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エクシリアmore -過ちを犯したからこそ足掻くRPG-

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第十二話 鶴声(後)

 あれ? イバルは?

「大丈夫か」
「ひゃうっ」

 ビ、ビックリしたあ。急に声かけないでよもう。って。

「あれ? イバルは行かなくていいの?」
「あのな。腰を抜かして動けない女を一人残していくわけにはいかんだろーがッ」

 わ、わお。イバルってば意外と紳士。サマンガン樹界でフェイなんかよりずーっと色んなことできるって見直したけど、また一つ、見直しちゃった。

 うん。イバルだってこうなんだもん。やっぱへこたれてなんていられない。

「イバル、ちょっと立たせてくれないかな?」

 イバルは変な顔したけど、すぐ両手を貸してくれた。

 掴まって引っ張ってもらって立ち上がって、ローエンと、ローエンが出してあげて支えてるクレインさまのとこへ。

「ローエン。クレインさま、ダイジョウブ?」
「マナを奪われて体調を崩しておられてますが……」
「貸して」

 クレインさまの頭を両手で固定して、おでことおでこを重ねる。やることは精霊の直接使役と同じ。わたしの霊力野(ゲート)からクレインさまの霊力野(ゲート)に直接マナを注ぎ込んだ。奪られたマナはこれで回復するはず。

「……う」
「旦那様!」

 やった! クレインさま、起きた!

 起きようとするクレインさまを空かさずローエンが支えた。

「すまない……忠告を聞かずに突っ走った結果がこれだ」
「ご無事で、ようございました」

 ローエン、ホントにほっとしたんだね。ちょっとウルウルしてるや。

 周りをチェックしてたパパとアルが戻ってきた。

「領民も無事だ。マナを吸われて衰弱してはいるが、死者は一人もいない」
「そう、ですか。よかった……」

 ローエンがクレインさまに肩を貸して立つお手伝い。わたしも逆から支えてあげたほうがいいかな。でも男の人だから、年下の女の子に触られるのイヤがるかも……

「! フェイリオ!」

 え? パパ――きゃあ!

 パパがわたしを突き飛ばした。当然わたしは転ぶ。直後にわたしがいた場所に降りてくる、オーロラの粒子で出来た巨大な蛾。


『きゃああああああ!!』

『うわああ!!』

『えーん! えーん!』

『何だよコイツゥ!?』


 いけない! 連れて来られた人たちがパニックになってる。みんなマナを剥がれて自力じゃ逃げられない人ばっかり。それでも逃げようとしたらニジサイガイになっちゃう!
 ショウギダオシで圧死とか、逃走路確保のためにボーコーとか。アルクノアのテロで、テロそのものよりそっちの被害者のが多かったってテレビでやってた。

「ローエン。剣を貸してくれ。僕が持ってきた剣は取り上げられてしまったから」

 クレインさま?

「旦那様……」

 ローエンは何か言いたげだったけど言わなかった。自分の鞘から抜いたサーベルを、両手で恭しくクレインさまに差し出した。

 クレインさまがサーベルの柄を握って、大きく踏み出した。

 ――やわらかな人が、剣を払い、光る蛾の翅に一閃を入れた。

 空気が変わった。連れて来られた人たちがしんと静まり返る。
 だって、目が。目が惹かれてやまないの。クレインさまから目が逸らせないの。こんなにも凛々しい戦姿。わたしたちみんなを絶対守ってくれるって信じさせてくれる。注目せずにいろってほうが無理よ。

「これ以上、私の民を傷つける事は許さない!」

 みんながクレインさまを見てた。

 このどきどきはナニ? さっきまでキンチョーでドキドキしてたのに、変わった。イヤじゃない。コワくない。全然悲しくないのに泣いちゃいそう。





/Victor

 クレインがサーベルで光る蛾に斬りつけた。

 自ら最前線に立ち、領民を守る剣士領主か。これは確かに人望があるわけだ。
 しかし剣術一つでは、この光る蛾は倒せそうにないな。ここは助太刀してやるのが筋か。見逃してもらった借りもあるしな。

