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ひねくれヒーロー

作者:無花果
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百日草はただ思う


花言葉は
「不在の友を思う」「友への思い」「絆」「幸福」


********************************************
百日草はただ思う












◇◆◇シュロ◇◆◇






炬燵の上に積み上げられた書類

シナイちゃんに頼まれた物をまとめ上げていくと書類の山となってしまった

すでにバインダーの数は六個目だ

バインダーに収まりきらなかった分をまとめて整理する


たった二年分の書類でこんなに大量に書類が出来上がるとは思わなかった



書類を見続けて凝り固まった肩をほぐして炬燵に突っ伏した

卓上に置かれた蜜柑に手を伸ばし、半ば無意識のうちに皮を剥く


「かーちゃん、麦茶ー」


台所にいる今生の母に声をかける

ブブッと母の蟲から返事される

・・・口があるんだから喋りゃいいのに・・・

転生してから幾度となく思った


油女一族として、蟲との対話のため沈黙を守るのは仕方ない

だけど、少しぐらい、こういうときぐらい喋っても良いんじゃないのか

一族の中ではオレぐらいしか思わない疑問

シノに言っても当たり前だと言われてしまうため、きっとオレだけの疑問なんだろう


悲しくなるわ


テーブルにおかれたマグカップを啜って—————


「マズッ!?
 ・・・ちょっとかーちゃん、オレ麦茶って言ったじゃんかー」


差し出されたマグカップの中身は薬草茶だった

好き嫌いをなくしたいという母心は理解するが、薬草関連はもはや好き嫌いじゃすまないんだよ

オレが薬草カレーが嫌いだからと、あの手この手で薬草を食わそうとするのは勘弁してほしい

このまま不貞寝しちまうか

思わず溢れた涙を蟲達が拭いとってくれる

なんて良い子なんだお前たち・・!

口直しに蜜柑を食べながらそう思っていると、玄関で物音がする

この気配、兄貴だな


「ただいまー・・・おぉシュロ! 
 珍しい、帰っていたのか!ごはん食べに行くか!?」


帰宅して早々うるせェ

そもそも玄関入った時点でオレの気配に気づいてるもんだろうに

誘い方がわざとらしすぎる


「行かねー
 ・・・あ、これやるわ」


一口しか飲んでいない薬草茶を手渡す

そういや、今日はフーは来てないんだな

珍しい


「! シュロが淹れてくれたのか!」


ううん、淹れたのママンだから

だから嬉々として飲むなブラコン

まぁこういう時はスルーするに限る


「ん?シュロ、今日は任務休みか?なんで書類?」


炬燵脇におかれた書類の山にようやく気付いたらしい

突っついても何も出てこないよ


「あぁ、休みは休みなんだけど、個人的な調べ物
 最近の情勢意味分かんねえわ・・・」


どうしてジャシン教がメジャー宗教にランクインしちゃってるのか

忍の世界は摩訶不思議ですたい


「そうか、色々調べているんだな
 ・・・あぁ、そうだ鶸茶から手紙を預かってたんだ」


懐から取り出された小さな手紙

アカデミー時代から変わらず手紙折りにされたメモ用紙を受け取る


「へ?
 珍しいな・・・なになに・・・?」


開け広げてみると、意外なほど真っ白だった

コンなら季節のあいさつ含め長々と書きそうなんだが・・・





   バレタ

   ボスケテ  

   あとオレSIN似ですた

 
        鶸茶」


懐かしい小ネタを挟んでる所を見るに、意外と余裕だな

あと・・・SIN・・・

根でSINといえば、サイの兄貴のシンのことかな

確か、この世界じゃ流行り病で死んだらしい

訃報が入ったときにダンゾウが本気で驚いていたから、病死確定か


「・・・バレちゃったの・・・誰に?」


ダンゾウの手の者じゃなかったら色々不味いけど


「バレちゃったんだ・・・どうしよう
 相棒の薄墨と言う奴がいてな、そいつに・・・はぁ・・・」


薄墨・・・根で墨、サイ?

