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寄生捕喰者とツインテール

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陰に潜む“影”

 
前書き
ここでもう一つ新たな物も加えて忠告しておきますが、


・主人公は強いですが上には上がいます。

・オリジナル展開は、完全オリジナルは言わずもがな、乱入などの改変でも俺ツイ独自の世界観がシリアス方向にぶっ壊れます。(主に単純感情種のエレメリアンの所為)

・主人公は敵でも味方でも無いポジションになる[予定]です。

・原作の日常風景は総二達を取り巻くモノなので、瀧馬が主人公であるこの作品は、基本的にそういう部分はすっ飛ばして瀧馬視点で送る事もあります。

・オリジナルキャラはアルティメギルはおろか主人公達にも容赦なく、お約束や場の空気関係なく牙をむきます。
 そして、原作キャラは大抵苦戦か敗北かしか待っていません。



 ……以上を再び踏まえた上で……では本編をどうぞ。

 

 
 何時ものようにパンをかじりながら登校していた瀧馬は、前方にかなり不思議なものを目にした。

 それは、トゥアールがコルセットとギブスをしながら元気良く歩いている光景だった。



「大怪我人じゃねぇか、何で登校してんだよ……」

『ぱっと見全治2ヶ月は下らねェナ』



 傍を通る他の生徒は大して気にしてもおらず、そばに付き添って歩いている総二や愛香でさえ心配している様子は感じられない。

 瀧馬は本気で心配になっているというのにだ。



「……やっぱり俺がおかしいんだろうか」

『前もいったが相棒(バディ)は正常ヨ。常識人だからこそ正常ヨ。あいつ等がおかしいんだッテ』

「ああ、分かってはいるんだけどな……」



 もしかすると、今の自分の様に何が正しいのか間違っているのか分からなくなって、もう深く考えるのが面倒臭くなり一緒になって変態行為に走る者もいたんじゃないかと、瀧馬はそう思いはじめた。

 現に、彼自身だって流石にアチラのノリに着いて行こうとは思いきれないものの、無気力になり自身の考えが正しいのかも分からなくなりかけていたのだから。


 何とかラースの助言で頭のモヤモヤを取り除いた瀧馬だったが、前で後少ししたらこの怪我人セットも外れますという、意味不明な言葉をトゥアールが叫んだのを聞いて、変人の所為では壊れたくないので………瀧馬は考える事を止めた。


 教室に入って無言で席に着き、瀧馬はホームルームがはじまるまでの談笑の時間を、まるで死刑判決を受ける前の在任の如く項垂れながら、何をするとでも無く過ごしていく。


 落ち込んでいる彼を不安に思ったのか後ろの席のクラスメイトが声を掛けようとするも、元々の人相の悪さと相まって不気味な雰囲気が7割増しになっていたので、声を掛けようにも踏みとどまってしまい掛けられていない。


 そうこうしている内に時間は過ぎて、樽井担任が何時も通りゆっくりドアを開けて教室へ入ってきた。

 樽井担任は教卓の前に付くと、何時も通りの気だるげな声でゆっくり告げる。



「え~とぉ、今日は転入生を紹介します~」



 先生が入ってもいいと許可を出すと、銀髪を靡かせ知的な印象を抱かせながら、トゥアールが入ってきた。
 素行は兎も角美貌は中々の物なので、男女共に溜息を洩らしている。

 瀧馬は彼女の人となりを既にある程度知っていかことから、隣の総二が当人でもないのにすごく緊張している事に少しばかり同情した。

 と、愛香の方を向き、何やらアイコンタクトを交わし始める。……しかしながら、総二は問題を起こして欲しくは無いといった表情だったのに対し、愛香は暴力を使っても止める気満々といった表情で、アイコンタクトは全く成立していないのが見て取れた。


 トゥアールは黒板まで迷いなく増すぐ歩いて行くと、白チョークで大きく文字を書きだし、『観束トゥアール』とかかれたのを見て、クラス中の視線が総二へと集まり俄かにざわつき始める。

 ……それと同時に、涎を垂らしてニヤケ、第一印象をわずか数秒で覆してくれた。



「……一体何にニヤケてんだあいつは……」
『サーナ、分かんねってか分かりたかねェナ』



 奇異の視線を一身に受けている総二はというと、テイルレッドで慣れているのか案外平然としている。
 確かに、普段のテイルレッドを信仰するファン、もしくは変態達の好奇は異質勝つ物凄い物なので、何で同じ名字なのかというだけの意味しか持たない視線では、流石に動揺できなくなっているのだろう。

