フェイト・イミテーション ~異世界に集う英雄たち~
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ゼロの使い魔編
第一章 土くれのフーケ
日常の変化
前書き
文字数がやたら多くなってしまったので二つに分けました。
テイルズオブゼスティリア 発売おめでとう!!(昨日だけど)
「ふむ・・・、これがミス・ヴァリエールの使い魔かね。」
「ええ。」
場所は学園長室。そこには二人の男がいた。
一人はこの部屋の主であり、この学園の学長であるオールド・オスマン。
もう一人はこの学園の教師、コルベールである。
ヴェストリの広場で決闘が行われる。しかも一人はミス・ヴァリエールが呼び出したあの平民の使い魔だ、とコルベールからの報告を受けたオスマンは彼と一緒に、遠見の鏡でその様子を見ていた。
「『ドット』とはいえ、メイジを簡単にあしらってしまうとはの・・・。しかも、恐らく彼は本気をだしてはおらんじゃろう。」
決闘は経験豊富であるオスマンやコルベールにとっても驚かされるものであった。
てっきりただの平民だと思っていた少年が、凄まじい剣戟を見せあまつさえ見たこともない魔法を使ってみせたのだ。
ギーシュの家であるグラモン家は、ヴァリエール家同様名門といえる貴族である。まして彼の父は陸軍元帥の地位にまでいるのだ。
そんな名門貴族の子を本気を出さず、いとも簡単に倒してしまうとは・・・。
余談だが、四男であるギーシュは魔法の才能はあれど、父の女たらしの部分を強く引き継いでおり、上層部の間では「バカ息子」呼ばわりされている。
「名はなんといったかね。」
「ええ、確か、カゲサワ・カケルと・・・。」
「ふむ、珍しい名前だのう。彼は分からんことばかりじゃ。今分かることはメイジ一人相手するのは容易いほどの実力を持つ、ということだけか。う~む、いずれゆっくりと話をしてみたいもんだの~。」
と、そこへ、
コンコンッ
「失礼します。ただいま戻りました。オールド・オスマン。」
「おお、戻ったか。ミス・ロングビル。」
部屋に入ってきたのは緑色の髪に眼鏡をかけた妙齢の女性。オスマンの秘書を務めているロングビルである。
「では学園長。私はこれで。」
「うむ、そうじゃな。彼に会うことがあればよろしく言っておいてくれ。」
話もちょうど切りあがったところで、コルベールは退室していく。バタンと彼が部屋を出ていったのを見とどけてからロングビルが話しかけた。
「何の話をされていたのですか。オールド・オスマン。」
「ん?いや何。先の決闘とミス・ヴァリエールの使い魔のことじゃよ。」
「まあ。先ほどの騒がしさは決闘だったのですね。」
「おや、君は見ていなかったのかね。」
「図書室で調べものがあったので。」
「そうかね。中々に見応えがあったぞ。」
惜しいことをしたの、と笑いながら話すオスマンに愛想笑いで返しながら、ロングビルはその裏で怪しげな笑みを浮かべていた。
「ふう・・・。」
自分の部屋に帰ってきたコルベールは椅子に座りながら一息ついた。
校舎の外れに建てられたこの小屋は現在コルベールの自室兼実験室となっている。といっても机に無造作に置かれている薬品や試料の数々を見れば、彼が教師であることを知らない人が見ればかなり危ない人だと思われるかもしれない。
と、暫く座って体を休めていたコルベールであったが、何かに気付いたように目を開けると徐に口を開いた。
「戻りましたか。それで、どうでした?あなたの目から見て。」
「確証はねぇんだがまあ間違いはないだろうな。そもそも人間が召喚された時点で、それしか考えられねぇんだが。」
と、コルベール以外誰もいないはずの部屋から声が返ってきた。
「名前も俺がいた世界のものだったしな。『クラス』の方も大方見当がついた。」
「しかし、彼にはあまりその気がなさそうでしたが。」
「そうなんだよな~。それに召喚時にあんなナリで呼ばれるってのも聞いたことはねぇし・・・。」
