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エクシリアmore -過ちを犯したからこそ足掻くRPG-

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第四十二話 イミテーションの叛逆-紅-

/Victor


 そこからはイバルの言った通り「くり返し」だった。
 何度マクスウェルから大技を食らっても、意地だけで立ち上がり、また武器を取った。
 人生でこれほど、一度の戦闘で骸殻を連続して使ったことはないかもしれない。


 もう何度目か。私たちが地に伏し、また立ち上がった時だった。

 マクスウェルは眉根を寄せて目を閉じ、そして開いて我々を見下ろした。

『……断界殻(シェル)を解こう』

 真っ先にアルヴィンが「マジか!?」と反駁していた。

『断界殻を解けば、断界殻を形成していた膨大なマナを世界中に供給することができる。さすればしばらくの間、世界中の精霊を守ることができるだろう。数年……いや、長ければ数十年の猶予は稼げる』

 これに大きく反応するのは当然、エレンピオス勢だ。

『マスターっ』
「ああ。それだけ時間があればお前らの開発と普及には充分だ」
「じゃあエレンピオスの人と精霊も大丈夫なんですねっ」『やったー! バンザーイ!』

 メンバーのほとんどが喜びに沸き、すっかり緊張を解いていた。私でさえ、ようやく最大の目標を達成できるという事実に気が緩んでいた。


「人と精霊の守護者たる貴方が、自ら役目を放棄するのか」


 凛と響き渡った、女の声。

「ミラ様……」

 ミラと、彼女の後ろに従うのは、ミュゼだ。
 何故このタイミングでミラが乱入する? しかも対立していたはずのミュゼを従えて。

『移ろいやすい人の心と歴史に振り回されるのは、いい加減疲れた。私が消えた後のことはそなたに任せよう。好きにするがよい。そなたは晴れて本物だ、ミラ=マクスウェルよ』
「そうか。ならば私は新たなマクスウェルとして、使命を果たそう」

 まるでその台詞を合図にしたように。
 空に穴が開き、ミュゼが中から〈クルスニクの槍〉を召喚した。




「仕方なかったのです……だって、貴方は私を導いてくれませんもの」
『ミュゼ! 気は確かか!』
「断界殻を消すなんて――ヒドイ!! 私には断界殻を守る役目が大事。大事。大事なの!」

 ミュゼが翔け下りた先には、マクスウェルがいた。ミュゼはマクスウェルの正面に回り込むや、マクスウェルを〈クルスニクの槍〉の砲口へ向けて弾き飛ばした。
 マクスウェルが〈槍〉に磔にされた。

 一連の事態を前に、我々はただ立ち尽くすしかなかった。

「自決でもされては困る。術者が死ねば断界殻が解けてしまうからな」

 自決、術者、解ける……まさか、このミラの狙いは。

「君は……断界殻を、開かない気なのか」
「開かない。リーゼ・マクシアとエレンピオスを一つの世界にはしない」

 金蘭のテールを翻しながらこちらを向くミラ。紅い目に迷いは認められない。

「マナを浪費し精霊を殺す国と、この世界は共に歩めない。リーゼ・マクシアはエレンピオスがない次元位相へ移す」

 ――つまり、ミラは、断界殻という壁で隔てるだけでは生ぬるいから、異なる時空地平にリーゼ・マクシアを位相転移させると言ったのだ。

黒匣(ジン)なしに生活できるリーゼ・マクシア人だけが、世界で唯一生き延びる可能性を持つ。そのリーゼ・マクシアを生かすため。エレンピオスの犠牲も止む無しだ」
「また選ぶのかよ、精霊が、人間を、勝手に! 同じじゃねえか! 救いたい奴だけ救って都合の悪ぃ世界から逃げ出す。まんま昔のマクスウェルじゃねえかよ」
「私とて守れるならば全てを守る。だがどちらかを選ばねばならぬ時は決断を下す」