 もう用事は無いと判断したか、瀧馬は頭の中の靄を取り払うべく、机に突っ伏して寝始めた。



「トゥアールさんはぁ、観束君の親戚で海外から越してきて~……あ、あと今は一緒に住んでいるそうで~す」



 適当に終わったトゥアールの紹介だが、ホームステイというのは別段普通にある話なので、皆納得してざわめきを徐々に止ませていく。

 ……が、普通は何で名字を一緒にしたのか、海外から来たなら違うモノがあるだろうにと、納得は出来ず疑問を抱く所だが、この教室内の人物にそう思う物はおらず、肝心の瀧馬は既に寝付いていた。
 

 あっという間に終わった事が予想外だったか数秒フリーズしたトゥアールは、焦りながら樽井担任へと詰め寄る。



「ちょ、ちょっと待って下さいよ先生!? 総二様との関係を問われた所で、一つ屋根の下の住んでいる事をぼかしながらも暴露し、誤解が広まった所で種を明かすつもりだったんですよ!?」



「……」

『ナーニ考えてんのかねあの嬢ちゃんハヨ……ってか相棒寝るの早イナ』




 いびきもたてず静かに寝ている瀧馬に言及する者はおらず、担任ですらスルーしてトゥアールの詰め寄りを回避しながら悪びれも無く言った。



「ごめんなさいね~、でも余り時間を割けないんですよぉ……もう一方紹介しなきゃいけないですからね~」
「ええっ!?」



 コレまた想定外だったかオーバーリアクションも取らず素で驚くトゥアール。その驚愕の叫びとほぼ同時に扉が開けられ入ってきたのは―――――



「本日から体育教師として赴任されます、桜川(みこと)先生で~す」
「始めまして! これから宜しく!」



 昨日瀧馬がであった神堂の後ろに居た護衛……即ち、メイド服姿の女性だった。無論、今もメイド服姿だ。

 しかも彼女は常日頃から神堂の傍に居るので知っている人は意外と多く、服装も含めて突っ込みどころ満載である。



「あの、先生?」
「あら~どうしましたか~?」
「その人って、会長の……」
「そうでしたかね~? よく覚えていないから知りませ~ん」



 そっぽを向いて小憎らしい態度をとっているので、恐らく……いや絶対に知っている。知っている上でとぼけているのだ。

 空気を読まないだけでも充分厄介だが、事なかれ主義も持ち合わせていると分かり、厄介さに拍車がかかる。


 ……空気を読まない筆頭としてあげるなら、未だ寝続けている瀧馬も相当なモノだが……。



「ななな……なんですかコレ!? こんな筈じゃあなかったのに、予定と違います!」
「む、君が転入生か。新しく来た者同士、これから宜しく」



 うろたえ敵視するトゥアールの手を強引に取って、桜川教員は余裕の態度で握手をした。握手を終えてから一旦身なりを整えて、改めて自己紹介すべく生徒達の方を向く。



「皆もよく目にしていたから知ってはいると思うが、私は神堂慧理那様の護衛を任されたメイドだ。それが私の仕事なので仕方ないとはいったのだが、お嬢様がどうも私がじっとしている事を気にするので、理事長との相談の元非常勤で体育の講師を務める事となった。教員免許も持っている、安心してくれ」



 ラフで動きやすい格好では無く、ある程度動きやすく改造されたメイド服姿の体育教師とはこれいかに。
 如何やら世界はテイルレッドばかりでおかしくなっている訳ではない模様。

 まあ体育教師として言うならば、護衛を任されているほどなので運動神経にはさして問題は無いだろう。……格好には問題大ありだが、理事長公認ならば諦めてスルーするしかない。



「フ……しかし中々に静かなものだな。普通、美人教師がやってきたのならば、あれこれと質問攻めにあうとばかり思っていたが……遠慮をしているのか? 大丈夫だ臆する事は無い、バンバン質問してくれ」


 今の発言に二つ突っ込みを入れるなら、一つは自分で美人というなという事、二つめは予想外な出来事を連続で浴びせておいて無茶を言うなといったところだろうか。

 そこで、蚊帳の外ににされかかっていたトゥアールが割り込んだ。



「後から来たのに何故に仕切るんですか!! まだ私のターンです! 私の戦場なんですよ!」
「そうカッカするな。別に焦らずとも生徒なのだから質問の機会はいくらでもあるだろう。だが私は教員、詳しい事を聞くチャンスは少ないのだぞ」
「関係ありません! それに私にとっても今日こそが唯一無二の戦いなんです!!」
「ほう、中々いい気概を持っているじゃあないか! なら公平に同時進行といこう! 私たち二人に質問のある者はいるか?」


