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フェイト・イミテーション ~異世界に集う英雄たち~

作者:零水
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ゼロの使い魔編
第一章 土くれのフーケ
  出会い

 
前書き
頑張って書いてたら文字数が前回の倍以上になってしまった・・・。 

 
「脱走だ!№306が脱走したぞ!」「探せ!!」
「くそっ!処分する情報が漏れたのか!?」

 どこの国かも分からない、とある辺境のような場所にある研究所では現在大混乱になっていた。
 
「他の実験体を檻に放り込め!」
「た、大変だ!!№54もいないぞ!」「何!?」
「まさか混乱に乗じて!」「いや、306と一緒らしい!」
「出来損ない同士が!!」
「それでも機密事項を外に出すわけにはいかん!見つけ次第殺せ!!」

 あちらこちらから上がる焦燥や怒気の混じった声、バタバタと駆け回る音が研究所全体を埋め尽くしていた。
 と、物陰からその様子を窺う視線があった。
 
「ね、ねえ・・・やっぱり止めようよ・・・」
「しっ!静かに。」

視線の主は幼い少年である。年齢は七歳ほどだろうか。白のシャツにズボンという質素な服であり、険しい顔で外の様子を見ていた。
その傍らにいるのは少年よりさらに幼く見える少女。少年と同じ服を着ているが、その顔は対照的に怯えた表情をしている。
二人の様子を見る限り、研究所の面々が探し回っているのは彼らのようであった。

「もう止めよう・・・。い、今出ていって謝れば、きっと許して・・・」
「いや、ないな。」

少女の提案も視線は外にやったままの少年は、あっさりと切った。

「さっきも言ったろ。お前は明日には廃棄処分になる。殺されるのが明日から今日に変わるだけだ。」
「で、でも、あなたまで・・・。」
「俺も、『出来損ない』らしいからな。遅かれ早かれ、お前と同じことになるだろうさ。」

「そろそろ行くぞ。」と言って、少年はそっと走る準備をする。そして、徐に何かを呟いた。
瞬間、少年のオーラが変わった。先ほどまでは普通の少年だったはずなのだが、今は、溢れ出る何かが滾っている。
その正体が魔力だと気付いた少女は目の前の少年の変わりように「えっ・・・」と声を漏らす。
とその時、施設内に警報が鳴り響いた。

「魔術の反応を探知!」「どこだ!?」
「きっと奴らだ!」「探せ!!」

研究員たちの声が響く。見つかる、と思った少女であったが事態はさらに混沌と化す。

 ドゴンッ!!

 と遠くの方から爆発音と衝撃が響いた。

「どうした!?」
「B地区付近で爆発が発生!爆弾が仕掛けられていた模様です!」
「くそっ、奴らか!?」
「馬鹿な!あいつらにそんな能力は・・・」
「とにかく急げ!!」

 研究員の声や足音が遠ざかっていく。少女の記憶では、確かB地区は自分たちがこれから目指す研究所の入り口とは反対の方角だったはず。
 当然そんな偶然があるはずもない。ならば、この人が全部図ったというのか。
 と、少年は少女の未だに震えている小さな手をギュっと握った。

「いいか。お前はどうあっても死ぬ運命にあるんだ。運命から逃げたいのなら・・・」

 そして、少年は初めて少女に顔を向けた。

「この手を絶対に離すな。」

 次の瞬間、少年が凄い勢いで走り始めた。そのスピードはとても年相応ではなく、まるでオリンピック選手のようであった。
 少女は驚きながらも先ほど少年に言われたことを思い出しながら・・・

 「ッッ!!」

 少年の手を力強く握り返した。




 架が目を覚ました時、彼が抱いた思いは『困惑』の一色だった。
 
 ここはどこだ?
 何で俺はベットで寝ているんだ?
何で俺は上半身裸なんだ?
 で何で体は包帯だらけなんだ?
 そして・・・

 何となくダルい体を起こし、キョロキョロと視線を彷徨わせているうちに、その視線は足もとで止まる。

 すーすー・・・

 この()は誰だ!!?
 ベッドにうつ伏している少女がいた。
 桃色のかかった髪であり、小さな寝息を立てているその姿は天使を思わせる可愛らしさがある。思わず暫くの間見つめてしまっていた架であったが、思い出したかのように現状を確認する。
 見たこともない場所、傍らには見たこともない少女、自分の名前は覚えていることから記憶喪失ではないのに少しホッとする。
 しかしここに至るまでの経緯が全く思い出せない。ええと、確か俺は・・・。
と考えあぐねていると、部屋のドアがガチャリと開けられた。

