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寄生捕喰者とツインテール

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忍び寄りし空握る衝動
  部室から聞こえる怪奇音

 
前書き
二巻部分、スタートです。 

 
 あちらこちら声が聞こえ、時たま楽器の音色が引き日渡る放課後、そんな時間のとある部室棟の一角。


 ツインテール馬鹿と言う知られたくも無い事が周知の事実となってしまっている少年・総二が、何やらニヤつきながらはきはきと歩いていた。


 運動部か何かに入ったのでこれから部活なのだろうか……しかし、総二はプレートの付いていない部室の前でとまると、鞄から何やらプレートを取り出して感慨深そうに見つめ始める。


 大のツインテール好きである総二は、アルティメギルという侵略者から世界を守るヒーロー……もといヒロイン……もといマスコットのテイルレッドであり、何でもツインテールに結び付けて考えてしまう癖を持つ困った奴なのだ。


 だから当然、彼が今手にしている部室のプレートには――――こう書いてあるのだ。




 『ツインテール部』と。




「虚仮の一念岩をも通す、か。本当だな」



 嬉しそうではあるが、出来れば彼が卒業するまでギリギリ皮一枚で繋げ、通って欲しくは無かった一念である。


 感慨深く見つめている総二ではあるが、客観的に見て思うのは通って良かったねといった賛辞では無く、よくもまあそんな馬鹿馬鹿しい物が通ったなと言う学校にも本人にも対する呆れではなかろうか。

 一体どんな手を使ったのか気になる所ではあるが、もし何かしらのコネを使ったり裏技を使わず、ただ頼んだだけで『ツインテール部』の申請が通ってしまったのなら、学校の常識を疑ってしまうが真相は分からない。



「やっぱりな……」



 思わず“何が?” と問いたくなる様な事を部室の前で呟いた総二は、一拍置いてやっぱりと言った元となったであろう事柄を口にする。



「ツインテールと言う字……ゴシック体で書かれれば何処か親しみやすさと愛らしさを感じるけど……明朝体で綴られれば背筋を正す厳かさが感じられる物なんだな」



 ほざけ。そんなわけあるか、感じねえよ。そう思うのはお前ぐらいだ……もしとある人物がここに居たのなら、コンマ数秒で実際に発言するか心に止めておくか問わず、そんな言葉が出てきただろう。

 常人でも数秒かからずにそれとはまた違った台詞が跳び出しそうだ。それぐらいぶっとんだ世迷い事が彼の口から出てきたのだから。


 しかも掘られた字を愛おしそうになぞっている。それがもしちょっと常識から外れた部ならばまだ感無量の心持を抑えきれないのだ名で済んだが……いかんせん彼の手に握られているのは『ツインテール部』の文字が書かれたプレート。

 言っちゃ悪いが二重の意味で単なる変人にしか見えない。



「ツインテール部、か」



 楽しそうに言う彼だが、ツインテールと言う字を見ただけで、その言葉を口にしただけで何故に心地よさそうにしているのか、それはかなり大き過ぎる疑問であり、理解し難くて仕方が無い。

 テイルレッドとなってフッキレてはいけない方向へフッキレたか、もう本格的に変態化彼を止める術はなさそうだ。

 常識人であった頃の彼にお悔やみ申し上げる。



「よし! この素晴らしい言葉と素晴らしい髪形を目一杯盛り立てていくぞっ!!」



 出来れば隅っこの方でじっとしてて欲しい言葉を声高らかに言いながら、総二は部室を開けて中に入っていく。


 そして―――――






『……デ、これからどう判断すンダ、相棒』

「アイツも変人決定、常識人なんて思った俺が阿呆だった」

『ダナ、妥当な判断ダゼ!』



 ……部室棟の近くで、そんな彼の言葉を遠くから聞く、背の高い少年がいた。


 彼が先に言ったとある人物、瀧馬である。

 とある事故で “ラース” という人外と融合し怪物化した彼は、この様に集中すれば遠くの言葉も聞く事が出来るのだ。恐らく先程までの彼の一挙一動に、もれなく突っ込みを入れていたに違いない。


