エクシリアmore -過ちを犯したからこそ足掻くRPG-
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第十一話 鶴声(前)
前書き
※タイトルは「鶴声」と読みます
/Victor
シャールの屋敷を出て、風車がある石通りへ出た所で、悠々と涼んでいたアルヴィンを発見。
「よっ」
「傭兵! 貴様、抜け抜けと」
アルヴィンに食ってかかったイバルを、括った灰毛を掴んで止める。後ろで悶えて、フェイリオがオロオロしているが無視だ。
「何故私たちをクレインに売った?」
「売ったなんて人聞きの悪い。シャール卿が現政権に不満を持ってるってのは有名だからな。情報を得るには、うってつけだ。交換でこっちの情報を出しただけ。いい情報聞けたろ?」
クレインが軍に通報しようが見逃そうが、私とフェイリオの力なら脱走は簡単だ。それを踏まえて、彼は試した。
我々を売ったアルヴィンを、我々が見離すか、あるいはそれでも信じて迎えに来るか。
図体のでかいガキめ。わざと迷子になって親が探しに来るかを試す幼児と変わらない。意外と頭の悪い「猶予」の使い方だったぞ。
「幼稚な試し方だ。2度目を許すほど自分が幼くないという事実は認識しておけよ」
「ハイハイ。それと、ほれ、これ。返すわ」
アルヴィンが投げた物は、会ったばかりの頃に預けた黄金の懐中時計。キャッチして中身を検める。いじった形跡はないな。ポケットに入れてチェーンをベルトに着け直した。
/Fay
よかった。アル、敵になったんじゃなかったのね。もしホントにそうだったら、フェイ、キモチが爆発して何が起こっちゃうかわかんなかったから、ホントによかった。
『お前ら、手配書にあった指名手配犯か!』
ひゃ! び、びっくりしたぁ。兵隊さんが3人、フェイたちのとこに走って来たとこだった。
「やれやれ。往来で堂々としすぎたかね」
アルってば、そんなユーチョーなこと言ってる場合じゃないよ!
どうしよう。倒しちゃっていいの? それとも大人しく捕まる? ねえ、パパ……
「――南西の風2。いい風ですね」
え? あ、ローエン! どうしてここに。
(この場は、私が)
小さく言ってから、ローエンは兵隊さんに背中を向けて、ふり向きながら何かを空中に投げた。
「おや? 後ろのお二人、陣形が開きすぎていませんか? その位置は、一呼吸で互いをフォローできる間合いではないですよ。そして貴方。貴方はもう少し前ではありませんか? それでは私はともかく、後ろの皆さんを拘束できません」
兵隊さんたちが間を詰めて固まった――直後に、上からナイフが落ちて来て刺さって、三角形の拘束陣を編んだ。
「では、これにて失礼します。――皆さん、こちらへ」
あ、うん。ちょっとポカーンってしちゃってた。ローエンの術、あんまり上手だから。
とにかくみんなでローエンに付いてった。
シャール邸に向かう道の途中で、さっきまでのヨユウがウソみたいに、ローエンはわたしたちをふり返った。
「実は、皆さんにお願いがあるのです」
「お尋ね者のいる一行に? あんまり楽しい話じゃなさそうだな」
ローエンはかなしそうに肯いた。
「先ほどイル・ファンのジランド参謀副長が屋敷に来られ、王命をもって街の民を強制徴用しました」
「……解せんな。カハラ・シャールもラ・シュガルの領地だ。カラハ・シャールが現政権に反抗的であることを除いても、軍のナンバー2が出張ってまで徴兵するものか?」
パパの言ったこと、マルシアのおばちゃんも昔言ってたっけ。政治の交渉でどのポストの人を交渉に出すかはいつも悩むって。
今回のは副長? だから、ナンバー2を出したってことだもんね。
「ヴィクトルさんのおっしゃるように、民の危険を感じた旦那様は、徴集された民を連れ戻しに向かわれました。……しかし、ナハティガルは反抗者を許す男ではない。今日までは旦那様も上手く駆け引きし、王の粛清を掻い潜っておられましたが」
「忍従の歳月を自らパーにしちまったわけか。シャール卿も青いねえ」
ガマン、できなくなっちゃったんだね、クレインさま。
自分の領地の人たちがアンナコトさせられるために連れ去られるなんて、フェイだってユルセナイ。
フェイはイタイの慣れてるから、いい。でも、もし、もしパパたちがその立場になったら、わたし、きっと自分を抑えられない。
ローエンは、ずい、と前に乗り出してきた。
「力を貸していただけませんか? クレイン様をお助けしたいのです」
焦りと不安でいっぱいな、薄い抹茶色の瞳。こんなに、一人の誰かのために一生懸命になるローエン、見たことない。ご主人様がいた頃のローエンって、こんなだったのね。
(パパ)
(ジュードならここでどうすると思う?)
