美しき異形達
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第三十五話 月光の下でその六
「面白いファンタジーだよな」
「うん、あの人ってファンタジーよね」
「中国のな」
二人は中島敦をこう認識していた、純文学というジャンルを外して考えると中島作品の多くはそうなるかも知れない。
「名人伝も」
「それであの作品にあった」
「弓矢を使わないで射てたよな、主人公」
「気でね」
「それなんだよ」
「向日葵ちゃんは弓道の極意を使ったのね」
裕香もここでこのことを言った。
「確かに。弓矢は接近戦は無理だけれど」
「あれだとな」
「使えるのね」
「ただ、向日葵ちゃんそこまで凄いのかよ」
その弓矢の腕がというのだ。
「あれは弓道を極めてないと出来ない筈だけれど」
「そこまではね」
向日葵もだ、二人に微笑んで言って来た。
「いかないけれど」
「ああ、力を使ったんだな」
「そう、弓道の極意はまだ使えなくても」
「力は使えるからな」
「それを使ったの」
それで、というのだ。
「これが私の切り札だったのよ」
「成程な、あたし達には力があるからな」
「そういうことよ」
「成程な」
「まさかそう来るとはな」
倒された怪人の方も言って来た、まだ立っている。
「見事だ」
「認めてくれたのね」
「俺は負けたからな、認めるしかない」
「そうなのね」
「それを認める、ではな」
それではと言ってだ、そしてだった。
怪人は向日葵を見てだ、こうも言った。
「俺は去ろう」
「何かあっさりとしてるわね」
「敗者は語らない」
これが怪人の言葉だった。
「そういうことだ」
「成程ね」
「では俺は去る」
身体の端から灰になっていく、怪人はまだ向日葵を見据えているがその終焉は近付いてきていることは明らかだった。
「これでな、力を使い勝った貴様を見ながらな」
「力があるなら使わないとね」
「その力を大事にすることだ」
怪人は向日葵にこうも言った。
「そうすれば貴様にも仲間達にもいいことになるだろう」
「いいこと?」
「俺達に勝つことだ」
それが、というのだ。
「それ自体がな」
「そういうことね、じゃあね」
「さようならと言っておくぜ」
これが怪人の最後の言葉だ、そしてだった。
その言葉を言った怪人は完全に灰となって消えた、夜の闇の中に魂魄以外は無に帰り消え去ってしまった。
鮫の怪人もだ、再び立ち上がったが。
先程の菊の一撃が致命傷であったのは明らかだった。身体の動きはふらふらとしていて今にも倒れそうだった。
その中でだ、菊に対して言った。
「俺の攻撃をかわしたが」
「あの技ね」
「あれは何だ」
「忍術よ、残像を残したのよ」
「素早く移動してか」
「そう、忍術は素早く動き見事に隠れる」
この二つをだ、菊は怪人に言った。
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