| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

寄生捕喰者とツインテール

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

忍び寄るは何者か

 
前書き
○プロフィール・その二

名前:グラトニー

性別:女(本来は男)

身長:138cm

体重:不明だが、左腕が重い為、普通よりは重量かと思われる。


・新垣瀧馬が変身した姿。変身とは言うが、体全体の細胞を変化させているので、どちらかと言うと変態に近い。幼女化のほかに、左目と左手に右足が完全に人外化しており、特に左腕は1周りは大きいので、少し体に見合わない大きさ。
 この姿の時には食欲が増進され、性格も幼くなってしまい、本人の面影は消え失せてしまう。これは、まだまだ瀧馬が未熟だかららしい。
 作中でもほぼ手加減状態で戦って圧倒している事から基礎能力はかなり高いと思われる。また、詳細は不明だが空気を取り込んで放出する力により、圧倒的な破壊力を誇る攻撃を撃ち放つ事も可能。

 ラース曰くポテンシャル自体はかなり高いので、まだまだ成長に期待が出来そうだ。
 

 
《なるほど……ではこの少女、“グラトニー”についても、まだ判断するには早いと?》

《はい。アルティメギルからの侵略者を握りつぶす怪力に、コンクリートをバターの如く切る斬撃、異常とも言える食欲に、喰い千切るという恐ろしい闘い方。彼女の方から人は襲わないとも言っていますし、今まで襲った経歴もありませんが……何にせよ油断は禁物です》

《では、テイルレッドた―――テイルレッドやテイルブルーと、彼女はどう関連しているのでしょうか?》

《映像を見る限りでは敵でも味方でも無いといった感じですね。テイルレッドた―――レッドごと敵へ攻撃を叩き込んできたり、交渉前にも下手すれば襲いかからんばかりの気迫を放っていましたから》

《そうですか……それにしても時折可愛らしさを覗かせていた彼女ですが……やはり恐ろしさが先に立ってしまいますね》

《しかし彼女は所々テイルブルーと違う点が見受けられますね。そして最も違う点は、その眼にあります》

《と言いますと?》

《彼女の眼は暴力を楽しむ蛮族のそれでは無く、生物的本能と悲しみを湛えた目なのです。食べなければ生きていけないのは自明の理、しかしグラトニーは更にそれだけでなく、大きな何かを背負っているのかもしれません》

《なるほど、ご意見ありがとうございました……続いて、皆さまの待ちかね! テイルレッドの―――》



 プチン、という切なげな音と共に、ニューススタジオの映像は途切れる。テレビの電源を切った張本人であろう、そして他ならぬグラトニー本人である瀧馬は、ソファーの上でガックリとうなだれていた。

 紫色のモンスター娘……改め“グラトニー”はギャラリー前に堂々と姿を現した所為で、当然の如く次の日の朝のニュースで上げられてしまっていた。

 しかしながら、好意的とは言い難いが嫌悪されているかといわれるとそうでも無く、人気を気にしているならばホッとしたであろう。


 ……そう、人気を気にしているならば。


 人気を気にしていない瀧馬にとっては、罪悪感も刺激されて迂闊な行動をとりにくくなった事に他ならない。それでも、非情な手段を取らざるを得なくなれば、世間の評価など元から気にしていないので、実行に移す覚悟はある。



「徹頭徹尾ケダモノを貫こうとした訳じゃあないんだが……属性力を前に理性が……」

『しょうがないダロ、まだまだ食欲には負けてんだかラヨ。それに可愛いかったゼェ、あん時の相棒はヨォ』

「ぐ、おおおっ……!」



 可愛いくなかったかといえば、どちらかというと別段そうでも無いかもしれない……そんな行動をグラトニーの状態で瀧馬はとっている。

 が、コレは食欲に感化されて別人格が飛び出してきている様な物であり、根本に居るのが瀧馬自身だとはいえその行動を自身が優先的に行っているとは言い難い。

 黒歴史にも近い出来事を思い出してしまったか、必死に忘れようと頭を押さえてうずくまる瀧馬へ、ラースは苦笑いどころか満面の笑みを湛えた様な声色で、肝心の話を止めようとはしない。



『良い名前が付いてよかったヨナ、英語で“激怒”を意味シ、七つの大罪の内一つ“憤怒”の意味を持つラースに対抗して、英語では“大食い”で七つの大罪では“暴食”の意味を持つグラトニー……いやぁ我ながら言いネーミングセンスだゼェ』

