寄生捕喰者とツインテール
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食欲と渇望
前書き
グラトニーの力は、地味に“食う気”と“空気”をかけていたりします。……や、だからなんだって話ですけども。
場所はアルティメギル基地の会議ホール。
「ぬぅ……この世界に投入した戦力は、隊員13名、戦闘員137名か。しかし……」
「はい、そのいずれもがツインテイルズに倒され爆散されるか、もしくはグラトニーと名乗った謎のエレメリアンの餌食となっています」
「これほどのモノなのか、ツインテイルズ!」
「グラトニーの強さも無視できん。戦闘員も倍以上送っているも関わらずコレとは……」
侵略開始から既に二十日を超えているにも拘らず、一向に進展を見せない状況に、流石の変態共も悩んでいる模様だ。
被害は彼等が侵略を開始した当初に立てた予想よりもはるかに多く、対グラトニーの為に贈られた屈強な戦士は碌な反撃も出来ず圧倒された上に喰われているというありさまで、ここまできて寧ろ悩まない方がおかしい。
取りあえず戦力を確保するべきと見たアルティメギル側は一旦グラトニーへの進行を止めた。
そして何時も通りの侵略を行い、結果今日はツインテイルズに倒されて、また失敗してしまったのだ。
もう、戦闘シーンを見ながら対策を立てるのでは無く、テイルレッドが可愛いとか世迷い事をほざいたりする余裕は無くなったのだろう。……テイルブルーの映像をシカトせず、グラトニーへの対策もちゃんと立てれば、もうちょっとマシになるとは考えないのだろうか。
「向こうは戦果を立て続ける一方で、此方が得られた属性力は0、皆無です。一時奪還できてもツインテイルズに奪い返されています」
「いっそのこと、属性力を持った人間を捕獲して連れ帰り、安全に奪取するというのは?」
「例えツインテイルズが来なくとも、トタスギルディとチキンギルディの一件以来、また此方の会話に付き合わなくなったグラトニーに先回りされ喰われてしまうわ。それにその作戦では恐れから逃げ腰でいると思われてしまうのだぞ!」
「それは流石に許せないな」
声を上げて言い放ったエレメリアンに続き、隣に居たエレメリアンも同意する。だが、皆血の気が盛んな訳ではない様で、まだ悩んでいる者も多数存在した。
「しかしだな……何時までも手をこまねいている訳にも行くまい。此方とて時間が無限では無いのだから」
「ツインテイルズは二人と言うのが実に手強い。赤の戦士は言うまでも無し、青の戦士は破壊に身を委ねたが如く、攻撃に一切の躊躇も迷いも無い」
「だが青の戦士以上に“仁”の無いグラトニーが一番の脅威であろう。彼女は飢える獣以外の何物でもない。ただ獲物へ喰い付くだけなぶん、理性ある戦士より恐ろしいわ」
悩みは徐々に焦りへと変わっていくが、肝心の良案は全く出てくる気配が無い。
上座で腕組みをしていたドラグギルディは、彼らの情けなさにかそれとも相手の強さにか、歯を他のモノにも聞こえる大きさで噛み鳴らす。
たったそれだけで場が更なる緊張に包まれた。それも先程までとは違い、鋭さを感じるものに。
「ツインテイルズの実力は本物……そしてグラトニー、彼奴の実力は謎の属性力も合わせて未知数……ならば中途半端な戦士やなまなかな実力を持つ戦士をぶつけたとて、これまでの二の舞を演じるだけだ。これから先は実力者のみが踏み入れる領域の戦となろう……我こそはと志願する者はおるか?」
「はっ! それならば、この私めにお任せを!」
ドラグギルディの言葉に答えたのは、白鳥をモチーフとした怪人だった。まだ若いと見えるが、実直且つ純粋で、それゆえに強さを感じる。
「おお……お前は看護服属性の申し子と呼ばれしスワンギルディか!!」
「うむ! 貴殿ならば異論はあるまい!!」
……またなんか厄介な属性が出てきた事はこの際の置いておく事にしよう。
彼が志願した事で、場の空気は少しばかり変わり、安堵した者も出てきている。それ程の実力を彼は持ち合わせていると見える。
ドラグギルディも彼の事は知っていたか、頷いて立ち上がった。
