寄生捕喰者とツインテール
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賭け
単純感情から生まれたエレメリアン、目の前の敵・サーストは確かにグラトニーの問いへそう答えた。
声質は少し低い青年のソレで、単語を三回繰り返すという奇妙な口癖を持っている事が窺えるが、肝心の姿はまだ見えない。
だが僅かだが運が味方したか、強風が吹き煙が舞い上がり、男の姿が視認出来るるようになった。
(……自分に、似てる)
グラトニーの思った通り、彼女とサーストには似ている所があった。とはいっても、左腕が似ているとか、纏っている服が似ている訳ではない。
似ているのは“人間的な部分と化け物的な部分を併せ持っている”所なのだ。
特に異様なのは右腕と顔の下半分であり、右腕は肘から下がジェット機のタービンを簡略化して、先端から刃先が二股に分かれている僅かに深緑に光る刃物を生やし、他の色は右腕全てグラトニーとは違う掠れた緑色、呼び名の分からぬ色に染まっている。
顔には牙の意匠を携えた主な配色は黒と白のガスマスクが付いており、パイプの様な部分が顔に突き刺さっていることから、それも身体の一部である事が窺える。
若干長い髪は逆立たせて後ろへ流してあり、色は先近くが灰色がかった緑―――菊塵色に近いメッシュが掛かっており、他は年老いた老人の様な白髪に近い色で、何処を原色に戻しても余り鮮やかになるとは言えない。
そして服は、右腕部分が全て、他の部分もところどころ破れている拘束衣に、自己流でアレンジを加えたものであり、下にも筋肉の線が浮いている黒い無地の服が見えている。体に直接密着しているとはいえ、浮き出ているほどなのだ。
「……自分」
「ん?」
「自分、グラトニー」
グラトニーは、サーストが名乗ったからか自分も名乗った。相手方からの名乗りを受けたから答える様な、ノリのいい性格では無いのに受け答えをしたことから、グラトニーが食欲ばかりに構っていられなくなっているのが分かる。
『相棒、俺はあいつに聞きたい事がアル……俺の言った事をアイツへ質問してクレ』
「……ん」
ラースに言われ、グラトニーは口で音量小さく答えるのみに止める。そして、ラースは攻撃が来ないのを充分に警戒しつつ、質問を開始した。
『一つ……何をしに来タカ、ダ』
「……ここに、なにしに来たの?」
「凡愚、愚問、問答する事でも無い。食いに来たんだ、エレメリアンをな」
予想通りと言うべきか、案の定彼もグラトニーと同じ目的でここに降り立ったようだ。しかし、ならば何故エレメリアンの所へ直接向かうのではなく、態々グラトニーの前に降り立ったのか。
ソレは当然ラースも疑問に思っていたらしく、二つ目の質問として口にする。
『二つ目、ならなんで自分の前に居るのかを問エ』
「……じゃあ、なんで自分の前に出てきた……?」
「野暮用と、言うべきかもな。個々、個人につき、お前には他人事かもしれないが」
「……そ」
まだ内容自体は分からないが、どうやらグラトニーへ野望用があって、目の前に降り立ち邪魔をしてきたらしい。
「……エレメリアン、倒されるかも……よ?」
「心配には及ばない。ここから先に居るのはお前以上の虚弱、弱者、そして斜に構えている馬鹿だけだ。神速、迅速、高速、すぐにカタはつく」
「………」
言葉だけ聞けば傲慢にも程があり、また虚言の疑いも持ったのかもしれないが、先の小競り合いを考えると実力は確かに文句は無い。
それにグラトニーとて、強くても倒せない相手では無いという、そのレベルの実力を持った奴がこの先に居るのだから。
『三つメダ……野暮用ってのは何なノカ』
「……野望用って、何」
「そうだな……答えてもいいが」
言うが早いか、脈絡も無く剣を……いや右手を振り上げた。頂点に達した瞬間、剣の輪郭が僅かにぼやける。
「それには、俺を倒す事だ。どの道、確実に食料を得るなら、俺はお前に剣を振り降ろす」
「……なら、お前も喰う!!」