 普通なら盛り上がる場面の筈なのに、生徒達は一切合切言葉を発さず教室はシーンとしている。

 トゥアールや桜川教員の空気とペースに巻き込まれたくない為であろう。普段から人としての尊厳が終わる行動を幾度となく実行し、変態街道を突っ走る者達だったとしても、こういった時での保身をしておきたいのだ。

 例え別の意味でもう手遅れでも。



「むむ? かなり熱い視線を感じるが……おお! 確か君は観束君だったか!」
「へっ? ……あっ!?」



 総二はどこか上の空で目の前で行われるやり取りを見てたのだが、桜川教員は髪型を少し上側で結ばれたツインテールにしており、恐らく無意識のうちにそこへと視線を送っていたのだ。

 この人もこの人で不安になる。将来大丈夫なんだろうか。



「いや、俺はその……」
「せんせーい。観束君は大のツインテール好きなんでーす」
「あ」



 注意がいったのをコレ幸にと、自分達からより注意をそらすために、総二は名も知らないクラスメイトに周知に事実を改めて密告された。

 ……ちなみに、瀧馬はまだ寝ている。連絡無しの早退といい、要らない所で豪胆な奴である。



「そうかそうか! ならちょうどいいな、ツインテール好きな君にはこれを上げよ――――ん?」



 そこで漸く寝ている瀧馬に気が付いたか、彼の方を強めに叩いて起こした。



「起きろ!」

「うぐっ? ……む?」

『ヨオ、起きたか相棒。早速状況説明すルゼ』

「常識のなっていない奴だな……と、それは兎も角観束君、そして寝ていた君にもこれをやる」



 そういいながら桜川教員は、総二と瀧馬の机にA6サイズ程の封筒を置いた。写真か何かでも入っているのかと総二は普通に、瀧馬はラースからの状況説明を受けながら中身を見てみると、とある一枚の紙が入っていた。



「あのー、コレ婚姻届って書いてあるんですけど」
「読みに自信がないのか? 大丈夫だそれで読み方はあっている」
「……」
「いやあの、妻の欄に先生の名前が書いてあるんですが……」
「当たり前だ。夫婦侶法の名を書き記して初めて婚姻届は意味を成すのだ。書かなければ相手に失礼だろう」
「……いや、相手って! 相手って!!」
「君達だっ!!」



 非常識中の非常識にも拘らず、桜川教員はそれを常識か何かの様に口にした。迷いが微量にも、一片も感じられない。

 瀧馬は受け入れがたい事に直面しているのか、黙りこくっている。


「何で俺なんですか!?」
「君はツインテール好きなのだろう? 大が付く程の! なら何の問題も無い!!」
「うぇえええぇっ!?」
「……なら俺は?」
「人が自己紹介をしている時に寝るなど常識がなっていない。だから私が妻としてつきっきりで教えてやる為に結婚するのだ! 幸せにもなって一石二鳥だ!」



 驚く総二と眉をしかめる瀧馬。何を言っているのかは分かるが、何故はっきり言えるのかが分からないといった表情だ。

そこへ、今の今まで置いてけぼりをくらっていたトゥアールがようやく割り込んできた。



「問題ありありなんですよこの年増! 総二様は既に売約済みなんですよ! 何せ私の前世からの恋人であり、婚約者なんですから!!」

「「「……………」」」

「……何で反応してくれないんですかぁ……もっと囃し立ててほしいのにぃ……」

「中二病かとでも言って欲しいのか? あんた」
「そうそうそれ―――じゃない!? ちゃんと帰ってきたのがそれって何でですか!? ……あぁ、学園ラブコメぇ……」



 クラスメイトはいっそのこと清々しい程にリアクションが無い。得意げに語っていたので自信があったのだろうが、普通はリアクションがあっても呆れるか瀧馬の様に返すのが当たり前かと思う。


