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IS インフィニット・ストラトス~普通と平和を目指した果てに…………~

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number-21




束と鈴音が医務室からアリーナに移動して直ぐ、楯無に見つかった。


「ようやく見つけましたっ……! もう、勝手に移動されては困ります。篠ノ之博士」
「ははは、ごめん、ごめん。ちょっとこの子に用があってね」


そう言って、束は鈴音を楯無に紹介する。
鈴音から見れば、楯無とは初対面でよく知りもしないのだが、楯無からして見れば、生徒会長であるがゆえにある程度の個人情報まで知っている。中国という、少し日本との仲が険悪な国でそこの代表候補生なのだから日本に対して色々とやってくれているものだという先入観を持ってしまっていた楯無。
だが、実際に会ってみるとそんなことは出来そうもない勝気で真っ直ぐな少女。所属やデータだけで決めつけてしまっていたことに自分はまだ未熟であることを認識させられる。
自分のそんなところを痛感させられると同時にそんなことは表にも出さず、いつも通りに鈴音と挨拶を交わす。


束はそんな二人を尻目にアリーナへ目を向ける。だが、そこには御目当ての少年はおらず、別の少年がオレンジ色の機体と協力して相手を翻弄していた。
胸くそ悪いものを見たと言わんばかりに顔をしかめると、アリーナから楯無に視線を移した。


「ねえ、れんくんの試合は?」
「圧勝でしたよ。相手も代表候補生と決して弱くはないんですけど、所詮その程度ってレベルでしたね」
「なあーんだ、もう終わっちゃったのか。つまんないの」


束は興味ないと言わんばかりにアリーナに背を向けるように手すりに腰掛ける。
その隣で鈴音は、若干生気の宿らない眼で一夏を見ていた。再び自問自答を繰り返す。
鈴音自身、どうしてあんな奴が好きだったのか分からない。昔の自分が馬鹿だったのか、それとも昔のあいつが格好良かったのか。答えは前者だと決める。あんな奴に思いを馳せていた自分が馬鹿みたいだ。いや、馬鹿だった。ありもしない幻影を追いかけて来ていたのだ。やるせなさを感じる。
それでもあいつに感謝していることだってある。こうして束と出会うことが出来た。あいつの影を追いかけて来なければ、束には会わなかった。こうした出会いは大切にする鈴音。だから、当時の自分は出会いの鮮烈だった一夏に惚れてしまったのかもしれない。所謂吊り橋効果ってやつなのか。


アリーナでは丁度一夏のペアが勝ちを収めていた。しかし、それは少なくともここにいる三人の目には入っていない。世界各国が注目する中、束、楯無、鈴音の三人は別の男子に気持ちを寄せる。
彼の出番は、まだ先である。束は胸の高鳴りを抑えられなく。楯無は、強くなっていることにときめき。鈴音は若干の疑いと期待を。
手首に見つけている甲龍の待機形態であるブレスレットが日差しに照らされて光る。――――トーナメントはまだ始まったばかりである。


      ◯


選手控室で蓮とラウラは次の相手となる一夏とシャルルの対策を練っていた。どんな相手にも驕らず、自分が出せる限りの全力を持って相手を倒していくのが彼らのセオリーである。たとえ相手が初心者であれそのスタイルは貫き通す。


「次の相手はなかなか苦戦しそうだな」
「ああ、織斑はあの単一能力(ワンオフ・アビリティー)にさえ気を付けていれば後に回しても問題ないが、デュノアのあの万能性は何とかしないといけないな」
「それに、今回は私が前衛で、兄上が後衛という縛りもあるから厳しくはある」


二人の間で交わした縛り。それは亡国機業でタッグ戦をするときは恒例のルールである。前と後ろをはっきり分けるのだ。前衛ならば、射撃兵装を持たず近接オンリー。後衛ならば、中、遠距離兵装のみといった具合だ。
本来であれば、一試合ごとに入れ替えも可能なのだが、このトーナメントでは武装の積み替えが不可能と来ているから、固定するしかない。それはそれで適応外の距離からの攻撃の対策をどうするかという訓練が出来たりする。


控室のモニターには一回戦最終試合が映し出されている。この試合が終わり、少しの休憩を挿んでからすぐに二回戦が行われる。作戦ミーティングの時間はそれほど残っていなかったりする。だが、まだ作戦は決まらない。
シャルルをどちらが相手するかで困っているのだ。ラウラが向かうと、レールカノンも積んでいない今、接近して攻撃させてくれるとは考えにくい。かといって蓮を向かわせると、近接を積んでいないことに気付いて、向こうの方から近接戦闘を仕掛けてくるかもしれない。どちらが向かっても不利な状況に立たされるのは目に見えている。
ここは経験から蓮に任せることにした。