「そうかいよ……」

『落ち込んでんナヨ。テイルブルーの質問へも嘘はついてねェシ、別に落ち込む要素は―――』

「無かったらこんなに沈んでるかっての!!」


 ごもっともである。

 
 ゆっくりと、大きく頭を左右に振りながら、瀧馬は思い返したくも無いのに勝手に浮かんでくる昨日の戦闘風景を、もう止めてくれと思いながらも今後の為か、深呼吸しながら振りかえっていた。
















 現場に辿り着いた瀧馬がまず最初に目にしたのは、此方を指差したテイルレッドとテイルブルーであった。

 しかし、そちらへ中止しても良い事など一つも無いので、嗅覚をいかんなく発揮してエレメリアンの居場所を特定する。



(この匂い……向こう!)



 弾かれた様に向けれられた視線の先、そこには瀧馬の嗅ぎとった通り、エレメリアンが二体いた。



「現れたかツインテイルズ! そして我らを狙う捕食者の少女よ!」
「今回は我らはちぃと本腰を入れてきたぞ! こちらは二人だ!」



 何度表現しようとも、先に派遣された化け物の色違いとしか例えられない亀怪人に、一発でモデルが分かる怪人が並んで歩み繰るさまを見た瀧馬は何時もの様に飛びかかろうとして……ラースに止められる。



『待て待て相棒(バディ)、丁度ギャラリーが居るからいい機会ダ。その姿の名前決めとこウゼ』
「……名前」
『オウ』



 言われてみて瀧馬は、この少女の姿に、テイルレッドの様な名前を決めていなかった事を思い出した。

 ラースが緩衝材として細工しているか、食欲自体はいつもと変わらないが、意識は何とかはっきりしているのを瀧馬は感じる。


 トタスギルディとチキンギルディという、向こうの怪人の名乗りを受け、襲いかからず待っていたのが良かったかグットタイミングでトタスギルディが瀧馬を指差した。



「捕食者の少女よ! 今一度名を聞こう、そなたの名前はなんだ!! よもや散るとしても、倒される相手の名を知らぬのは未練が残るのでな!」

「……名前?」



 今考え中だよと本音で返す訳にもいかず、瀧馬は相手の発言にオウム返しする。というかそれしかできない。

 相手は名前を返してもらえなかった事よりも、何時も容赦なく喰らいつかれていたのに返答してくれた事が嬉しかったか、もう一度ビシッと指差し口を開いた。



「そうだ名前だ! まさか本当の獣ではあるまいし、存在しないという訳ではあるまい!」

『急かすんじゃあねェヨ、まだ考え中だってのにナア』

「……ん~……ん~? ……んぅ?」

「あるのだろう? ……名前は、あるのだろう? あっ、な、無かったら考えてもいいぞ!!」
「うむ! そうだ、時間はやるぞ!!」

『だっテヨ。ゆっくり考えちまおウゼ、相棒』



 そこから瀧馬とラースは名前を考え始める。しかし、モンスター娘状態の瀧馬は如何せん頭を使わない傾向がある為、実質的にラースが一人で考える事になってしまった。

 傍から見ればボーっとしているようにしか見えず、ツインテイルズも瀧馬を無視して武器を構えている。



『ア~ア~、こっちがちゃんと考えてるってノニ、それぐライ……イヤ、普段話を聞かない俺らが言える事じゃねエナ』

「……」

『もう“これ”でいイカ。安直だが中々に言いネーミングだと思ウゼ!』



 ラースから伝えられた名前をしかと覚え、瀧馬は音量を少し上げて彼等の方へと顔を傾け、その名前を口にした。




「グラトニー」


「「「「えっ?」」」」



 やっぱりというべきか、瀧馬……改め“グラトニー”の存在は忘れかけていたらしく、アルティメギルもツインテイルズもキョトンとした顔で立ち止まる。



「自分、名前、自分……名前は、グラトニー」

『何で最初繰り返したよ相棒。この短時間で忘れた訳じゃあるまイニ……いやありえルカ! クハハ!』



 何が可笑しいのかゲラゲラ笑い出すラース。

 対して周りは、新たに現れた人物の名前に少しばかり戸惑っていた。

 まあこれも当然。体を覆う鎧の意匠が違うとはいえ、彼女は紫色のツインテールを持っているのだから、普通テイル○○―――――テイルパープルや、テイルバイオレットなどと名乗るのが定石。