「ん?おお!目が覚めたようですね。」

 入ってきた青年が優しげにニコリと微笑んだ。
 しかし、ややボサボサの髪、ヨレヨレのワイシャツとスーツ姿という格好のせいか、若干胡散臭いというのが架の第一印象だった。

「あ、貴方は?」
「ああ、申し遅れました。(ワタクシ)、ヴァロナと申します。貴方は?」
「架です。影沢架。」

架が名乗ると、ヴァロナという青年はなぜかピクリと反応した。しかし、それも一瞬で、「そうですか。」と再び愛想の良い顔に戻った。

「しかし良かったですよ。あなたが召喚されてからもう二日も経っているのですから。」

架はそこで重要な単語を聞き逃さなかった。

「へ、召喚??」
「覚えてないのですか?あなたはルイズによって召喚されたのですよ。」
「ルイズ???」

 ヴァロナは黙って二人の間で寝ている少女を指さした。どうやらルイズとはこの少女の名前らしい。
 しかし『召喚』については訳が分からなかった。え、何?自分が?コイツに?何で?いや、別に召喚という単語は知っているけど何で自分にそんなことが起こっている?
 現地の(ヴァロナ)が現れたことにより少しは現状が理解できるだろうと期待したのだが、ますます混乱してしまう架。
 そんな架をよそにヴァロナはルイズという少女を起こしにかかっていた。

「ルイズ、起きなさい。」
「う~ん・・・、ふにゃあ・・・」
「寝ぼけてないで。ほら、貴女の使い魔が目覚めたのですよ。」
「使い魔ぁ!!??」
「うきゃあ!!」「(ゴッ!) がっ!!?」

 ヴァロナからまたも驚愕の単語が出たため、つい大声を上げてしまう架。それに驚いたルイズがガバッと起き上がり、その後頭部が背後にいたヴァロナの鼻を直撃した。

「えっ、あ、あなた!目が覚めたの!?」
「フザけんな!何で俺がお前の使い魔に・・・」
「まだどこか痛むの!?誰か呼んでこようか!?」
「そもそもそんな記憶は・・・」
「お前らちょっと待て・・・ああ間違えた!お二人とも、どうか落ち着いて!!」

 気が動転しているのか全く話が噛み合っていない二人を、ヴァロナは痛む鼻を抑えながら止めに入るのだった・・・。



―――20分後。

「で、確認しますとルイズは確かに架君を召喚した。しかしあなたにはその前後の記憶はなく、そもそもここがどこなのかすら分からないと。これでよろしいですね。」
「ええ。」「ああ。」

 すっかり落ち着いて状況の確認を行う三人の姿があった。
というか、落ち着いて整理すればたったこれだけなのにこんなに時間を要してしまったことにヴァロナはため息をついた。なんだか髪の毛が数本抜け落ちたような気がする。

「ともかく、ルイズは今から授業にでなさい。架君は目が覚めましたし、見たところもう大丈夫そうですが念のため確認を。二人の疑問の埋め合わせはその後に行ってください。」
「分かりました。」
「ええ!でも「ルイズ」

 素直に応じた架に対し、まだ何か言おうとするルイズをヴァロナは言葉で抑えた。
 ニコリと笑みを浮かべて、

「あなた、ここ二日の授業を全てサボっていますよねぇ。使い魔の緊急事態だったため容認してきましたが、これ以上は許しません!」
「は、はい・・・。」

 どす黒いオーラを放ちながらの言葉にルイズはコクコクと頷くしかなかった。ヴァロナの張り付いたその笑みは明らかに「もう勘弁してくれ」と言っていた。
 ルイズの返事にヴァロナは「よろしい。」と言い、

「では私はコルベール先生に伝えておきますので・・・」と部屋を出ていった。
続いてルイズも出ていこうとしたが、パっと架の方を向き、

「とにかく無事で良かった。」
「・・・!」
 
柔らかに微笑み、今度こそ部屋を出ていった。
その微笑みが誰かと重なったような気がしたが思い出せない。
一人残され、気まずそうに頬をかきながら

「使い魔か・・・」

とりあえず親友の口癖を借りることにした。

「・・・何でさ。」



 その日の夜、学園内に建てられた学生寮にあるルイズの部屋でルイズと架は向かいあっていた。架はすでに身体検査を受けており、保健医からも「もう大丈夫ですよ。」と言われている。