「……ふむ……だがしかし、戦うというのならばまずはこの試練を超えてからだ」
重苦しさをはらんだ声で告げるのとほぼ同時に一陣の風が吹き、次の瞬間にはスワンギルディの前に剣が付きつけられていた。
ドラグギルディから発せられるさっきと相まってより恐怖を醸し出すが、スワンギルディは一ミリとて視線をそらさずしっかりドラグギルディを見据えている。
「よかろう、肝っ玉は備わっている様だな……ダガもう少し試したい、次はこれと行こうか」
ドラグギルディが指を鳴らすと、数拍の後に戦闘員が何かを運んできた。キャリーの上に置かれたそれは、オフィスではおなじみの機材……紛れも無く今の世の中には無くてはならない相棒であるパソコン……正式名称・パーソナルコンピューターであった。そして傍には大きなモニターも置いてある。
「こ、こっ……これは私のパソコン!?」
ドラグギルディの殺気にも剣技にも恐怖を抱いてはいなかったスワンギルディが、ここにきて分かりやすく恐怖の色を顔に滲ませた。
周りの者達からも動揺の声が聞こえてくる。
……何だかさっきまでは、内容は兎も角それとなく格好良かったのに、それを台無しにしそうな程の途轍もなく嫌な予感がするのは気の所為であろうか。
「沈まれ皆の者よ! コレは試練の一環! 必要不可欠な事なのである!」
「ま、まさかアレを行うというのか……!?」
「あの、あの恐ろしぃッ――――」
「「「エロゲミラ・レイターを!?」」」
……要するに、「皆の前でお前のエロゲーのセーブデータを暴露しちゃうぜ!」という事らしい。無駄に句切る所を変えてカタカナにしようとも、未来永劫決して残念感がぬぐえないというのに往生際が悪過ぎる。
素直に内容を口にするか、「エロゲー見られた」と言えば良いものを……嫌な予感は当たってしまった様だ。
だが、確かにこれはある意味でかなり恐ろしく、かなり負荷のかかる試練だといえよう……主に精神的に。
ドラグギルディは無言でデスクトップにあるアイコンをクリックした。
予想通りと言うべきかタイトル通りと言うべきか、メーカーのロゴの後現れたのは、エロゲーのタイトル画面だった。
働くには早すぎる年齢の女の子達が看護服を着ており、それはスワンギルディの性癖……じゃなくて属性力を象徴している。
迷わずロード画面を選んでクリックし、ドラグギルディは矢鱈ねっとりとした声でスワンギルディへ声をかける。
スワンギルディはかなり怯えており、歯の根がかみ合っていない。
……関係無い事だが、なんで白鳥に歯があるのだろか。モチーフとしているなら歯なんて一本も存在しない筈なのだが……。
「ほう、コレはどうやらこの世界で数日前に発売されたばかりのゲームの様だな……もう既にコンプリートしておるではないか、卑しい奴よ」
そうはいうが、ドラグギルディも人の事言える立場ではない。そしてスワンギルディは、一体どうやってエロゲーを買ったのだろうか。
スワンギルディは小さく悲鳴を上げ、同時に大型モニターへも同じ映像が映ったのを見て更に悲鳴を重ねる。
その表情、決して言えぬ傷を受けた歴戦の戦士の如く……………でも原因はエロゲーである。
「ふっふっふ……肌色がいやに多いセーブデータばかりよのう、一体何が起こっているのやら……?」
「お、お許しのォォっ! どうか御慈悲オオォォォっっ!!」
「むむ? だが一つだけ怪しいセーブデータがあるのぉ、コレはどうやら肌色が少ないようではあるが……」
「や、やめてくれぇぇぇっ!!」
作物が実らず自分の分も確保できず、しかし納める義務を全うせねばならぬ為にかき集めるも足りず、大切な物すら何もかも持って行かれそうになっている農民の悲痛な叫びがそこに存在していた……………しかし原因はエロゲーである。
スワンギルディの慟哭空しくセーブデータはロードされる。
場面は家の中、主人公と恐らく幼馴染と思われる少女が会話を交わすシーンに移っていた。二人きりのやり取りはしばらく続いたが、しかしその日は何も起こらず次の日に移行してしまった。
