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ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~

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聖夜に捧ぐ『フローエ・ヴァイ・ナハテン』~クロスクエスト~
  第四幕

 閃光が走る。

「いやっほ――――い!」

 大空を飛翔しながらライトが二刀を振り回し、

「せぁぁぁぁっ!!」

 同じく飛翔しながらリンが二刀を躍らせる。

「HOOOHOOOHOOOOOOI!?」

 奇怪な叫び声をあげてそりから落下したサンタクロース型モンスターは、

「――――墜ちろ!!」

 高速で飛来した弾矢に打ち抜かれた。

 ライト、リン、そして《狩人》のほうのライトの三人は、同世界に来訪している他のどのプレイヤーよりも、最速かつ最大の戦果を上げていた。単体ですでに300レベルを突破し、400レベルにすら肉薄している勇者と英雄、そして様々な武器を余裕で使いこなす狩人の前に、弱小トナカイ怪人とキチガイサンタクロースなど敵ですらない。その辺に転がっている石と同じだ。事実、既にあれほど無尽蔵に出現していたトナカイ人間は、ぴったりとPopを終了させていた。全滅したのである。

 そんなわけでたった一人になってしまったサンタクロース型モンスターは、先ほどから野球ボールのようにライト&リンに吹き飛ばされまくっては、《狩人》のライトに打ち抜かれるという残念すぎる結果をたどっていた。それでも今だ死なないのは、一応はボスキャラクター扱いであり、守備値がそこそこ高いからだろうか。

 ……まぁ、それですら。

「Huuuuuuuu………」

 すでに怪しいのだが。

 プスプスと音を立てながら起き上るサンタ。すでに赤い洋服は体中ボロボロに引き裂かれ、浅黒い肌が覗いている。カイゼル髭のように邪悪に立てられた白髭は所々が(なぜか)焦げていたり、切られて変な風に欠落していたり。

「さーて、次はどうやって遊んでやりますかね」

 にやりと笑みを浮かべながら、そんなぼろぼろのターゲットに近づく《勇者》の方のライト。

「……それもう主人公の顔じゃない」
「気にするな気にするな」

 呆れて苦笑する《狩人》のほうのライトと、ノリノリのリン。

 もはや、この場にいるのはSAOを救った勇者と英雄と、伝説の狩人ではなく、唯々獲物を狩り尽くすのみのバーサーカー。

メリー・クリスマァァァァス(地獄で会おうぜ)!!」
「HOOOOOOO!!!??」

 ライトの二刀から眩い光が放たれ、十に及ぶ連撃が放たれる。それに合わせるようにリンの追撃が迫り、《狩人》の援護射撃もサンタを貫く。

 煙が去った時。

 そこには、ほくほく顔のライト、リン、そして呆れ顔の《狩人》ライト、ご臨終間際の似非サンタ。

「いやー、楽勝楽勝」
「この程度なのか? もうちょっと面白いもんかと思ったんだけどなー」
「もうお前らだけで何でもできちゃうんじゃないか」
「や、ライトがいなかったら楽しさ半減だったね」
「そうそう。トナカイの殲滅サンキュー」

 事実、無尽蔵にPopするトナカイ怪人は、ほぼすべて《狩人》ライトの太刀や双剣が薙ぎ払っていた。

『ふむ……そろそろ頃合いか。やはりキミたちが最初に勝利すると思っていたよ』

 その時だった。

 ゆらり、と時空が歪んだのは。

 ライト、リン、《狩人》ライトの前に現れたのは、長いくせ毛の青年。キリシタンのカソックにも似た奇妙なコートを掛け、その下は着流し。下半身は灰色のズボン。黒いチェーンのネックレスに、十字架でもついていそうなところには鎌と『Y』の字が交差した奇妙な形のオブジェクト。

 先端に行くほど赤くなる白いマフラーを巻いたその青年は、にやにやと嗤っていた。

「……誰だお前」
「アスリウ。ただ……キミたちには、《天宮陰斗》と名乗った方がはやいかな? 本当はこの体の使い手は『星龍明日華』っていうんだけどね……」

 《天宮》。

 それは、ライトたちをこの世界へと呼びだした存在。この奇妙な世界を創り出した、『《神》の化身』を名乗る男。

「いやぁ、それにしても手ひどくやられたねサンタさん。せっかく子どもたちの夢を壊してまであなたを《創った》と言うのに……それじゃぁ、もっとぶっ壊そうか。そっちの方が僕の大好きな人(アーニャ)も喜ぶ」

