エクシリアmore -過ちを犯したからこそ足掻くRPG-
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第二十六話 彼女を取り戻すために
/Victor
ラ・シュガルという国を巡る動乱は幕を閉じた。ここからは私たちの戦いを始める番だ。
〈クルスニクの槍〉を破壊し、ミラ=マクスウェルを救い出す。そして、断界殻を開放する。
イル・ファンに来る時に乗ったワイバーンを置いた厩舎に行くと、イバルが一人で立っていた。意外……でもないか。ミラ救出に最も意欲的だったのはイバルだ。逸る気持ちを抑えきれないんだろう。
「遅い!!」
「君が早すぎるんだ。――エリーゼとフェイは?」
「まだだ。あいつらもどこで油を売っているんだっ」
〈槍〉が運ばれたファイザバード沼野には、私とフェイリオ、イバル、エリーゼのみで向かう。クレインとローエンは行けない。
王を倒して政権交代させたんだ。統制権が彼らに回り、やることが大量にある。それに新しい王がすぐさま外に出向くのもよろしくない、とのローエンの判断だった。
まあ、女子の準備は時間がかかると相場が決まっている。大人しく待とうじゃないか。
待つ間に、イバルが「遅い!」と2度ほど叫んだが。
やがて、ティポを抱えたエリーゼと、そのエリーゼに手を引かれて転けつまろびつしながらフェイリオが、来た。
揃ったな。
「エリーゼ。〈カギ〉をイバルに」
エリーゼはポケットから掌サイズの円盤を出し、両手でイバルに差し出した。イバルは神妙な顔で〈カギ〉を受け取った。
「兵器版〈クルスニクの槍〉が起動すれば断界殻が割られ、エレンピオス軍の侵攻が始まる。チャンスは短時間。〈槍〉からジランド含む兵士を排撃。〈槍〉を起動し、ミラたちを解放し、即座にまた起動キーを外す。その後、叶うならミラに〈槍〉を破壊させる。――できるか、イバル」
シンプルだがリスキーな作戦だ。まず〈クルスニクの槍〉を起動させ、すぐ停止させるために、起動キーを接続した人間はキーを握ったままでいなければならない。マナの強制搾取を最も近くで受けなければならないのだ。ラフォート研究所でミラがやったように。ミラは耐えきったが、イバルも同じことができるとは限らない。当然マナ枯渇による死もありうる。
「やってみせる。それが巫子としての使命だ」
露骨にエリーゼを睨むな。そしてティポも威嚇し返すな。
ワイバーンに乗る。組み合わせは私とフェイリオ、イバルとエリーゼ。
イバルがワイバーンの手綱を打った。合わせて私も同じくした。
2頭のワイバーンは飛び上がり、いざ、ファイザバード沼野へ――
ファイザバード沼野は、まさに乱戦だった。ラ・シュガル兵の臙脂色と、ア・ジュール兵の白が入り乱れている。この高さから見てすら、下には降りたくないと思ってしまいそうだ。まあ、降りないが。我々の目的は、おそらくジランドが持ち出した〈クルスニクの槍〉のみ。
――見えた。丘の上。〈クルスニクの槍〉。ジランド自身もそばにいる。もうじき届く――!
バシャン! パン、パン!
水球!? 攻撃精霊術だ。術者は……プレザ!?
「ひゃ…っ」
「きゃああ!」『落ちる落ちる落ちる~~!』
水球をまともに腹に食らったワイバーンが落ちる。当然、乗っている私たちも背中から滑り落ちる。
ちっ、やむをえん。骸殻に変身して先に着地してから、イバルとエリーゼを受け止め……
がくんっ
私やイバルとエリーゼに浮力が働いた。風? そうか、フェイリオ、お前の力か。
フェイリオの操る風の浮力で、全員がほとんど衝撃なく着地した。
「みんなフェイのそばに来てっ。流沼に呑み込まれちゃうから」
フェイリオが増霊極なしで地面に水平に手をかざした。これで流沼対策は終わりか。呆気ないものだ。だが――
「立ち塞がるのは貴様らか」
ガイアス+四象刃(アグリア抜き)のちょうど進行方向が着地点だったことだけは、多少は恨ませてもらうぞ、フェイ。
「ワイバーンを落としたのは貴様らか!」
「ええ。大きな的でとってもやりやすかったわよ、ボウヤ」
プレザが魔導書をひらひらと示した。
獣隷術で動物と通じ合えるイバルには、友人を攻撃されたも同然なんだろう。これでもか! と、プレザを睨んでいる。
「知ってるわよ。〈クルスニクの槍〉の〈カギ〉、そこの小さなお姫様が持ってるんですってね」
情報が古い。やはり出発前に持ち手をイバルに替えて正解だった。
「娘っ子。頼む。大人しく『カギ』を渡してくれ。お前を傷つけとうはない」
「渡すものか!」
イバルがエリーゼより前に出て、二刀を抜いて真っ先に応戦の構えを取った。
「これは…これは俺の大切な方を解き放つために欠かせない物なんだ!」
数だけなら4対4でイーブンだが、こっちには子供が二人もいる。
フェイリオ、それとイバルとエリーゼを後ろへ。前には私が出る。
「答えてくれるか、ガイアス王。なぜクルスニクの槍を求めるか」
「全ての民を守るためだ。力は全て俺に集約させ管理する」
「それはただの独占に過ぎんぞ!」
意外や意外。言い返したのはイバルだった。しかも内容も理に適っている。
「結果、貴様も守るべき民も〈槍〉の力が災いし身を滅ぼすだろう」
「俺は滅びぬ。弱き者を導くこの意思がある限り」
「貴様は一つ重大な現実から目を背けている。貴様にいくら力があろうが、いつかは死ぬ。その後は? そのもっと後は? 人の系譜に二度貴様のような者が現れる保証があるか!? 道を違えた者を正す人間は!? 一代限りの理想などただの無責任な夢想だ!」
イバル……そこまであのガイアスに対して言えるようになったか。君にありし日のミラが重なったよ、マクスウェルの巫子。
「ならば」
ガイアスが長刀を抜き、私たちに向けた。後ろにいた四象刃も、各々の武器を構えた。
「俺がその歴史に新たな道を標そう」
どいつもこいつも、本当に他人の話を聞きやしない。
黄金の懐中時計を取り出す。骸殻に変身するための時計。かつてはフル骸殻でも、〈ガイアス〉を戦えない体にするだけで精一杯だった。
だが、今なら。
〈その時〉から10年の時を経た私と、〈その時〉より1年も前のガイアスなら。
覚悟はいいな? ――自分自身に問いかける。
覚悟などとっくに決まっている。――自分自身に答える。
「パパ……」
「ヴィクトル?」
「すぐ片付ける。3人とも、先に行け」
黄金時計を突き出した。
骸殻発動――100%
後書き
どうにか元の文章量に戻せました。よかった……
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