騎士の想い
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第八章
第八章
「ただです。その時は」
「その時は?」
「どうされるというのですか?」
「伏兵を使います」
彼がここで言った策はこれであった。言いながら城の周りを見ている。そこは見渡す限りの平原だがところどころに森も存在している。
「見たところこの辺りには森が多いですね」
「はい」
「では森を使われるのですね」
「そうです」
この辺りは以心伝心であった。多く語る必要もなかった。
「その森に潜んで、です」
「そうされるのですか」
「その時は」
「その時のことも考えています」
イークレッドはまた冷静に述べた。
「敵が来たその時に仕掛けます」
「援軍が来てからですか」
「その時に」
「はい、そうします」
強い言葉で応える。戦いながら。弓矢は届かないが敵兵は時折来る。その彼等を片っ端から斬っていくイークレッドであった。
「それもお任せ下さい」
「わかりました。それでは」
「その時はまた」
こうした話があった十日後である。敵の援軍が来た。イークレッドの危惧があたった形になった。
援軍はかなりの数だった。万に達していた。その援軍を受けたことでそれまで戦っていた敵軍は一気に歓声をあげたのであった。
「我々と同じだな」
それを城壁から見た侯爵はぽつりと言った。
「援軍の存在は実に有り難い」
「攻城兵器も多い」
「かなり持って来たな」
見れば様々な種類のものが見えた。それが何に使われるかは言うまでもなかった。
「ではあれでか」
「一気にか」
「そうなるでしょう」
イークレッドも城壁にいた。そこで言うのであった。
「しかしです」
「しかし?」
「何か」
「彼等は今日は攻めては来ません」
こう言うのである。
「今日はです。何故なら」
「それは何故だ?」
「今彼等は戦場に到着したばかりです」
その歓声をあげる敵の援軍を見据えながらの言葉である。
「今丁度です。移動の疲れがあります」
「では今日休んでからか」
「はい、攻めるのは明日になります」
そうだというのである。
「夜襲もないでしょう」
「今夜は休み疲れを癒すか」
「そうします。そして」
ここでイークレッドの言葉も顔も鋭く強いものになった。
「次の日の朝からです」
「攻撃に出て来る」
「敵が」
「はい、そうです」
そうなるというのである。
「だからこそここはです」
「夜のうちに兵を出し」
「そのうえで伏兵をと」
「私が行きます」
イークレッドは自ら名乗り出た。
「その伏兵にはです」
「しかしそれはです」
「あまりにも危険なのでは?」
「確かに」
彼の今の提案については周りの者が一斉に怪訝な声をあげた。
ページ上へ戻る