「なーるほどぉ、幼馴染が部屋に遊びに来て、空気が変わった事を察知してセーブをしたか。しかし何も起こらず結果次の日になって大いに落胆」
「「あるある」」
「ぐ、ぐぉぉおおおぁぁぁぁ――――っ」
仲間の首を千切られ腹を搔っ捌かれ、悲鳴を上げながら犯され、しかし自分は何も出来ずにただ見ていることしかできず、余りの苦しさから精神が自己防衛のために自ら意識を沈めた様に、スワンギルディは白目をむいて気絶してしまった……………再三言うが原因はエロゲーである。
「耐えられなんだか……もうよい、連れて行けい」
アルティメギルに持ち上げられて、気絶したスワンギルディはホールの外へと運び出されていく。色んな意味でトンデモない試練は終わり、ドラグギルディは見込み違いかとばかりに溜息を吐いた。
その表情には、しかしどこか慈しみも見て取れる、正に人の上に立つ者の表情だった……例え中身が重度の変態だとしても。
「こうなっては仕方無し、我が直々に赴くとしよう」
「ど、ドラグギルディ様が!?」
「とんでもないっ……隊長が自ら戦場へ飛び込むなど!!」
「くどいっ!!」
部下の進言を撥ね退ける様にマントを翻し、炎が彼のあ歩み跡に迸る幻視を見せながら、ドラグギルディアはホールから出ていく。
まるで神話に語り継がれし竜……ドラゴンの如き威圧感と、神々しさを持ってして。
「ドラグギルディ様……相変わらずお強く、また恐ろしいお方だ……」
「それも当然、歴代アルティメギルの中でも五大究極試練と言われる苦行の内一つを乗り越えたお方なのだから」
「ああ、あの―――――スケテイル・アマ・ゾーンを乗り越えたのだからな」
「何と! あの通販で頼んだ物品が一年間透明な箱に梱包されて送られてくる試練を!!」
……要するに「頼んだ物がどれだけ恥ずかしい物でも透明な箱に包まれて送られてくるから、超絶恥ずかしいし自分の趣味が丸分かりな事必死だぜ!」というものらしい。
だから素直に上の様に言うか、「透けているアマ○ン」と言えばいいのに、二度句切ったりカタカナに変えたり一々往生際の悪い……。
「私ならば初日で絶命してしまうであろう試練を乗り越えるとは……」
「そうだな、あの方ならば必ず……」
戦闘技能と自分の変態性を暴露する事への勇気がどうつながるのかは分からないが、かなりの期待を背負ってドラグギルディはツインテイルズとグラトニーの待つ、地球の大地へと向かうのだった。
「『あの変態共は相も変わらず、相変わらず、変わらず……さて、俺も行動、動作、作業の開始と行きますか…ね』」
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「間に合わなかった?」
『アア倒されちまっタナ。相手方が弱かったのもあルガ、珍しく後手に回ったもンダ』
場所は荒れ地。
個人の所有地では無いこの場所に、今グラトニーとなった瀧馬はいた。
しかし、戦う事無く戦闘は終わってしまった様で、木々の少ない森の中に岩を椅子にして座っている。
当然の事ながらツインテイルズも成長しているので、相手の弱さと合わせてすぐに倒されてしまったのだ。
だからだろうか、表情は硬い。
敵が大したことないのはグラトニーにとっては前々からの事なので気にはしていなかったが、これからもそこまで強くも無いのばかり出て来られると、食事が出来ず衰弱する恐れがある。
それを危惧しているのだろうか、それとも食べられなかったのが納得いかないのかは分からないが、グラトニーはブーたれている。
「食べたかった、食べたかった、食べたかった」
『何度も言うんじゃあねェヨ。俺だって栄養欲しかったんダゼ? まあアレダ、最初っからちゃんと食い続けられてたんだカラ、箸休めみたいな感覚で見送ろうとしよウヤ』
「箸休めは日本料理で主となる料理の間に出される小品の事……つまり食べる事」
『へぇそうなノカ。やっぱ元が元だからか雰囲気変わっても雑学持ってるヤネ』
「関係無い……むぅ」
どれだけ文句を言っても状況は変わる事が無いくらい、グラトニーとて重々承知している。それでも、やっぱり食欲を満たしたいという感情……欲望が強いのだ。