作戦の方向性が決まり、内容を詰めて終わって二人がモニターに目を向けると前の試合はすでに決着がついていた。顔を見合わせて頷き合うと控室を出て行く。
二人が出て行って誰もいなくなった控室にはモニターがつけっぱなしでその中で実況者が既に次の対戦カードを読み上げていた。


      ◯


一夏は実際に蓮と向き合ってみて明らかな差があることを実感していた。まず一対一では勝ち目はない。あの水色の髪の人と惜しくも負けた実力は本物だった。彼はどこかで舐めていたのかもしれない。対して蓮はいつも通りの自然体だ。負ける可能性もあるが、今回はラウラもいる。何事もなく試合が進めば勝つが、何が起こるか分からないのが試合である。決して油断はしない。
シャルルはラウラから受けるプレッシャーを感じで手に汗をかき始めていた。これが軍属かと。これが一企業のテストパイロットと軍属のその道のパイロットの差なのかと。だが、そんな状況でも諦めるようなことはしなかった。むしろ、わくわくしている。自分たちは挑戦者(チャレンジャー)だと決め、一学年において絶対的な王者たちに立ち向かうこのシチュエーションが溜まらなかった。


間もなく対戦開始である。お互いのペアは秘匿回線で最終確認を行っている。だが、いくら作戦を立てたってその通りに行かないことだってある。この試合は、タッグというよりは個人の判断力で勝敗が決まるかもしれない。そんな戦いである。
管制室でそんなことを肌で感じ取っている教師たち。
前回のクラス代表戦の時のように乱入されて中止なんて状況を起こさないために監視システムを大幅に強化している。いざという時には、教師部隊も動けるようにしている。監視モニターなどに目を光らせながら千冬と真耶の二人は、試合開始の合図でもあるブザーのゴーサインを待っていた。


「織斑先生はどちらが勝つと思いですか?」
「……実力通りに行けば御袰衣・ボーデヴィッヒペアだが、何かが起こればあの二人にも勝ち目はある」
「そうですよね、私もそう思います。でも、どっちにも頑張ってもらいたいですね」
「ああ」


流すように返事を返す千冬に促されてモニターに目を向けるとすでにカウントダウンが始まっていた。真耶はどこか抜けていた気持ちを入れ直すとゼロのコールと共にブザーを鳴らした。


鳴らされたブザーとともに動き始める両ペア。先に仕掛けたのは一瞬にして後ろに下がって支援体制を整えた蓮だった。
目の前の空間にミサイルポットを複数展開すると誤爆を防ぐために時間をずらしてどんどんミサイルを撃っていく。その数およそ百以上。一夏たちの視界があっという間にミサイルで覆われた。あまりにもいきなりのことで頭が真っ白になってパニックになる一夏だったが、シャルルがそれを冷静に対処。すぐにショットガンをコールし、一発放ってすべてを誘爆させる。
それを見た一夏は、一つ深呼吸を入れて気持ちを落ち着かせる。そして自分の相手であるラウラを探す。


「遅いな」


しかし、既に一夏の後ろに回り込んでいていたラウラの攻撃をもろに喰らってしまう。もう一撃とラウラは欲張るが、シャルルの牽制が入り距離を取らざるをえなくなる。ここでようやく一夏は、何故ラウラがプラズマブレードよりもロッドを使っているのかが分かった。
剣だと相手に伝わる衝撃はわずかである。だが、ロッドを使うと相手に強く衝撃が伝わっていく。ISには、絶対防御やシールドエネルギーなどといった操縦者を守るためのシステムがいくつか積まれているが、衝撃までは緩和できない。
もしその衝撃で脳震盪なり起こしたら、もう死んだも同然。


一夏は揺れる頭を何とか直して瞬時加速(イグニッション・ブースト)を用いて一気にラウラに接近していく。すれ違いざまに一閃と思ったが、接近に気付いたラウラが両手に持っているロッドを交差させて受け止めた。一夏の零落白夜は、エネルギーは切れるが物体は切れない。ガキィンと音を上げてぶつかり、鬩ぎ合う。


「……ふっ。こんなものか」
「……何だとっ」


あっさり受け止められたことに一夏は悔しさを顔に出す。さらに煽られて一夏は目の前の敵を倒すことで頭がいっぱいになってしまう。それでもどこか冷静な自分もいたことに自分で驚く。
ラウラはこの鬩ぎ合っている状況を打破するために力押しで一夏を弾き飛ばした。すぐにバランスを立て直す一夏。何回か手を握ったり開いたりして程よくちからが入っていることを確認すると再びラウラに向かっていく。


蓮とシャルルは膠着状態に陥っていた。蓮が近接兵装を搭載していないのか分からないが、使ってこないことに気付いたシャルルは接近戦を仕掛けようとするが、彼が弾幕を張ったり、距離を取られたりでなかなか近づけないでいた。
千日手の状態に普段穏やかなシャルルでさえ苛立ちを抑えきれないでいた。しかも相手はアサルトライフルしか使っていない。どう考えてもバカにされてるとしか思えなかった。


(だったらっ……!)