「実力差を見ても引かないか……豪勇、勇気、気迫が違う。いくぞ」
行くぞとは言うが、剣は違うの時点で既に振り下ろし始めており、グラトニーは空気の噴出でそれを避けて、再び右足から後方目向けて射出し一気に詰め寄る。
「るぁぁっ!!」
「っ!」
何時の間にか開かれていた吸気口から逆に空気を放って加速させ、メインウェポンである左腕での拳撃を命中させた。
サーストも流石に無傷とはいかない様で、威力に押され数m後ろにずれた。
離れては駄目だ、そう考えたのかグラトニーは思いっきり懐に飛び込んでのインファイトに持ち込み、右へ左へ拳へ足へと、次々に攻撃を命中させていく。
だが、辺りに響き渡る痛快な打撃音とは裏腹に、サーストは殆ど傷を負ってはいない。
それもその筈、彼は全てを防御している訳では無く、時折カウンターの様に左拳を打ち込んで相殺しているからだ。
しかもグラトニーの取り込んだ空気を利用しての、単純ながら恐るべき加速による連続攻撃を、たったの左腕一本で。
グラトニーは何時もの様な手抜きでは無く、全身全霊で攻撃しているのも関わらず、この体たらく……対応しきれないか当たってはいるが手ごたえが薄く、この時点でどれだけ実力差が離れているのかを、グラトニーはまざまざと思い知らされる。
「オオォッ!!」
「ぐっ!?」
技量の差に怯んだ僅かな隙、それをついてサーストは左拳による攻撃を叩き込む。間一髪で左手が間に合うが、空に浮いていたグラトニーは簡単に吹き飛ばされていく。
右足からの空気放出で遠々飛んでいくのは免れたが、着地してもなお少しだけ後ろにずれさせられた。
『まだ少し手ぇ抜いてやガル……どんだけ強ぇってんダヨ、全盛期の俺に近づけルカ? アレハ』
「……そんなに強かったの、ラース」
『オウヨ、その力を貸してやれればいいんダガ……貸してやれても数秒で劣化でしかも一部、役に立つかは微妙ダゼ』
こんな時に嘘をつくメリットも無いので、実力の話と化す事が出来る力の度合いの話は、恐らくすべて真実。
だが、今この時だけは、グラトニーも嘘であってほしかったと願わざるを得ない。
望んでも叶わぬ願いを無駄に心に留める時間など無いと、グラトニーは足に力を込め駆け出そうとした……刹那、右側から痛烈な衝撃を受け、思いっきり弾き飛ばされる。
「……! ……!?」
水切りの如く地面をバウンドしながら、木々を薙ぎ倒し勢いに引きずられていく。視界の端にはサーストが映っており、つまり彼はほぼ一瞬で気配も無く真横に移動して、グラトニーを殴り飛ばした事になる。
防御も軽減も出来ず、左腕を地面へ叩きつけてグラトニーは無理矢理勢いを殺した。
「!? ふ、“風刃松濤”っ!!」
立ちあがろうとしておぞましい殺気を感じ、ブレイクダンスの要領で薄く鋭い風の刃を幾つも撃ち放つ。
何時振られたか勢い強く向ってくる剣にそれらはぶつかり、しかし一つだけ叩き落とせずに此方を立つべく迫りくる。
「ぬ、ぅうっ!!」
最後の一回転で蹴りを地面にぶつけて、グラトニーは思いっきり上空へ飛びあがり、攻撃をやり過ごすと間髪いれずに空気を噴射。サーストのいる方向へと猛スピードで突貫する。
ふと、辺りに舞う土ぼこりの中にそれらとは違う、ほのかに深緑色の粒子が混じる奇妙な煙がある事気が付き、左腕と右足からの同時噴出で起動を直角に変える。
「遅緩、鈍重、不活発―――今一つ足りない」
『来るぞ相棒!! 左ウデ構やガレ!!』
「う……っ!?」
サーストのぼやきが聞こえたと思った瞬間、煙から深緑に薄く光る刃が十数本単位で突き出てくる。一度では終わらず軌道を変えて何度か刺突は繰り返され、貫かれこそしなかったモノのグラトニーは避け切れずに幾つもの傷を負った。
負けるモノかと、グラトニーは傷が痛むのも不快な臭いがするのも構わず、地面を思いっきり蹴りだし今度こそサーストへ肉薄する。
(『不快な臭イ……? 何でそんなもんが充満してやガル……?』)
「近距離なら……どうだっ!!」
「!」
