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ソードアート・オンライン ~呪われた魔剣~

作者:白崎黒絵
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神風と流星
Chapter1:始まりの風
  Data.12 騎士の遺言

「ルリくんお願い!」

「あいよっ!」

 シズクの声に応えて《シングル・シュート》を放ちつつ、俺は全体を俯瞰する。

「スイッチ!」

「はあッ!」

 まず一番最初に確認したのは、パーティメンバーであるキリトとアスナ。あの二人はキリトが《ルインコボルド・センチネル》の槍斧(ハルバード)を弾き、凄まじい正確さと速さを持つアスナの突きで仕留めるという戦法で順調に敵を屠っていた。

 次にキバオウが率いるE隊もまた、順調に護衛兵(センチネル)を倒していってる。もっとも、本人たちは俺達より倒した数が少ないのでイラついているだろうが。

 最後にディアベル率いるC隊を中心としたボスへのアタッカー&タンク。あちらもあちらで安全かつ確実にボスのHPを削っているようだ。かといって気を抜いている者がいるわけでもないので、恐らく心配はないだろう。

 で、肝心の俺たちはというと――――

「あっははははははははははははははははは!!!!!!!!!!!!!」

「シズクさんマジパねえッス……」

 ――――笑顔で敵に突っ込んでいく変人(シズク)が超絶剣技で殺戮っている。

 道化龍と戦った時もそうだったが、こいつは命を賭けた戦闘時ほどよく笑う。凄惨で獰猛で美麗な笑みを携えて、風のような速さで敵に特攻して殲滅するのだ。

 はっきり言って、傍から見ると不気味以外の何物でもないだろう。俺はむしろ綺麗だとさえ思うが。

 そして俺はそんなシズクの求めに応じて敵を牽制、もしくはトドメを刺す役割だ。あんまり出番ないからキリト達を手伝ったりしてる方が多いけど。

 しばらくはそんな感じで戦っていたが、状況に変化が起きた。

「ウグルゥオオオオオオオオオオオオオオ――――!」

 どうやらフロアボス《イルファング・ザ・コボルトロード》のHPバーが最後の四段目に突入したようだ。ここからはボスの攻撃手段が斧から湾刀に切り替わる。

 案の定、コボルド王は右手に持っていた斧と左手に持っていた盾を投げ捨て、懐から長い湾刀を引き抜いて――――

「?」

 いや、何かが違う。俺の記憶にある湾刀とは微細ながらもどこかが――――

「ルリくん、トドメ!」

「……っ!」

 シズクの声が届き、考えるより先に手が動き、投げたナイフが護衛兵の喉元を貫く。

「ぐっじょぶ!」

「お前もな……」

 ニコニコ笑顔で労うシズクに言葉を返しながら、俺は先程の違和感について思考を巡らせていた。

 先程見たあれは、湾刀より細く、輝いている気がする。そう、まるで遥か上の十層で見たカタナのような――――

 普段なら馬鹿馬鹿しいと笑い飛ばす思考。だが、この時に限っては何故かこの想像が正しいような気がした。

「あ……ああ…………!!」

 そしてこのキリトの引き攣った声が、俺に想像を事実と完全に認識させた。

 鏡写しの人形か、はたまた双子のように。

 俺とキリトの声がシンクロする。

「「だ……ダメだ、下がれッ!!全力で後ろに跳べ――――ッ!!!」」

 声と同時に、コボルト王が垂直に跳ぶ。空中で体を限界まで捻り、武器に力を溜める。そして落下すると同時に、蓄積された力が深紅の輝きに変わり一刃の円となる。

 軌道、水平。攻撃角度、360℃。

 《カタナ》専用ソードスキル、重範囲攻撃技《旋車(ツムジグルマ)》。

 六ヶ所で上がった鮮やかな赤色のダメージエフェクトは、血柱のようだった。

 視界左に表示されるC隊の平均HPが半分を切ってイエローに突入する。個々のHPを確認する方法もあるが、そんなことをしなくても全員同じくらいのダメージを喰らっているのは火を見るより明らかだ。

 範囲攻撃の分際でHPを半分以上持っていく威力も最悪だが、不幸はこれだけでは留まらない。

 床に倒れこんだ六人頭上を、回転するおぼろげな光が取り巻いている。

 一時的な行動不能状態――――スタンだ。

 SAOに存在するバッドステータスの中ではそれほど恐ろしいものではないが、発動が即時なのと回復手段がないことが厄介で、それは今この時において最凶最悪な効果を発揮する。

 本来なら誰かがすぐにでも援護に向かわなければならないが、誰一人として動けるものはいない。突然のことに、誰もが硬直している。

 その間にコボルド王は長めの技後硬直から解放される。

「追撃が……!」

 そこでようやく我に帰ったらしいキリトの声で、俺の硬直も解ける。同時に、前線の方でもエギル率いるA隊が援護に入ろうとした。

 だがその一連の動きは、あまりにも遅すぎた。

「ウグルオッ!!!」

 コボルド王が吼え、両手に握った野太刀を床スレスレの高度から斬り上げる。《カタナ》スキルの《浮舟(ウキフネ)》。そのターゲットとなったのは正面にいた騎士(ナイト)ディアベルだった。薄赤い光の円弧に引っ掛けられたように、銀色の金属鎧を着た体が宙に浮く。ダメージはさほどではないが、この技の真価はダメージに非ず。

 狼にも似た巨大な口が、ニヤリと獰猛に笑った。

 野太刀の刀身を、再び赤いライトエフェクトが包む。《浮舟》はスキルコンボの開始技で、あれを喰らったら迎撃ではなく体を丸めての防御態勢に入らなくてはならない。しかし、初見ではそんな反応が出来るわけもない。

 ディアベルは空中で剣をかざし、ソードスキルによる迎撃を狙ったようだが、空中で行われた不安定なそれをシステムは開始モーションと認めず、剣をかざして体を伸ばしていたの騎士に巨大な野太刀が正面から襲い掛かる。

 圧倒的な速さの上下の連撃。そこから一拍溜めての突き。《カタナ》スキル三連撃技《緋扇》。

 騎士ディアベルの身体を包んだ三連続のダメージエフェクトは、その強烈な色彩と衝撃音で全撃クリティカルヒットだったことを伝える。ディアベルの体は凄まじい勢いで吹き飛ばされ、パーティメンバーの頭上を越えて、最後方で護衛兵の相手をしていた俺たち――――正確に言うとキリトの足元に突き刺さるような形で落下した。そのHPは既にレッドゾーンに突入し、左端に向けて急速に減少している。

 キリトは目の前にいた護衛兵の槍斧を力任せに叩き折り、ディアベルへと駆け寄る。俺も後を追うように足を踏み出しかけたが、護衛兵が間に割って入ったため諦める。

 すかさずシズクとスイッチして二人掛かりで攻撃するが、瞬殺とまではいかず、ようやく倒し終えた俺の目の前にいたのは、死にかけのディアベルとしゃがみこむキリトだった。

 そこで俺はディアベルに既視感を覚えた。約四か月ほど前のβテスト期間中、姿形も名前すら違うこいつに、俺は会ったことがあるような――――

 俺の視線に気づいたのか、その青い双眸にキリトと俺の両方を写し、純粋な光――――覚悟を宿した瞳でディアベルは俺たち言った。

「……後は頼む、キリトさん、ルリさん。ボスを、倒」

 その言葉を、最後まで言い終えることなく。

 アインクラッド最初のボス攻略指揮官、騎士ディアベルは。

 光の欠片となり、虚空に溶けて消えた。 
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