 何故こんな所で聞いているのかと言うと、瀧馬もラースもぶっちゃけ暇なのだ。


 家に帰ってもテイルレッドを愛でるニュースや時々彼の変身するモンスター少女・グラトニーのニュースばかり流れるので、彼等にとってはつまらない事この上ない。

 なら良い暇つぶしは無いかと瀧馬がラースに問いかけたところ、折角なのでツインテイルズである彼等の行動を探ってみてはどうだろうかと、ニヤ~ッとした感じの声で言ってきた。

 他に案も無いので、瀧馬は渋々それに従がったと言う訳である。



 聴力を集中すると、再び何やら争う声が聞こえてきた。



「総二様! この野生動物に何か言ってやってくださいっ!! いい加減にしないと国立公園に送り返すぞと!!」
「ならあんたが適任でしょうが万年発情痴女! 何はだけてんのよ、一体何しようとしたのよあんたは!」
「そりゃ勿論、総二様が開けた瞬間にブラとパンツがチラ見えする角度で立って、さも恥ずかしげな動作と表情をする為ですよ!!」
「やっぱりあんたが国立公園に行きなさいよこのケダモノ!!」




「……どっちもどっちだろうが」
『言い得て妙ダナ、でもその通りダ』




 聞こえてきたのは総二の幼馴染で、同じく地球の平和を守るツインテイルズに一員テイルブルー・愛香と、恐らくはトゥアールと言う少し前にも見た銀髪の少女のモノだった。

 今のやり取りで愛香だけでなく、トゥアールがどんなひとがらをしているかを知り、瀧馬は顔を押さえて項垂れた。



「予想はしていたが、やっぱりあんな感じか」

『あんな感じダナ』

「……これから誰が来てもそうなんだろうか……」

『じゃねーノ? 変態じゃなくても変人とカナ』



 傍から見れば誰も居ないのに会話している彼も十分に怪しいが、それ以上につながらない携帯に話しかけたりする異常者がこの学校には多いので、実のところ相対的に目立たない。

 ……周りに変人が多過ぎるだけなのだ。


 再び集中すると、少しとんだか繋がりの掴めない話し合いの跡、総二が何かを頼もうとして何故かトゥアールが脱ぐと答えて愛華に殴られる音を聞いた。



『即行だっタナ、さっきの変態発言』

「……元気な奴らだな……」

『“アッチ” もって意味でカァ?』

「……その発言が普通に思えてきた俺もおかしいんだろうか」

『ア~……イヤイヤ、あっちがパンチ利き過ぎなノヨ』



 何をやっているんだと溜息をつき、ラースの返しに下ネタが珍しく加わっていたのも、瀧馬はインパクト不足なのか流し気味に対応した。


 そして、もう一度聴力を高めた、その瞬間。




《うりせれけっへ》
《みちょもーんこりょもーん》
《ぱろがっぷよほふー》
《らつどじょじょぼびん》
《わーろーえー》


「うぐっ!?」
『ブホッ!?』



 聞こえてきたいくら説明しても幻聴を疑われ、どう書き起こそうとも音感を疑われる怪音に、瀧馬は軽くズッコケてラースは噴き出した。
 多少籠っていたので部室内から聞こえているのだろうが、なら一体全体何が部室の中で起っているのだろうか。

 しばらくすると、愛香も珍妙奇妙な音をしてきし、開けようか開けまいかと迷った挙句開けない事に決め、結果怪奇音は数分間も響き続けた。



「……脳が曲がったかもしれねえ」

『安心しろ相棒。今の相棒には人間の脳はねえカラ』

「逆に安心できねえよ、と言うか俺の残っている肉体の一割って何処だよ」

『血管の一部』

「……聞きたくなかった……」



 思わぬところで自分の体の秘密を知り、瀧馬は人知れず項垂れた。その項垂れようも、先程の総二達の会話の時に比べれば、まだまだ軽い方ではあったが。

 複雑怪奇な音を頭から追い出す為に暫く精神統一した後で、瀧馬がツインテール部の方へ耳を傾けると、今度は高笑いが聞こえてきた。




「は~っはっは!! 引っかかってくれやがりましたね!? 好奇心は猫を殺す! まあ、この場合は猫じゃあ無くて獅子か虎かでしょうけどね!」
「……何よコレ、椅子から虎バサミみたいな……」
「ふっふっふっ、これぞ攻撃では無く拘束に重きを置いた作品、アンチアイカシステム第二号機、名付けて『アイカトラエール』です!!」






