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美しき異形達

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第三十五話 月光の下でその五

「あんたにね」
「そして俺を倒すか」
「そうよ、そうしてあげるわ」
 まさにだ、そうするというのだ。
「勝つのは私よ」
「言うものだな、ではだ」
 怪人は接近している状態では弓矢を使えないと確信していた、それでだ。
 そのことから己の勝利も確信していてだ、そしてだった。
 彼の切り札を出した、それは口だった。その巨大な鰐の口を大きく開けてだ、向日葵を頭から飲み込もうとしてきた。
「危ない!」
 裕香はその状況を見て思わず叫んだ、だが。
 薊はその菊にだ、横から確かな声で告げた。
「大丈夫だよ」
「えっ、けれど」
「確かに喰われたら終わりだよ」
 鰐の巨大なその口にだ、その巨大さは丸呑みは出来なくとも向日葵の頭位は簡単に食い千切ることが出来そうだった。
「一撃でな」
「そうよね、けれど」
「ああ、それでもなんだよ」
「向日葵ちゃんは勝てるのね」
「まあ見てなって、向日葵ちゃんは確かにピンチだけれどな」
 それでもというのだ。
「同時に絶好のチャンスなんだよ」
「今が」
「そうだよ、絶対に勝てるよ」
 こう裕香に言うのだった。
「向日葵ちゃんはな」
「それじゃあ」
「見ような、今から」
 やはり動じていない薊だった、それも全く。
「向日葵ちゃんが勝つのをな」
「薊ちゃんがそう言うのなら」
 親友と言っていい存在となっている彼女の言葉ならばだった、裕香も信じて頷いた。そのうえで向日葵を見守った。 
 菊と鮫の怪人の攻防も続いていた、その中で。
 菊の前への蹴りをだ、怪人は。
 かわした、そしてかわすのと共に。
 まるで海中の鮫の様に俊敏に動いてだった、菊の後ろに回り込み。
 菊の背中にだ、一気にだった。
 その切り札を浴びせた、それは顎と歯だった。
 怪人はその口で菊に一撃を浴びせようとしてきた、巨大な口と無数の鋭い刃が菊の背中を一気に噛み千切ろうとしてきた。
 だが、だった。怪人が噛み千切ったものは。
 空だった、怪人は歯と歯を噛み合せた瞬間目を見張った。
「なっ!?」
「勝ったわね」
 そしてここでだった、菊の声がしてだった。
 その怪人の背中を掴んでだ、一気に飛び上がり。
 高く跳んだかと思うと頂点まで達したところで反転して真っ逆さまに落ちる、そしてだった。
 怪人の脳天を固くなった、既に勝負中でアスファルトの様になっていた砂場に打ち付けた、するとその一撃でだった。
 怪人の背中に符号、菊のそれが出た。これで決まった。
 そして向日葵もだ、怪人のその口に向けて。
 右手の人差し指を指し示してだ、そこからだった。
 光、彼女の力であるそれを懇親の力で放った、光の矢は怪人の口から脳天まで一気に貫き符号を出させた。
 そのそれぞれの決着を見てだ、裕香が言った。
「薊ちゃんの言った通りだったわね」
「向日葵ちゃんやっただろ」
「ええ、あれは」
「弓道の極意さ」
「向日葵ちゃんの技の」
「弓道ってのはさ、弓矢を使うばかりじゃないんだよ」
 薊は確かな笑みで裕香に話した。
「それを極めるとな」
「ああしてなのね」
「気を放つことが出来るんだよ」
「あっ、そういえば」
 薊のその話を聞いてだった、裕香はある物語を思い出した。その物語はというと。
「中島敦の」
「あの小説読んだよな、裕香ちゃんも」
「うん、面白いわよね」
「文章が難しいけれどな」
 中島敦の文章は彼の漢文の素養が影響して漢語調になっている、その為高校生には多少難しい文章と言える。 
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