 それが、“大食い”“暴食”の意味を持つ“グラトニー”だったのだから、戸惑いを持つのも当然だ。


 あちこちから徐々にざわめきは広がり、あっという間にグラトニーの名は浸透していく。



 と、いきなりゆっくりとエレメリアンが佇む方とは全く別方向へグラトニーは眼を向けた。




「え? な、なんですか?」

『如何した相棒』

「テイル……テイルはいらない、自分はグラトニー。その前も後も無い、ただの“グラトニー”」

「あ、そうですか」

『アア、確かあいつテイルグラトニーとか最初に言いだした奴だっタカ』



 やっと決めた名前に勝手に付け加えられたのが気に入らなかったらしい。律儀に訂正を加えてから、グラトニーはトタスギルディとチキンギルディの方へ視線を戻した。

 そこでまた、ラースから声が掛かる。



『相棒、もう一つ言う事がアル』

「……?」



 食欲へと真面目に抗うのが億劫なのか、グラトニーは体をブーラブーラと気だるげに揺らし始めた。……隣から殺気が発せられているのは気のせいだろうか。



『新技を試したいかラヨ、攻撃は手を抜いて加減シナ。今回の奴等も弱いしやろうと思えば右拳で済ムガ、それじゃあ意味が無いかラナ』

「……ん」



 説明も終わり、グラトニーが体を揺らす速度も段々遅くなりやがて止まった。……隣から殺気が消えた。

 ギャラリーのざわめきがある程度消えるのを律儀に待っていたようで、トタスギルディとチキンギルディは周りを見回してから声高に言い放つ。



「よかろう、しかと覚えたぞ捕食者たる少女・グラトニーよ! お前の相手は私、チキンギルディがする!! 盟友ホークギルディの仇打ちだっ!!」
「そしてツインテイルズ! 貴様らの相手はこのトタスギルディが、タトルギルディの思いを背負い、受け持とう!」


『言った事は守レヨ、守りながら喰らい付ケ!!』

「うん」



 ラースへ返答を返して、グラトニーは何時も通りにチキンギルディへと突っ込んで行って、手羽先あたりを喰いちぎった。

 余りと言えば余りな戦い方にギャラリーの声が小さくなるが、そんなことグラトニーもラースも気にせず攻撃を叩き込んで行く。



「ぬ、ぐぅぅ……相も変わらず容赦の無い少女よ。ならば、こちらも容赦無く本気で」
「るぁあっ!!」
「いごぞぶっ!?」

『喋らず力こめりゃあいいだろうに馬鹿な奴らだナァ! クハハハハ!!』



 ラースの言う事はもっともだが、彼らアルティメギルは戦闘時にノリやロマンを求める方なので、生きる為に喰うシンプルな戦いとは勝手が違うのも仕方ない。



「ぬがぁぁっ!?」
「アム……うん、コリコリ」
「これは、流石に不味いか―――」
「美味しいよ?」

『オッ、良い返しだぜ相棒! 最高ダ!』

「そんな事とは聞いてはいがほっ!」



 ラースの言った通り手加減しながら攻撃を仕掛けていくグラトニーに、敵は必死になりながら今度は直撃をくらわない様にと、何とか体を捻りながら避けていく。



「ぐふぅ……コレは不味いがしかし! グラトニー! 私はお前の技の弱点を知っているのぉっ!? ってのわぁぁあぶなぁいっ!?」
「外れ……」
「貴様本当に市民の味方なのか!? 不意打ちに台詞の途中でのぬおおっ!? こ、攻撃など!」
「違う、食べたいから来てる」
「あ、そうなのか……ってうおわあっ!? それでも誇りはもっとるだろうがァッ!」
「それ美味しいの?」
「何処かで聞いたようなセリフを吐くなぐほぉっ!?」

『オ、1hitダナ』


 ゲームでもやっているのかそんな事を言うラースの声色は、これから試す技が楽しみで仕方無いか、少しばかり喜色で震えている。


 チキンギルディは 如何しても喋りたいのか、無様な姿をさらしながらも必死でグラトニーを指差し続けた。


「それよりも、おぉぉっっ!? お、お前の弱点を知っていると言っているのだ! 知りたくは無いのか!?」
「別に」
「アッサリ言うんじゃあな、危なぁああぁっ!?」
「それに、新技あるし」