姿なき声の言葉にコルベールは数日前のあの儀式を思い出した。血まみれの体、今にも暴れだしそうな血走った目、思わず戦闘の構えをとってしまうほど強烈な印象であった。
「いずれにせよ、可能性が高いことには変わりませんか・・・。」
「ああ。それで、どうするよ。今なら何も知らないままヤることができるぜ?」
楽しそうな声でコルベール問いかけた。それはコルベールが一言でも「良し」と言えばすぐさま飛んでいきそうなほどであった。
しかし、コルベールはそれを「馬鹿なことを言うんじゃありません。」と一蹴した。
「ミス・ヴァリエールは私の大事な教え子の一人です。その使い魔を始末することなど必要がありません。向こうから命を狙ってくるようでしたら話は違いますが、こちらから仕掛けることは絶対にないのであなたも肝に銘じておきなさい。」
「ふ~ん。まあいいぜ。俺もアイツらは気にいったからな。」
コルベールのきっぱりとした言葉に声の主も特に不満の様子はなかった。
「で、この後はどうするんだ。」
「ふむ・・・。ミス・ヴァリエールも自分が召喚したものを理解できていないようですし・・・」
暫く考えた後、コルベールは顔を上げた。
「彼女を交えて、いろいろと話す必要がありそうですな。では、あなたにもやってもらいたいことがあります。」
「・・・はいはい。何ですか『マスター』。」
翌日
「ふう・・・。」
「どうしたのカケル?何だか疲れているみたいだけど。」
「いや、まあそうなんだよな。何かダルいというか・・・。」
と、肩を抑えながら腕をグリグリと回している架。それをルイズは心配そうに(ただし見た目は普通を心掛けて)声をかけた。
「やっぱり昨日の決闘の所為?ほら、魔法を使いすぎると、精神的にも負担がかかるっていうし。」
「まあ、そうだろうね~。」
実際、そうとしか考えられない。しかし、ギーシュには悪いが昨日の戦闘は架にとって全力ではなかった。故に使った魔力も多くはない。一晩休めば回復するはずであった。
が、朝になっても一向に回復する気配がない。それに昨夜から、今までは平気だった食事や睡眠が必要になってきている。今朝だって寝坊して、ルイズに叩き起こされてしまったほどだ。
(何が起こっているのやら・・・)
「とにかくカケル、少し休んでなさい。今朝できなかった洗濯はメイドにでも頼んでおくから。」
「いや、さすがにそれほどではないよ。それに、決められたことをやらないのは性に合わん。」
と言って洗濯ものが入った籠を抱え、部屋を出ていこうとするが、その手前で振り返り、
「心配してくれてありがとな。」
「なっ!?べ、べつに心配なんか・・・!」
胸の内を見透かされ、顔を赤らめて反論するルイズを見やり、架は部屋を出ていった。
「あ!カケルさん!?」
「ん?」
今ではもう慣れた手洗いの洗濯を架に声をかける者がいた。
顔を上げてみると、そこにはあの時のメイドであった。どうやら食器を洗いに来たらしい。
「あんたは・・・。」
「あ、あの、こ、この間は巻き込んでしまって申し訳ありませんでした!」
「い、いやそれはいいんだが・・・、とにかく落ち着け。」
「は、はい!申し訳ありません!」
出会って早々謝罪されてもなぁ・・・。
あまり人から頭を下げられることに慣れていない架はどう反応して良いのか分からなかった。
「そういや、名前はなんていうんだ?」
「は、はい、シエスタと申します。あ、あの、怒ってないんですか?普通あんなことをされたら怒るところですよ。」
「いや、怒ってるというか・・・、あれは誰に頼まれたんだ?」
「え、ええと・・・」
架の質問にシエスタは口ごもった。先のシエスタの行為は明らかに自分からのものではない。つまり、シエスタに始めから架を巻き込むよう指示をだした人物がいるはずである。
貴族に足蹴にされるのを楽しもうとした奴らの仕業か・・・。何にせよ、言ってもいいのやらという感じのシエスタの様子から、企んだ奴が「いる」というのは明白だ。