あー、サイに顔を見られてシンに似てるって言われたのか


・・・お、似てる

どこら辺がと聞かれたら、笑った時の口角の上がり具合という微妙なラインが似てる

もしかしたら、コンが肉体年齢と相応に成長出来ていたら、シンみたいになってたんだろう


「まぁ、ダンゾウのおっさんが選んだ相棒なんだ
 話を外に漏らす輩でもないんだろう?そこまで気にしなくて大丈夫だろうよ」


うっかり口を滑らせそうなら、舌に術をかけておけばいいさ


「だが・・・だからといって何の処罰もないままでは・・・」


うだうだと悩みやがる


「真面目に考えすぎなんだよ兄貴は
 ダンゾウにももう報告済みなんだろ?それで処罰が言い渡されていないならそれでいいじゃないか」


蜜柑を渡して肩をたたく

それでもなお、溜息をつく兄貴

サイなら大丈夫だろう

いじめ事件の後から、スパイ容疑がかかっていたイカリが襲われないよう監視していた奴だ

陰ながらイカリの警護まで兼ねてた位に信用されてるんだし、大丈夫

うだうだ考え込まずとも良い


「それで良いんだろうか」


あー・・・ダメだこりゃ

何時まで経っても悩みこんでしまう

こういう時のやり方はもはや決まってる


「良・い・の! 
 ほら、何時までも悩んでないで気持ちを切り替える!
 
 ・・・飯、食いに行くんだろ?
 焼き肉行こうぜ」


上着取ってくるから待っててくれよ

そう言って炬燵から這い出る

うぅ・・・寒い


「・・・シュロが・・・シュロとご飯・・・何週間ぶりだろう・・・」


泣きやがった

面倒な兄貴だねぇ・・・


「つーことでかーちゃん、オレら夕飯いらないからー」


またまたブーンと蟲で返事がくる

だから声ぐらい出そうぜ






涙目の兄貴を炬燵から蹴りだし、焼き肉屋へ向かう

いつもならここにフーが乱入してるんだが、珍しく兄弟2人だけ

フーがコンの対応してくれてるんだろうかね


しばらく他愛ない世間話や近況報告を話していると、見覚えのある奴らと焼き肉屋で鉢合わせした



「イノシカチョウトリオと、春野か
 なんだよ合コンか?」


声をかけると真っ先にイノが反応を示す

シカマルとチョウジはともかく、ここ最近イノと出会うことはなかったな


「シュロ! 久しぶりね〜最近ちっとも里で見ないから心配してたのよー?」


里外に出ていたからな

あとは事務系ということで後方待機だし


「あれ・・・シュロくん、隣の人は・・・?」


サクラがぼそっと呟く

見た目があやしいからな

その反応は正しい


「はじめまして、いつも弟がお世話になっております
 兄のトルネと申します」


深々とお辞儀をし、なおかつオレの頭まで下げさせる


「やめろ兄貴
 皆で焼き肉か?」


このメンバーでこの店の前だ

それしか目的はないだろうな


「うん・・・そうだ、シュロ
 ちょっと良いかい?」


あ?

