フェイト・イミテーション ~異世界に集う英雄たち~
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ゼロの使い魔編
第一章 土くれのフーケ
召喚
前書き
明けましておめでとうございます
トリステイン王国
ハルケギニア大陸の西方にある小さな国。そこにある由緒正しい魔法学校「トリステイン魔法学院」では、『サモン・サーヴァント』の真っ最中であった。
サモン・サーヴァントとは、生徒であるメイジたちが自身のパートナーとなる使い魔を召喚、及び契約する儀式である。
生徒たちはみな自身が召喚した使い魔とある者は語らい、ある者は仲間と自慢し合ったりと己が結果に満足しているようだった。
ただ一人を除いて・・・。
「うぎぎぎぎぎ・・・!!」
少女が一人、魔法陣を前に立ち尽くしていた。桃色のかかったブロンドの長髪を持ち小柄な可愛らしい容姿である。
だが、今は鬼のように顔を赤らめ、目は血走る寸前、おまけに歯ぎしりと可愛らしさとは無縁の様子である。手にしている杖ももはや握力だけで折れてしまいそうである。
「ミ、ミス・ヴァリエール・・・?そ、その、もうそのへんに・・・」
「先生!ちょっと黙っててください!!」
教師であり今回の儀式の立会人でもある、禿げ頭に眼鏡の中年男―――コルベールの制止の声も少女の怒鳴り声を前にしぼんでしまう。
少女の名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブランド・ラ・ヴァリエール。トリステイン王国屈指の名門貴族であるヴァリエール家の三女である。その実力は、座学に関しては名門貴族の名に恥じぬ学年トップの成績を収めている。
そう、あくまでも座学では・・・。
「ひっこめー!『ゼロ』のルイズ!」
「やっぱりルイズには無理だって!」
「先生~、もう終わりましょうよ~」
そう、ルイズはいざ魔法を実践するとなると素人並みなのだ。
火、水、風、土。四つあるこの世界の魔法の系統が全てダメ。何の呪文を唱えようが結果は「爆発」と同じ。
付いたあだ名は「ゼロのルイズ」
はっきり言ってサモン・サーヴァントもそれほど高度なものではない。魔法が使えるのであれば、誰にでもできるレベルなのだ。
それを失敗すること既に五回。ルイズを除いた生徒全員が儀式を終えた今、生徒たちが飽きてきているのも無理はないのかもしれない。
「うううううう~~~~~!!」
しかしルイズもあっさり引き下がるわけにはいかなかった。何せこのサモン・サーヴァントが成功しなければ留年を言い渡されてしまうのだ。
名門貴族の出の自分が留年などというレッテルを貼られるわけにはいかない。何より、みんながこそって馬鹿にしてくるこの状況で黙って逃げることは、彼女のプライドが許さなかった。
彼女だって自覚している。だからこそ、いつまでも馬鹿にされるわけにもいかないと毎日欠かさず努力しているのだ。
そして、そんな彼女の努力を知っているコルベールは、目の前の今にも泣きだしそうな少女に向かって「諦めろ」と言うには、余りにも心苦しかった。
「う~む・・・」
「先生。あと一回だけ、ということでよろしいのでは?」
と、何と言ったらいいものかと考えていたコルベールに、背後にいた男が苦笑まじりに声をかけた。
コルベールと比べてかなり若めで長身の青年である。ややボサボサな髪でヨレヨレのワイシャツと前を開けたスーツ姿である。コルベールを真面目と捉えるなら彼は随分とラフなイメージである。
彼の名はヴァロナ・テクートリ。コルベールの助手である。
助手の提案を聞いたコルベールは「そうですね。」と返した。
「仕方ありません。ミス・ヴァリエール。あと一回だけですぞ。」
「あ、ありがとうございます!」
教師からの許しにルイズはパァッと顔を明るくした。だが、もう後がないのも事実である。
ルイズは気持ちを落ち着かせるように深呼吸をし、スッと目を閉じた。
(何でもいい・・・)
自分の気持ちが安定しているかを確かめる―――――大丈夫。
(どんな奴でもいいから・・・)
ゆっくりと杖を振り上げる―――――――いける。
(私に・・・応えて!)
そして呪文を詠唱する。
「宇宙の果てのどこかにいる私の僕よ!神聖で、美しく、そして強力な使い魔よ!