シャルルは近づく事を止めて遠くからスナイパーライフルで狙撃し始める。最初の数発がうまい具合に命中してくれたが、あとは蓮の巧みな操縦で全て躱されていた。
だが、蓮でもこの状況に焦りを感じていたことは確かである。時間稼ぎさえできれば、ラウラが一夏を倒してきてくれるが、ちらっとあの二人を見るとかなり激しくぶつかり合っているが、ほとんどエネルギーは減っていない。まだまだ時間が掛かりそうだった。


確認するためにシャルルから視線を外すという初歩的なミスを犯してしまった蓮。当然その隙を逃さずにグレネードを連射してくる。そのうちの一つが目の前に現れよけきれず激突。この試合で二回目のクリーンヒットになった。だが、まだ墜ちたわけじゃない。


吹き飛ばされている最中に態勢を整えるのと同時に非固定浮遊部位に装備してある超電磁砲のチャージを始める。閉じられていた砲身が開き、その間に強力なエネルギーを集め始める。チャージの時間を稼ぐためにスモークグレネードをシャルルに向かって投げる。
蓮の動きに全神経を尖らせていたシャルルは、蓮の投げたスモークグレネードをライフルで撃ち抜く。


『ラウラ、あと一秒後アリーナをスモークが覆う。――――けりつけるぞ』
『了解』


瞬間的に通信すると二人は一気に相手から距離を取る。一夏は気付かずに追撃を掛けようと追うが、いきなり視界を白い煙が覆う。
一夏はハイパーセンサーで位置を確認しようとするが、センサーにノイズが入っているようでうまく作用しない。今まで経験したことの無いことに焦りを隠せない。それでも辺りに対する警戒は忘れなかった。頭ではなく体で動いたということである。これが正解だったのかどうかは次の瞬間に分かることだった。


白い煙がアリーナを覆っているうちには誰も攻撃を仕掛けなかった。不気味なほど静かな空間が続いていたが、煙が晴れると一夏とシャルルは息を呑んだ。


「な、何あれっ……!!」
「……くそっ。どうすれば」


蓮がチャージしていた超電磁砲は、蓮の前で一つになり、肉眼で見れるほどの紫電を迸らせて球体を形作っていた。


発射(ファイヤ)


蓮が放った電磁砲は一夏に命中した。もともとラウラに削られて半分だったエネルギーが一撃で削られて一夏は戦闘を続けることが出来なくなり、落ちた。これで二対一。これで明らかに戦局が蓮とラウラに傾いた。――――筈だった。


――ズドオオオォォォォォォォオオオオオ!!!!!!!!!


「――――あああああぁぁぁぁぁああああ!!!!!!」


轟音と共に響き渡るラウラの悲鳴。アリーナにいる誰もが何が起こったのか理解できなかった。分かることは正体不明の攻撃にラウラが襲われているということだけだ。
攻撃が止み、ラウラの機体が黒煙を上げて地面におりていく。攻撃がされた方向はアリーナ外の上空だった。その証拠にアリーナを覆うエネルギーシールドには大きな穴が開いている。蓮がその穴を睨みつけていると何かが三機、アリーナに侵入してきた。


『御袰衣蓮。私たちはあなたとは違う道を歩む。――――亡国機業第一席、御袰衣蓮。及び第二席、篠ノ之束。私たち亡国機業第三席スコール・ミューゼル。以下、幹部数名。全傘下。今日を持ってあなたたちを追放し、新生亡国機業としていくわ』


その足元ではラウラの黒い機体から黒い流動状のものが溢れ出てラウラを完全に覆い、ある一つのものを形作った。それは、かつて世界最強としてISの先端を行った女性の姿だった。


「VTシステム……。貴様ら、上の奴らはどうした!?」
「全員殺してあげたわ。……こんな与太話に付き合う暇はない。御袰衣蓮と篠ノ之束の二人を殺せば、私の悲願は成就する。準備はいいかしら?」
「全員殺しただと…………その中には織斑姉弟の両親もいたんだぞっ……。束」
「分かってる、いこうれんくん。潰すよ、全員」
「ああ。デュノア、そこのバカ連れて離れてろ」
「えっ!? う、うん!」


ここに天災と鬼才が並び立つ。


 
 

 
後書き


話の都合上セシリア戦は泣く泣くカット。ちゃんと入れたかったです。個人的にセシリアは嫌いじゃないので。
それと遅れてすいません。不定期でろくに更新もしませんが、見ていただけるとありがたいです。


 
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