『ああそろそろ試すぜ相棒、準備シナ』

「はぁはぁ……えっ?」



 新技があるといったグラトニーの言葉が予想外だったか、余りにも大きな隙をチキンギルディは晒してしまった。

 そこを逃すグラトニーでは無い。ラースからレクチャーを受けながら、チキンギルディへ高速で詰め寄っていく。



『イイカ? 六本目の指を掌からは安イメージを強く持テヨ!』



 ラースから告げられた事をより強く頭に思い浮かべ左手に力を込めると同時、グラトニーは小柄な体からは想像もできない力を持って、チキンギルディを右手でぶん殴って空中へ浮かせる。

 不安定な位置へ向けて、まだまだ手加減してコレなのだから、本気で打てば一発で穴が開きそうだ。



『突き刺セェ!!』

「ふん!」
「ぐ、おぉぉ、おっ……?」




 六本すべての指を突きさしたグラトニーは、そこから先をまるで知っているかのように、握り潰さんばかりに左手に力を込める。

 瞬間、吸気口から吸い込んだ空気を“風砲暴(ふうほあかしま)”では破壊と斬撃の風に変える様に、『隙間に入り込む』風へと特殊加工を施して流しこんだ。


 チキンギルディが、堅い風船か何かの様に半回り膨らむ。


「コォォォ……!!」
「ぶ、ぐぶぅぅっ!?」

『良いぜ良いぜ相棒! 技名は自分で決めナァ!!』



 ラースが言葉を発し、それから数秒と経たずに一気に空気を流し込んで、アイアンクローを決めるが如く力強く握った。



「……握風科戸(あくふしなと)!」
「あぎょ――――」



 途端、大爆発。胴体はほぼ完全に塵と化し、 四肢と頭の残骸が転がるのみ。


 立ち上がる属性力のオーラを吸い込んでから属性玉も口にし、グラトニーは満足そうにげっぷをする。



『さあ次ダ! 次は右足に意識を集中さセロ! そして向う脛辺りに溝をつくるイメージを持チナ!』



 説明を受けたグラトニーは一旦空気を大きく吸い込んで爆発させて空中へ飛び出し、移動と空気の吸引を同時に行って、大きく脚を振り上げた。

 狙うは……眼下のトタスギルディである。

 テイルレッドとテイルブルーには全く構う事無く、グラトニーは右足に形造られた、一見唯の細長い凹みにも見えるほど細く、そして0.1㎜未満単位の隙間を持つ溝から、“風砲暴”以上に斬撃に特化させた風を蹴りと共に撃ち放った。



風刃松涛(ふうばしょうとう)!」
「何……がっ? じ、地面が―――ぁ」




 そして、堅牢な装甲を持っていると見えるトタスギルディを、コンクリートごと真っ二つにしてしまった。
 細胞同士の結合をそのまま離した様な切り口は、撃ち放った“風刃松濤”の切れ味がいかほどなモノなのかを如実に伝えてくる。


 トタスギルディのオーラも吸い込んで飲み込み、最後に残った属性玉に手を付けるべく伸ばした時……その属性玉をテイルブルーが一瞬早く拾い上げ、一息で距離を取った。



「あ……」

(『ンン? あの嬢ちゃん何か目的があんのカネ?』)



 恐らくは、グラトニーの目的や正体を知りたいのだろう。だから、テイルブルーは彼女をある意味餌で釣ると同義の事を行おうとしているのだ。


 が、グラトニーはそんな事までは考えがいかないか、今すぐにでも飛びかからんばかりに唸り、涎も少々こぼれ始めてきている。


 その動作たるや、まるで……ではない本物の獣のそれだ。



「……取引で答えてもらうわよ。あなたが何者なのか、何を目的としてるのか」
「それ、食べるからちょうだい」

『オイオイ直球すぎるっテノ、食欲ぐらい抑えなッテ』

「欲しかったら答えなさいって言ってるのよ」
「……ホントにくれる?」
「答えてくれたらね」

『適当は俺が用意しとくかラヨ、答えてやんな相棒』

「むぅ……うん、わかった」



 ラースの一押しと絶対に食べたいという思いもあり、グラトニーは素直にうなずく。ラースが答えを要しするとは言ったが、質問の最初の一つである目的は単純な事なので、グラトニーにもすぐに答えられる。



「自分の目的、食べる事。生きる為に、食べる事、それだけ」
「本当は?」
「本当は食べる事」
「……目的が獣のそれね。まあ、下手な作戦よりはよほど説得力があるけど」




 まあ、涎ダラダラで質問に答える時もテイルブルーでは無く、手に持っている属性玉を見ているのだから、これ以上信用しようのある答えは無い。



「次の質問よ、あんたは何者なの?」
「自分、グラトニー。それ以外何も無い」
「いやそうじゃなくて……私達と同じ人間? それともエレメリアン?」
「自分……自分は――――」