少しばかり間は開いていれども、紛れも無いショートレンジで“風砲暴”は放たれた。その威力は目測ですら、最初に撃ち放ったモノの倍以上を誇っている。
グラトニーと比べると大人と子供と言う対比が実に似合う、バスケットボ-ル選手もかくやの高身長であるサーストおも数秒とかからず嵐は呑み込み、後へと破壊の渦を刻み続けていく。
……その嵐に嵐の海を映した不気味な色の一線が突きぬけ、天裂くが如く振り下ろされ嵐を切り裂かなければ、勝利となりえたであろう。
土ぼこりの中から現れたサーストは、傷自体は折っているが軽傷ばかりで碌なダメージは与えられていない。
姿が一瞬見えたと思えば、サーストは地面を刃で抉って豪快に吹き飛ばし、大仰な目くらましを行った。
「うぅっ……」
「……強烈、痛烈、裂傷を負う程強いな。だが、これだけじゃあ足りん」
言いながら横へ振り抜いた剣の輪郭が再びぼやけ、次に振られた時には刀身の長さと幅が十数倍以上も膨れ上がっていた。
なのにガスで出来ているかのように猛烈な速度で刃が迫ってくる。
「う、わっ!! くぅっ!?」
『あーもうこんなろウガ、一々厄介な能力ダナ!!』
飛びあがって避けたのを狙ったか剣の一部が煙になり、そこからグラトニーの体を超える長さの刃が付きだされてくる。
それは咄嗟に思いっきり後ろへエビ剃ってかすらせるだけに止めた。
ラースが怒鳴るのも無理は無い。何せ現時点で分かる情報をもとにすれば、サーストの力は恐らく“剣を煙状に変えて射程や数を変える”力なのだろう。
どれほどまで長さを変えれらるかは分からないし、煙の効果範囲も不明だが、煙が巻かれている部分なら何処からでも飛び出てくるので、コレは確かに相当厄介な力だ。
グラトニーの能力は“空気を取り込み性質を与えて放出する”力であり、協力と言えば強力なのだが撃ち放たねばならないので近距離には能力で対応できず、それと比べれば中・近距離に対応でき威力も高いサーストの能力は断然使い勝手がいい。
しかし、それでもまだ不明な点があり、ラースはその訝しさに頭を悩ませている。
(『ただ煙から剣ヘ、剣から煙へ変えてんナラ、さっきから漂ってやがる変な臭いは発生しない筈ダゼ……一体何なんだよこの不快感ハヨ』)
サーストが何かを斬る度に漂う不快感を煽ってくる臭いだ。
しかもそれだけでは無く、開始早々グラトニーを左右から襲った『謎の圧力』の正体も依然つかめていないのだ。
勿論の事ながらサーストが律儀に考える時間を与えてくれる訳も無く、接近すると同時に右腕の刃を横一閃、躱したグラトニーへすかさず左蹴りを喰らわせ、それを彼女の左腕で受け止められたと見るや刃を三つに増やして振り下ろす。
グラトニーは足元で空気を爆発させて体勢を崩させ、“風刃松濤”で攻撃しながら上昇。
後ろへ下がりながら軽く飛びあがって煙り方刃を生成し振り上げてくる攻撃に、グラトニーはもう一度高威力の“風砲暴”を放って攻撃と距離稼ぎをいっぺんに行った。
着地しても息を整える間もなく地面を力強く蹴って、横部からの空気射出でジグザグに移動する。それに対してサーストは、出鱈目に斬撃を幾つも繰り出して来た。
余裕でそれを避け何度でもとサーストへと近づいて行くグラトニー。しかし、突如ラースが叫ぶ。
『相棒飛ベ!! そのまま行クナ!』
「う、あっ!」
計画性の無い斬撃で気を引いている間に放ったか、後ろに存在していた煙から二本の刃がスライスせんとグラトニーへ襲いかかる。
体を捻って無理やり飛び、空気発射で更に回転を加えながら離れるでなく、逆に距離を詰める。待っていたかサーストの振り下ろして来た剣を、紙一重で避けてグラトニーは拳を構えた。
しかし、ジェット噴射により拳を叩きつけようとした寸前。
「ぐはっ!?」
『またかどうなってンダ!?』
再び襲ってきた左右からの衝撃に挟まれて、グラトニーの体は傾きあらぬ方向へすっ飛んで行ってしまう。
そこを狙っていたらしいサーストは剣の切っ先をグラトニーへ向け、三度剣の輪郭がぼやけ塵状に変って消え失せる。