「『うわ、だっせぇ』」




 二人の声が見事にシンクロした、まあ確かにかなりダサい名前である。

 本人の名前が入っているだけでもダサいのに、アルティメギル張りの奇妙な位置に付けたダッシュ記号の所為で余計に際立っている。

 名前を入れるのが譲れないならば、せめてアイカキャプチャーとかアイカアレストに出来なかったんだろうか。


 その後、力技で脱出したらしい愛香がトゥアールへ拳を叩きつける音が、予想は出来ていたが再び高らかに響いてきた。


 次の会話はそこまで大きな声で行われていないのか、開けはなっていた部室のドアを閉めたかで上手く聞こえず、瀧馬は如何でも良いようだがラースはもどかしそうに唸っている。



「もう帰るぞ、飽きはしないがもう聞こえてこないだろうしな」
『チィ……しゃーネェ、変えるしかなイカ』




 お互いに合意してから、瀧馬は強化し部室方面へ向けていた聴力を元に戻そうとして――――







「ツインテール、ツイン、ツインテール?」

「はぁはぁ……ふ、うふふ、アタシトゥアールちゃん。今貴方の後ろでシャツから浮き出ちゃってる豊満なおっぱい見せてるの」






 珍妙過ぎる発言が聞こえ、思いっきりたたらを踏んだ。




「今のはどういうことだ……特に観束」

『古代ツンテール文明の古代ツインテール語とでも言った方がピッタリはまりそうダゼ』

「何だその微妙な文明」




 そこに住んでいた民族全体がツインテールにし、ツインテールを神として崇めていた文明……さしずめそんなところだろうか?
 
 だが存在していても一応研究の対象にはなりそうだが、本当に得しそうな人物は総二ぐらいしかいなさそうだ。


 後から聞こえてきた変態発言には、普通ではないが特に目立っていう事も無かったのか、変態度がさっきより上昇しているでカタを付けた。



『それにしても何でイキナリ。俺らが知らない間に改造実験でも行ったんカネ?』

「……荒唐無稽だが、そうとしか考えられないな……幾ら観束でもツインテールを連呼はしない……と思う」

『曖昧な意見だなーオイ』



 どっちつかずの返答しか返せない程、それぐらい瀧馬の観束に対する信用が無くなってきているのだろうか。

 兎も角楽しそうな声が聞こえてきたのだらかとラースに促され、変えるつもりだった所を中断させられたからか、瀧馬は特に異論も無く耳に意識を集中させて――――




「ツインツイツイツインテール! ツイン、ツインテテール!」

「ウギヒヒヒハハハハハ! 生がいいんだよ生持ってこいよぉ! そうじゃなきゃ嫌なのさ、生が好きなのさアタイはよォ! ビッチだから、ビッチだからさぁ!!」




「ぬごぉっ!!」
『ブッホーッ!?』



 古代ツインテール語も彼方へぶっ飛ぶ、世紀末の荒くれ者か無法地帯の蛮族かはたまた魔界の盗賊か、そんな事を嫌でも想像させる凶悪極まりない雰囲気の台詞が、それに似合わない少女の声で響いてきた。

 その余りの吹っ飛びぶりに、瀧馬は思いっきりひっくり返り、ラースは奇怪音の時以上に噴き出してしまう。



「だから一体何が起きてんだあの部室で!?」

『俺、滅茶苦茶気になってきタゼ。身に行ってみなイカ?』

「………………よし、行ってみるぞ」

『了解。って言うか身体動かすの相棒だけドナ』



 盗み聞きをしているだけならまだ良かったが、関わるとなると瀧馬もやはり抵抗があるか、最終的に行くとは決めたが大分考えていた。

 声が聞こえた方へと歩みを進め、無駄に数だけはある何の部の物にもなっていない部室の前を通り過ぎて、ツインテール部というプレートが付けられた部室の前で歩みを止める。

 近付いたからか中の声が小さくともちゃんと、そしてよりハッキリと聞こえた。


「愛香静かに……ツインテールの気配が近づいてくる」
「あんた何エレメリアンみたいな事言ってんのよ!? 壊れたの遂に!?」
「違っげぇよ! 日頃五感研ぎ澄ませてるお前には言われたかねぇよ!」