『エレメリアンで良イゼ。というか男の時もダガ、女の時は本当にエレメリアンのそれだかラヨ』



 涎を啜る動作に合わせて、ラースは考える時間も無く普通に言った。 グラトニーはラースの言った事同じ内容の言葉を、正直に口にする。




「エレメリアン、自分はエレメリアン」
「! ま、マジか……!?」
「マジ」
「なるほどね……そうじゃないかと薄々思ってはいたけれど」



 テイルブルーは最初から予想していたか意外と驚きは少ない。テイルレッドは予想はしていたものの、やっぱり真実を聞くと驚きが勝る、といった感じのリアクションだ。

 念の為だろう、レッドとブルーは武器の柄を強く握る。



「ラストよ……アナタは人間の属性力を食べるの?」



 その質問には、ラースも少し考えざるを得なかった。

 ラース自身はこの世界では食べないとは言ったが、それはグラトニー……瀧馬の体から抜け出た際の話。
 非常時になった場合は本当に止むをえなくなる為、必ず食べないと約束しきれないのだ。

 それを踏まえて、ラースは間とも取れる答えをグラトニーに告げる。



「強い人少ない、美味しくない。それに私、食べる理由無いから食べない」
「……その言葉に嘘偽りは無いわね?」
「嫌いなモノ、進んで食べる?」
「! ……へぇ、中々分かりやすい例えしてくれるじゃない」



 嫌いなモノは進んで食べない、食べる理由は無いから食べない……つまり、裏を返せば嫌いだろうとも理由があれば食べるという事でもある。
 何とかそれを悟らせずに逃げ道を紛れ込ませ、取りあえずこの場は乗り切る事が出来た様だ。

 三つ目で質問は打ち止めとなったか、テイルブルーは属性玉を持った手を振りかぶった。



「それじゃ……はい、約束通りこれあげるわ」
「あ、あっあっ! あ~、ハクッ」
「投げた属性玉を口でキャッチした!?」
「なんか、犬に餌やってる気分になってきた……」

『クハハハハ! 犬だマジで犬だよ相棒! ク、クク、クハハハハハ!!』



 馬鹿笑いするラースには構わず、グラトニーは嬉しそうに 属性玉を舐めて噛み砕き咀嚼し、音が聞こえそうな動作で呑み込んだ。

 食事後に二人の方を向き、満面の笑みを浮かべて軽く手を振る。


「バイバイ、じゃね」

『よッシ、今回も目的達成! さっさとトンズラするゼェ!』



 一瞬でワープしその場から離れ、座標を間違ったか瀧馬の家の裏手の森に降り立った。そして変身を解きグラトニーから瀧馬に戻ると―――――



「うおおおおおっ!! 何やってんだ俺はぁぁああっ!!??」

『黒歴史確定ダナ』



 ヘビメタよろしく激しく頭を振るのであった。














「くそっ……思いだしたらまた恥ずかしくなってきた……!!」

『まあ良い思い出になルサ、それに幾ら嫌でも生きる為にゃ戦わなきゃいけなイゼ』

「分かっているから余計に辛いんだよ……!!」



 何を求めていたか、何を考えていたかが分かるからこそ、増長して苦しくなるのだろう。一頻り落ち込みやっとこさ落ち着いたか、登校時間まで間がある事を時計で確認して、瀧馬は大食い選手とほぼ同じぐらいになった胃袋を満たすため、棚からまたパンを取り出す。

