エクシリアmore -過ちを犯したからこそ足掻くRPG-
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第五話 想い、轟々と(後)
/Fay
なんにも考えちゃいけない(お姉ちゃんはパパの愛を独占してた)
なんにも考えちゃいけない(パパが愛してるのは今もお姉ちゃん一人だけ)
なんにも考えちゃいけないって言ってるでしょう!!!!
ガッ! ベッチィィィィ…ン…!
はっ、はっ、はっ。はあ……何してんだろ、わたし。水面叩いたって髪型が変わるわけじゃないのに。
銀が波打つ滝壺の前でしゃがみ込む。元に戻ってく水面には、への字眉のわたしの顔。それを垂れたツインテールが掻き消したり流れたり。
両手で、わたしが映る海水を掬う。
「ごめんなさい、お姉ちゃん。フェイ、お姉ちゃんの事、ズルイって……お姉ちゃんに、シット、しちゃったよ」
水面が――ふいに光った。
あ、え? まずい! この陣、捕縛陣だ!
飛びのこうとしたけど間に合わなかった。足下の捕縛陣が、全身を束ねてわたしを宙へと連れて行く。
「お疲れかしら?」
わたしのアゴをなぞったのは、一際高い岩柱に立ったおねーさん。
わ、うわぁ。すっごい美人さんだあ。髪もふもふっ。
「油断、し、す、ぎ」
ちょん。本を持ったおねーさんは、わたしの唇に指を当てた。あわ、あわわわっ。
「ん? どうしたの、子ウサギちゃん。怖くて声も出ない?」
「い、いえっ、そういうわけじゃ……そ、その…ひ、昼間から網タイツだと、おねーさん美人だし、アブナイ、と、思って。それに、パパが言ってたの。女の人のハダは『隠れてるから意味がある』って」
「――――」
え、あれ? 本のおねーさん、ぱちくりしてる。フェイ、変な事言った?
「ぷっ……あははははははははは! どんな気位が高い娘かと思ったら、ただの世間知らずのお嬢様じゃない!」
世間、知らず……他人から見たらフェイはそう見えるんだ。
「おい! あれ、フェイじゃねえか!?」
『つかまってるよー!』
下……アルとティポの、声。パパと……アル、エリー……
「久しぶりね。今はこの子にご執心なのかしら」
本のおねーさんの目、両目でキモチがバラバラだ。憎らしいキモチと、ダイスキのキモチ。わたし、分かる。その目が向かうのは、アル一人。
「離してくれよ。彼女、俺の大事なヒトなんだ」
「近づかないで。どうなるか分からないわよ」
い、だ!? ちょ、アル、コトバ選んでよねっ。拘束強くなっちゃったじゃない。
「待たんか、この人攫いどもめ!」
「ジャオ!?」
「プレザ! おぬしまでおったのか」
知り合い、なのかな。ううん。今はそれより。
「……なん、で? おねーさん、どうして、そんなこと、言うの? あなたのアルを見る顔、そんなこと言いたいわけじゃないって、わたしにも、分かるよ?」
「っ、何、よ」
下を向く。きっとあの人が、エリーが言ってた「おっきいおじさん」だ。
「おっきいおじさんも、エリー、心配、なんだね……っ、好きでいじわるしてるんじゃ、ない、だ、ね……くああ!」
「……黙ってよ」
「おっきいおじさんも、おねーさんも、ほんとは、エリーとアルの、コト…っ」
「黙れって言ってるでしょう!!」
バチ、バチ、バチン。拘束式が弾け飛んだ音。ああ。終わった、んだ。
落っこちる。フェイ、海に、落ちるんだ。浮いてる感じがなくなったのに、自分の体じゃないみたい。
水面に背中を強く打ってから、海の中。ぷくぷく。泡がいっぱい上へ昇ってくね。フェイは沈んでくのに。
あ、れ? 何だろう。岩に引っかかってるキラキラ。片手を伸ばして指に掬ってみる。
これ、パパがエリーの髪結った時にあげた、君影草の簪だ。
逃げてくるまでの間に落ちちゃったのかな。エリー、すごく喜んでたのに、失くしたって気づいたら、泣いちゃう、かも。
簪を両の掌に載せて、そっと――キスした。
あのね、パパ。パパがこれ買ってた時、ひょっとしてフェイにくれたりしないかなって、ちょっとだけ、ホントにちょっとだけ期待したの。
パパがフェイにプレゼントなんてくれるわけないのに。ひょっとしたら、ひょっとしたらって。
やっぱりそんな事なくて、パパはこれをエリーにあげた。じゃあ、ちゃんとエリーに返してあげなくちゃ。
ここが水中でよかった。周りみーんなお水だから、泣いてたって分かんないもんね。
/Victor
拘束が解けてフェイリオが海へ落ちるや、双銃を抜いた。激昂したプレザは隙だらけだ。今ならやれる!
「いかんっ、プレザ!」
「アルヴィン、弾幕!!」
プレザの立つ岩柱に向けて双銃をオートで連射する。
背後で銃声。アルヴィンにも撃てる限り撃ってジャオを足止めしてもらう。
「今だ! 走れ!」
「フェイは!」
「あれなら一人でどうとでもできる!」
目を白黒させるエリーゼを抱え上げて走り出す。アルヴィンも続いた。
/Fay
ぷはっ。はー、なんとかあそこから遠くには来られたけど。えーと、パパたち、どこかな。
「フェイー!」
あ、エリー。アルヴィンと……パパも。
エリーが飛びついてきた。あわわ。だめだよ、わたし、濡れてるんだよ。エリーまで濡れちゃう。
「だいじょうぶでしたか? けがは?」
「なんともないよ。心配してくれてアリガト。あ、そうだ」
クロークのポケットに入れてたの、返さなくちゃ。
「エリー、ハイこれ。落し物だよ」
「あっ、この簪…っ。フェイ、ありがとです!」
『アリガトー!』
どういたしまして。せっかくパパが結ったのにゴメンだけど、もっかい着けてあげる。
パパからの贈り物。わたしだって欲しかったのはホントのキモチ。でも、エリーの笑顔、エリーゼとはちがうけど、同じくらい好きだから。この簪はエリーのモノだよ。
「行こう。じきにニ・アケリアだ」
後書き
安定の次女放置。信頼か放任か微妙な所を行きたい。
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