性格や思考が幼くなっている事も合わせ、寧ろ文句を言わない方が珍しいかもしれない。
「……」
『オイオイ、間違っても木とか食べんナヨ。属性力の“ぞ”の字も無ぇんだかラヨ』
「……じゅるっ」
『いやマジで喰うナヨ!? 不味いぞ本気で悶えルゾ!?』
「……むぅ」
男の瀧馬である時は慣れてきたのか食欲も初期よりは抑え目になってきているが、グラトニーの時は逆に時を重ねるにつれ、段々と名前通りの“大食い”……を通り越して“暴食”に近くなってきてしまっている。
食欲属性も空想の産物では無く、もしかするとあんがい存在するのではなかろうか……その内本物の獣にならないか心配だ。
『兎にも角にも敵はツインテイルズが倒しちまったンダ、俺も察知やワープ能力を鍛えるかラヨ、今日の所は引き上げよウヤ』
「……うう、食べ物……」
『ハイハイ、また今度ナ。じゃあここは場所的に人何か来ないだろウガ、念の為を考えてワープするゼェ』
最近ではグラトニーにも少ないがファンが付き始め、いまだに議論はされるが普通に人気が出てきている。
また、世間でも人気か恐怖を与えるかに関わらず、詳しい事が知りたいと思う者は多数いて、テイルレッドに続き記者達の格好の的となっている事もあるので、出来るだけ早々に撤退しておいて方が身のためだとラースは考えていた。
グラトニーも、美味しそうな御馳走を持っている人が混じるギャラリーに、理性や嫌悪含めて揉まれたくは無い為、二つ返事で了解している。
「……よっこらせ」
『ジジイか相棒ハ……まあいイカ、そんじゃワープを―――――』
そして、ラースがワープを行う為に力を込めようとした途端、グラトニーの鼻がひくつき、匂いを嗅ぎ取るや否や猛然とダッシュし始めた。
ラースも何がやりたいのかは分かっているのか、ワープを中止してグラトニーへ話しかける。
『意地汚く待っていた甲斐があっタナ! 待望のエレメリアンダゼ!!』
「ごはんーーー!!」
『……もっと他に言うこた無いってのかい相棒ヨォ?』
ちょっとした意地悪で半ば真実な冗談を口にしたのに、アッサリとスルーされればそりゃ落ち込む。しかもラースとしては捻りの利いた返しを期待していたようで、その返しがまさかの食い意地全開欲望満開な返答ならば、ガックリとも来るだろう。
「ゴハァァーーーーン!!!」
『マ、いイカ。それにしても相棒興奮してやがるナァ! まあ俺もだけドヨ! 何せ今までの奴らとは力が違ウ! 骨の髄まで喰ってやリナ!』
「メシィィィッ!!」
だが、嗅ぎ取ったエレメリアンは相当な属性力を蓄えている者だったかグラトニーは妙に興奮しており、ラースもすぐに落ち込みから回復して同調する。
彼女が向かっている方向は奇しくも先程エレメリアンが倒されたのと同じ場所であり、もしかすると先に降り立ったエレメリアンが囮か何かではないかという危惧も持たせるが、ラースは焦りなどこれっぽっちも持ってはいない。
(『属性力は中々に強イ、苦戦もしそうダガ……余程力に開きがあルカ、下手打たなければまずグラトニーは大丈夫ダロ。何せ俺の力も宿ってんだかラナ、いざとなったら力貸してやればイイ。完全再生までの時間が伸びるが根本に支障は無いシナ)
徐々に気配が近くなってくるのを感じ、グラトニーは待ちきれないとばかりに右足から空気を取り込んで、一気に目的地までの距離を縮めるべく力を込めた。
「……風―――」
(『何ダ……? 妙な気配ガ―――』)
するとラースは突然、感じた何かに不信感を抱いた。
―――――刹那――――
『!! 相棒止マレッ!!!』
「!?」
ラースの大声に驚きながらも、言われたとおり空気を前から噴出し強制的に勢いを止める。
「もう少しでご飯なのに……何で止める!」
『何でッテ―――チ! 後ろに飛べ相棒!!』
「う……!?」
文句を言うグラトニーだったが、ラースの切羽詰まった声を聞き、次に襲いかかってきた殺気を感じ取って、空気を再び噴出して上と後ろ方向に大きく距離を取った。
