エクシリアmore -過ちを犯したからこそ足掻くRPG-
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第四十三話 イミテーションの叛逆-碧-
/Alvin
骸殻とかいうのを使ってる姿のユースティアが、フェイを横抱きにしたまま仄かに笑んだ。
「ただいま。アル、ジランドおじさま」
「ユースティア……?」
「ユティっ!」
フェイを下ろして空手になった彼女へと駆けてって、俺はユースティアを抱き上げた。細くて軽い。いつもと変わらない重さ。いつもと同じ、拒まない彼女。
信じられねえ。でも、現実なんだよな。
「前に話したでしょう? ワタシの一族にはパラレルワールドを渡る力があるって。フェイ姉を連れて分史世界に避難したの。正直、それだけのために世界を一つ消すなんて、本当にヒドイ所業だと思うけど。おかげで大事な導が手に入った。ここが脱出点になったのは、壊した時に近くにいたからだと思う」
「難しい話は後だ。……よかった。本当に」
鳩尾にすり寄るように抱き締めると、ユースティアも俺の頭を抱え込んで撫でた。
満足して、ユースティアを下ろす。
フェイは……あっちはあっちで盛り上がってら。
よかったな、ヴィクトル。俺もこれでクレインとローエンのじーさんにいい報告ができるぜ。
/Victor
「おいっ!」
「ヴィクトルっ! フェイですよ、フェイ!」『生きてたんだー! わーい!』
ユースティアが横抱きにしていたフェイリオを地面に下ろした。
プラチナクロークの袖と裾を翻しながら、フェイリオはこちらに走ってくる。
足が、口が、勝手に動いていた。
「……っフェイ!」
「パパぁ!」
胸に飛び込んだ娘をしっかり受け止め、きつく抱く。
ああ、体温が、感触がある。確かにここに居る。
「……ユティちゃんがね。ジルニトラが潰れる寸前に、フェイを分史世界に連れてってくれたの」
ユースティアが?
「おかげで全然違う場所に出て、わたしもユティちゃんもケガしなかったんだよ。でも、戻るのには時歪の因子を壊さなきゃいけなくて、時間、かかっちゃって。ごめんなさい」
いい。今はいいんだ。無事だっただけで。またこの手に抱けただけで。
アルヴィンたちのほうでも、ユースティアとの再会を喜ぶ声が聞こえる。
これでやっと元通りだ。望んだ全てが今、揃った。今なら相手がミラだろうがミュゼだろうが負ける気がしない。
すると、ユースティアがアルヴィンの腕を離れて、骸殻のままフリウリ・スピアを正眼に構えた。刃先にいるのは、ミラとミュゼ――「使命」に縛られた痛ましい姉妹。
「ワタシたち二人には、クルスニクに代々伝わる『鍵』の力がある。二人分使えばアナタたちの消滅なんてカンタン」
ユースティアはフリウリ・スピアを軽く傾ける。刃に光が反射し、その鋭利さを誇示するように光った。
「これは最初で最後の警告。消されたくなかったら〈次元刀〉の譲渡を。呑めないなら、武器を持って挑んでくればいい。負けない、から」
「――いいだろう」
あのミラが下がった!? どんな悪条件でも我を貫くミラが、こんな稚拙な交換条件に応じた? 信じられない。そんなにもオリジンの「無」の力は脅威なのか?