 パンを食べ終えるのを律儀に見計らってから、そんな事よりもとラースは数秒間の置いて、含みのある声で一言言った。



『相棒、今回ツインテイルズとじかに会って分かった事があルゼ』

「俺が、前に言っていた事か?」

『そウサ、その成否がいかなモノかって奴、その答えダナ』

「結果は……?」



 瀧馬の問いにラースはニヤリとした表情を脳裏に浮かばせる声で、予てから疑問に思っていた事が正解か否かを口にする。



『―――――“アタリ” ダヨ、あいつ等はお前の同級生の観束とかいう奴、そして津辺とか言う奴ダ。属性力の質が一緒だかラナ』

「……」

『認識阻害の技術でも使ってんだろウガ……残念! 俺ら“欲望・感情”のエレメリアンニハ、あんなチンケなレベルの物通じねェヨ。もっと強めにしなきゃあナァ』


 ラースのこの発言により、瀧馬が思っていた“二人はツインテイルズではないか”という疑問が、考え過ぎでは無く的を得ていた事が分かってしまった。

 分かったから如何というものでも無いのだが、何とも言えない感情というのは心の中を支配してくる。
 瀧馬もまた、どう表現していいか分からない感情を抱いていた。


『世間てのは案外狭いノナ。世界ってのは“並行世界”に近いだけで無数にあるのニヨ』

「確かに、えらく狭かったな」



 ラースの茶かしにも近い言葉に頷きながら、瀧馬はまたパンを口に放り込むのであった。














 同時刻。



「なんでよ!? 何でなのよコレぇぇええっ!!」



 観束家のリビングで、少女はニュースを見ながら絶叫していた。


 ニュースにあげられているのは、御馴染のテイルレッドと新たに表れた謎の少女・グラトニーの事であったが、冷静に対応しグラトニーから情報を引き出しているテイルブルーの事は殆ど取り上げられていない。

 少女はソレに納得がいかないようだ……まあ当たり前だろう、声を上げているのはほかならぬテイルブルー、津辺愛香なのだから。



「蛮族だ暴力的だって言われるから知的な所も見せたのに!! なんでグラトニーなのよ!? しかもどの局もテイルレッドやグラトニーのニュースばっかり!!」
「ま、まぁまぁ落ち着けって愛香」



 彼女の言っている事もあながち間違いでは無く、テイルブルーが映っている局でも比率はテイルレッド・6:グラトニー・3:テイルブルー・1……といった具合で、他殆どのニュースがテイルレッド・8:グラトニー・2……なのだ。


 しかも、テイルレッドは御馴染の情けない姿ばかりだから人気に拍車がかかるのは分かるとして、グラトニーは猛獣の如き眼光を宿している場面に、エレメリアンを喰いちぎる場面、果ては必殺技を放ち残酷に吹き飛ばしたシーンもあったのだ。

 なのに普通に人気とは言えずともそれなりに支持者は付いているし、生きる為に食べているのだろうという考察や、彼女の眼に宿る意思、エレメリアンという単語が浸透した事もあって、生物ならばいた仕方ないのかもしれない、という認識まで出回り始めている。


 対してブルーは、何時もの様なの乱暴者扱い、偶に挙げられても刺身のつま扱い、碌な事が無い。寧ろ、グラトニーが時折見せた犬のような仕草の引き立て役になってしまっている。



「悲しげな目って何なのよ!? どうせグラトニー好きな奴があの中に居て、デマ流しただけでしょ!!」
「え? 愛香は感じなかったのか? あの子のツインテール、本能と悲哀が混ざってたんだぞ?」
「……はい?」



 大分おかしな単語が混ざったが、常識的に好意的に取るなら、総二もグラトニーの雰囲気は察していたらしい。
 珍妙さに一瞬フリーズはしたが、何を言いたいか分かった愛香は、それでも納得いかないか唸り続ける。



「唸っても状況は変わりませんよ愛香さん? それにコメンテーターさんの言っている事は正しいです。同じ獣でもグラトニーちゃんは生きる為に己を鬼と化する本物のダークヒーロー。愛香さんはダークヒーローを気取ったビッチなケダモノですからねぇ? あと胸部が大ぶ違―――」
「ウノ! ドス! トレェェェス!!」
「クリティカルヒットオォォオオオォォオォオっ!?」



 拳、蹴り、頭突き。眼にもとまらぬ三コンボで今し方愛香を鼻で嗤ったトゥアールは、縦に横にもう回転して地面を転がりバウンドする。

 と、総二が今のトゥアールの発言で気になった部分があるのか、起き上がるのを待ってから話しかけた。



「トゥアール、ちょっといいか?」
「良いですよ! ではお任せあれ!」



 何を任せてもらったか総二へ飛びかかっいったトゥアールは、愛香に再び三コンボ決められて同じような軌跡を描いて床に叩きつけられる。

 流石に同じような事は三度もしないか、特に強かに打ちつけた腰を摩りながら、総二へ真面目に答えた。



「で、なんでしょうか総二様?」
「いや、とてもくだらない事だけど……何でトゥアールはグラトニーを“ちゃん”づけで呼ぶのかなぁって思ってさ」
「あ、それは私も思った。あの子も幼女と言えば幼女だけど、テイルレッドと違って少しばかしギリギリだし、胸もおっきいでしょ。胸も」