飛びのいた時から僅か0.1秒後、地面が大きく切り裂かれ、有り得ない量の木々が舞い上がる。そう、木の葉では無く……半分ほどから寸断された木々が。後一瞬遅れていたら、グラトニーも斬られていたかもしれない。
殺気は言わずもがな、気配や匂いですら今まで感じた事の無い物が当たりに充満し、グラトニーは戸惑い頻りに顔を動かしている。
「なにこれ……なにこの気配……!?」
『……そウカ、相棒はまだ慣れてないんだっタカ……』
何時ものお茶らけた空気が消し飛び、ラースは真剣そのものの声色でグラトニーへ何かを話そうとした。
しかし、ソレを許さないと言わんばかりに、会話に割り込む形で何かが地面に激突。土ぼこりを大量に巻き上げ、砕いた地面の破片を当たりにまき散らす。
「……何が……!?」
『来タゼ、有り得ないのガヨ』
土ぼこりはゆっくりと晴れて行き、徐々にではあるがシルエットが明らかになっていく。瞬間、ラースは叫んだ。
『相棒しゃがメッ!!』
「わっ!?」
鋭くも耳に心地よい快音がグラトニーの頭上を通り過ぎた直後、再び木々が紙吹雪の如く舞い上がる。
何処から湧いてきたか鼻につく嫌な臭いが充満し、眉を歪めるグラトニーへラースは再び叫ぶ。
『右! 左! 飛ベ! “風刃松濤”!』
「ヌ……グ、やぁあっ!!」
威力が洒落にならない三連続の斬撃の後、連続攻撃時とは段違いの威力を誇る斬撃が迫り、それをグラトニーは右足からの“風刃松濤”で半ば無理やり叩き落す。
飛んでくる斬撃の正体を知ったか、グラトニー今だ迫りくる無数の斬撃を時に自分の意思で避け、ラースの指示に従いながら呟いた。
「アレ……変なとこから刃物が……っ!
『また右! ……アア、奇怪な攻撃が―――ヤベッ!? 走れ相棒!!』
「うわ……!?」
バキバキと今までよりも更に大きな大樹を切り裂きながら、猛スピードで巨大な斬撃が迫りくる。コレには咄嗟に避ける判断が付かず、もう走るしかない。
「わわわわわわわ!!」
『追いつかれんナ! 死ぬぞ普通ニ!!』
「知ってる!!」
斬撃が緩やかになった一瞬を狙い、グラトニーは宙返りの要領で巨大な一撃を避けて、根っこの部分に当たる土ぼこりの中へ向けて左手を翳す。
「“風砲暴”ああぁぁっ!!」
破壊と断裂の嵐が斬撃の主へと迫る。
巨大な刃を振り切った直後なので、この攻撃には対応できないだろう……そして“風砲暴”が直撃するかに思われた、その寸前―――――余りにもあっさりと、彼女の必殺技は両断された。何時の間にか構えなおされ、サイズも縮んだ剣によって。
『うげェッ!? マジカヨ!?』
「うそ……!?」
驚きながらも空気の噴射で横に僅かにずれ、グラトニーは何とか剣の直撃は避ける。一発外れたならより力を込めてもう一発……そう考えて左手を構えた時だった。
「あぐっ!?」
『グッ……相棒!!』
まるで巨大な万力に挟まれたような衝撃が、『何も無い筈の空中で』グラトニーを襲った。体勢を見事に崩し、着地は出来ずに激突してしまう。
ダメージが大きいのかフラフラと立ち上がるグラトニーへ、ようやく敵方から声が掛かった。
「去勢、脆弱、弱者……とはいったが、いや中々にやるもんだ。流石に、驚愕、愕然、しかしこれはまだ前哨……へばるなよ」
「だ、れ……何な、の……?」
「本名、名称、紹介、知る事を望むのか。理解、了解、そして問に回答しよう」
『相棒、驚くんじゃあネェ、そして隙を見せるナヨ……アイツハ――――』
グラトニーの言葉に敵が答えるのと、ラースがグラトニーへ真実を告げるのは、ほぼ同時であり……
「俺の名前は“サースト”、渇望を、渇きを表す言葉を持つ、お前と同じエレメリアンだ」
『アイツは……俺らと同じ“単純感情種”のエレメリアンなんダヨ……!!』
「そん、な……!?」
グラトニーへ与えた驚愕の度合いも、同じであった。
後書き
本編じゃあ類は友の呼ぶとかでツインテール好きを通り越した変態同士の、言葉だけはやたら仰々しくて浪漫たっぷりなバトルの最中だっていうのに……何かこっちはドシリアスになってるという……。
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