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寄生捕喰者とツインテール

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瀧馬等の休日

 世界という物は無数に存在する。

 多少違えどもほぼ同じな様相を持つ世界がこの世には無数に存在し、それはグラデーションの如く重なり広がり、日常からほんの少しだけ踏み外した場所に既にいくつも存在するなど、誰が想像できるだろうか。


 アルティメギルはその世界の真実を知り、属性力を得る為に侵略する者達の組織。……全員変態ではあるが、我が物顔で闊歩できる程に、彼等の力は脅威を呼ぶ。

 彼等は自分達の一番の目的である “ツインテール属性の奪取” の為に侵略する世界へ優れた技術を渡し、偶像足るヒーローを生み出し世界中にツインテール属性を芽吹かせ、一気に刈り取る事を常勝戦法としてきた。


 そして、とある世界でも同じ謀略を繰り広げ、滅ぼして来た数多の世界と同じように奪い取ろうとしたのだ。



 ……ここで彼等に二つ誤算と、初の常勝戦法が敗れる凶報が、同時に訪れる事になる。



 彼等にとっての誤算は、自分達が渡す前により強化された技術を、既に滅ぼした世界から同じ過ちを繰り返さぬ為に、贖罪の為にと渡ってきたトゥアールという少女から適合者へわたされてしまった事。
 そして、その適合者である観束総二が、他のどの世界でも類を見ないほどのツインテール馬鹿だった事だ。

 この世界の侵略を担当していた部隊の隊長であるドラグギルディは、総二が変身するテイルレッドとの真っ向から勝負に挑み敗れていった。


 だがここで侵略を終える筈も無く、またアルティメギルという組織は膨大な数の部隊からなるうえ、まだドラグギルディが敗れたのみで他の者達は健在な為、他の世界からも増援を呼びツインテール属性を奪う事を彼等は頑として諦めない。


 テイルレッド、彼等の仲間のテイルブルーと仮面ツインテール、そして敵対する食欲のエレメリアンであるグラトニー。
 彼女らの戦いは、まだ始まったばかりなのだ。





 ……しかし、彼等は知らない。

 常勝戦法を破ったのはテイルレッドではなく、今総二達の世界に居る部隊が束になろうとも、再び部隊を二つ連れてこようとも、一矢報いる事すら出来ない―――――サーストという名のエレメリアンである事を。


 そして、グラトニー、サースト以外にも、この構成している属性力も分からない謎のエレメリアン達は存在しており、ゆっくりと確実に背後に忍び寄ってきている事を。
















 ドラグギルディ亡き後の会議室。

 そこには雀を模した怪人であり、また古参兵でもある将・スパロウギルディが居た。自身のが積み上げ年紀を重ねる事で得た老獪な雰囲気を凌駕するほどの陰鬱さを醸し出していた彼は、飛び込んできた部下と思わしき者達を見て、報告の予想は出来ているのかさらに拍車がかかる。


「スパロウギルディ様! タイガギルディ殿が、タイガギルティ殿が破られました!」

「僅かに希望は掛けていたが……やはり、無謀だったか……っ!」



 タイガギルディは、総二がツインテール部が如何だのと叫び瀧馬をズッコケさせた日に現れた、学校水着属性をもつ怪人ではあるが、実のところドラグギルディとは実力に開きがあり彼と比べると弱い。

 ツインテイルズは言わずもがな、グラトニーが相手をすればそれこそ瞬く間に終わってしまう。



「ツインテールに見とれてしまった事、そしてテイルレッドが来ている戦闘服がスクール水着に似ていた事も敗因の一旦だと思われますが……」
「一番の敗因はグラトニーと遭遇してしまった事にあるかと思われます!」

