤモンドガイとデビルガイの力がこもった《D-フォーメーション》が自壊していき、二枚のカードがデッキから亮の手札に加えられる。召喚したモンスターと同名モンスターのため、もちろん今召喚された《プロト・サイバー・ドラゴン》が二枚――ではない。
「《プロト・サイバー・ドラゴン》は、フィールドにいる限り《サイバー・ドラゴン》として扱う。よって、俺はデッキから《サイバー・ドラゴン》を二枚、手札に加える」
――そして発動される。
「魔法カード《パワー・ボンド》を発動! 三体の《サイバー・ドラゴン》を融合し、《サイバー・エンド・ドラゴン》を融合召喚する!」
手札に加えられた二枚の《サイバー・ドラゴン》と、フィールドにいるサイバー・ドラゴン扱いの《プロト・サイバー・ドラゴン》を融合召喚し、カイザー亮の切り札が出現する。いや、ただ出現するだけではなく、機械族の究極の融合カード《パワー・ボンド》によって融合召喚されたため、その攻撃力は元々の攻撃力は倍となる。
「《パワー・ボンド》によって融合召喚されたため、《サイバー・エンド・ドラゴン》の攻撃力は倍の8000となる。さらに、《サイバー・エンド・ドラゴン》は貫通効果を持っている」
そんな亮の残酷な言葉に、ただでさえ圧倒されていた2人の魔法使いは戦慄する。もはや2人を守るのが守備力500の《メタル化寄生生物―ルナタイト》のみであり、《ミスト・ボディ》など何の役にもたたないと考えれば……それも当然である。
2人の魔法使いの戦意が完全に喪失し、どうやって逃げるか辺りを見渡しているのを見て――もちろん逃げださないように、最初から挟み撃ちにしていたわけだが――エドはデュエルディスクを下ろし、彼らにこう言ってのけた。
「僕たちも鬼じゃないし、助けてやらんでもない……僕たちにとって有意義な方はな」
それからは早かった。所詮は『覇王』という力の象徴に従ってきただけだからか、忠誠心はあっても自らの命を捨てるほどではない。幹部としての立場故に手に入る情報から、信憑性の欠片もない話、命乞いまで2人の魔法使いは競うように行っていく。
「なるほどな……」
2人の魔法使いの話をざっと聞き終わると、エドはそう1人ごちる。亮は何も言わなかったものの、時折思索に耽るように眉間に皺を寄せていた。
「じゃあ……」
「ああ、せめて苦しまないようにしてやる。サイバー・エンド・ドラゴン!」
2人の魔法使いに対して亮はそう言い残すと、自らの切り札に対して攻撃を命じる。黒魔術師と白魔導師の残りライフは1900で、《メタル化寄生生物―ルナタイト》の守備力は500、貫通効果を持つ《サイバー・エンド・ドラゴン》の攻撃力は8000と――結果は考えるまでもない。
「《メタル化寄生生物―ルナタイト》に攻撃。エターナル・エヴォリューション・バースト!」
黒魔術師&白魔導師LP1900→0
「覇王十代、か……」
覇王軍の幹部である、《熟練の黒魔術師と《熟練の白魔導師》を事も無げに始末した後、エドと亮は隠れ家に戻って情報を整理していた。主に、散り散りになった仲間たちの情報を集めていたが……芳しくない。
居所がはっきりしているのは、反乱軍と行動を共に……いや、反乱軍の司令官となっているオースチン・オブライエンに、アマゾネスと協力している三沢大地。……そして、覇王と呼ばれて侵攻を止めない十代の三人ぐらいだ。
十代とともに行動をしているはずの仲間たちは、信じたくはないが……覇王軍に囚われて消滅した、という情報もある。その中には亮の実弟である翔も交じっているが、エドはそのことについては、亮が言わない限りは触れないようにしていた。
「やはりオブライエンとの合流か。それでいいか、カイザー?」
「ああ、異論はない」
2人の魔法使いと戦った牢獄に囚われていたデュエリストも、今の隠れ家にしている館に隠れてもらっている。彼らを引き連れて、反乱軍の指揮をしているオブライエンと合流するのがやはりベストか。アマゾネスといる三沢よりそちらの方が近いので、翔を始めとするメンバーがいるならそちらか。
……ただ、この異世界に来た目的であった人物の情報は、何も得ることが出来なかった。ヨハン・アンデルセン、天上院明日香、そして――
「遊矢……お前はどこにいるんだ……」
後書き
次話から遊戯王GX-運命の英雄-が始まります(嘘)
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