「そら。持って行け!」
ミラが次元刀を天へと投げる。青白いオーラを放つ剣は回りながら放物線状に落ちてきて、我々の前に突き立った。
任務で〈道標〉として回収した時はミュゼを殺す形でだったから、武器としての見てくれは知らずに終わった。
悩み苦しんだ若い頃の初仕事。それがこんなにも容易く手に入った。
ハ、どんな皮肉だこれは。
「それを持ってここから去るがいい。今回は君たちに譲ろう。だが忘れるな。時空を裂く力も、それを揮う私も健在だということを」
――諦める気は更々ないわけだ。
地面に突き立った次元刀を抜く。使い方は分からないが、これで空間を切ればいいことくらいは分かる。
軽く振り上げて、縦一文字に振り下ろした。
宙に黒い裂け目が開いた。裂け目の向こうに見える景色は、ニ・アケリア霊山の山頂だ。
「一時撤退だ。今はこちらに分が悪い」
皆が浮かべた表情には諸々の種類があったが、帰るという選択には誰も異を唱えなかった。
フェイリオの手を取った。手袋越しに伝わる体温に、ひどく安堵する自分を、不思議に思いもしなかった。
フェイリオと手を繋いだまま、二人で次元の裂け目に飛び込んだ。
後ろからアルヴィンたちも続いたのが気配で分かった。
次に足を着けていたのは霊山の山頂。雨はやんでいた。
ふり返れば、次々に次元の裂け目から出てくる仲間たち。特にユースティアがアルヴィンとジランドの真ん中で二人と腕を組んでいたのは、さすがというか、ちゃっかりしているな、君。
/Eustia
やるわけないとは思ったけど、念のため、後ろからの奇襲を警戒して、骸殻はニ・アケリア霊山に戻るまで装着しっぱなしにしてた。霊山に戻って、すぐ骸殻を解いた。
フェイ姉が衣替えしたから、ワタシも、分史世界で調達したミスリルクロークに着替えたんで。
ワタシの前には、大好きなアルと、大好きなジランドおじさまがいる。嬉しい気持ちが止まらなくて、にやけちゃった。
半分アルに、半分ボスに引っ付いて、頭を押しつけた。ああ、この人たちだ。
「またアルフレドとジランドおじさまに会えて、よかった」
ハグはなかったけど、ボスが頭に手を置いて髪をぐしゃぐしゃした。ボスの後ろでセルシウスが呆れた苦笑。
――さて。アッチはアッチで騒がしい。
『フェ~イ~~~~っっ』
「うひゃあ!」
ティポとエリーゼのタックルでひっくり返るフェイ姉。
「フェイ、本当にフェイです…よかった、フェイ…」
「うん。心配かけてゴメンネ。エリー」
『本当だよー! みんな心配したんだからなー! わーん!』
「アリガトウ。嬉しいよ」
フェイ姉の笑みは空々しいけど、誰も気づかない。エリーゼもイバルも人生経験値が足りてないネ。
分史に避難してから、時歪の因子を探すまでに散々話した。ワタシの『番外分史』とフェイ姉の〈妖精分史〉の違い、差。そして、断界殻を開いたら、フェイ姉、そして叔父貴がどうなってしまうか。
一度アルたちから離れて、叔父貴に歩み寄った。
「ヴィクトル」
ルドガーって呼ばれるのはイヤかもしれないから、念のためこっちの呼び方で。
右目だけが赤くて、髪を長くしても隠せてない、右頬の時歪の因子化。覚えてる。ワタシの『番外分史』でも『エル姉』がそんな顔をしてた。
「これからを考えて、アナタに見せておきたい物が、ある」
クロークの胸元を緩めて、常時大事に持ち歩いてたモノを出して、よく見えるように差し出した。
「『海瀑幻魔の眼』、『箱舟守護者の心臓』。これがワタシが集められた『カナンの道標』よ」
「! ユースティア、君は――」
返事は聞かない。ワタシの因子化が進んだのもコレを探してたせいだなんて気づかせない。
黒い叔父貴の手に強引に二つの『道標』を握らせる。
「とーさまは最期まで、アナタの生と幸せを願ってた。とーさまだけじゃない、アルおじさまも。オトナになったアナタの仲間たちも。忘れないで、ルドガー。いつでも、どこにいても、ユリウスたちはアナタを愛してる。アナタは独りじゃない」
ワタシを見下ろす、翠と赤の両目。イヤでも思い出してしまう。その翠はルドガーの、エルの、瞳の色と同じだから。
背を向けてボスたちのとこに戻った。セルシウスが一番に声をかけてきた。
『よかったのか? 大事な物なんだろう?』
「いいの。いずれ返してもらうから」
セルシウスを見上げた。当のセルシウスは疑問顔。今はそれでイイの。
ワタシは鍵と槍で、ジランドおじさまは源霊匣で、表と裏からエレンピオスを救う。
叔父貴にだってジャマさせはしないわ。断界殻を開いて、叔父貴とフェイ姉には消えてもらう。
後書き
あくまで冷たい判断を基準に行動するユティなのでした。
しかし、ユティはかつて、ぎりぎりになってユリウス殺しをやめた過去があります。最終局面でユティがどう出るかはまだまだ分かりませんよ~?^m^
そしてここでもついに悟った兆候が表れたフェイです。ヴィクトルは覚悟完了していますが、果たしてフェイはどうでしょう?
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