「ぐっ……奴か……」


 次いで会議室のスクリーンに戦闘時の記録映像を映し出す。

 そこには、青ざめた顔で後ずさるテイルレッドと、何故か腹を無防備にさらした筋骨隆々の虎怪人・タイガギルディが居た。



『な、何腹晒して寝てんだよお前っ……!?』

『素晴らしい! 正に天女とも見紛うてしまう、それ程に完ぺきだっ! 頼むスク水の幼女よ! 我の原をプールだと思って飛び込み泳いでくれぇい!!』

『変態どぅあああああアアアァァァッっ!?』


 絶叫し戦意を無くしたかのよう取り乱すテイルレッド。剣も何時の間にやら消え失せている。

 しかし、直後にタイガギルディの腹へ飛び込んできたのは、スク水っぽい衣装を着たテイルレッドでは無く、鎧と服に包まれたグラトニーの左腕だった。



『や、やめ……汚らわし……鎧何ぞ来て露出―――』

『コォォォォ……』

『ゴポッ!?』



 見えなくなり掌で持ち上げているかと思わせるまで指を突きさして、何処にそんな力があるのか異形とはいえ左腕一品でタイガギルディの巨躯を持ちあげる。

 旧気口からは絶え間なく空気が取り込まれ、最早タイガギルディの運命は決しているに等しい。



握風科斗(あくふしなと)
『ホキョコ―――』



 情けない断末魔を上げて、タイガギルディは破裂してバラバラに吹き飛んだ。

 そして属性力を吸い込み、間違って転がってきた属性玉をテイルレッドが左腕へ終ってしまった事で喧嘩の様な一波乱が起きて……そこで映像は途切れた。



「こ奴は我らを喰い物としか思っておらん……加えてツインテイルズを凌ぐとも思える強さ、厄介にも程がある……!」


 スパロウギルディの苦々しい台詞に部下達も頷き、そこで報告は終了となった。

 ドラグギルディが死亡した事により、自動的に彼から隊長権限が移ったスパロウギルディではあるが、彼の中に渦巻いているのは威勢のいい文句では無く、諦めがしめる諦観であった。


 ツインテイルズは、彼等が今まで戦ってきたそのツインテール戦士よりも強い……強過ぎる。

 加えて彼等の天敵とも呼べる、芯となっている属性力を特定出来ない謎のエレメリアン、グラトニーの存在もより重くのしかかってきている。


 また、ドラグギルディの参謀であり部隊の頭脳でもあった彼は、進行の際に課せられる裏の目的、“ツインテール属性の拡散・養殖”についても知っていた。
 つまるところ、部隊最強であり作戦の要でもある彼が倒されてしまったという事は、スパロウギルディ他構成員たちは倒されたも同然なのであり、それを知っているからこそ諦観に支配されてしまっているのである。


 当然何も知らないエメレリアン達は、無駄に儀に熱い所がある故に弔い合戦だと燃えている物が大多数。しかし、どれだけ送ろうとも、待っているのは倒されるか喰われるかの、どう転ぼうと死ぬ理不尽な二択しかないのだ。


「ツケが回ってきたか……味を占め、効率ばかり求めてきた……此方も地道に積み上げていく事を怠ったが故の、重い大きなツケが……」



 スパロウギルディのいうとおり、アルティメギルは味を占める前からもどちらかというと、隊長は強くそのほかは中途半端な一強百弱な部隊であったのに、効率のいい養殖に手を出してしまったからは更にその傾向が強くなってきてしまっていた。

 ドラグギルディほどの実力者は他部隊部隊長でも中々おらず、何とか部下を宥め士気を下げてこの世界から撤退するべきか……スパロウギルディそう考えた時。



「スパロウギルディ隊長!! 新たな部隊が増援に来るとの知らせが!!」
「……しかしな……生半な部隊ではどうにもならんのだぞ……」
「生半どころではありません! リヴァイアギルディ様の部隊です!」
「何と!」


 部下達の報に思わずスパロウギルディは立ち上がった。それもその筈、リヴァイアギルディはドラグギルディと修行時代を共にした猛者であり、実力も匹敵すると折り紙つき。

 思わぬところに居出た吉報で、スパロウギルディの顔にも希望が戻ってくる。


 そんな彼に、更なる衝撃が舞い込んできた。



「それともう一部隊……クラーケギルディ様もここに!」
「何……!? まことか!?」
「はっ! 間違いは無いかと!!」



 クラーケギルディはとある事情によりリヴァイアギルディへと対抗意識を燃やす戦士であり、ツインテール養殖という今の今まで常勝であった作戦にも拘らず、自ら戦場へとおどり出て戦果を上げなお上げてきたという。



「お二方の仲が非常に悪く、お互いを強くライバル視しているのはアルティメギルの兵にっとっては自明の理……ましてやそれを“上”が知らぬ筈がないであろうに、何故そんな二人を呼んだのだ……?」



 巻き起こるであろう波乱を予想し、スパロウギルディは表情を硬くするのであった。







 ……“陰” が、刻一刻と迫り来るのも知らぬまま。















「……会長……?」

「あら、あなたは確か……新垣君、でしたか?」




 とあるショッピングモールの一角。


 暇潰しにでもと繰り出した瀧馬は、生徒会長である神堂とバッタリ出会っていた。後ろには部室で見た、護衛のメイドさんも絶賛待機中である。


 瀧馬は神堂を見て思わず呟いたことに、彼女は以外にも名字を呼んで返して来た。



「……よく知ってますね、俺の事なんか」

「名前を聞きますもの。“早退ばかりしているのに単位だけはしっかりとっている変わり者” だとか、“テイルレッドの魅力をどれだけか語っても共感しない変わり者”とか……」