口止めでもされているのかな?と架が思っていると、シエスタが思い出したかのように「あっ!」と声を上げた。
「そ、そうだ!カケルさんにお会いしたいという方がいるんですよ!こちらに来て下さい!」
「は?え?いや、それよりまだ洗濯が・・・」
「それくらい私たちでやりますから!さあ、こちらへ!」
まだ途中の洗濯ものを置いてきぼりにして、架はルイズに手を引かれていった。
「いよう、よく来てくれたなあ!我らの剣!」
連れてこられたのは厨房であった。そこにいたのはゴツい体躯をもつコック長、マルトー。
どうやら、俺が日ごろ偉ぶってばかりの貴族に決闘で勝ったことが余程嬉しかったらしい。「我らの剣」というのも「俺たちの誇りだあ!」という意味で付けたようだ。
「マルトーさんだけでなく、私たち平民みんなにとってカケルさんはヒーローなんですよ。」
と、シエスタも嬉しそうに言った。
ヒーローねぇ・・・と架は心の中で呟く。未だ記憶は完全に戻ってはいないが、覚えている範囲でも自分はヒーローとは程遠い人生であったと思う。
あ、でも正義の味方に関連する人なら知ってるよ。二人ほど。
親友と、彼とよく対立していた赤い外套の男を思い浮かべていると、
「我らの剣よ!よけりゃあお近づきの印に俺たちの手料理を食っていかねえかい?」
と、目の前にコトリと置かれたのはホカホカのシチュー。
先も述べたように今の架は常に空腹感を覚えている。その状態で、見るからに美味そうな食べ物を与えられては断る理由など存在しなかった。
「じゃあ遠慮なく」とパクっとシチューを口にした架は、
「こ、これは・・・!!」
いやはや、すっかり時間を潰してしまった。
日はもう傾いた時間、架はルイズの部屋へと向かっていた。
あの後、作り方を聞いているうちにマルトーと、果てはその場にいた調理人たちと白熱した料理談義となってしまった。調理人たちは、俺の口から語られる聞いたこともない料理名に目を輝かせていた。マルトーともすっかり仲良くなってしまい、「腹が減ったらいつでも来な」と言ってくれた。
料理にはそれなりにこだわりがある。思えば、衛宮士郎と知り合ったのも、それぞれの手作り弁当を見たのがきっかけであった。生徒会室で料理について話し合っては生徒会長の柳洞一成から「女子かお前ら」と呆れられたものだ。
と、ややご機嫌で寮を歩いていると目の前に赤いトカゲ―――サラマンダーが廊下を塞いでいた。あれは確か・・・。
と考えていると、サラマンダーは俺を見るとくるりと体を反転させ、のっしのっしと歩いていく。まるで「ついてこい。」と言っているようである。
「(なんだ・・・?)」
と思いつつ、架はその後を追うのであった。
「いらっしゃい。ドアを閉めて下さる?」
サラマンダーに連れられた場所は薄暗い部屋だった。明かりは蝋燭の火があるだけ。
そして目の前には燃えるような赤い髪に褐色の肌、そして着ているものはベビードール一枚という大胆すぎる格好をした女子生徒。確か・・・
「キュルケ、だったか?」
「あら、私の名前をご存じだなんて嬉しいわ。」
女――――キュルケは頬を赤く染めて言う。
ご存じも何もなあ・・・、と架は心の中で呟いた。キュルケの噂は何となく耳にしていた。そう、『男たらし』という意味で・・・。
架がドアを閉めると「適当にお掛けになって。」と言われ床に胡坐をかくと、先ほどのサラマンダーが膝の上に乗ってきて、ゴロゴロと甘えるような声を上げた。
「あら、フレイムが他の男に懐くなんて珍しいわね。」
後から知ったことだが、この世界の竜やトカゲの雄は他の種族の雄が大嫌いらしい。加えてサラマンダーという種族は乱暴な性格が多く、フレイムのこの行動にキュルケが驚くのは当然といえる。
「昔から、動物には懐かれやすかったからな。」
「そう、また一つあなたの魅力が見つけられたわ。」
フレイムを優しく撫でていると、キュルケが詰め寄ってきた。おい、何だそのうっとりした目は!?ま、まさか!