「改めて名乗るわね。私はルイズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ。貴方は?」
「架だ。影沢架。」
「そう。それでカケル。あんたは何者なの?」
「そこはただの人間だ、答えたいんだけどね・・・」

 実は架はあの後、再び現れたヴァロナと彼を助手として雇っているらしい人物―――コルベールと会っていた。架から記憶に損傷があると聞かされ、二人ともある程度の説明をしてくれた。で、どうにかここがどこなのかという疑問は解消されたのだが、出た結論が・・・

「実は俺はどうやらこの世界の人間ではないらしい。」
「はあ?どういうことよ?」
「要するに、俺は異世界から来た、ってことだ。」
「異世界ぃ?」
 あからさまに不信な目を向けてくるルイズ。しかし、架だって気が付いたらここにいたのだから困る。

「ああ、ハルケギニアやトリステインなんて名前はしらないし、そもそもあんな風に月は二つもない。」
「ちょっと待って。あなた、記憶がないんじゃないの?」
「ないのはお前に召喚される前後の話だ。何も全部を忘れているわけじゃない。」

 そう、そこだけは本当に思い出せない。自分の名前、冬木市という場所、親友の衛宮士郎とその恋人の遠坂凛。あの戦い。
 そして、自分にとって最も大切な存在である妹。確か自分はあいつを探してたような気がするのだが・・・。
 まるで思い出すのを体が拒んでいるかのように何も思い出せない。

「まあいいわ。異世界については信じられないけれど、否定する要素もないし。それじゃあ私は平民を呼び出したってわけね。」

 とりあえず納得はしてくれたルイズ。しかしその後にこぼした自嘲気味な言葉に架は再び否定的な口調で言った。

「確か魔法を使える者をメイジと呼び、貴族と呼ぶんだったな。だったらそれは半分当たりで半分外れだ。俺は確かに貴族だなんて身分じゃないが、魔法は使える。もっとも、正確には魔法じゃなくて魔術なんだけど。」

「??同じじゃないの?」
「根本的に違うんだけど、まあそれはいずれ話すさ。」

 妙にはぐらかされた気がして、ルイズはムっとしたが、それよりも気になることがあるのでそっちを聞くことにする。

「じゃあアンタは何の魔術が使えるのよ。」
「俺か?俺はまあ『模倣』かな。」
「???なにそれ。意味が分かんない。」
「説明するより見せた方が早いからなぁ。とにかくそれもその時に話すさ。」
「む~~~っ!何よ!誤魔化ししてばっかりじゃない!」

 そうは言っても、魔術とはそうホイホイ他人に打ち明けて良いものでもないのだから仕方がない。それに、まだ目の前のルイズという人物を完全に信用したわけでもない・・・いわば警戒のための措置だった。

「俺のことはもういいだろ。それで?使い魔として召喚された俺は何をすればいい?」
「・・・え?」「うん?」

 話題を変えようと、使い魔について切り出した所、ルイズが驚いた顔をしている。

「使い魔に・・・なってくれるの?」
「どうもこうもお前が呼び出したんだろ?」
「で、でも・・・元の世界に帰りたいとか・・・。」
「ああ、それはある。何か、向こうでやり残したことがあるような気がするからな。けど、今はその手立てがない。他にやることもないし、とりあえず使い魔にはなってやるよ。それに・・・」
「それに?」

 そこで架は優しげな笑みを浮かべ、言った。

「コルベール先生たちから聞いたよ。ずっと見守ってくれてたんだろ。その借りは返さなきゃな。」
「あ、ありがとう!」

 ルイズはパァッと明るい表情を浮かべた。どうやら断られると思っていたらしい。
 元の世界に帰りたいのも本当だが、今言ったことも架にとって本音であった。それにコルベールたちからは、このままではルイズは留年してしまうことも聞かされている。自分の所為でそうなってしまうのであれば後味が悪かった。

「じゃ、じゃあ、これからよろしくね、カケル!」
「ああ、こちらこそだ。」

 しかしこの時、二人はもっと重大な事態に巻き込まれていることは知る由もなかった。
 そしてルイズが架の力を見ることになるのはそう遠くなかった。


  

数日後

―――はあ。何でさ・・・。

 と呟く架。最近親友の口癖をよく使ってる気がする。このまま自分のものになってしまったらどうしよう。

「諸君!!決闘だ!!」
「「「おおおーーー!!!」」」
 
目の前には金髪でバラを持った、如何にも貴族のお坊ちゃまみたいな男―――ギーシュ。さらに自分と彼を取り囲み、なんか盛り上がっている生徒たち。
・・・どうしてこうなった。