私は求め、訴える!私の導きに応えなさい!!」
・・・何というか、非常に独自性の高い呪文である。生徒たちも何処かひきつったような笑みを浮かべていた。 しかし、
「うわっ!」
「何っ!?」
「まさか、成功!?」
魔法陣が突如、強力な光を放ち始めたのだ。光が強くなるとともに猛烈な風も吹き荒れ始める。その様子は正に神秘的と言ったところか。
生徒たちが驚くのも無理はない。こんな現象は誰も起きなかったのだ。
「うわわっ」と、思わずよろけるコルベールをヴァロナは支えるが、その視線はルイズと魔法陣に釘付けになったままである。
やがて、光と風が収まっていくと、今度はその勢いに負けないほどの大爆発が起こった。
「ギャァァァァァ!!」
「結局かいいいい!!」
今までの比ではないルイズの爆発に、予想が半分当たって半分外れた生徒たちは、使い魔諸共もみくちゃな状態になる。
「あ、あれ、見て!何かいるわ!」と、そんな中一人の女子生徒が声を上げた。
確かに煙でまだはっきりとしないが、魔法陣があったであろう場所には影のようなものが出来ている。
それを見たルイズはよろよろとした足取りで近づいた。
「これが・・・私の、使い魔・・・。」
何でもいいとは言ったものの、やはり不安ではあった。どうせなら強くてかっこいい使い魔がいいに決まっている。
「一体・・・何?」
と、煙の中にいたものと目が合った。
「・・・え?」
と、ルイズは思わず声を漏らした。自身が呼び出したものは――――人間だった。
「何あれ?」
「人?」
「平民か?」
生徒たちも互いに確認し合うかのように次々に声を発する。
やがて、煙が晴れて使い魔の様子が明らかになる。
その瞬間周囲から「ひぃっ!」と悲鳴が上がった。
その人間は男であった。しかし、その様子は異常でしかなかった。
顔やだらりと下げた腕は傷だらけであり、血が滴るように流れている。着ている服は所々が破けており、ほとんどが血によって赤黒く染まっている。そして血走ったギラついたような目で目の前のルイズを見ていた。
今にも襲い掛かってきそうなその様子にルイズも思わず恐怖の顔を引きつらせる。
その時、
「グッ・・・ガ・・・」
突然、顔を顰めた男はくぐもった呻き声をあげ、バタリと倒れこんだ。
その場一帯に何とも言えない空気が漂う。
「死んだ・・・?」「まさか、ルイズの爆発で・・・」と生徒も放心状態で呟く。
と、最初に我に返ったのはヴァロナであり、傍らに向かって「先生っ!」と叫んだ。
その声にハッとしたコルベールは助手の呼びかけの意図を察し、生徒たちに指示を出す。
「誰か!その男を医務室に運びなさい!医療系の魔法が使えるものは同行!他のものは水系の教師に連絡を!」
咄嗟とはいえ、実に簡潔で的確な指示である。生徒たちもその声に反応し行動に移った。
男は小柄な水色の髪の少女―――タバサの風竜に乗せられ、医務室に運ばれていく。
「先生、私も行きます。」
「ああ。ヴァロナ君、頼むよ。」
「先生っ!私も!」
ヴァロナが医務室に同行しようと行きかけた時、ルイズが先生に声をかけた。しかし、コルベールが答えるより先にヴァロナが口を開いた。
「先ほど彼の容体を確認しましたが、もはや一刻を争う事態です。言いづらいですが、あなたが行っても邪魔になるだけですよ。」
緊急事態とはゆえ、ヴァロナの厳しい言葉にルイズは怯むが、それでも食い下がった。
「でも、あいつは私が呼び出したんです!あいつは私の使い魔なんです!使い魔に何かあった時は主人がそばにいてあげなきゃ!!」
必死の訴えに困った二人であったが、やがてコルベールが優しげに、
「分かりました。ですが治療が終わって、良いと言うまでは医務室の外で待機すること。良いですね。」
「はいっ!」
条件付きで彼女の同行を許可した。コルベールの言葉にヴァロナも特に不満の様子もなかった。
「では行きますよ。」
「はいっ!」
そして、ルイズはヴァロナとともに駆け出していく。
(お願い・・・)
走るルイズが男に思う気持ちは先ほどの恐怖はなく、
(死なないで!)
男の生存を願うばかりであった。
後書き
やっと一話目が書けた・・・。
感想があればお待ちしてます。
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