 そう言って、《天宮(アスリウ)》はパン、と手を打ち鳴らす。

 次の瞬間。

 どこからともなく現れた、先ほどまで似非サンタがのっていたソリと巨大トナカイ怪人が再び現れ――――サンタに激突した。

 めりょめりょと音を立てて融合していくソリとトナカイと似非サンタ。

「うわー」
「わー……」
「おえー……」

 三人の感想をガン無視して、融合は進む。

 すべてが終了した時。

「HAAAAHAAAAHAAAAA!!! Meeeeeeerrrrrrrrrrry Chriiiiiiistmaaaaaaas!!!」
「HOOOHHOOOHOOOOIII!!」
「HAAA!!HAHAHAHAHAHA!!!」

 両肩からそれぞれトナカイ怪人の首が生えた、巨大化した似非サンタが、そこにはいた。

「うわー」
「わー……」
「おえー……」

 先ほどと全く同じコメントを寄せる三人。だが直後、そのひきつった表情はさらにひきつることと相なる。

 ズン、と音を立てて、袋の中から何かが取り出されたのだ。それは、全長三メートルを超すかと言う、大斧。それも、何故かやけに刀身が磨かれて、ギラギラと輝いているシロモノ。

 大地に突き立たされたそれは――――すっぱりと、そこにあった大岩を切り裂いた。

「「なんだそれぇぇぇぇぇ!?」」
「おいあんた!趣味悪すぎるだろ!!」

 絶叫するライト&リンと、アスリウに抗議をする《狩人》。

 だが《嗤う神》はそれをやんわりと、馬鹿にするような顔で見て。

「当たり前じゃん。『人の嫌がることを率先してやれ』は僕と彼女(アーニャ)の約束だよ」
「「「そっちのじゃねぇぇぇぇぇぇ!!!!」」」

 《漆黒の勇者》と《純白の英雄》、そして《狩人》の宴は、まだ終わりそうになかった。



 ***



「……っ!」

 シールドスキル、《シールドパニッシュ》の一撃が、襲い掛かってきたトナカイを號と吹き飛ばし、射線上にいた他のトナカイをも巻き込んで、それらを消滅させる。

「……いくらなんでもそりゃぁ無いだろ」

 そのあまりの無力さ加減に、アクトはため息をつきたくなってしまった。感情が失われていても、これに対しては何と言うか、失望せざるを得ない。

 このトナカイたちは、あまりにも弱すぎた。《双盾》のエクストラ効果である『盾で受けたダメージを反射する』だけでも、すでに何十体が討滅されたことか。つまり、彼らは自分の放った攻撃よりもHPが低いわけである。何と言う脆さ。

「せぁぁっ!!」

 一方、白と黒の大剣一対ずつを駆使して戦うのは、つい先ほどアクト&ジンに合流したアツヤ。いと脆きトナカイ怪人たちを、その二対大剣を駆使して次々と討伐していく。

『ったく! いつまで出てくるつもりなんだよ……』
『そろそろ……止まっても……いいころだとは思いますけどね……ッ!』
「全く、企画者は趣味が悪いぜ……!」

 悪我、性と共に悪態をつきつつ、アツヤはトナカイたちを蹴散らす。

 ソードスキルを使わなくても、至極あっさりとその命をちらしていくトナカイたち。恐らく最初に接触したのはアツヤだが、その当初からあまりの弱さに呆れかえるしか手段がない。

 だが、彼らはそれでも厄介だった。

 まず一つ、やけに数が多い。いつまでたっても湧き出てくる。

 二つ目に、死体が残る。これは最初の頃から気になっていたが、かなり邪魔くさい。


 だが、それが実はとあるアクションを起こすためのキーであると、既にこの場にいる全員が知っていた。

「――――月光石火!!」

 凄まじい速さで放たれた一撃が、宙に浮く似非サンタを深く切り裂く。

「HOOOHOOOHOOOO!?」
「全く、まさかこのトナカイどもを足場にして、あんたに近づくんだとはな……!」

 ――――そりゃぁ普通思いつかないぜ。

 ジンは内心で感嘆する。

 このギミックに最初に気が付いたのはアクトだった。なぜ死体が残るのか。気味悪がらせるためだけではあるまい、と予測した彼が、それを足場にして飛び上がり、上空に浮かぶサンタを攻撃するのだ、と気が付いたのだ。