「違わねぇ。ってか、どっちもどっちだろうが」


「「「うわあっ!?」」」




 行き成り扉を開けて入ってきた瀧馬に、ツインテールじゃない為気付けなかった総二とそんな能力を持っていないトゥアールは飛びあがらんばかりに驚く。愛香も言われていたわりには気配を察知できていなかったか、彼等と同様のリアクションを取った。



「に、新垣!? なな、何でお前ここに!?」

「……暇だし学校をまだ良く見てなかったと賛否してたら、ツンテールを連呼したり生が如何だの言う奇妙にも程がある声が聞こえてきたから、不思議に思ってここまで来ただけだ」

「あ、アレ聞いてたのっ!?」



 愛香の叫びにトゥアールがしたり顔で二ヤけていたが、瀧馬はそれが彼等の口から発せられたも音だとは流石に思わなかった。

 彼等の手元にある携帯電話の様なフォルムの機器を指差し、坦々と言う。



「まあ大方アプリかなんかだろ? 出来がいいのは結構だがそうやって遊ぶと俺みたいな奴がひっくり返るぞ」

『実際、文字通りにひっくり返ったけドナ』



 実行してしまった者だからこその発言力である。


 彼の発言に総二と愛香はホッとした表情になり、トゥアールは目論見が上手くいかなかったかおもしろくなさそうな顔をしていた。


 と、その時、扉からノックが聞こえてきた。



「生徒会長、神堂慧理那です。入ってもよろしくて?」

「えっ!? ちょっ!? 嘘!?」
「……ツインテールの気配がって、マジモンかよ」
「聞いてたのか……まあ、コレで俺がどれだけ―――」
「ああ、どれだけ変か分かった」
「そう、変なのか分かった……えええっ!?」

「アホな漫才してないで! あ、ちょっとまっててくださーい!」



 辺りを騒がしそうに見まわす総二達。大方見られてはいけない物を隠す為に焦っているのだろうが、しかしここにも一人瀧馬という、彼等基準でいえば一般人がいるのに、何故に彼には構わないのか謎である。



「トゥアール何か隠さないといけない物は!?」
「ここにあるこれだけです!」



 そういってトゥアール何の含みも無い真顔で愛香を指差し、直後に愛香から突進エルボーを喰らってピンボールの如く壁面から壁面へ跳ねまわった。

 なに真面目な時にアホな事やっているのかと瀧馬は呆れるも、冗談はさておき隠すべき物は無かったのか、総二が扉へ一歩近づいて向こうの会長へと声を掛ける。

 一応騒ぎは収まったか、愛香とトゥアールも既に待機していた。



「失礼しますわ」



 そうして会長が、ボディガードの代わりにメイドを引き連れ入ってきた途端、総二はまるで部屋の中の空気が変わったが如く、表情を変えどこぞの王国の姫でも見た様な物へと変える。

 恐怖でも感じたか何故かブルリと震えた彼だったが、瀧馬は前にもいった通り生徒会長としか見ておらず、また信仰心かよ勘弁してくれといった表情を総二へ向けていた。



「……? あの、そちらの方は? もしや……編入手続きをされた女子生徒さんでしょうか?」
「あ、はい! 海外から越してきた俺の親戚なんですが、編入前にどうしても学校を見たいと言ったので、その案内にと」
「なるほど、そうだったんですか。編入生さん、どうぞこの学園を隅々まで見て回って下さい、きっと気に入ると思いますわ」



