ソードアート・オンライン ~呪われた魔剣~
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神風と流星
Chapter2:龍の帰還
Data.18 スイートタイム
「体術?」
ビーフシチューの皿をスプーンでつつきながら、俺は聞き返した。
「ああ。この二層の凄く分かりづらい場所に獲得クエストを受けられる場所があるんだ」
「よくそんなの見つけたなお前。しばらく見かけなかったのはそのせいか」
「……間違ってはいないな。だけど見つけたのは俺じゃない。アルゴに案内してもらったんだよ。はぐっ」
パンを喉に詰まらせてドンドンとやってるキリトを横目に、俺は思案する。
俺の主武器たる《投剣》はSAOでは珍しい遠隔攻撃だ。シズクという近接ではチートクラスの奴と組んでるお蔭で、遠距離からの援護などではかなりの活躍が出来る。
しかし一方、大量のモンスターに囲まれ至近距離まで接近されるということも、この数日間無くはなかった。
一応、近距離でも《投剣》を使えないことはないが、使いづらいことに変わりはない。
だから丁度、近距離でも使えるサブスキルが欲しいと思っていたところなのであった。
「アルゴに聞いてみっかな……」
「何々!?何の話!?」
ずずいっ、と身を乗り出してくるシズク。行儀悪いからやめろといつもいつも、
「言ってるだろうがあっ!」
「ぎゃふんっ」
垂直に繰り出された俺のチョップで撃沈しているバカを間に挟み、しばらく歓談していると――――
「うわあ……」
「これは……」
「久しぶりに見たな……」
「でっかいねー!」
本日のデザートこと《トレンブル・ショートケーキ》が運ばれ、四者四様のリアクションが出る。
「それじゃあ、いただきます」
「いただきます」
アスナと俺が何の躊躇もなく皿を自分の方に寄せ、食べ始める。
「じー」
「じー」
羨ましそうな目で見てくる輩が二名ほどいる気がするが、努めてスルーする。スルースキルはSAOにおけるシステム外スキルの一種なのだ(嘘)
「……はあ。仕方ないわね」
俺はスルー回避余裕だったが、心優しいアスナは二人を見かねてケーキをキリトの方に寄せる。
「はい。キリトくんは私のところから少し食べていいよ」
「い、いいのか?」
「少しだけだからね。本当に少しだけだから」
「サンキュー!」
幼少の頃からの付き合いである俺には分かる。奴は今、どこまでなら少しの範囲で済ませられるかを全力で計算している。
「アスナちゃん、あたしの分は――――」
「シズクちゃんはルリくんから貰いなさい」
「ルリくんギブミー!」
何故かこちらにも爆弾がぶっ飛ばされてきた。え?あげなきゃダメ?すげえキラッキラした目で見てくるんだけど、あげなきゃダメかな。
「あーん」
「あんまり調子に乗ってると刺すぞバカ」
「だってそうしないとどれだけ食べていいか分からないで、結局食べ過ぎちゃってルリくんに怒られそうなんだもん」
つーかまだ誰も食っていいとは言ってないわけだが。
「あーん」
「……わかったよ。食わせればいいんだろ食わせれば!」
俺は超絶デカい《トレンブル・ショートケーキ》を一口サイズに切り出し、それをフォークで突き刺してシズクの口に運ぶ。
「ほら」
「あーっん!もぐもぐ……美味しい!」
「そりゃ良かった」
笑顔全開で喜ぶシズクを見ていたら、何だか苦笑してしまった。こいつは本当に、見た目だけなら美少女なのになあ。もったいねえ。
くいくい。
そんなことを考えてると、不意にやや斜め気味の前方から袖を引かれた。
シズクのおかわりの催促だろうかと思ってデコピンの準備をしつつ、顔を上げると、
「あーん」
可愛らしいお口を開けて待機中の細剣士様がおられた。
アスナ、お前もか。
「お前は自分の分あるだろうが。そっち食えよ」
「キリトくんにあげちゃったから少し減っちゃったし」
「自分からあげたくせに何を……」
説得失敗。アスナは再び口を開けて待っている。
仕方ないのでもう一度《トレンブル・ショートケーキ》を一口大に切りだし、アスナの口に突っ込む。
「はむっ……やっぱり美味しい……」
シズクとは違うタイプの、一種の『美しさ』を感じさせる笑みを浮かべて味わうアスナ。湧き上がってくる苦笑はやっぱりシズクの時と同じだったが。
「むー!」
何故か頬を膨らませて怒り気味のシズクに足を蹴られた。なんで?
その後も二つの巨大ケーキを四人で食い分け、俺達は夕飯を終えたのであった。
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