 空を飛ぶスキルをもつプレイヤーは此処にはいないし、超々遠距離攻撃をする奴もいない。ならば足場を作るのは当然だろう。

 これに気が付いてから、戦況はうまく自分達に傾き始めた。

 だが、物事そう簡単にうまくはいかない。

「MerryChristmas!!」
「うおっ!?」

 似非サンタが、白いプレゼント袋の中からトナカイ怪人を放り投げる。

AAAAAAA(もうこんな仕事いやだぁぁぁぁっ)!!!」
「なんか切実な願いが聞こえる――――!?」

 真っ黒な怪人のフードの中から聞こえる、庶民的な願い。それに多少の恐怖感を覚えつつ、次の足場に逃げる。

YAAAAAHAAAAA(次のクリスマスまでには転職したぁぁぁぁい)!!」
「だから何で聞こえるの――――!?」

 投げられて来た二体目も、謎の悲鳴を上げてくる。それをこちらも悲鳴を上げて回避しつつも、アクロバティックな動きで足場を転々とするジン。

「くそっ! 近づけねぇ!!」

 恐らく、もうすぐあのサンタ型モンスターを斃せるのだ。だが、哀れなトナカイ怪人たちが砲丸投げのように何度も投げ飛ばされて来て、なかなかサンタに近づけない。

『――――困ってるみたいだね? ジン君』

 その時だった。

 誰かの声が頭の中に響いたのは。

「……!?」
『誰かって? おいおいひどいな。もう会ってるじゃないか。《天宮陰斗》だよ』
「あ、あんたか……!?」

 自分達をこの世界に引き込んだ張本人だった。

『キミ達は実によく頑張っている……だが、このままでは君は負ける。そこで、僕からの一足早い、君へのクリスマスプレゼントだ……キミの能力にひっかけて』

 次の瞬間。

 左目に、何かが重なるように映った。それは、今この場所の映像だ。だが、何かが違う――――?

 左目に映ったサンタは、袋の中からトナカイを取り出して――――

「いや、違う!?」

 映像の中で、投げられたのはトナカイではなく、巨大な斧。それも、丁寧に磨かれているのか、つやつやと刀身が光り輝いている。あれにあたったらひとたまりもなさそうだ。くるくると回転しながら、時計回りに足場を通り過ぎ、サンタの元へ戻る斧。映像の中のジンは、その攻撃を反対側の足場へ飛び移ることで避けていた。

 そして、その直後。

 右目に映ったサンタが、袋の中から斧を取り出してぶん投げた。その動作、細部に至るまで、左目に映ったそれと同一。

「うわ!?」

 ジンはとっさに、左目に映った斧が通った足場とは逆の足場…今の場所より少し遠い…へと動く。そして左目の通りに、斧は本来ならばジンが次に飛び移ろうと思っていた、先ほどの足場に一番近い次の足場を通り過ぎた。

「なんてこった……」
『――――《千里眼》派生異能、《未来視》。より正確には《千里眼Lv5:未来測定》。キミの未来を『決定付け』る力さ。まぁ、これで『決定付け』られた未来はある意味では過去になってしまうし、形になってしまうからどこぞの直死の魔眼には負けるだろうね。まぁ、そんな技能を使う奴は此処にはいないんだけど』

 くつくつと嗤って、《天宮》の声は消える。

『それじゃぁ、頑張ってね』 
 

 
後書き
 はい、そんなわけで《天宮陰斗》はアスリウでしたー。シャノンと違って彼は『触覚』としての自分に肯定的です。そのためこんな変なことも率先してやらかしたわけですねー。
刹「……ほんとぶっ壊れですね。いろいろと」
 うん。今回はかなりふざけた。型月ネタとか、アスリウとか。なまじ登場キャラが多いから、みんなを皆大活躍させられないのも痛い。

 それよりッ!! いつの間にやら『神話剣』の総合評価が2500を突破しておりましたぁぁぁぁっ!!
刹「お、おおお!? な、何があったんです!?」
 分からん! 一夜にして話別評価が300人になったと思ったら、また一夜にして441人になってた!
刹「あれ、デジャヴ……?」
 
 でもこれ、話別評価なのよね。『神話剣』はいまだにお気に入り登録数は総合評価1000越え勢(中堅)の中では最低の121だから。これで200まで行ったら堂々と中堅突破を宣言できるのになぁ……(チラッチラッ
刹「……この駄作者……それよりも、評価を下さった皆様、本当にありがとうございました。これからも『神話剣』をよろしくお願いします! それでは次回もお楽しみに!」 
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