 思い出そう。今朝はいつものようにルイズの衣類の洗濯をし、ルイズが朝食に行っている間に部屋の簡単な掃除をする。どういう訳か、この世界に来てから、食欲や睡眠欲というものが減っている。体がまだ慣れてないせいだろうか。
 その後はルイズと一緒に授業に出る。初日の注目度は尋常ではなかった。俺からすればみんなが連れている異形なモンスターにこそ驚いたんだが、その中に俺という人間が混ざれば俺が異端なのだろう。数日経った今でもまだ奇怪な目を向けてくるやつはいるが、だいぶ治まってきた。
 話が逸れたがここまでは何にもなかった。問題は午後の休憩時間のことだった。
 生徒の面々が学園の広場でお茶会を楽しんでいる中、架は席を外しブラブラと歩いていた。ルイズがクラスメイトと話しているのを邪魔しては悪いと思ったからである。と何やら人だかりが出来ていた。
覗いてみると、一人のメイドが生徒に向かって必死で頭を下げていた。

「君の軽率な行いが二人の女性を傷つけたんだ。どう落とし前つけてくれるんだい?」
「も、申し訳ありません!」

 再び頭を下げるメイド。それに周りの彼らの友人たちは、「もう許してやれよギーシュ!」「二股がバレたお前が悪いんだろ~」などと笑い混じりに言っている。
 それで大まかの事情は察した。恐らくあのメイドの行いがギーシュとかいうヤツの浮気をバラしてしまったんだろう。取り巻きが言うように明らかにギーシュが悪いのだが、それでは貴族の体面が保てないから彼女に八つ当たりしている、といった所か。
 だが・・・と架はメイドに対して思った。メイドが時々チラっと取り巻きたちの方を見ているのだ。しかも見る度にその視線は移動している。まるで誰かを見つけようとしているような・・・
 と、目が俺と合った瞬間、「あっ」と声を上げた。え?何?

「カケルさん!」

 とメイドがこっちに駆け寄ってきた。取り巻きはもちろん、置き去りにされたギーシュや呼ばれた俺を含めたその場のみんながポカンとしている。大体、俺と彼女は初対面である。

「え、え~と、すみません。あ、あなたのご命令であの方に香水を渡したのですが、こ、こんなことになってしまって・・・」
「はあ???」

 やや棒読みで全く心当たりのない言い掛かりである。しかしどうやらギーシュは彼女の言葉を信じたようであった。

「それは聞き捨てならないね。君がその子を差し向けたってわけかい?」
「いや、俺は・・・」

 誤解を解こうとするもメイドは俺の背後に隠れてしまった。おいおいマジかよ・・・。

「というか、誰かと思えば君はルイズの使い魔じゃないか。使い魔の分際で貴族に対する礼儀も知らないのかい。」

 ギーシュもギーシュで話をどんどん進めていく。

「来たまえ。この僕が手ずから礼儀というものを教えてやろう。」

 と言ってさっさと歩きだしていく。お願いだから人の話を聞いて!


そして現在に至る。


「はあ・・・」とため息をついていると「カケル!」と声がした。見るとルイズが一振りの剣を持って走ってきた。

「決闘だって聞いたから来てみたけど、何でこんなことになってるのよ!」
「いや、俺も何が何だか・・・。というかルイズ、その剣は?」
「これ?ヴァロナさんから『架君が大変なことになってるみたいだから持って行ってあげて』って言われて・・・」

 あの人見ていたんか!?だったら仲裁してくれよ!と嘆くが、もうこうなってからでは遅い。仕方ないから剣を借りようとするが、ルイズがそれを拒んだ。

「カケル、今からでも遅くはないわ!ギーシュに謝りなさい!そうすれば許してもらえるわ!」
「あ・・・」

―――――もう止めよう・・・。い、今出ていって謝れば、きっと許して・・・―――――

 何だか遠い昔に聞いた言葉と重なった。

「いや、ないね。それにここで俺が逃げたらお前まで馬鹿にされるぞ。」
「で、でも私のためにそんな・・・」

―――――で、でも、あなたまで・・・―――――

 また重なる。ああ、そっか。コイツ、アイツに似てるのか・・・。

「それにいい機会だ。お前が召喚した使い魔の実力を試す、な。」

 と言って、架はルイズから剣を受け取り、下がるよう促した。

「お待たせ。」
「話し合いは済んだかい?では始めるとしようか。」

 そう言って、バラを掲げるギーシュ。どうやらあれはバラの形をした杖だったらしい。
呪文を呟くと同時に花びらが一枚はらりと落ちる。と、次の瞬間には女騎士の形をしたゴーレムの姿となった。

「僕は『青銅』のギーシュ。よってお相手はこの『ワルキューレ』が務めさせてもらう。」
「なるほど。錬成の魔法か。」
「平民のくせによく知っているね。始めよう。合図は君の好きにしたまえ。」
「そうか。」

 と呟いた瞬間、架が走り出した。一気にワルキューレとの距離を詰め、剣を振り上げる。

「なっ!?」

 平民とは思えない速さにギーシュは驚愕の声を上げ、慌てて自身のゴーレムに対応するよう指示する。

 ガキィィン!!