(え? ジュード……ジュードだったら、行く。ゼッタイ行く)
(私もそう考えていた)
え。パパ、今、微笑った?
「分かった。協力させてもらおう」
「ありがとうございます――」
「礼はあなたの主人と住民を無事に連れ帰れてからにしてくれ。――アルヴィンもイバルも構わないな」
二人ともオッケーしてくれた。イバルのほうはぶちぶち言ってるけど、一回イイって言ったんだから最後まで守ってよね。
バーミア峡谷に入ってしばらく行って、気づいた。この気配、イル・ファンにいた時、ラフォートの近くを通ってたまに感じてた気配と同じ。
「こっちにいる」
みんなを抜いて一番に出て、走った。みんな付いて来てくれた。パパも。
辿り着いた気配の源。イヤな感じの元。それはありふれた洞窟の入口からしてた。
中に入ると、精霊術で呪帯が張ってあって、侵入者を拒んでた。
「旦那様!」
ローエンが顔色を変えた。フェイの位置からは見えないけど、いるんだ、中に、クレインさまが。
「同じだな。ラフォート研究所にあった装置と」
パパの言ったことに、どこかで、カチン、とスイッチが入る音がした。
袖を片手で押さえて呪帯に手をかざす。本気で、いく。
「よせ! 手が吹っ飛ぶぞ」
「 と お し て 」
パッ…キィィィィ…ィィィィン…!
呪帯を構成した術式が砕けたのが分かった。よかった。これでみんな通れる、よね。
「よくやった。行くぞ」
「おたくの娘、規格外にも程があんだろ!」
うわ、うわわっ。よくやった、って。パパがフェイの事初めてホメてくれた!
って感動してるヒマないんだった。急いでパパたちを追っかけて洞窟に駆け込む。
――そこにあった光景は、コウケイは、こうけい、は。
マナの奔流。人の生気を吸い上げる機械。ガラスの向こう、おっきなポットの中で呻いてる人たち。出してくれってガラスを叩いて、白目を剥いてひっくり返って、イタイイタイって悲鳴を上げて。
マナが足りない。足りない。
ヨコセ。ヨコセ。ヨコセ。ヨコセ。
オマエのマナをよこせ。霊力野を持っている。オマエだけがワレラの糧を作り出せる。
苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。
死に逝く同胞のイタミを知れ。殺される同胞の無念を知れ。
ワレラと繋がれる霊力野をただ一人持つオマエが贖え。オマエの血肉で、生命で、悲鳴で、苦痛で。
ワレラを生かす義務を果たせ。ワレラを殺した罪を償え。
フェイリオ・メル・マータのココロをスコップで掘り起こした、みたいな、光景。
アンナコト、ヲ、ココノヒトタチ、ニ、シテル、ノ?
「あれか――!」
ダゥン!!
はっとした。アルが天井に据え付けた緑の石を銃で撃ち抜いてた。石が砕け散ってすぐ、マナの竜巻は収まってった。
ぺたん
あ…足、力入んないや。へたり込んでるヒマなんてないのに。早くクレインさまとカラハ・シャールの人たち助けなきゃ、いけない、のに。
「フェイリオさん。大丈夫ですか」
「…ローエン…だめ、だよ、フェイのとこなんか来てちゃ…早くご主人様のとこ行ったげて。早く、解放してあげて。はやく。こんなとこ。おねがい、はやく、はやく」
「フェイさん……分かりました。ありがとうございます」
ローエンはわたしの背中を優しく撫でてから、装置の出入口んとこに走ってった。アルと、パパもローエンを追っかけた。
後書き
「フェアリーテイルの終わり方」をお読みの方はご存じでしょうが、フェイは大精霊から霊力野があるというだけの理由でマナ搾取を受けていました。まだトラウマです。
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