刹那……ロケットの様に煙を後方へ噴出させながら、目視困難な速度で剣が伸びてきた。
「ぐぁああっ!?」
『相棒っ!!』
「真剣、剣技、技名……付けるとするなら《LIQUEFY》か」
余りのスピードにグラトニーは成すすべなく右肩を大きく抉られ、抜けても威力は死なず勢いよく吹き飛ばされる。
右肩から血を流し立ち上がるグラトニーへ向けサーストが放った言葉は……意外にも賛辞だった。
「中々だ……驚愕、驚き、予想外、頭を狙ったんだが外れたか」
「死にたくないし、だから外した」
『……ヒュウ……ヒヤッとしたぜ相棒、やるじゃねェカ』
一歩間違えれば本当に頭に穴が開いていたであろう事は、グラトニーを抉り貫くだけにとどまらず背後でいくつも穴の開けれら倒れる木々が物語っている。
グラトニーの判断が少しでも遅れ、彼女の防御力が後少しでも低かったら……どちらかが足りなくても、肩を抉られるだけでは済まなかった筈だ。
だが、状況自体は最悪のまま、何一つ改善されていない。
『どうすんだ相棒……このままじゃあジリビンってやつダゼ。奴サン、こっちと闘うのも目的みてぇダシ、このまま逃がしてはくれねェゾ』
「……だよ、ね」
相手の闘気も殺気も未だ収まらず、その様相は渇きを癒すものを求めているかにも見える。例え背を向けて彼から逃げるとしても、容易に逃がしてはくれないだろう。
グラトニーは依然として放たれてくる刃を避けながら、声を落としてラースへ話し掛けた。
「……―――――だよ、賭けに出てみる」
「オイオイ、新しいの試しもせズカ……ダガ、それしかネェ! やってミロ!!」
「ん!!」
何かを決意したらしいグラトニーはヒット&ヒットだった先程から一転、真逆のウェイ&ウェイに切り替えて斬撃を尽く避け続ける。
右に左に脚力で地を爆ぜ飛ばさせ、空中では空気を利用し高速移動。避ける動作それ一点のみに集中し、徐々に徐々に、段々とサーストへ近づいてく。
そして一瞬動きが止まったかと思うと、グラトニーは無言で幾つもの“風刃松濤”を狙いを定めずにやたらめったら撃ち放った。
「ぐ……」
切り取られた地面をたたき落としながら、塞がれた視界の中でサーストは何をする気かと思考を巡らせる。
すると、風の弾丸と“風刃松濤”が再び放たれ、それと同時にグラトニーは勢いよく突貫してきた。
鋭角な軌道でそれら飛び道具を叩き落として、幾つか掠るのにも構わずグラトニーへ狙いを定めるも……彼女は突貫してきたのが嘘の様にまた一定の距離を保つべく離れている。
(嫌疑、疑問、問題……何を狙っている……?)
埒が明かないと見たか、煙を広範囲に放ちそこかしこから連続で刺突を開始する。回避に徹した物を仕留めるのはやはり難しいか、グラトニーは更に戦闘の中で会得したらしい体を這うように風を放出させる技で、次々と攻撃をやり過ごしていく。
隙を突いて接近するのを諦めたか、サーストは刃を伸ばして袈裟掛けに大きく振り降ろす。グラトニーはそれを―――――何と左腕で受け止め、傷がつくのも構わず突っ込んできた。
「っ!」
思いもよらぬ行動を取られて流石にサーストも驚く。
一方グラトニーの方は、痛みで顔を歪めるどころか、寧ろ笑っていた。何故笑っているのか……それは、剣の謎が解けたからである。
良く見ると、グラトニーの手には分かりずらいが透明な液体が掛かっているのが見える。それは何かに引っ張られ、背後へとすっ飛んで行った。
また、彼女の手は切り傷のほかにもう一つ傷を負っている……それは、酸を浴び溶けたかのような傷である。
『成る程ナァ……アイツの剣は斬ってもいるが、それより強く溶かしてもイル―――即ち剣が煙へ変わってんじゃあネェ! 融解性の煙が凝固して剣になってたって訳カ!! そうなりゃ万力擬きの仕組みも分かルナ!』
「空気溶かして、接着してた」
『その通リ! 液体と言えど属性力に加えその勢いがすげえカラ、あんな威力を持ってたって訳ダ!』
