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エクシリアmore -過ちを犯したからこそ足掻くRPG-

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第十話 妖精のお色直し(後)

 どのくらいの時間かかったかわかんないけど、わたしはドロッセルさまにお着替えさせられた。


「お待たせっ」

 ドロッセルさまに手を引かれながら、階段を下りる。そうしないとコケそうだから。

 みんながわたしを見てポカンとした。うん、そーよね、わかってた。

 一言で表すなら巫女装束っていうのが近い。古代史の教科書の挿絵でしか見た事ないような、女神官の衣裳。
 ピンクと紺のヒラヒラとズルズル。裾も袖も長いのに肩は丸出しで(胸当てしてても)ハズカシイよぅ。
 落ち着かない。飾りの鈴がちょっと動いただけでもチリチリ鳴るんだもんっ。きっとみんな変だって感じてるよぉ。

「綺麗でしょう? エキゾチックで神秘の巫女って感じ。ね、ローエンもそう思わない?」
「全くです。たおやかでいて軽やか、見る者の目を一度は留めさせる。実に素晴らしいトータルコーディネイトです、お嬢様」

 ローエンは優しいから気を遣って言ってくれてるのよ。浮かれちゃダメよ、フェイリオ。

「クレイン兄様はどう?」
「僕? そうだね」

 クレインさまはソファーを立って、わたしの手を取った。ドキッとした。童話の王子さまみたい。

「天上から降りてきた大精霊みたいだよ。目を離すと、どこかへ行ってしまいそうだ」
「い、行きませんっ。行ける場所なんて、どこにも、ない、です」

 そうよ。どこにもない。わたしはヨワムシのヒキョウモノだから、独りでなんて生きていけないわ。

「お客様方はいかがかしら」
「んー。雪ん子が雪女にレベルアップ。や、ピンクだから水場(ウンディス)(春)の精かね。なかなか可愛いじゃん」
「けばけばしく盛るのは好かん」
「やれやれ、巫子どのは厳しいねー」

 そーいやミラさまの衣裳はイバルのデザインが元って言ってたっけ。ミラさま、ケッコー露出あった気が。なに? イバルって肌出す派なの?

「で、トリのお父様、感想は?」
「――改良の余地あり、だな」

 はひ?

「ドロッセル。広場の店には布や飾りを扱う店はあるか?」
「あ、ありますけれど」
「時間ができたらでいい、案内してくれ。このままでは着る者の魅力を最大限引き出すには不足だ」

 そ、そうなの? でも、そこらの女子より女子力高かったパパが言うんなら、そうなのかも、うん。

「……うっわー。親ばかって極めるとあそこまで行っちゃうんだ。俺気を付けよっと」
「何か言ったかね、アルヴィン君」
「いーえなーんも。オジサマの麗しい親心に感動してただけでーす」




 しばらくしてクレインさまは用が出来たって言って席を立った。少ししてアルも「ヤボヨー」って言って外した。

 短い旅だけど、そのお話をドロッセルさまにしてあげる。ドロッセルさまは笑って聞いてくれる。
 うれしいな。なんだか普通の女の子になったみたい。学校じゃトモダチいなかったから。

 楽しい、のに、パパは立ち上がって。

「そろそろ出発しよう、フェイリオ、イバル。――馳走になった、ドロッセル嬢」

 え。もう……行っちゃうの? こんなに楽しいのに、終わっちゃうの?

「いいえ。まだお帰りいただくわけには参りません」

 その声を合図にしたみたいに、客席を緑の鎧の兵士が取り囲んだ。え、え? なに?