「……前者は兎も角、後者は個人の勝手でしょうが」



 瀧馬の言うとおり、自分の趣味を語るだけならまだしも押し付けて無理やり引き込むのはよくない。そもそも瀧馬にしてみれば、彼等は変りものを通り越してレベルの高い変態としか見ていないのだから、そんな人達に巻き込まれたくは無いと思うのも当然だ。



「そうですわね。お聞きしますが……ツインテイルズがお嫌いな訳では無いのでしょう?」
「どちらかというと過剰すぎる信仰心を持つファンが嫌いですね。何処を見てもテイルレッドテイルレッド、偶にグラトニー。一番まじめにやってるブルーの事もちょっとは取り上げろともいますよ」
「その通りだと思いますわ。彼女もツインテイルズの一員ですのに」



 テイルレッドに惚れた発言をしたことから他の奴と同じかもと瀧馬は思っていたが、意外や意外素直に応援しているのだと聞いて、こういったファンばかりならニュースも気軽にみられるのにと溜息をついた。

 何故ここに居るのか気になった瀧馬が視線を泳がすと、ただブラブラと歩いている彼とは違い、神堂は整理券を持ちどうやら列に並んでいる様子。

 先頭は玩具専門店のテナントがあるので、恐らくは何かしらのグッズを買いに来たのだと推測できる。



「買い物ならメイドさんにでも任せればいいでしょうに……会長、散々狙われているんでしょう? テレビに端っこですが結構出てますよ」
「自分で買うからこそ愛着がわくんですわ。それに、ピンチに陥ろうともツインテイルズが助けに来てくれますし」
「……」



 普通に聞きとれば絶対的な信頼を置いているように聞こえるのみだが、少し勘ぐればもしかするとツインテイルズに会いたいがために態と危険に飛びこもうとしているのではないか……そうも受け取れてしまう。


 ふと、護衛のメイドから睨まれるでもただ見ているでもない、説明し難い感情を込められた視線を向けている事に違和感を覚えるも、深く入り込んでも自分に対した利が無いと感じているのか、瀧馬は一言挨拶してから神堂に背を向け歩いて行った。



『あのメイドさん結構美人だっタガ、いやはや何歳なのかねネェ』

「……何でそんな台詞が出てくるんだ」

『いやあの視線ハ……や、言うのはよしとクカ……時に相棒、あのメイドさんは相棒的にどウダ?』

「可も不可も無く……ってとこだな。俺が判断するなんざおこがましいだろうがよ」

『クハハ、そうかいそうカイ』



 結局何が言いたいのか理解できないまま、瀧馬は小腹見たしにと有名チェーンのテナントでハンバーガーをしこたま買って、開いた口が塞がらない店員や客を余所にそれらをコーラと共に流し込んで行く。


 そして、最後のハンバーガーに食らい付いた、その時。



『相棒来タゼ!! エレメリアンの気配ダ!!』

「……んじゃ、物理的腹ごしらえの次は、属性力の腹ごしらえと行きますか」

『いいねいいネェ! 大分板についてきたぜ相棒ヨォ!!』



 言うが早いか別の場所に移動して、人外的身体能力を持ってあらぬ場所に張り付き、何時ものように唱える。



『コネェクトォ!!』

「コールズセンス」



 対照的な温度差で紡がれた言葉が形となり、醜いとも形容出来てしまうオーラに包みこまれ、グラトニーが出現した。

 左手を握ったり開いたりを繰り返している間に、鼻をひくつかせて匂いの発生源を静かにたどる。



「こっち!!」



 ……なんて事はせず、匂いを感じるや否や驚く人々をしり目にパルクールもかくやの乗り越しや呼び下りを行って、即座に目的地へ向けて移動し始めた。


 ショッピングモールの外、駐車場である現場について見えた状況は、案の定、会長が戦闘員(アルティロイド)と蟹の怪人に囲まれてしまっているものだった。


『理不尽な言い方かもしれねェガ、あんなんなっても毎度毎度懲りない嬢ちゃんだヨナ』

「……同意……」

『そうれはそうと妙に集中してんな相棒……アレを使う気かカ?』

「うん」



 又かよと、徐々に瀧馬の影響を表に出せるようになっているのか、グラトニー姿で溜息を吐いてから、思いっきり飛びあがって取り込んだ空気を爆発させる何時もの戦法とは違う、風を体に纏って空気を使い光を屈折させて姿を消すという、絡め手を使いはじめた。