 これ以上は聞きたくないと、瀧馬は耳を何とイヤホンで塞いで馴染みの曲を聞き始めた。視線も下げているので、何が起こっているかなども知らずに済む。



『難儀な事さね相棒ヨォ』

「……ああ、全くだ」



 やたら長めなやり取りが終わったのをラースから教えてもらい、瀧馬はイヤホンを外して教科書を取り出した。

 ……何故か布の切れ端が床に落ちており、愛香が教卓の前に居たが、それは瀧馬の知る所ではないし、彼とて知る気も無い。



「チャイム鳴っちゃってるじゃないですかぁ……私の計画がぁ……」



 項垂れるトゥアールを余所に、桜川教員は不思議そうな顔を瀧馬へ向けてきた。



「そう言えば君、えっと名前は……新垣君か。新垣君、婚姻届は如何した?」
「……」
「ん? 紙のボール――――まさか!?」



 無言で机の中から出してきた紙の歪なボールに驚くと同時、目にもとまらぬ速さで瀧馬はゴミ箱へと投げ入れた。



「な、なにをぉ!? ここまで豪快な行動に出れるとは!? 齢二十八にして結婚出来ていない者の咎を知っていて早々できるものではないぞ!?」

「知るか」



 本人には悪いが、正にその通りである。瀧馬にとっては他人の事情などは、余程の事情でもない限り知った事じゃあ無い。ましてや自分の人生まで喰い潰される訳にはいかない。

 が、意外や意外、桜川先生は瀧馬の態度に怒る事も無く、新たに婚姻届をトランプの様に広げて出して見せる。



「まあしょうがない。ところで他に欲しい者はいるか? 学園の前男子生徒分は持ってきてある、男子諸君よ、遠慮はいらないぞ」



 絶賛遠慮したいだろう好意を受けて、教室の男子生徒達は一斉に教科書を広げた。シャープペンシルを構え、ノートに手を掛ける彼等の気迫は受験生のソレである。

 ……例外として、総二はぽかんとしたまま姿勢正しく座っており、瀧馬はラフにダラーっと座って教科書を置いただけで開いてはいない。



「嫌だっ……俺はテイルレッドたんと結婚するんだ……婚姻届なんて見ただけでも彼女が悲しむ!」



 そんな事は未来永劫何があろうと、どんな軌跡が起ころうとも有り得ないから安心して欲しい。



「コレは試練か……テイルレッドたんへの愛だけは一丁前で、他は何も無く不釣り合いだからと……ならばやってやる、学年主席を目指すまでだ!」



 愛が一丁前かの判断はそれこそ人によるだろうし、そもそも彼は教室中最も成績が悪く学園の中でも下位なので、主席になるなら他すべてを……テイルレッドも捨てるほど努力しなければならない。



「念の為だ、愛する妻の為に俺も婚姻届を書いておくか……妻の名前は、テイルレッド」



 まだ年齢が全然足りないので卒業せねば婚姻届は受け取れないし、そもそも書いた所で相手が受け入れてくれるかどうかは分からない……。いや、絶対に拒絶される結末は見えている。


 そんな暗黒空間を作り出している彼等を見て、芳しくないと思ったか桜川先生は愛香へニヒルな笑みを送ってから、樽井担任を引き連れる形で教室を出て行った。



「全生徒分あるとか言っていたな……もしや物色してるのか?」

『そうなんだろうなきット。表にゃ出してなかったガ、大分焦ってたみてぇダシ』

「……男にとっても関係ない話ではなさそうだが……今は、関係ないか」

『無いにも程があルナ。当分はこっちに来ないと良いけドヨ』



 ラースと会話を交わしながら、余計に混沌とし始めた学園に対し、瀧馬は末期も地獄も通り越したかと言わんばかりの表情をして、教科書の上に静かに頭を置いて、再び寝始めたのであった。



 ……授業が始まる前から寝る気満々とは、やっぱり余計な所で豪胆であった。














 時を同じくして、アルティメギル基地。



 リヴァイアギルディとクラーケギルディの部隊を迎える為に艦隊搬入口へ向かっているスパロウギルディは、背後から突いてくるスワンギルディへ顔を傾けぬまま焦燥感のある声を投げかける。


「兎にも角にも、一部隊でも強い彼等が手を取り合ってくれれば……いや、条件付きでも協力してくれれば、正に鬼に金棒虎に翼だ」
「はい、その為にも我らが橋渡しをせねばならないのですね」
「うむ……素直に従ってくれよう筈も無いであろうが……何とか足掻くほかあるまいて」


 若輩の身ながら実力は折り紙つきで有り、特に看護服属性(ナース)属性においては神童とまで言われ期待を寄せられるスワンギルディではあるが、ドラグギルディ亡き後は進むべき場所を差し記す道標を失ったか、覇気が薄れている。