彼の攻撃のカラクリは、単純に考えて分かる話ではないが、しかし分かってしまえば案外簡単なものであった。
サーストは一旦距離を取るため離れ、再度煙から作られた剣を構える。
「―――《LIQUEFY》!」
技名を言い終わるよりも早く、そして大気を溶かしより速く、空間をも貫かんばかりに突きだされる剣に対し……グラトニーはまたも突っ込んで行く。
避ける事前提だった為に直撃はしなかったが避け切れる一撃では無い。が、グラトニーは躊躇いなく右肩を掠らせて、その威力から猛回転し始めた。
『今だ相棒!!!』
「っ! らぁあああ!!」
ラースが叫んだのを合図に体を傾けて、グラトニーは右足に取り込んだ空気を爆発させて今出せる全速力を叩きだす。
その速度たるや初見時の“リクエファイ”に匹敵せんばかりで、サーストは剣を無散させても間に合わない事を悟った。
しかし……今接近したとしても、彼女が行えるのは空気を放出させて勢いを付けた左拳を叩き込む事だけ。
なのにグラトニーは左腕を下げたまま、開きっぱなしになっていた吸気口からすら何も出さず、ただただ懐へ突っ込んでくるのみ。
だが、あと数センチまで肉薄し、サーストが剣を右から振り上げようとした、正にその瞬間。
「“風砲……」
「何!?」
彼女が口にしたのは、二度も叩き付けて成果が余りない“風砲暴”。
意外な選択肢にサーストは驚愕し、僅かに開いた間隙を狙ってグラトニーが発動させた次の瞬間、更に驚愕すべき事が起こる。
「“暴”アアァァァァアアッ!!」
突貫してきた勢いと回転している勢い、そして左掌底を打ち込むべく突きだす速度が合わさった所為か、何と“風砲暴”をグラトニーの左腕が纏ったのだ。
『今ダ! 俺の力を上乗せするぜぇエッ!!』
同時にラースが自身の力を掛け合わせ、ただ破壊の嵐を纏っていただけだったのが、徐々に巨大な怪物の爪へと変化していく。
この瞬間まで使わず左腕へ溜めに溜めた暴風が一点に凝縮され、グラトニーの腕力を合わせて……サーストへと思いっきり叩き込まれた。
「ル、アアアァァァッ!!!」
「グオオ、オオオッ!?」
予想以上の痛みに何事かと戸惑うサーストは……嵐に包まれ見えづらい視界の中、その打ち込まれた部位が、他の部分よりも傷ついている事に気が付いた。
恐らく最初の近距離攻撃は、出鱈目なようでいて実は一点に集中して攻撃していたのだろう。そして二度放たれた“風砲暴”と幾つか掠った風の飛び道具により罅が入り―――尋常ならざる攻撃により今決壊したのだ。
(大きな実力差がある中で……関心、震撼……正に見事……!!)
圧縮された破砕と断裂の大嵐は解き放たれ、今度こそ完璧にサーストを飲みこんで、地面を木々の根っこごと抉りブッ飛ばした。
「はぁ……はぁ……ぅ……」
『良くやったぜ相棒!! 俺の力の上乗せありで傷口へぶち込んでやったンダ! 利かない訳ないダロ!!』
「うん、手応えは、あったよ……」
最早辺りは元の姿を残してはいない。
大規模で抉られ、溶かし斬られ、木々は見渡せる気限りではほぼ全滅。仕方がなかったとはいえ、自然破壊も甚だしかった。
疲れたと溜息を吐き、ポスンと女の子座りでヘタリ込むグラトニーへ、ラースは嬉しそうにコ上をかけ続ける。
「もうダメ……お腹すき過ぎて、体痛くて……動くの億劫……」
『俺まで疲れが伝わってきそうなぐらいダナ、相棒。……今日はマジに何も食べれないかモナ』
「……うぅ、残念……」
大仰に手を広げるも、どちらかと言うとパタリと言った効果音の方が似合いそうな感じで、グラトニーは座っていられず倒れ込んだ。
『それジャ、奴さんが起き上がらねえ内にワープすルカ……お疲れさんダゼ、相―――』
「尚早、早計、油断……まだ決めるには早いんじゃないか?」
「ッ!?」
『イッ!?』
聞こえてきた声に振り向くと……そこには見た目ボロボロではあるが、まだ普通にしっかりと立っている、ガスマスクの男―――――サーストの姿があった。
「中々に利いた。左腕がボロボロなのを見るに、捨身、苦肉、最終の策だったか」