 会長の発言に迂闊な事を返さないためなのか、トゥアールは無言で二度うなずいた。

 流石に咎められるかもしれないことを覚悟していたか、総二は兎も角愛香とトゥアールの表情は厳しかったものの、会長直々の歓迎の言葉で少し緩む。

 次に会長は手に持っていた資料に目を通し、笑顔が一転し厳しい物になったのを見て、瀧馬はやはり幼子の様な(なり)でも会長に選ばれただけはあると、素直に感心した。



「部活動新設の申請の書類を見て気になりましたもので、直接確かめた上で許可を出すべきと思い、こうして窺った次第ですわ」
「わっ、わ、わざわざすみません」



 噛むほど緊張している総二を微妙な目で見ながらも、部室を出るタイミングを失い少し焦っている瀧馬は、しかしここでどう足掻いても仕方がないのでせめて巻き込まれにくくなればと一歩下がる。



「部活の内容ですが、ツインテールを研究し見守る事とありますが……」
「はい、間違いありません」

(目ぇ見て話せや、目ぇ見て)
『何処見て話してんのかねアイツ』



 総二の目線は会長のツインテールへ向いている。真顔で真剣に返してはいるが、よく見なくとも明らかに目を見ていない。

 もしかすると、ツインテールを見て話す事を彼は礼儀だと思っているのかもしれないが……それは彼にとっての礼儀なので会長がそうだとは限らない。

 下手をすれば不機嫌にさせて取り下げ、もしくは即廃部なんて事になりかねないのだが、そんな状況で私情を優先して大丈夫なんだろうか。世の中我を貫くばかりではいけないのだから。


 そもそも何でそんな事を礼儀にしているのかも分からない。ツインテールフェチも極めればここまで来るのだろうか? ……いや、来ないと思う。



 そもそも幾ら礼を失さぬように、不審に思われないようにと真剣になった所で、変わり種にも程があるこの部活は名前を見ただけで不審に思われている事請け合いである。


 しかし、会長が問い掛けたのは目を見て離さない事でも、部活の名前でも無かった。



「……観束君、あなたは……あなたはツインテールが好きなんですね」
「はい大好きです」
「では……何故部活動を作ろうと思う程好きなのですか?」
「ツインテールを好きになるのに、理由が要りますか?」

(答えになってねぇよ……)
『答えじゃねぇじゃんそリャ……』



 格好良く答えたつもりでも、常識人側からすればちょっと訳が分からない返しだった。

 直訳してしまうと、ツインテールを隙になった理由は分からないと言っているにも等しい。まあ、どうやって返したらいいか分からないという事もあるし、ここは置いておく。

 だが、傍から見ていた瀧馬には怪訝に思う部分が一つあった。


 総二は明らかに、今の台詞を会長に共感してもらえるモノだと、そう確信して言っているように感じたのである。

 いくらそのツインテールという髪型が好きでも、それは自分に似合うからだったり、お気に入りの漫画のキャラクターの髪型だったりとそれなりの理由はあるだろう。



(何処まで自分ルールが通用すると思っているのか……こいつは)



 会長はその発言が理解し難い物だったからか、難しい顔で黙りこんでいた。

 対する総二は何を勘違いしたかより力強い眼付きでツインテールへ視線を送り、試練に挑むかのような顔つきで黙っている。

 瀧馬は無言で軽く頭を振り、目線をそらして壁の方へ向けた。

 誤解の無いように言っておくが、別にツインテールが死ぬほど好きでも問題は無い。ただ彼はツインテールが好き過ぎるあまりか、ちょっとばかしツインテールに結びつけ過ぎなのが問題なのだ。



「……そうですか……ええ、わかりました」



 含みのある声で会長は答え、その返しを受けて総二は少しばかり不安げに問い掛ける。


「あの、活動内容に何か問題が?」
「いえ大丈夫、問題ありませんわ。寧ろ、ツインテールを研究するという事は、ツインテイルズの応援にもつながるでしょうし」


 それを打算に入れていたのか、総二だけでなく愛香も罪悪感のある顔に変った。学園を上げて応援しているのだから、まず一も二もなく取り下げになる可能性は無いと踏んでいたのだろう。尤も、それを私情の為に組み込むのは、やはり苦しい様だ。