「あなた方が、イル・ファンの研究所に潜入したと知った以上はね」

 クレインさま……さっきまでのやわらかかった声と全然違う。鋼みたいな、硬く、ツメタイ声。

「何のことかね」
「とぼけても無駄です。アルヴィンさんが全て教えてくれました」

 アル? そんな。味方になってくれたと思ったのに、何で。

「やはり彼か……軍に突き出すのか?」
「いいえ。イル・ファンの研究所で見たことを教えて欲しいのです」

 クレインさまが手を一振りすると、緑の兵隊さんたちは下がっていった。クレインさまが上座のソファーに座って、ローエンが斜め後ろに立った。

「……ラ・シュガルは、ナハティガルが王位に就いてからすっかり変わってしまった。何がなされているのか、(りく)()の人間ですら知らされていない」
「えっと、それは、クレインさまやローエンは知ってなきゃいけないことなの?」

 答えてくれたのはローエン。

「いけないことなのです。王家とはいえファン家もまた六家。立場は対等です。それ以上に、王がどんな(まつりごと)をしているかを知っておかねば、その政が悪いものだった時、誰にも糾せませんから」
「なんかムツカシイよぅ……」

 エレンピオスじゃ議会中継とかあったけど、わたし、キョーミなくて観なかったし。クラスの子たちも、どの政治家がどんな事しててもどーでもいい、ってカンジ強かった気がする。
 そもそも政治なんて、誰がしててもフェイを〈温室〉の中から出さないのは同じだったもん。

「承知した。我々がイル・ファンで見聞きした事を話そう。後の判断は任せる」

 パパはすらすら説明する。前もってこうなった時のために考えてたみたい。ラフォート研究所で、ミラさまと一緒に経験したコト。ミラさまじゃなくてフェイが一緒にいたことにして。

 フェイが間違えちゃったせいで、ジュードを運命から弾き出して、ミラさまが囚われてしまったあの夜の出来事……

 思い出しちゃダメ、フェイリオ。わたしはもうあそこにいないの。ちゃんとするって〈ジュード〉と約束したの。カコのイタミに引きずられてワレを失って、〈ミラ〉みたいな犠牲を出すことがないように。

 パパのお話が終わる。
 ローエンもクレインさまも、すっごくシンコクそうな顔だ。

「嘘だと思いたいが……事実とすれば、全ての辻褄が合う。実験の主導者がラ・シュガルの王……」
「それで。君は私たちをどうするつもりかね?」
「ドロッセルの友人を捕まえるつもりはありません。ですが、即刻この街を離れていただきたい」
「温情に感謝する、シャール卿」

 そう、なっちゃうよね。分かってても胸、もやもやする。

 パパもイバルも立ち上がる。わたしも――あ。いけない。わたし、ドロッセルさまが着せてくれたドレス、着っ放し。返さなくちゃ。

「あの、ドロッセルさま、お洋服」
「いいわ。あげる。大事にしてちょうだい」
「え。で、でも、これ、高そうだし、小物もイッパイあるし、キレイ、だし」

 こんなキレイなの、フェイなんかが着てちゃダメだよ。

「お友達になれた記念よ。次はもっとちがう形で会いましょうね」

 ドロッセルさま……

「イバルさんも。お買い物の時、助言してくださってありがとう」
「お、俺は正しい知識を持たん奴が気に入らなかっただけだっ」

 ジョゲン。タダシイ知識。あ、そっか。そうなんだ。

「どうした、フェイリオ」
「あ、ううん。ちょっとわかったの。ローエンが言ったこと、あのお買い物の時と同じなんだって。ドロッセルさまはイバルが口出ししなきゃ、カップのイフリート紋がニセモノだって分からず買ってた」

 ドロッセルさまの場合、「それでもいいわ」ってペカーって笑いそうな気がするけど。

「でももし本当にイフリート紋を気に入って買った人がいて、後から違うって知ったらイヤな気分になる。けど、イバルみたいに『それは違う』って先に言ってくれる人がいれば、イヤな思いせずにすむ。ローエンが言ってた政治のお話ってそういう意味よね。今まで政治って意味分かんなかったけど、ローエンのおかげでちょっとだけ分かった気がするの」

 指先を重ねる。また一つ今日、分かることができたよ。本当にちょっとだけど、フェイ、前に進めたよ。〈ジュード〉、〈ミラ〉。 
 

 
後書き
 単にフェイを巫女装束にしてみたかっただけの話。
 平安の着物みたいなずるずるをご想像いただければそれでピンポンかと思います。 
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