「う、あぁ……」
『こんなろウガ……マジで俺の全盛期に近いぜコイツ……!』
弄んでいるのだろうか、徐々に歩いてくるサーストへ、もう本当に何も出来ないグラトニーは、歯の根がかみ合わずガタガタと震える事しかできない。
「あ、ぁ、ぁ……く、るなぁ……!?」
「……」
「ひ……ぅ」
これまでのダメージに加え迫る死の恐怖に耐えきれず、グラトニーはとうとう気絶してしまった。
「……」
『相棒! 相棒! 動ケ! 早く逃げねェト! ……相棒!!』
「……? 誰だ?」
『ハ? ア、そうか相棒が気絶したカラ……!』
実は、瀧馬の時なら精神を飛ばす開いてを選んで会話をする事が出来るのだが、グラトニーの時は戦闘面に力を回している所為で、現時点ではグラトニー以外と話が出来ない。
しかし例外もあり、ソレの内一つが今の状況の様に、グラトニーが気絶してしまった時だ。
『オイ! 相棒を殺す気カ!? 俺達“単純感情種”のエレメリアン同士じゃ碌な栄養にもならネェシ、何よりクソ不味いだろウガ!!』
「これはまた 数奇、奇怪、怪奇……中にもう一人いるのか」
『そうダヨ! さっきも言ったがメリットがねぇダロ! 見逃してくレヨ!!』
「……さっき不味いだの、碌な力にもならないとは言ったが…………だからと言って見逃す理由にもならないだろうが」
『グッ……』
ワープを行うにはグラトニーが起きていなければならず、ラースが力を再び貸しても本体が動いていないので意味が無い……万事休すである。
しかし、運はまだ二人を見放してはいなかった。
「……丁度いい、まだ早いが、お前には教えておこう」
『……ハイ? ……イヤ、何言ってンノ、お前……?』
サーストは恐ろしげに睨みつける表情から一転して無表情にも近い物と変わり、いきなり意味の分からない言葉を口にした。
当然、本当に意味が分からないラースは、察する事も出来ずにキョトンとするばかり。
そんなラースには構わず、サーストは話を続ける。
「俺がこの世界に来た理由だ……実際は、食料を得るために来た訳じゃない」
『何!? じゃあ何故ニ……!?』
「力を感じたからだ、同類、類似 しかし相異……俺と“同じ” そしてとても強力な、エレメリアンの力をな」
『イヤ理由になってねェヨ! 何でお前は立ちはだかったンダッテノ!!』
ラースの強い口調での問いかけに、サーストは憑き物が落ちた様な声で坦々と答えた。
「一つは渇きを癒すためだ……俺は強くなり過ぎた。そんな俺に……手加減でも最後まで折れずに立ち向かって、傷を入れてくれたのはコイツが初めてでな……つまり個人的な事だ」
『ガチで個人的な事じゃねェカ!? そんなんで殺され掛けちゃたまんねェヨ!!』
「しかし……俺が感じたのはもっと強い力だった筈、そして彼女の内なる力と実力がかみ合わない……そう思ってもいたが……謎、不思議、不可思議……それらも解けた。正体はお前か」
『……ア~、やってきたのは俺の所為カヨ』
こんな闘いに発展した理由の根っこが自分だと分かり、ラースはグラトニーへ対して強い罪悪感がわいた。
犬に憑依せずフラフラしなければ、こんな事にはなっていなかったのだから。
『デ、一つとか言ってタガもう一つあんノカ?』
「ある。それは―――」
先程までと変わって真剣な表情を形作り、サーストが重苦しい口調で口にした言葉に……
『そいツハ……そいつは知ってルゼ……』
「予想、想像、思考済み……考えてはいたが本当にそうなら話は早い。来たるべき時がきたら、強力してくれないか?」
『それは出来ない相談ダナ』
「何故だ?」
『そいつハヨ……俺が力を求めた理由そのモノ、俺が倒すと定めた奴なんダヨ……!!』
ラースはその名前を表すかのような、強い憤怒を湛えて答えた。
後書き
今回はここで終わりです。
次回はこの続きと、ツインテイルズ視点での話となる予定です。
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