 何故2回言ったかは総二は理由が分からないし分かっても追及しない方が良いと思えるので置いておいて……トゥアールはニヒルな笑みを浮かべて二人の疑問に答える。



「甘いですね、実に甘いです……そんなんじゃあ、まだまだですよ?」
「いや、アンタの思考を理解出来た方が駄目だと思うんだけど……」
「何を言っているんですか!! 幼女を愛でる事こそ正義、幼女を愛する事こそ至高!! それは星に重力が存在する、人間は空気が無ければ生きてはいけない、それに匹敵する不文律なんです!!」
「嘘こくんじゃないわよ!? 嫌過ぎるわそんな不文律!!」



 大分話が脱線して来た事を危惧して、総二が二人の間に割って入った。



「待てって、今は疑問に答えてもらう時だろ、ちょっとは落ちつけよ……それで、何が甘いんだ?」
「おっとと、そうでした。……では続けますね」



 不審者張りの笑みと新たな元素を派遣した研究者さながらの高揚感という、まるで真逆な雰囲気を滲みださせながら、トゥアールは何故甘いといったかを説明し出す。



「確かに彼女の身長はあの時の会長さんより少し低いぐらい、胸だって私には負けますがあります………しかしですね! 最近の子は発育が良い所為か、二次元の産物であったロリ巨乳が世の中には存在しているんです!! しかもグラトニーちゃんの気だるげなあの表情! 『食』に対して限定ですけどあの素直さ! 私にとっては数あるストライクゾーンの内一つを射抜く凶悪さを持ってるんですっ!!」

「数あるストライクゾーンて……あんたどれぐらいストライクゾーンがあんのよ」
「総二様と幼女殆ど!」
「ハッキリ言うでないわ己はああぁぁああっ!!!」
「しまったついぐあああぁぁっ!?」



 お約束となったやり取りの流れを、もう止めようとは思っていないのか総二は黙ってカフェオレを啜りながら、ニュースと交互に見やっている。



(グラトニーは好きでツインテールにしてるんじゃないんだろうな……いやいやでは無いけれど、やっぱりツインテールに対する“諦め”みたいなものを感じるし……今まで見たこと無い種類で何か新鮮味があるんだけどなぁ)



 ツインテール好きも極めれば彼の様になれる―――――訳ではないのが、彼の奇妙さに拍車をかけている気がするが、どうれだけ止めようとも無理やり自分の道を進んで行くのだろう、この観束総二という男は。



「そうだ! アタシもあんたに聞きたい事があんのよトゥアール!」
「スリーサイズなんか教えませんよ!」
「何も言っとらんだろうがぁあああぁあああ!!」



 遅々として進まない話にイライラしたか、愛香はトゥアールを拳の乱れ撃ちでぼこってから、話を脱線させないようにと釘を刺し、ソファーにドカッと座って質問をした。



「あの時私がした質問……エレメリアンか否かって事に、グラトニーは肯定したわよね? で、人形属性(ドール)体操服属性(ブルマ)髪紐属性(リボン)とか、今まで戦ったエレメリアンには必ず何かしらの属性があった……じゃあ、あの子の属性は何なの?」
「何言ってんだよ愛香、別に悩む事じゃあ無いだろ? そりゃあ、食欲とか」
「そう、普通はそう考えるわよね。でもおかしいと思わない?」



 言われてから総二は考えるものの、食欲を元にしていると思わしき圧倒的な『食』への素直さと執念は、彼女が食欲の属性……あえて例えるなら食欲属性(イート)から出来ていると考えても別に不思議ではない。

 未だ何がおかしいのか悩む総二へ、トゥアールが何時も以上に真剣な表情で声をかける。



「総二様、私は前に言いましたよね……家族愛や友情など、知性を持った生命体が誰でも育む属性を基盤として、個人の属性力が育まれていくと」
「お、おお。確かに言ったな」
「だからそれ以上に根本にかかわる感情……特に生きとし生けるものの殆どが抱く“食欲”を元にしているなど、属性力技術の概念から考えると余計におかしいんです」
「あ? あ、……あぁっ!?」



 そこでようやく総二も、愛香が抱いている疑問に気が付く。

 友情や家族愛は強く雄大な物にも思えるが、先程トゥアールが言ったようにソレはある程度以上の知性を持った生物ならば当たり前に抱く感情であり、精神の土壌とも言える。つまり、大本に存在はしていても、強力な推進力になりえる強い思いは少な過ぎるのだとか。