 そこで話も終わり正式に設立が決まり、取りあえず会長が出ていくのに合わせて自分も出て行こうと瀧馬が一歩踏み出した時、会長は不意に総二の右腕を見て呟いた。



「あら? ……観束君、校内で派手なアクセサリーを付けるのは禁止されている筈でしょう? 部室でも決まりは守りませんと」
「えっ?」
「テイルレッドデザインの腕輪ですわね……最近その手の物が増えてきましたのね」
「!?」



 総二と愛香、そしてトゥアールは心底驚愕したという顔をし、会長の発言をおかしく思ったか数歩下がった瀧馬は、バレないよう小声でラースへ話しかける。



「……オイ、一般人にはあの腕輪は見えないんだろ?」

『その筈だがナァ……何で見えてんのカネ』



 通常、総二達に付けている変身する為のアイテムでありテイルギアの待機形態でもある腕輪……テイルブレスは、認識阻害技術により見えない筈なのだ。

 それは、ラースから教えられた事で瀧馬も知ってはいたが、まさか関係ない会長にまで見えるとは到底思わなかったのである。

 恐らく、総二達も同じ心境だろう。



「……考えられる理由はあるか?」

『う~ム……俺ぁ科学者じゃねェシ、よく知らんから詳しい事は言えねぇケド、ツインテール属性がかなり高いからか、もしくは壊れてんのかのどっちかダロ』

「……妥当だな」



 見ると念の為なのか、手遅れながら総二が右腕を後ろに隠す前に、愛香も既に腕を後ろに回していた。
 後ろに近い位置に居る瀧馬からは全体がハッキリ見えるので、前からは見ても分からない。



「お嬢様、そろそろの時間でございます」
「わかりましたわ。それではみなさん、これからも励んでくださいましね」



 明らかに瀧馬の方にも向いて言葉を掛けていた会長に、瀧馬俺は違うってのと声を掛けたかったものの、その前に会長は部室から出て行ってしまった。

 去り際にメイドが振りかえり、総二に向けて声を掛ける。



「時間を取らせて済まなかった。先程はいい目をしていたな。真剣味が伝わって来たぞ」
「は、はぁ」



 礼をしながら言っている所を見るに、どうやらこの台詞はお礼の意を込めているらしい。その言葉にも総二は生返事で返していた。

 口が半開きになっている面々を見ながら、瀧馬は無言でゆっくりと後に続く。

 そしてドア手を掛け開けて出る数秒間に立ち止まらぬまま…… ギリギリで “聞こえる様に” 呟いた。



「何言ってんだか……観束はテイルレッドを好いていない、それに腕には何もつけてねぇじゃねえか……幻覚でも見てんのか……?」



 それだけ言うとドアを閉めて足早に去っていく―――――フリをして、ドアのすぐ近くに佇み息を潜めた。

 すぐに、焦った声での会話が聞こえてくる。



「トゥアール! 一般人にテイルブレスは見えないんだろ!?」
「は、はいその筈です!」
「確かに新垣さんには見えてなかったものね」
「でもよ、アイツはツインテールとは超がつく程に無関心で無関係な奴だろ? けど会長はもう何度かアルティメギルに狙われてるし、それだけ強いツインテール属性持ってたら見えるって可能性も……」
「念の為、今夜検査してみましょう。認識阻害装置(イマジンチャフ)は日常生活において一番大事な様相ですから」
「ああ、頼む」
「お願いするわ」



 実は見える人物が “二人” いて、内一人はエレメリアンと闘うエレメリアンなど、彼等は全く思っても居ないようだ。



「……一先ず、これで少しばかり怪しまれても問題ない」
『クハハ、やるじゃあねェカ、先入観てのは大事だかラナ』



 少し歩いて離れてからそう呟いた瀧馬の言葉を受け、ラースは特徴的な笑い声を上げた。


 ……そして、最後の最後で聴力を集中してしまい、部室から何かが空を切り裂いて飛ぶ音と、奇妙な断末魔を上げて倒れる音がしたのは、完全なる余談である。


 
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