エクシリアmore -過ちを犯したからこそ足掻くRPG-
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第二十七話 漆黒のミラ=マクスウェル
緋の光が炸裂する。精霊の力、否、呪いが体を造り変えていくのを感じる。
「大精霊の力!? こんな属性、見たことないわよ!?」
「虚仮脅しだ。かかれッ」
悪いが雑魚を相手にしてる暇はないんだ。一気に抜かせてもらう。
まずプレザへ肉薄して魔導書を持つほうの手を掴んで遠くへ放り投げる。
次に、プレザが作った隙に踏み込むはずだったジャオの大槌を硬化した両腕で受け止めた上で、腹に槍の石附を突き出して鳩尾を打った。
ジャオが態勢を崩した所でその肩を踏み越え、増霊極で変異していたウィンガルの胸と羽根を斬った。
止まらない。ガイアスの眼前まで駆け抜ける。
ガイアスの長刀と私の槍が切り結び、互いのいる位置が入れ替わった。
「「「陛下!!」」」
武器が折れたのは、ガイアスのほう。
――俺もまだまだ捨てたもんじゃないらしい。
「パパッ!!」
フェイリオの声が上からした。両脇にイバルとエリーゼを抱えて、〈クルスニクの槍〉に触れるほどの距離に降り立っていた。
「貴様……!」
悪いな、ガイアス。雪辱戦はまた今度だ。
骸殻のジャンプ力を使って、フェイリオたちのいる場所まで跳ぶ。着地に合わせて骸殻を解いた。
〈クルスニクの槍〉を取り巻いていた部隊が恐れも露わに下がっていく。骸殻をわざわざ使ったのはこの丘の部隊への牽制もあったが、どうやら功を奏したようだ。
「許せよ――〈槍〉から周囲の人間を排除しろ!」
私とフェイリオ、エリーゼとイバルで〈槍〉を囲んで武器を抜いた。
「どいてください! そばにいたらあなたたちまで傷ついちゃうんです!」
エリーゼが召喚した闇の手が兵士を掴んでは遠くへ投げる。便利だな、その術。
術で戦うエリーゼを剣術でフォローするのがイバル。
そして私は――
「ガンダラ要塞以来だな。アルクノアの首領」
「分かってんなら話は早え」
すでに源霊匣セルシウスを従えたジランドが、ガンブレードを肩に乗せてニヤリと笑った。
「あんたの身の上はアルフレドから聞いてるぜ、お仲間さんよ。一つ聞いてやる。何故リーゼ・マクシア側に付いてる。エレンピオス人なら、俺たちの国が今どうなってるか知っているはずだ」
「エレンピオスもリーゼ・マクシアもない。私がここにいるのは友人への責任だ」
ジュードとミラの道筋を変えてしまった責任があるから、遠回りでもここまで、彼らの代わりにやって来たんだ。
「――っは。聞くんじゃなかったぜ。無駄な時間を使っちまった」
「それは申し訳ないことをした――――な!」
双剣で斬りつけた、が、ジランドを庇って前に来たセルシウスの氷で防がれた。
いくらか斬りつけるが、同じように氷の盾で防がれる。そういえばこの頃のセルシウスはジランドの従僕だと聞いた。
ならば。
武器をハンマーに変えて、氷の盾に力一杯打ちつける。
盾が砕けるまでは今まで通り。だが、ハンマーは剣と違って盾を割っても威力は殺せない。
許せよ、セルシウス。
ハンマーでセルシウスの腹を強打した。セルシウスが横に吹き飛ぶ。倒れるまでは行かなかったか。だが、充分だ。
「イバル! エリーゼ!」
呼びかけて、フェイリオの後ろまで下がる。エリーゼとイバルも倣う。
すでにフェイリオは合掌してトランス状態。ジランドは狙いに気づいたが――遅い。
「 ひ か り が と じ て 」
大規模な光の障壁が〈槍〉からジランドたちを遠ざける。
フォースフィールド。フェイリオ最大出力の決戦術式。例えセルシウスであろうが破るまで10分はかかる。それだけあれば充分だ。
「ミラ様……お待たせして大変申し訳ございませんでした。今戒めを解き放ちます」
イバルが円盤を取り出した。円盤が砂時計の形に編み上がる。
幾何学の砂時計が、ゆっくりと、コンソールにセットされた。
死ぬなよ。イバル。
ずん、と頭蓋骨の中身が強制的に吸い出されるような重圧が、襲った。
「ぐあっ!?」
「ふうぅ!」『力が抜けるー!』
ラフォートの夜と同じ…マナを剥がされる感覚…!
