| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

美しき異形達

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第三十五話 月光の下でその四

「こうした技も身に着けているのよ」
「そうか」
「それにね」
「それにか」
「あんたも切り札がまだあるわね」
「わかるな、それは」
「鮫だからね」
 それ故にというのだ。
「それ位はわかるわ」
「そうか、しかしな」
「切り札だからね」
「そう簡単に見せるつもりはないんだよ」
「そういうことよね」
「まだだ」
 その切り札を出す時は、というのだ。
「貴様もわかっている様だしな」
「ええ、そうよ」
 菊も余裕の笑みを浮かべて返す。
「だから出すのを待っているわ」
「出したところを破るつもりだな」
「察しがいいわね」
「俺は確かに鮫だ」
 怪人は己が何であるかも言った。
「しかし鮫であると共にだ」
「その頭は人間ね」
「鮫の力に人間の能力だ」
 その二つを兼ね備えているというのだ、自身は。
「その鮫の頭でわかるのだ」
「そういうことね」
「誰が破られるとわかっている技を出すか」
 例えだ、それが切り札でもだ。
「そうした状況でな」
「つまり破られない状況で、というのね」
「そうだ、その時に出す」
 例え今でなくとも、というのだ。
「このことを言っておく」
「そう、やっぱり考えているわね」
「切り札は読まれている時には出さない」
「相手の隙を衝いて出す」
「そうしたものだと言っておく」
 こう言ってだ、そしてだった。
 怪人はその歯をナイフとして斬り投げつつ菊と戦い続けた。その両者の横では向日葵と鰐の怪人が工攻防を続けていた。
 怪人は両手と尾を使い続けている、向日葵はそれを少林寺の技で防いでいる。怪人はその向日葵に問うた。
「俺は攻め貴様は守る」
「今の状況はね」
「思ったより防ぐな」
 その守る向日葵は、というのだ。
「やるものだな」
「私だって修行してるしね」
「そうだな、しかしな」
「ええ、私の専門はあくまで弓矢よ」
 それだというのだ。
「蹴りも使うけれどね」
「その弓矢が使えない状況でどうする」
「どうしてあんたを倒すかよね」
「その手はないな、ならばだ」
 向日葵は切り札を使えない、それならばというのだ。
「俺の勝ちだ」
「そう思うのね」
「実際にそうだ」
「そうね、普通に考えればね」
「普通だというのか」
「弓矢といっても色々よ」
 向日葵は楽しげに笑って怪人に告げた。
「そこはね」
「色々か」
「そう、色々だから」
 こう言うのだった。
「やり方があるのよ」
「面白いな、ではそれはどうやる」
「その時になれば見せてあげるわ」
 向日葵はその弓矢をすぐには見せなかった、微笑みそのうえで怪人に対してこう言ったのだった。今は。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