チョウジから話し掛けてくるなんて珍しい

基本的にオレよりコンと仲が良いから、コン、シカマル経由でしか話さないのにな


「相席でもするか?」

「ううん、すぐ終わるから・・・皆は先に席をとっといてよ」


オレの提案を流し、イノに声をかけるチョウジ

にこやかに頷いて、立ち止まったままのシカマルの背を押して入店を促した


「わかったー! 
 トルネさんも先入ってましょうよ」


オレとイノの顔を交互に見てから、少しだけ悩んで声をかけてくる


「・・・あんまり、遅くならないようになシュロ」


分かってると言うように手を振り返してチョウジと移動する

このままだと店に他の客が入り辛いからな


「ったく、面倒くせぇな
 オレに女二人押し付けんなよチョウジ」


イノもサクラも五月蠅いからなぁ


「ごめんごめん
 すぐ済むから」


苦笑してシカマルと別れる



少しだけ歩いて路地裏に入る



「んで?何の用だ?」


「あのさ、最近コンを見ないんだけど・・・」


・・・そうだった

コンと仲が良いんだ

餌付したともいえるが、それなりに交流を持っている数少ない人間だ

でも———


「木の葉病院で入院してるけど・・・
 あぁ、病室はいつもと違う奥部屋だから分かんなかった「そういうことを言いたいんじゃないよ」
 ・・・へ?」


一応表向き、体調悪化につき長期入院となっている

前までよく使っていた病室ではなく、結界忍術を貼られた特別室にいる

だから部屋が分からないんじゃないのか

そう思ったけれど、どうやら違うらしい


「・・・前にさ、死の森に近い演習場で、仮面をつけた暗部みたいな奴と会ったんだ」


「・・・仮面の暗部ならそこらにいると思うけどなぁ」


うちの兄も根の暗部ですよ


「シカマルも昇進した
 シュロも、イカリも昇進したよね」


シカマルなら、それとなくアスマから教えられてそうだけどな

昇進の時、一緒に呼ばれていたのもある


「おう、そうだな」


嫌な予感がする

冷や汗が背中を伝う


「コンは、暗部に昇進したんだね」


チョウジ、お前鋭い!

何だお前そんなに鋭い奴だったか?


「いやいや、コンの虚弱体質じゃ無理だって」


笑いながら誤魔化す

・・・チョウジの眼を見ると、誤魔化せなかったのが良く分かる


「コンは、気配消すの上手いよね
 元暗部だったカカシ先生が言うぐらいなんだから相当の隠行術
 任務の達成回数も下忍のなかじゃトップクラス
 波の国で暗殺任務もこなしたって聞いてる
 
 そんなコンなら、暗殺任務もお手の物じゃないかな
 
 ・・・虚弱体質だから?そんなの理由にならないよ
 
 シュロ、ボクは何か間違ったこと言ってるかな」


・・・いいえ

間違ったことなど何一つございません

暗部になったんだよって言えたらどれだけ良いことか


「ボクの予想が当たってるなら、瞬きしてよ」

「おい、どうやっても瞬きは止められねえよ」


無茶言うな

無意識の行動を止めるのがどれだけ辛いか


「・・・噂が、原因なのかな」


「チョウジ、噂知ってるのか」


あの痛々しい噂を————


「・・・大蛇丸と対峙した、地獄の業火使い

 ははっ・・・笑っちゃうよね
 コンは、そんな奴じゃないのに・・・

 大方その噂のせいで、里内も碌にうろつけなくなっちゃったんでしょ?
 
 ・・・ただ、あれはコンだったのか、それの確認がしたかったんだ
 
 まぁ、シカマルから聞いてたんだけど」


・・・おいこら


「シカマルを呼べい!!」


オレの悩みをどうしてくれる!?


「でも、そういうのって家族の口から聞いた方が良いでしょ?
 ・・・コンなら、大丈夫

 シュロからも、任務頑張ってって言っといてね」


にこにこと笑いながら伝言まで頼まれる

あれー・・・守秘義務って言葉は何処に行ったんだろーなー?


「・・・すごい、脱力した」


わざとらしく肩を落として見せると、苦笑して肩を叩かれる

チョウジの肩に顎を乗せて、寄りかかるようにして焼き肉屋に向かう


「はは・・・焼き肉食べて元気出そうよ」


「そうだな・・・とりあえずシカマルはハイスラでボコるわ・・・」


やっちゃってくださいオレの中のブロントさん・・・

せめて心の中だけでもシカマルをボコボコにしたい


「ま、落ち着いてよ
 ジュースぐらいなら奢るから」


「9杯でいい」


「多いよ」



本当に脱力しすぎて頭が上手く動かねえ・・・



 
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