 一見強大に見える力ですらそれなのだから、食欲など取り出した所で使えない事が殆ど。エレメリアンになるなど有り得ないはず。

 ……そう、有り得ないはずなのに、グラトニーという食欲を元にしたとしか思えない、奇妙なエレメリアンが現れている事が、疑問となっているのだ。



「でも、変態行為とかはやらなかったし、どっちかっつーと体以外は普通の人間に近かったような……」
「それも謎なのよね。異常なまでの食欲を持っているのは同意するけど、本当に食欲が固まって生まれたのなら問答無用で喰らいついてくる筈だわ」
「しかしグラトニーちゃんは、属性玉で釣ったとはいえちゃんと答えてくれましたよね? 愛香さんの質問に」



 何と厄介な存在なのだろうか……グラトニーから聞き出し目的や正体を知る事が出来た様でその実、彼女の知らぬ所で大きな問題を押しつけてきた。

 が……考え始めて数分後。ふと、トゥアールが何かに気が付いた様に眉を上げ、呟く様に言葉を紡いだ。



「いえ、もしかすると……単純だからこそなのかもしれません……」
「単純だからこそ?」
「はい」



 憶測ですがとトゥアールは一言断りを入れてから、自身が考えたグラトニーが存在出来ている理由を話しだす。



「家族愛や友情はたしかに精神の土壌です。しかしそれは“大概の”人間の精神の土壌であって、必ずしも存在する訳では無く、そして全ての生物の精神の元となっている訳では無いですよね?」
「あ、確かに……」



 児童虐待の理由が精神を疑う様な物だったり、親がおらず施設でも迫害されるなどで、必ず芽生えてくるものではないし、強く抱くモノでも無い。

 ましてや、野生の動物は出来の悪い子をあっさり見捨て別の子を育てる事も普通にあり、存在しない訳ではないが全体的に見て少ないといっても過言ではない。



「しかし、怒り、悲しみ、喜び、妬み、恨み、食欲、物欲、色欲……これらは全てでは無いですが、人間や知能の発達した生物以外にも存在します」
「何かの道程があって芽生えるモノじゃ無く、自然と浮かぶ単純な感情や欲望ってわけね」
「はい。特に怒りや食欲は持っている種が多いと思います。それに、これらは色んな物に必ず付いて回ってきます」
「? どういう事だトゥアール」
「えっと、例えばツインテールが好きな総二様を例に挙げますと、華麗なツインテールを見れた際の『喜び』、ツインテールを侮辱された際の『怒り』、ツインテールが廃れていく際の『悲しみ』……アルティメギルならばよりワンランク上のツインテールを求める『欲』と言うべきでしょうか」
「言われてみりゃそうだ……確かに何でも付いて回ってきてる」



 ここまでくればもう分かったのか、愛香がトゥアールの溜息の後につないだ。



「なるほどね、何にでもついて回る感情だからこそ、属性力として存在出来てるんじゃないのかって事なのね」
「正解です愛香さん。そしてより単純なら“際限なく”上がっていくという点も、存在出来ているいるうの一つだと思います。温厚で命を大切にするな人が尋常じゃあない怒りで人を殺してしまった事件も、残念ながら実在するぐらいですから……何かを元にするよりもかなり大きい力なのかと」
「ツインテールを侮辱された時の怒りも、考え方によってはそれに類する怒りでもあるしなぁ……」
「念の為もうちょっと調べてみます」



 トゥアールはそういうと、地下にある基地傍の研究室へと歩みを進めていった。……途中、何やら怪しげな笑みを浮かべていたのは見間違いだと思いたい。



「―――うへへ―――――」



 ……残念ながら見間違いではなかったらしい。何をするつもりなのか涎を垂らして、泥棒もかくやの足さばきでカサカサと基地へ向っていく。


 ちらと見られたか、トゥアールは愛香に蹴っ飛ばされ、それを総二が呆れた顔で見やるのだった。




 世間はテイルレッドやグラトニー、時々テイルブルーで話題をつくり、総二はツンテールを、愛香は総二を守るために戦いに赴き、瀧馬は自身が生きる為に文字通り喰らい付く。

 それでも、世界は何時も通りに流れていく。

 殆ど何も変わらずに、時に静かに、時に賑やかに、過ぎていく。


 ただ一つ、その日違う事があったとするのなら――――――







「『これは……特上、上等、有頂天……いいじゃないか、最高だ……これならば……』」





 謎の影―――いや、“煙”が、はるか上空から存在を隠し、眼下を不気味に見下ろしていた事だろう。

 
 

 
後書き
 謎のキャラクター登場です。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