 と金属同士がぶつかり合う音が響く。それに観衆はわぁぁぁ!と盛り上がる。
 それから数分間、切り合いが続いた。その光景にギーシュやルイズ、生徒たちは唖然と見ていた。
 何せただの平民だと思っていた者が、ギーシュのワルキューレに全く引いていない。ルイズもまさかここまでとは思わなかったのだろう。

「(うん?体が軽いな。それに・・・)」

 そんな中、架は自身の体の変化を感じていた。そして何か頭のなかに入りこんでいく。今までやったことがない動きも簡単にできてしまいそうな、そんな感じ・・・。

「(試してみるか・・・)」

 暫くの剣の打ち合いの後、架はスッと姿勢を低くした。そして、切り上げと共に飛び上がる。

「虎牙・・・」

 力いっぱいの切り上げにゴーレムも宙に浮く。

「・・・破斬!!」
「なあっ!!?」

 宙に浮いたゴーレムをさらに力を込め切り下す。地面に叩き付けられたワルキューレはバラバラに砕けた。

「うそ・・・」
 
 とルイズも驚きの声を漏らす。だが、更なる驚愕がルイズたちを襲う。

「ええいっ!くそっ!!」

 と、再びギーシュが杖を振るう。すると今度は六体ものゴーレムが出来、一斉に架に襲い掛かる。
 「カケルっ!」とルイズは叫び声を上げるが、架は平然としていた。

「う~ん、さすがにこれをいちいち相手にするのは面倒だな・・・。」

 と、徐に剣を地面に突き刺した。そして・・・

「『模倣(フェイク)開始(オン)』」

 と呟く。すると、架の目の前の地面が六つ盛り上がった。それらは人形の姿を形どり、ドスンッと突進してきたワルキューレたちを受け止めた。

「な、なんだと・・・。き、君も錬成が使えるのかい・・・?」

 わなわなと声を震わすギーシュ。しかし、

「いや使えないよ。何せ俺はお前の錬成を『真似した』だけだからな。」

 へらっと笑いながら言う架。
 これが彼の能力『模倣』である。一度見た相手の技や動きを瞬時のコピーし会得するもの。
 しかし、『真似』ということはやはり本物に比べると劣化する。現に、ギーシュのは自立した青銅騎士に対し、架がつくり出したのは地面から生えた泥人形である。
 この他にも色々と制限があったりするのだが、まあ今回は成功した方だろうと架は評価する。
「さて」と呟き、もみくちゃになっているゴーレムたちを飛び越え、架はギーシュの前に立った。

「見ての通り、お前の使い魔は動けない。そして目の前には武器を持った俺。この状況でアンタはどうする?」

 視線を鋭くする架。それにギーシュはへなへなと座り込み、「ま、参った・・・」と言った。
 その瞬間周囲に歓声が沸き起こった。
 「すげーよ!」「何だ今の魔法!」と口々に叫ぶ生徒たち。その中に・・・。

「これが・・・、私の使い魔・・・」「すごい・・・、すごいじゃないですか!ミス・ヴァリエール!」

 呆然とするルイズといつの間にか傍にいた先ほどのメイドがキャッキャッとはしゃいでいた。

「あれがルイズの使い魔かぁ・・・。結構イイ男じゃない。」

 さらに、観衆に混じって決闘を見ていた赤毛で褐色肌の女性が頬を赤く染め、妖艶な笑みを浮かべた。
 そして・・・


「・・・術も驚いたがあの剣技、間違いねぇな。」

 さらに遠い場所―――校舎から一部始終を見ていた一人の男がいた。男は決闘の勝者を見つめ深い笑みを顔に刻んだ。

「よもや、また会いまみえるとはねぇ・・・『セイバー』。」

 その言葉を聞いたものは誰もいなかった。
 
 

 
後書き
架のことを書くためにも、事の順序を変えました。その他のキャラはまた追々と。
 
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