これを壊すことを最大の目的にした過去のジュードたちの気持ちがよく分かったよ。確かにこんな兵器は後世に残すべきじゃない。
「ダイジョウブ」
フェイリオ?
「ダイジョウブ。コワくない。ダイジョウブ。コワくない――」
二つの言葉をくり返して自身を抱くフェイリオに、錯乱の色はない。
どうしてだろう。そんなフェイを、抱き締めたくて堪らなくなった。
「っ、パパ」
肩を抱き寄せ、強く握ったフェイリオの手を解かせて手を繋ぐ。
「大丈夫だ」
「うん……っ、知ってる」
フェイリオは私の手を握り返した。
――そうして耐えた時間は数分か、あるいは数時間か。
開いた〈槍〉の砲口から、5つの光球が飛び出した。
球形立体陣は5つ。赤、青、緑、茶の陣の中には四大精霊。そして、4つの陣の中央に浮かぶ、最大級の漆黒の球体陣の中――胎児のように丸まった、金蘭の女。
「ミラ様っ!!」
これ以上ないイバルの歓声。
――ミラ=マクスウェルは解き放たれた。
「イバル、もういい! 〈槍〉を停めろ!」
「ぐ、ぬぬぬぬぬぬ~っっ……だああああ!?!?」
イバルは起動キーを外した反動でローリングして戻ってきた。エリーゼが慌てて駆け寄る。……戦場に在ってこの緊張感のなさはもはや才能かもしれん。
ふと、白光の大障壁が消失した。マナの搾取を受けながらの術の維持。フェイリオもよく耐えた。
そして――――嗚呼。
四大精霊を従えて地面に降り立つ、ミラ=マクスウェル。
ラフォートで会った時とはずいぶん趣が異なる。服装が、私が知る〈ミラ〉と同じで、それを黒く反転させたようなデザインだからか?
いや、恰好以上に――彼女はあんな、世界を敵と見なすような目をする女だったか?
「ミラ様ぁーーーーー!!!!」
快復したイバルが一目散に駆け戻ってミラに礼を取る。
「ミラ様、お会いしとうございました。無事のご帰還、心よりお喜び申し上げま」
バチン!!
……今、何が起きた? ミラが、イバルを、平手打ちにした?
「イバル。お前の使命は何だ」
「ミ、ミラ、様?」
「何だと聞いている。答えよ」
「ミラ様をお助けすること、と……戦えないニ・アケリアの民を守ること、です」
「そうだ。お前は使命を投げ出し勝手な行動をとり続けた。もはやお前は我が巫子にふさわしくない。己が使命を忘れて私欲に走る巫子など私は要らぬ」
「――っ!? お、お待ちくださいミラ様! 俺はミラ様をお救いしたい一心で…! どうか、どうか任を解くことだけはお許しください! 俺には誓ってミラ様だけです。ですからどうか」
イバルはミラの前に回り込んで、地面に両手両膝を突いて、ミラを仰ぐ。
ミラはイバルを完全に無視して〈クルスニクの槍〉へと歩いて行った。
「やるぞ。人と精霊に害成すこれを、ミラ=マクスウェルが破壊する」
大気が震えた。地水火風を司る大精霊たちが、それぞれの属性の最大エネルギーを充填し始めた。
ぐっ…ミラの奴、周囲への被害を考えていない! 四大の大出力に、こっちは踏み止まるので精一杯だというのに!
「させるかよ――セルシウス!」
『はい!』
セルシウスから氷の散弾が放たれた。前に出て双剣で全て斬り落とした。だが、それが失敗だった。
私が対応する間に横を抜いて、イバルから起動キーを掠め取った者がいた。
「メイス!?」
ラ・シュガルの兵装をして兜で顔を隠していても、この状況でジランドの意思に添うように動くのは彼女しか考えられない。
メイスは追い縋るエリーゼやイバルの精霊術をひらりひらりと躱し、あっさりと〈槍〉のコンソール前に立った。そして、幾何学模様の砂時計を再び、叩きつけるようにコンソールにセットした。
〈槍〉の砲口が再び開く。今度は近くにいた人間から無差別にマナを吸い上げて。フェイリオのフォースフィールドが切れた以上、もうマナ搾取を遮断する手段はない。
砲撃が、放たれる。
空が、世界と世界を隔てていた殻が、割れた。
後書き
ミラの豹変。これも拙作でやりたかった要素の一つです。いやあ、実現できてよかったです。
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