 ミラは迷いなく、胸に手を当てて宣言した。

「それが世界に責任を持つ私――マクスウェルの使命だ」

 自分がオトリだと知って、使命のみに腐心してきたミラ。黒匣を排除し続けたのも、リーゼ・マクシアを守るため。
 そう、「リーゼ・マクシア」を守るために、ミラの考えはここまで飛躍してしまった。

「今日まで私たちは黒匣とそれにまつわる者を抹殺してきた。黒匣はほぼリーゼ・マクシアから駆逐された。〈クルスニクの槍〉の製造法はラ・シュガルの新王が破棄していた。黒匣のない元のリーゼ・マクシアを、そのままこの時空から弾き出そう」
「ハッ。結局何も変わんねえってことじゃねえか。俺らがえっちらおっちら働いてようようマトモにやってけるようになったら出てきて、てめえらはオイシイとこ総取りか。精霊のお姫様ってのぁキリギリスより腐った性根してんのか」

 ミラは憐れむように目を伏せた。

「……人は自らの欲望を止められない生き物だ。現に滅びを前にしてなお黒匣は増え続け、使われ続けているじゃないか」

 ミラは傍らに戻ったミュゼを顧みた。

「いいんだな?」
「貴女のよいようになさい。ミラ」

 ミラの手がミュゼの胸を貫いた――貫いたかに見えた。
 抜き出されるミラの手には、シンプルな造りの、だが異様なほど威圧感を持った長剣が握られていた。
 あれが道標の一つ、〈マクスウェルの次元刀〉の本来の姿。

 その次元刀が、新たなマクスウェルの手によって、大きく振り被られる。
 風が生まれる。世精ノ途(ウルスカーラ)のエネルギーが一本の剣に集まっているんだ。

「2000年前の過ちを正そう。今度こそ真実、二つの世界を切り離し、二度と出会うことのないように」
「やめろ! ミラ!!」

 結節点の世精ノ途を起点に次元を裂かれたら終わりだ。リーゼ・マクシアにいるエレンピオス人は今度こそ故国へ帰れなくなる。

 黄金時計を出して走る。間に合うか――!

「行かせないわよ! サイクロン!」
「『ティポバキューム!』」

 エリーゼか、助かった!

 突風をティポが吸っている間にミュゼの射程に入る。

 骸殻限定発動、5秒間! これで、決める!!

「く……ッ」
「一迅――裂ッ双ッ!!」
「きゃあああああああああああッッ!」
「ミュゼ!」

 倒れるミュゼの向こう側。ミラが〈次元刀〉のエネルギーチャージを止めて、抜いた〈次元刀〉を携え吼えながら向かってくる。
 何故よりによって今。前はジュード以外の仲間がやられても来なかっただろうが!

 限定解除とはいえ骸殻の再使用まではタイムラグがある。ミラと切り結ぶまで猶予はまだ数秒あると計算しての使用だったのに。
 戦略が狂った。一度下がって……


 ガッキイィィィィィ……ン!


 上から降ってきたモノが、ミラが揮い上げていた〈次元刀〉を踏みつけて軌道を逸らした。

 ……こんな、ことが。私は夢でも見ているのか?

 ミラの突進を阻んだ少女たちが、バックステップでこちら側に来る。
 後ろからアルヴィンたちが駆けつける軽快な足音。だが、目の前のモノに釘付けで。

 プラチナクローク姿のフェイリオと、フェイリオを横抱きにした、骸殻を纏ったユースティア。

 死んだと覚悟を決めてさえいた娘たちが、いたんだから。 
 

 
後書き
 はい。この流れからお察しの方も多いでしょうがあえて言います。
 拙作のラスボスは、ミラ&ミュゼです。
 いやまさか作者の自分自身、ミラがここまで荒ぶるとは思ってもみませんでした。

 そしてついに娘たちの帰還でございます。オリ主娘たちの無事を心配してくださった心優しい皆様、お待たせいたしました。
 さりげにユティの「上から奇襲」は「レンズ越しのセイレーン」で何度もやったものを意識しました。ユティは落ちてきて何ぼ! 
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