架が嫌な予感を覚えていると、キュルケはさらに架に接近し、甘く囁くように言った。
「いけないことをしてるのは分かっているの。でもね、私の二つ名は『微熱』。恋の情熱は突然、そして激しく燃え上がるの!」
言ってることが訳が分からん。と架が戸惑っていると、
「愛しているわ。カケル。」
「はあ!?」
不肖ワタクシ17歳、生まれてこの方恋愛経験が皆無です、という架は予感していたとはいえ、突然の告白に思わず声を上げてしまった。
「あなたがギーシュを倒した姿を見たとき、私は確信したの!『運命』だって!!」
「・・・は、はあ・・・」
「ねえ、カケル。あなた好きな人はいて?」
「えっ!?い、いや・・・それは。」
混乱する架にキュルケが質問した。それに対して架は考える。付き合った回数ははっきりと「0」と断言できる。が、想い人がいたかどうかでいえば・・・
と、架が考えていると、
ガチャッ
「なに・・・してんの。」
「ッッッ!!?」
「あら、ルイズ」
ドアが開いたと思ったら、背後から聞きなれた声がして架は背筋が寒くなり、ビクリと体が硬くなった。恐る恐る振り返ると、ルイズはわなわなと肩を震わせていた。俯いているため表情が確認できないが、間違いなく怒っている!!
ちなみに膝の上にいたフレイムはルイズの殺気に怯え、部屋の隅まで逃げ込んでいた。
「洗濯までメイドにやらせて、帰りも遅いから、一体どうしたのかと思えば・・・そう、そういうことだったのね・・・」
「いや、洗濯に関してはシエスタが勝手に・・・!」
「シエスタ?・・・へえ~、キュルケだけじゃなくメイドとまでイチャイチャしてたんだ~」
「だから違うって!!何でイチャイチャしてたって前提なん・・・」
「うるさいうるさいうるさ~~~い!!!」
「ぐはっ!!」
この世界の人間は人の話を聞かない風習でもあるんだろうか・・・。
顔面にいい拳をもらいながら架は思うのであった。
「で、どこに行くんだよ、ルイズ。」
痛めた頬をさすりながら架はルイズに尋ねた。
キュルケの部屋を出てから、てっきりルイズの部屋に帰るのかと思っていたが、今は反対方向に向かっている。
「シエスタがアンタのサボった洗濯を持ってきたときに、手紙まで預かってきたのよ。」
と言って、その手紙を架に渡してくる。未だに機嫌は悪いままだ。だからサボったわけじゃないって・・・と呟きながら架は手紙を読んだ。
『私の実験室まで来てください。その時、架君も連れてくること。
コルベール』
たったこれだけの文章である。こんなことなら口頭で伝えればいいのだが、
「(他人に知られたくない、つまりそれだけ重要な話ってことか・・・)」
「はあ~~。私、あまりあそこ好きじゃないのよね。」
「あそこって実験室のことか?」
「そうよ。よく分からない器具や薬が散乱してて危ないったないわ。それにただでさえ、コルベール先生はよく変人扱いされているのだもの。悪い人ではないんだけど。」
それを聞いた架はコルベールという人物を思い返す。右も左も分からなかった自分に丁寧に教えてくれた。その優しげな笑みに裏がある様子もなかった。十分信用するに値する人であり、とても変人とは結びつかなかった。
それよりも架はずっと気になっていたことをルイズに尋ねた。
「なあ、ルイズ。あのヴァロナって人はどんな人なんだ?」
「ヴァロナさん?聞いた話だと、今は没落した貴族の出らしくて、それがコルベール先生の親戚みたいだったの。それで、先生は助手として彼を拾ってあげたそうよ。教師じゃないんだけど、男子寮の寮長をやっているわ。最初はみんな没落貴族って馬鹿にしてたんだけど、あの人は誰にでも優しく接していたわ。そうしている内にみんなも態度が変わっていって、最近はみんなの相談係みたいなことをやっているの。」
「ふ~ん。」
随分と慕われているんだな、と架は思った。
そうこうしているうちに先生の待つ実験室が見えてきた。
後書き
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