 特殊な風である故にまず触れなければ見破れず、触れても乱気流の如く渦巻ているので下手をすれば触れた個所に傷がつくという、攻撃面では心許無いが攻防一体のスタイルである。

 しかしながら弱点もあって、コレを発動している間は左手は言わずもがな、微調整として使っている右足も当然使えず、放出するという能力の特性上応用しても纏うのは苦手なようで、やはりそうそう長く使っていられないのである。


 その僅かに消えている間を利用し近付こうとして……ここで思わぬアクシデントが起こってしまった。




属性玉(エレメーラオーブ)――――兎耳属性(ラビット)!!」
「ブルー! 一般人達を頼む!! ……ってあたっ!?」

「……あっ」


 何と不意に飛び込んできたテイルレッドがグラトニーにぶつかってしまい、ソノで集中力が途切れて姿をさらしてしまったのである。

 こればかりは流石に予想は出来ないし、見えていなかったのだからツインテイルズ側にも非は無く、どちらが悪いとも言えない。



「のわああっ!? ここ、こんなとこからいきなりグラトニーがァッ!?」

「な、なんとぉっ!! 貴様一体何処から現れ―――」

「がぶっ!!」

「ぎぃぃぃああああぁぁぁ!? 喰われたァァァあっ!?」



 面倒臭くなったか驚く面々を無視してグラトニーは喰らい付いた。半ばヤケクソ気味に突撃したように見えるのは、ス二ーキングが失敗して空気的にどうしようもなくなったからかもしれない。

 喰い千切られた部分を押さえながら、蟹の化け物はよろよろと立ちあがる。



「あ、現れたかテイルレッド! 世界を超えて強さの知れ渡る、幼く美しき戦士―――」

「がぶっ」

「よゴイデェエエエェェエェ!? は、話ぐらい最後までぶほおっ!?」



 知るかとばかりに殴り飛ばされた。

 まだ名乗りもあげてないのに、なんだか不憫になってくる。

 蟹の化け物はもう意地でも言いきる為に、戦闘員を盾にして移動しながら大声を張り上げた。


「我が名はクラブギルディ!! 項属性(ネープ)―――」

「ドラアッ!!」

「ごっはああっ!?」

「グ、グラトニーっ!? 最後まで言わせてやれって!? 何か可哀そうだし!!」



 思わず突っ込みを入れてしまうテイルレッドではあるが、グラトニーが周りを考えずにクラブギルディを吹き飛ばしている事に不安を覚え、周りに被害が出ぬよう警戒し始める。

 ……ちなみにテイルブルーは、兎耳属性の跳躍力強化を使って、戦闘員相手に遊んでいた。



 対するグラトニーとクラブギルディの対決は、グラトニー優勢かと思われた矢先、戦況に変化が起きる。



「ぬぅぅ……」

「ルァッ!! ……アレ?」

「フ、残像だ」



 グラトニーが思いっきり殴りかかるが、殴られたクラブギルディが霞んだかと思うと、次の瞬間にはグラトニーの背後に居た。

 それなりに驚いたかグラトニーは軽く目を見開いている。



「うむ、異形的な外見だが、なかなかどうして、いい項を持っているで―――」

「ハァッ!!」

「残像だ……いい項を持っ―――」

「ルアッ!!!」

「残像だ……いいう―――」

「オオオッ!!」

「残像だっ! というか後生だから最後まで言わせて」

「デアッ!!」

「ぐほぉおおおぉ!!!」



 クラブギルディが中々最後まで言い切れないジレンマに陥ったのと、グラトニーが今までは態と拳で殴りかかり隙を窺って時が来るとともに加速された右足をぶち込んだのは同時だった。