 スパロウギルディが彼を連れてきたのは実力が高いからだけでは無く、ドラグギルディと旧知の仲でもあるリヴァイアギルディが彼に覇気を取り戻してくれる事も期待しているのだ。

 しかし、一方で仲の悪いリヴァイアギルディとクラーケギルディの中を、大した実力も無く年紀の実が取り柄の自分が上手くとり持てるのだろうか……そういった心配もスパロウギルディは心に抱いている。


 アルティメギルには幾つもの部隊があるが、それは多くの世界へ侵略し単に効率を上げるだけが目的では無い。

 嗜好の力の塊、属性力そのものでもあるエメレリアンは自らの主義こそが己の存在と同義、故に我が強くちょっとした諍いから仲間内で争ってしまう可能性も高い。

 特に反発しあう属性同士は仲が悪く、部隊間での争いは避けられない。部隊を様々な世界へ行かせるのは、つまり個性を分散させる為でもあるのだ。


 早足のまま搬入口へと急ぐスパロウギルディは、不意に大きな力を感じ嫌な予感を覚えながらも、意を決して足を踏み入れた。



「ああ……あぁ、やはりこうなったか……」



 殺気の発生源には二人のエレメリアンが居り、片方はドラグギルディとはまた違う竜の風貌を持つ怪人、巨乳属性(ラージバスト)を宿せし将・リヴァイアギルディ。
 もう片方は烏賊を連想させる姿形を持った無数の触手を持つ怪人、貧乳属性(スモールバスト)に全てを捧ぐ将・クラーケギルディである。

 二人の睨みあいはかなり緊迫した雰囲気を漂わせるが、ここで手をこまねいてただ見ている訳にもいかないと、スパロウギルディは二体の前へ進み出た。



「クラーケギルディ様、リヴァイアギルディ様。お二方に個の世界の属性力奪取に協力してもらえるとは、至極恐悦にございます」


 スパロウギルディの敬礼をリヴァイアギルディもクラーケギルディも無視はせず手ぶりなどで答えてから、再びにらみ合いへと入ったのを見て、スパロウギルディは今にも頭を抱えたくなる。



「首領様の命令は絶対、だからこそ幾ら不満とて従おう。どこぞの能無し部隊の上をゆく活躍でな」
「は、よくそんな事が言えたものだ。進行する世界で何度も何度も情けを掛けて見逃す……リヴァイアギルディ、貴様にこそ能無しの名が相応しい」
「ふん、部下におそろいのマントを付け、騎士かぶれが一段と増し、作戦そのものに力を注がぬ愚か者に言われたくは無いな」
「リヴァイアギルディ様! このマントは我々が望んだからこそ―――」
「よい」



 クラーケギルディは前に出ようとした部下を手と簡単な言葉でいさめ、リヴァイアギルディへ鋭い相貌を向けた。



「私の部下達が余計な影響を受けてしまわぬよう、出しゃばりや口出しは慎んでもらうぞリヴァイアギルディ、下品に揺れる乳が至上などとほざく貴様にはな!」
「何を……ツインテールには幼げな貧乳こそ似合うなどと、時代錯誤も甚だしい貴様こそ憐れなる者よ!」




 延々と繰り広げられるお互いの一歩も譲らず、譲るつもりも無い主張と、部下達の間にもに上がれる対抗意識が重なり、終わる兆しはとんと見えない。

 と、二人は目を閉じ精神統一しているのか静寂が流れ……




「巨ォォッ!!」
「貧ッッッ!!」



 刹那、方向がぶつかり合い、クラーケギルディは全身から、リヴァイアギルディは股間……どう見ても尻尾だが股間から生える、お互いの触手もぶつかり合った。


 空気すら破裂せんばかりに震え、衝撃波を作り出す。


 その後何とか主張そのものは譲らずとも矛を収める気にはなったか、クラーケギルディは移動船内へ、リヴァイアギルディは基地内へ部下達と共に歩いて行く。

 彼等の武力行使も含めた諍いを見て、予想していたとはいえ実際の起こるとやはり途方も無く厄介だと、スパロウギルディは頭を抱えるのであった。






「『……Smieklīgi. Impulsu nav pat jauniešiem……』」


 ……その奇妙な発言と、リヴァイアギルディ部下の一人の影から『奇妙な指』が出ている事に、終ぞ気がつかぬまま。

 
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