「アルヴィン、援護するぞ」
「あいよっと」

 二人してホルスターから銃を抜く。私が右、アルヴィンは左だ。

 光る蛾の周りを走りながら銃を連射する。総量を減らせば貫通してバラけさせることが可能になる。

「「エアスラスト!!」」

 ローエンとフェイリオが合わせ技で、風の刃を発生させて光る蛾の総体を削り落とす。

「「海龍剣!!」」

 間髪入れず、今度はローエンとイバルによる水の剣閃。

 ここまで来れば今度こそ。

 声をかけるまでもなく、すでにクレインはサーベルを手に光る蛾に突撃していた。

「やあぁぁ――ッ!!」

 サーベルの刀身が光る蛾の中心に深く沈んだ。

「やった!!」

 快哉を上げたのはフェイリオかイバルか、あるいは領民か。――だが早すぎた。サーベルの刀身は光る蛾に半分沈んだ所で止まった。

 まずい。反撃が来る。懐に潜り込んだクレインの後退はどうしても遅れる。

 下がれないなら、進ませるまで。
 双剣を抜いて、剣に風圧を巻き込ませて横に薙ぎ払った。

「そのまま跳べ! クレイン!」

 我ながら無茶なパスだと思ったのに、クレインは意図を正しく理解した上で()()()
 私が放った斬撃をクレインは足裏に受け、推進力にして光る蛾の残る半分を両断した。
 クレインが着地するまでの間を待ったかのように、光る蛾は嘶いて地に堕ちた。

 着地したクレインがサーベルを払った。銀が閃いた。

 わっ、と領民が沸いた。歓声と拍手で洞窟が満ちる。領民の元気さに安心してか、クレインは軽く笑んでいる。

 光る蛾が蛍のような光の粒になって空気に融けては消えていく。


「微精霊だ――」

 すぐ近くまで来たフェイリオが、光の粒に手を伸べる。光はフェイリオの掌の上で踊り、やはり融けて消えていく。フェイリオだけでなく、イバルやローエンもやって来た。

「じゃあ、さっきまで俺たちが戦っていたのは、精霊だったのか……?」
「正確には、人から奪ったマナでココの微精霊がカッセーカ? して、それが集まって、あのカタチになったんだと思う」

 イバルが俯いた。「何てことだ」という呟きが聴こえたのは――私だけのようだな。

「ヴィクトルさん。さっきはありがとうございました。あの援護がなければ勝てなかった」

 クレインがやって来るなり、笑って右手を差し出した。私も右手を出す。握手が成立する。――笑顔で感謝を告げられるなど何年ぶりだろうか。

「俺としちゃ、シャールの若様があそこまで戦えたのに度肝抜かれたぜ」

 アルヴィンが戻って来た。いつまでも握手していてはおかしいので、どちらからともなく手を離した。

「剣の手ほどきはローエンから一通り受けていますから。今回は不覚を取りましたが、次こそは」

 穏やかな表情の中に確かにある、鋭いまなざし。アルヴィンも気づいたのか口笛を吹いた。

「その時はこのローエンもお忘れなく。我が剣の向きは常に主と揃っております」
「ああ。『その時』が来たら頼むよ、ローエン」

 その時、か。実に意味深な会話だ。

「クレインさま、クレインさま」
「フェイリオさん?」
「あのね、さっき戦ってたクレインさま、カッコよくて――王子様みたいだった、よ」
「っ!」

 待て。クレイン、そのリアクションはどういう意味だ? なぜフェイの笑顔にあからさまに顔を赤らめた。
 アルヴィンとローエンも。後ろにいても分かるぞ。何をニヤニヤと笑っているんだ。
 不愉快だ。まったくもって不愉快だ。

「戻るぞ。フェイリオ、可能なら他の民間人も治療してやれ」
「は、はいっ」

 ぱっと離れるフェイリオとクレイン。そうだ。それでいい。

「手伝ってやる。治癒術は使えないんだろう」
「アリガト、イバル。助かる」




 フェイとイバルが出て行ってからは黙々と作業を進めた。洞窟内に残された一般人を介助して外まで出してやる。
 何度目かの往復で、イバルが薬草を煎じて被害者に与えているのが見えた。

「イバル、草採って来た。これで間違いない?」
「ああ…………こっちのは違うな。他は大丈夫だ」

 被害者には外傷はほとんどない。深刻なのは、生気(マナ)の枯渇。治癒術で外から引っ張り出すよりは、薬学や医学に頼って内側から本人の回復を促すのはベターな選択だ。

「何だ?」

 おや。視線に気づく程度には心得があるんだな、イバル。

「いや、意外だと思ってね。君がミラ以外のために尽力しているのが。ここにいる民と君は無関係だろうに、そうやって手当している。珍しいと思ったんだ」

 イバルは薬草を煎じる手を止め、あらぬ所を見るような遠い目をした。

「――ミラ様は人と精霊を守る、世界の守護者だ。ミラ様であれば当然、あの儚い者たちをも守ろうとなさるだろう。ミラ様がご不在の今、マクスウェルの巫子である俺がその役目を負う。吹けば消える小さき命を利用するというなら、(りく)()だろうが王だろうが阻んでみせる」

 これはまた――意外な人物に火が点いたものだ。イバルに正義漢属性はあったか? 
 

 
後書き
 ヴィクトルさん驚くポイントそこじゃないです。
 イバルがここから本格的にストーリーに絡んできます……ってもう絡んでるか。
 OPムービーを観るにシャール兄妹はローエンに剣を習ってたっぽいので、クレインは剣士にしました。 
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