 項を見せたまま蹴り飛ばす。この判断だけはクラブギルディも予想だにしなかったのであろうか。



「……も一発……!!」

「侮れぬ娘よグラトニー……ぬおおっ!? だ、だが対策はとれる!」

「ヤッ!」

「残像だ……ぬぐっ!」


 無防備に腹を晒していた今までとは違い、クラブギルディは挟みを目の前でクロスした。言わずもがな、防御の体勢だ。

 蟹の口角の頑丈さと体格差を持って、クラブギルディは見事にグラトニーに一撃を受け止め――――



「む、だああっ!!」
「え、ちょまぬぐおおおぉぉーっ!?」



 拮抗もせず両方のハサミをぶち折られて派手に蹴り飛ばされ、壁へ向けて吹き飛んでいった。

 防御という判断自体は悪くなかったが、如何せん実力差を計算に入れていなかったようだ。



「ぐほ……こ、ここまで実力差が……何という雄々し――――」

「フン!!」

「おっと、残ぞ」

「……こっちもね」

「へ? あ、ぬげぇえっ!!?」



 クラブギルディの話を強引に遮る形でグラトニーは突貫し、彼の速度をも上回って背に回ると新たに生成された一本を含めた六本指を深く突きさし、タイガギルディの時よりも軽々と持ち上げた。



「コォォォォォ……」
「う、項が……格好では項が……」

「握風科斗!!」

「項が見―――――」



 結局最後の最後まで全て言い切る事が出来ずに、クラブギルディは木端微塵に破裂した。



「……あ、あっという間に……相変わらず強過ぎんだろ……」
「あ、終わった? そんじゃ帰りましょうか」
「慣れ過ぎだろこの状況に!? もっと何かこう言う事は無いのかよ!?」



 いまいち納得がいかないらしいテイルレッドの質問に対し、テイルブルーは少し考えてから口を開いた。



「特には……無いかな? それに対処してもらえるなら放っておいた方がいいと思うわよ? あの子人間には手を出さないし」
「でも、周りの被害を考えないし、何よりツインテールは俺自身の手で守りたいんだ!」
「……うん。言わんとする事は分かるけど、さ」



 テイルレッドとしても譲れない物があるのだろう。でなければ、とっくの昔に出撃なんてやめている筈だからである。
 彼女(彼というべきかもしれないが)の事が心配で着いてきているテイルブルーもまた、その思いを知る限りは出撃を止めないであろう。



「とりあえず、被害者達の容体を聞いて―――うわっ!?」
「ブルー!」



 調子に乗ってピョンピョン跳び過ぎたせいか、テイルブルーはもう一度跳んだ際にジャンプ力の違いに一瞬戸惑い、つまずいて転んでしまった。

 そしてその左腕は、グラトニーが探しているのであろう、属性玉にぶつかり……しまいこんでしまった。



「……あ……!?」
「あ」
「……むぅぅうぅぅう~……」
「ご、ゴメン!? ゴメンてば!」



 流石にタイガギルディの時の乱闘騒ぎを、この場で二回も起こす気は無いかグラトニーは頬を膨らませて唸るに止めているが、滲みでてくる尋常では無い怒気よ殺気の所為で全く微笑ましくは見えない。

 テイルブルーも本人の過失だと承知しているか、ジェスチャーで謝り続けた。


 呆れと畏怖がまぜこぜになった表情でそのやり取りを見ていたテイルレッドの背中へ、神堂が御礼の声を掛ける。



「また、助けていただきましたわね。本当に、ありがとうございますわ」
「いや、どちらかというと倒したのはグラトニーで……」
「それでも戦闘員から解放してくれたのはあなたでしょう?」



 そう、グラトニーが戦っている後ろで、テイルレッドは戦闘員に捕まっていた人達を解放して回っていたのだ。

 神堂の言葉に頷いたテイルレッドは、細かいところまで見てくれているんだと目を閉じ微笑んだ。


「また、来てくれますか?」
「はい、あなたがツインテールを愛するかぎり」
「ツインテールへの、愛……」



 そこで神堂の表情が曇ったのを、どうやら落ち着いたらしいグラトニーは見逃さなかった。そんな彼女(此方も彼の方がいいかもしれないが)を見てラースは呟く。



『あの時と同じだァネ……まさカ、ツインテールが好きじゃあねぇノカ?』

「……さあ」

『イヤイヤ、聞いた訳じゃないッテ。そりゃ相棒はしらねぇだろウヨ』



 とにかく貰うもんは貰ったからと、グラトニーは背を向けて上空へと勢い良く跳躍し、ショッピングモールの屋根の様な出っ張りの上のっかって、勢いよく空気を噴出して彼方へ消えていった。


 その、飛び去る前のほんの一瞬間……その刹那の時に――――




「ほら、早く行くわよ!」
「あ、ああ! じゃあね! ごめん会長!!」
「……え……?」



「……ネタバラシ早い」

『やっぱバカだったんダナ、あイツ』



 真実へ近づいてしまう確率を上げる、決定的な証拠となりそうな失言を聞いたのであった。

 
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